診療について

老年病科の診療内容

「老年病科」という診療科になじみのない方もいらっしゃるかもしれません。老年病科は、高齢者特有の病気を扱うとともに、多くの病気を同時に持っている高齢者の心身の状態を総合的に評価して、生活機能を重視した診療を特徴としています。日本老年医学会が専門医の認定を行っており、全国に1500人程の老年科専門医がいます。
東京大学医学部附属病院の老年病科は、内科診療部門の中で、外来診療、入院診療を行っています。老年科専門医および他の内科領域の専門医を持つ医師が所属しており、看護師、心理士、薬剤師などとチームを組み、包括的な診療を行っています。下記のような疾患・状態を中心に診療を行っていますが、高齢の方のさまざまな健康上のお悩みに対応しておりますので、下記に該当しない方も初診外来をご受診のうえご相談ください。

老年病科の主な対象疾患

脳神経疾患 認知症、軽度認知障害、脳血管障害、正常圧水頭症など
呼吸器疾患 肺炎、肺気腫、睡眠時無呼吸症候群、肺癌など
循環器疾患 心不全、冠動脈疾患、不整脈など
生活習慣病・代謝疾患 糖尿病、高血圧症、脂質異常症、骨粗鬆症、甲状腺疾患など
消化器疾患 消化管出血、消化器癌など
感染症 各種感染症など
急性期疾患 高齢者救急など
精神疾患 せん妄、認知症周辺症状、うつ病、不眠症など
緩和医療 疼痛管理、緩和医療・ケアなど
漢方医療 虚証など
性差医療 女性外来など
その他 フレイル・サルコペニア、低栄養、嚥下障害、褥瘡、ポリファーマシー、リハビリテーションなど

認知症(物忘れ)

生活の様子の聞き取り、脳の画像検査、採血、場合によっては髄液検査(腰から針を刺して脳や脊髄を包む液体を調べる検査です)を行い、物忘れの原因を調べ、最適な治療、福祉サービスの導入を行います。

認知症は、原因によっては、物忘れが治ることもありますので、原因を調べる検査は重要です。認知症は、物忘れ、見当識障害(時間や場所がわからなくなる)、失行(いままでできたことの手順がわからなくなる)といった症状が中心となりますが、それに伴い、機嫌が悪くなったり、家族にきつく当たったり、意欲が低下したり、といった精神的、心理的な症状が生じることもあります(周辺症状と呼びます)。周辺症状が、ご本人・家族の生活の質を下げる原因となっていることも多いです。

物忘れ自体を直すことは困難なことが多いですが、周辺症状の治療を行うことにより、ご本人・ご家族が過ごしやすくなる場合があります。

骨粗鬆症

骨粗鬆症は骨の量や質が低下し、骨折しやすくなった状態です。
骨粗鬆症は骨折するまで症状がなく、そのため気づかないことが多く、本来治療が必要な多くの患者さんが見逃されていると考えられています。また、一度骨折した方が、適切な骨折予防をされずに、二度目の骨折を起こしてしまう場合も多いです。

当科では、適切な骨の評価(骨密度、採血、採尿)、治療を行います。また、たとえ骨が弱くなっても、転ばなければ骨折することはあまりありません。この意味で、転倒予防も重要な対策です。フレイル・サルコペニアに対する対策も同時に行われることが多いです。

誤嚥性肺炎

食事や唾液は、空気の通り道である気管に入らないように、神経の働きでうまく調節されています。しかし、加齢に伴い、この調節がうまくいかないと、食事や唾液が気管に入り、肺炎の原因となります。

食事や唾液が気管に入ると、むせることが多く、これによってさらに気管の奥にはいることが防がれます。しかし、この反応が低下している高齢者では、むせずに誤嚥を起こすこともあり、これはさらに肺炎を起こしやすい状態です。

当科では、肺炎時の治療を行うとともに、耳鼻科の先生にもご協力いただき、食事の形態の工夫などを提案しています。肺炎を起こしにくくするために、常に口のなかを清潔に保っておくことも重要です。摂食が難しいと判断される場合には、胃ろう(胃から直接栄養を投与するための管)を作成する場合もありますが、作成しないという選択肢もあり、どれが正しい方法とは一概には決められません。 このためにも、アドバンス・ケア・プラニングの場を設け、本人の生き方に寄り添った医療を提供できるよう、当科では心がけています。

肺気腫

喫煙が原因で肺が少しずつ壊れる「肺気腫」という病気があり、息切れが少しずつ進行します。肺気腫の患者さんはご高齢の方に多いです。しかし、肺気腫の患者さんのうち、大多数の方が診断されておらず、治療を受けられていないと考えられています。

当科では、吸入治療や栄養療法など、肺の機能低下を防ぎ、生活機能を維持する工夫を行います。また、息切れは、肺や心臓、血液(赤血球の減少)などいろいろな原因で起こりますので、肺気腫以外の息切れの原因も同時に調べます。

睡眠時無呼吸症候群

当科では、若年者も含め、睡眠時無呼吸症候群の診療も行っております。睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が一定時間止まる病気で、日中の集中力の低下、夜間頻尿、逆流性食道炎などの原因となります。また、心筋梗塞、脳梗塞、動脈硬化発症のリスクが何倍にもなることが知られています。

当科では、睡眠検査を行い、中等症から重症の患者さんに対して持続的陽圧呼吸による治療の導入を行います。睡眠検査は外来で行えますが、中等症の場合はさらに入院による詳しい睡眠検査が必要となります。

性差医療

東大病院女性総合外来は、2003年7月に老年病科外来内に発足し、成人女性の心と身体の健康を守るために、全人的診療を行っています。

高齢者では加齢の影響で、病気だけでなく精神面、社会的背景も含めた全人的医療が必要となります。そして、女性も女性ホルモンの動きに応じたライフサイクルのそれぞれの時期に、様々な心身の変化をきたすため総合的診療が求められます。また、当科では、40年以上前から「女性ホルモンと加齢に伴う疾患」との関係を中心に、基礎・臨床両面から性差医学・性差医療に取り組んできました。このような背景から、「加齢と性差を専門とする医師の女性外来」として発足以来継続して診療を続けています。

女性外来を訪れる方の多くは更年期や更年期をきっかけに体調を崩された女性です。更年期障害は、女性ホルモンであるエストロゲンの急激な減少による症候群で閉経前後の約10年間におこるほてりや冷え、頭痛などの身体的症状、イライラ、鬱、不安などの精神的症状によって日常生活に支障を来したものです。これらの症状や期間は家族の理解など周囲のサポート体制、自身のこれまでの人生への思いなどにより大きく影響されます。また、更年期女性でなくともストレスや不規則な生活などによるホルモンの乱れなどにより更年期症状のような自律神経失調症状を含む様々な不調を来すことが少なくありません。

女性外来では、なるべく自らの言葉で症状や心理的・社会的背景を語って頂いています。血液検査、画像検査などにより、器質的疾患の鑑別を行った上でご希望を伺い、生活習慣の改善、漢方薬、西洋医学的な治療法から、その方の治療法を一緒に探していきます。

また、エストロゲンの減少は老化に伴う動脈硬化性疾患や骨粗鬆症、認知症といった介護が必要となる疾患の原因ともなります。更年期や、体調の乱れは自分の健康を考える最適の時期です。食習慣、運動習慣などの生活習慣を見直し、健診をうける習慣を持つことが重要です。自覚的な症状だけでなく、健診時の検査値の異常に関しても併せて診療させて頂き、検査値の改善、疾患、合併症の発症予防に結びつけることができます。

一緒に考えていきましょう。当科女性医師が、できる限りのお手伝いをいたします。

フレイル・サルコペニア

心身の機能低下がある状態で、運動や食事、社会活動への参加で回復する見込みのある段階を「フレイル」と呼びます。介護の必要のない健康寿命を延ばし、自立した人生を生きるためにフレイル対策は重要です。

フレイルの原因として「サルコペニア」という状態があり、これは加齢に伴う筋肉量・筋力の減少を意味しています。当科は、「フレイル・サルコペニア外来」を設けており、フレイル・サルコペニアの評価、対策を行っています。

新型コロナウイルス感染症の流行に伴う過度な自粛は、フレイルの促進につながります。感染対策とうまくバランスをとり、工夫した生活が求められます。

ポリファーマシー(お薬の多剤併用による健康被害)

高齢になると、複数の病気を持つことがあり、そのため薬の量が増える傾向にあります。さらに、肝臓や腎臓の機能が低下し、薬を分解し排泄する力が下がると、薬の成分が体に蓄積しやすくなり、副作用も起こりやすくなります。

当科では、お薬手帳などを活用し、複数の医療機関から出されている薬の全体を把握し、生活機能に基づいた優先順位から、必要な薬、やめてもよい薬を判断します。高齢者にはあまり処方しないほうがよいとされる薬も存在し、そのような薬が処方されている場合は、別の薬に変更することもあります。介護が必要な患者さんに対しては、ご家族が管理しやすい服薬法の提案も行います。
実際に管理しやすい薬剤の用法、容量に変更することで認知症の予後が改善されるという当科の研究結果もあります。

アドバンス・ケア・プランニング(事前ケア計画)

アドバンス・ケア・プランニング(事前ケア計画;ACP)とは、病状の進行や急変などに伴う本人の意思決定能力の低下に備えて、本人の価値観を探索し、その価値観に沿った本人の希望する将来の医療・ケアについて話し合うプロセスのことです。

欧米圏で確立され実践されるようになった概念ですが、超高齢社会である日本の高齢者医療において、本人の意向に沿った人生の最終段階の医療・ケアを実現し、最期まで尊厳をもって人生を全うするために、普及が望まれる概念です。

当科では、ご家族、看護師など医師以外の関係者も交えて、可能な限り、アドバンス・ケア・プランニングの場を提供できるよう心がけています。

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