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函南の里

函南(かんなみ)の里

                                    (室月 淳 2015年2月9日)

韮山の願成就院を拝観したあと,新幹線三島駅までもどり,そこからJR東海道本線で15分ほどのところの函南駅で下車します.函南駅からタクシーで10分くらいのところに「かんなみ仏の里美術館」があります.伊豆半島のつけ根にあたる閑静な山あいの里です.この美術館の由来について,すこし長くなりますが,解説リーフレットからそのまま引用させていただきます.

「函南町桑原地区では,平安時代の「薬師如来像」や鎌倉時代の「阿弥陀三尊像」など,二十四体の仏像群が,里人の厚い信仰心によって守られてきました.これら仏像群の散逸を防ぎ,後世に保存継承していくための施設として,明治30年代後半に桑原の有志により,長源寺の裏山中腹に「桑原薬師堂」が建てられました.

2008年(平成20年3月)に桑原薬師堂の二十四体の仏像群が,桑原区から函南町に寄付されました.そして町民の財産である貴重な文化財を後世に保存継承するとともに,多くの方々が観賞できる施設として「かんなみ仏の里美術館」を設置しました」

阿弥陀如来及び両脇侍像(重要文化財).実慶作.写実的で力強い表現はこの時代の慶派の特色をいかんなく発揮しています.実慶は康慶の弟子で,運慶や快慶と同時代と考えられています.

美術館の展示室.右端の仏像が薬師如来坐像(静岡県指定).桑原薬師堂の本尊でした.平安時代中期ごろと推定されていますが,顔面,胸腹部,衣の造形の確かさと保存状態の良さからいって重要文化財級といっていいと思います.

桑原薬師堂へと上る山道.

「伊豆桑原 西国三十三所観音霊場」 西国三十三所のミニ巡拝として,長源寺裏山の山腹に巡拝路とそれぞれの本尊をかたどった石仏がおかれていました.

行きの道でのタクシーの運転手が,「子どものころはよく薬師堂にはいっていたずらをした.仏像の顔に絵の具を塗ったこともある」とこっそり教えてくれました.そして美術館をみたあとは,ぜひ裏山の観音霊場の石仏もみるようにと勧めてくれたのです.桑原薬師堂は建物だけが開けられていて,なかはがらんとしていました.もちろん仏像はすべて美術館内に収められています.

この函南の桑原の里のひとたちも,千年以上の長いあいだにわたって,みなでこの仏像群を守ってきたのです.そして近年,「美術館」として新しい形での「保存継承」がはじまりました.そのおかげでわたしのような異郷の人間でも,このようにじっくり鑑賞することができます.「地方崩壊」が喧伝されるようになった今日,日本の文化の粋ともいえるこのような地域の仏像群は,このような形によって生き延びていかざるを得ないのでしょう.それは喜ぶべきことか,悲しむべきことか,いずれにしろ時代の大きな転機にあるとしかいいようがありません.

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カウンタ 1659 (2015年2月9日より)