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福島原発事故が及ぼす子どもへの影響(仁志田博司)

福島原発事故が及ぼす子どもへの影響

                   東京女子医科大学名誉教授   仁志田 博司 先生

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あらためてご紹介するまでもありませんが,仁志田博司先生は東京女子医大母子総合医療センターの責任者を勤められ,日本における新生児医療を第一線をながらく先導されてこられたかたです.それだけでなく,新生児死亡SIDSのご家族のケアや重症新生児の治療の問題といった周産期医療の生命倫理の問題などについてもふかく思索され,社会にむけても積極的に発言されてこられました.先生はまた福島県伊達市のご出身でもあり,こんかいの東日本大震災における福島第一原発の事故にかんしてもたいへん心をいためられております.

新生児とともに (仁志田先生のホームページ)

以下の引用は,仁志田先生があるメーリングリストに投稿された文章であり,ガールスカウトや伊達の保育園などで話すご機会があったので,「福島人」としてまとめられたものだそうです.地元の人間,あるいは東北人にとって役に立つだけでなく,おおいにはげまされる内容です.とても感銘をうけましたので,仁志田先生に直接お願いして,この場で一般に公開することのおゆるしをいただきました.ひとりでもおおくのかたがたにお読みいただければ幸いです.

なお下の仁志田先生のお写真は,2013年2月23日に山形で開催された第11回東北出生前医学研究会(渡辺眞志会長)での特別講演のときのものです.「出生前診断で生まれる子供と家族に対する心のケア」というご講演でした.(室)

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 はじめに

2011,3,11、福島原発の事故が起こった当時は、冷却装置が不能になったことが最大の原因であるが、事態は専門家においても把握されておらず、私が1976−1985年の10年間東海村の日本最初の研究用原子炉を利用して安定同位体測定の研究をしていた時に指導してくれた原子力研究所の友人たちからの緊急のメールでは、半径250劼量鵤隠娃娃伊人の避難も起こり得る最悪のシナリオの可能性もあった。外国大使館から日本在住の自国民に国外退去の通達があったことも事実で、私の働いている伊達市の病院勤務の産婦人科医が二人とも家族を県外に避難させ、やがて自分も避難したことは、彼らはインターネットで諸外国の情報にアクセスしていたので、軽率と非難することは出来ない事態であった。

関連各庁と原子力の専門家と称する関係者の目を覆わんばかりの混乱ぶりに関わらず、現場の方々の献身的な仕事で事態は悪循環に陥る最悪のシナリオを脱し、更なる放射性物質の拡散は回避され、現在は低濃度放射能広範囲長期間被爆汚染の状態となっている。

私は母と子の医療に関わる医師として伊達市で働いているところから、子育て中の家族から放射線の影響やその対応に関して質問を受ける機会が少なくなかったが、「汚染されている可能性のあるものを避ける」という、一般的なことを答えるのみであった。言い訳のようであるがその理由は、,泙聖態が動的でありどう変わるのか不明であった,∧射能の専門家でなく、特に低濃度放射能広範囲長期間被爆のことに関しては、私のみならず専門家でも多くを知らなかった、これまでのいわゆる専門家と称する人たちの言動が余りにいい加減(というよりは両極端)で人々の信頼を失っており何を話しても受け入れられないであろう、と思ったからである。

しかし事故発生から1年6か月以上経過し、少なくとも新たな放射性物質の拡散の可能性は無くなり、私も素人ながら低濃度放射能広範囲長期間被爆に対する意見を伝える知識をある程度学んだところから、母と子に接する医師として、その義務を果たさなければならないと考えた。

 何を伝えることが一番重要か

何シーベルトなら危険で、どうすれば放射能汚染を少なくできるか、等は耳にタコが出来るほど聞いたが、 それでも心の不安が取れないのが現状であろう。

一部の思想運動家のように、「子どもを守る・住民の為」という錦の御旗で、ヒーローの様に過度に危険性を煽るのも、専門家として住民の不安・不信を払拭するために、あえて「心配ない」と言い続ける、のも適切とは思えない。また学問的に間違っていないと言っても、「ただちには健康被害が無い」というコメントも、「わかっていないから安全と言えない」と不安を掻き立てるのも、専門家としては無責任である。

置かれた現状の中で子どものためにどうしたらいいか悩んでいる福島の親に、ある程度は役に立とうと、放射線医学の素人ながら、低濃度放射能広範囲長期間被爆に関して可能な範囲で自己学習し、その要約を資料に示す。ぜひ参考にして、どのような上止めるべきか、雑音に惑わされることなく考えて欲しい。

私が理解する範囲では、放射線そのものの被害より、それに伴う社会的因子が、少なくとも母と子の専門医師にとっては、発育途上の子どもにより大きなマイナスの影響を及ぼしていることが明らかであり、子どもにとって自由に遊べることが、体だけでなく心の発育にどれほど大切であるかを以下に強調したい。

 子どもに取って遊びの持つ重要性

「遊ぶ」の語源は「足霊(あしび)」といわれ、万葉の昔、人々は歌を歌いに、助けてくれる神様のところへ足を運んで集まり祀るという意味であった。

遊びとは、ハンドルのあそびのように、直接生活の為になることではなく、楽しむもの・楽しいものであり、遊ぶということは生きることに直接関係のない心の余裕から生じるものであり、他の動物にはない高次脳機能(心の中枢)の働きであるところから、人間の特性と言われて、人類はホモ・ルーデンス(遊ぶ種)と呼ばれている。子どもの遊びは、大人の楽しみとしての遊びの範疇を超えた、将来の発育発達に極めて重要な意味を持つ。特に相手を思いやる共に生きる心を育むのに不可欠であり、同時に社会で仲間と生きるルール(躾)を身に付けるのに重要な影響をおよぼす。

子どもの遊びは、それが楽しいからするものであっても、結果的にその成長に重要な役目をする。子どもの手遊びは発達の為の一段階であり、本質的なあそびとはいえない、子犬がじゃれ遊ぶのも、生きるすべを学ぶ糧であり学習の過程である。

『梁塵秘抄』(359)

遊びをせんとや生れけむ 戯れせんとや生れけん

遊ぶ子供の声きけば 我が身さえこそ動がるれ

(この歌を謡ったのが親にしろ遊女にしろ、子供達が純真に遊ぶ心を忘れずに、健やかに育って欲しいと願う気持ちが、そして、自らもまた、子供の頃の気持ちを持ち続けていたいと願う心がこもっている)

 まとめ

福島県は残念ながら広範囲に放射線に汚染されてしま、その影響はあと30年続きます。専門家が医学的に問題となる放射線レベルではないといっても、そこに生きる人々の不安、特に子育て中の親の不安は当然のことです。

しかし心配だから・不安だからと、これまでの生活を捨てて故郷を離れることや子どもの自然な活動を制限することは、子どもにとって放射線そのものより大きな害を及ぼすことが憂えられています。子どもにとって、友達と遊ぶこと、家族と一緒にいることが、どんなのにその体と心の発育に重要であるかを、子育てに不安を抱いている福島のお母様方にお伝えしたいと願っています。

子どもは自分一人では幸せになれません。みなさん大人が、この環境を正しく理解し、正しく心配して、何が子どもに一番幸せかを考えてください。

 

参考資料: チェルノブイからの教訓

『チェルノブイリ事故25年 ロシアにおけるその影響と後遺症の克服についての総括および展望1986〜2011』の最終章「結論」(アゴラ研究所のエネルギー研究機関GEPR)。原典はロシア科学アカデミー原子力エネルギー安全発展問題研究所ホームページ(ロシア語)。

事故に続く25年の状況分析によって、放射能という要因と比較した場合、精神的ストレス、慣れ親しんだ生活様式の破壊、経済活動の制限、事故に関連した物質的損失といったチェルノブイリ事故による社会的・経済的影響のほうがはるかに大きな被害をもたらしていることが明らかになった。

ロシアの平均寿命は1994年には事故前と比べて7歳も下がり、特に高齢者の死亡率が上がった。一部の人々はこれを放射能の影響だと主張する。しかし死亡率の上昇は原発からの距離に関係なく、むしろ現地のウクライナより遠いロシアの方が大きい。このために放射能よりも社会混乱の影響が大きいと推察できる。また放射線の影響、特に日本で関心を集める長期にわたる低線量被曝による疾患はほとんど観察されていない。むしろ事故後に増えたのは心疾患などのストレス性の病気だった。

これはIAEA(国際原子力機関)など8国際機関とロシア、ウクライナ、ベラルーシ3カ国の合同調査報告「チェルノブイリの遺産」(2006年)、ならびにUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)「チェルノブイリ事故についての放射線の影響評価」(2008年)の評価とほぼ同じだ。

この結論は福島の原発事故への対応で参考になる。福島で放射線量は少なく、健康被害の可能性は少ない。それなのに社会の混乱による被害が大きくなりつつある。チェルノブイリと似た状況だ。また結論に示されているチェルノブイリで行われた、除染、検査体制の整備は日本にも参考になるだろう。

私たち日本人は冷静に福島原子力事故に対処し、社会混乱による損害を拡大したチェルノブイリの失敗を繰り返してはならない。(GEPR編集部)

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カウンタ 5597(2013年2月24日より)