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二分脊椎の出生前診断の告知および妊娠分娩ケアの現状

二分脊椎の出生前診断の告知および妊娠分娩ケアの現状−両親のアンケート調査より

                               (室月 淳    2012年4月19日) 

美保関燈台(島根県)

 はじめに

今日では胎児超音波検査の発達により,二分脊椎あるいは脊髄髄膜瘤meningomyeloceleの半数以上は出生前にみつかるようになった.他の水頭症と違って二分脊椎は生まれてすぐに髄膜瘤の手術を行うことが望ましいため,出生前にきちんと診断されていることが治療上大きな意味をもつ.新生児期の脳神経外科手術の進歩も相俟って,近年の二分脊椎症の児の神経学的予後の改善は著しい.

もともと胎児超音波検査の目的は胎児治療などの特殊な状況を除けば,分娩方法や時期を決定し出生後治療の準備を行うか,あるいは妊娠22週未満では妊娠を続けるか否かの選択を行うことにある.妊娠早期の血清AFPによるスクリーニングを行っている欧米とは異なり,わが国では水頭症が顕在化する妊娠30週前後に見つかって周産期専門施設に紹介されてくることが多い.分娩の数週間前に確定診断を行い,両親に病気のことを説明し治療方針や分娩方法に関する同意も得なければならない.両親はきわめて短期間の中で病気を理解し自己決定を行い,その過程で子を受容していくことになる.

二分脊椎の周産期管理にあたって,障害を持つ児に医療はどのように関わっていけばよいかについてはまだ十分に検討されていない.胎児診断では両親は妊娠継続や分娩方法・分娩時期などで困難な選択を迫られることがしばしばであり,告知から出産に至るまで両親がどのような心理状態でいたのか,われわれ医療者が知る機会はほとんどなかった.本研究では,両親が胎児異常の告知からその後の妊娠分娩のケアをどのように受け止めていたかを調べるために,二分脊椎の出生前診断を受けたご両親に対してアンケート調査を行った.その結果より超音波診断において見つかった胎児疾患をどのように告知し,その後の妊娠分娩をどのようにケアしていけばいいのかを明らかにすることを目的とした.

 対象と方法

出生前に診断された二分脊椎の子の両親を対象とし,国立病院機構仙台医療センター,宮城県立こども病院,二分脊椎の当事者および家族の集まりであるSB会(二分脊椎症者と家族の会)の協力を得て調査を行った.最初に両親に個々に対面し,調査の目的と意義を説明してインフォームドコンセントをいただいた後に調査票を手渡し,回答を匿名で郵送するという方法をとった.調査研究に関して国立病院機構仙台医療センター,宮城県立こども病院の各施設倫理委員会の承認を得た.

調査票の設問数は16で,選択肢からの選択が12問,自由記載4問であった.結果について充分な説明を受けているか,告知のときどのようなことを不快に感じたり励まされたりするのか,ケアやフォローに関してどのようなことに留意してほしいと希望するかなどが設問内容であった.21組(名)の両親に調査を依頼し,14組(名)の方からの回答が得られた(有効回答率67%).

アンケートの自由記載欄には,診断や告知を受けたときに感じた悩みや悲しみ,驚きといったいろいろな思いが強く語られている.本来ならば回答内容を適切な量に編集し,それを客観的に分類,分析することが求められるのだが,これらの回答に託されたひとつひとつの思いは本当に切実でかつ貴重なものである.そこでなるべく編集しないで,プライバシーを尊重しながらそのままの形で引用することにした.

 結果

(1)二分脊椎の病気についての診断と説明(図1)

図1. 胎児の疑われる病気についての説明 

\睫世陵解度

説明を受けた14名のうち,「理解できた」2名,「疑問が残った」2名,「あまり理解できなかった」5名,「まったく理解できなかった」5名であり,後2者をあわせると14名中10名(71%)がじゅうぶん理解できなかったようだ.「理解できた」と回答した2名のうち1名はたまたま小児医療の関係者であった.

「理解できた」と回答した2名を除いた12名に「それはどうしてですか?」と尋ねたところ,複数回答で「突然のことで動転動揺した」11名,「聞いたことがない病名だった」5名,「説明が難しすぎた」4名,「説明が短時間すぎた」2名,その他1名という結果だった.こどもの病気を告知されることは親に大きなショックを与えるものであり,最初の説明だけでじゅうぶんに理解していただくのは難しいことかも知れない.

⊃巴之覯未鯤垢されたときの気持

診断結果を聞かされたときご両親はどのような気持ちをもつか(複数回答).多かったのは「信じたくなかった」12名,「悲しかった」9名であり,そのほか「意味がわからなかった」3名,「納得がいかなかった」3名,「死にたいと思った」1名というものであった.

説明中の質問

説明中に疑問を解決できるまで質問できたかについては,「だいたい質問できた」が2名に対して,「ほとんど質問できなかった」が10名,「まったく質問できなかった」が2名である.胎児の病気が疑われながら,14名中12名(86%)が質問すべきことが思いつかないほど動揺していたと思われる.

た巴任亡悗垢觴由記載
  • 健診の医者が超音波で何回か頭をひねっていたが,里帰り先への紹介状にそれを書いてくれていたら・・・
  • 病気がわかったとき,前回の健診をしてくれた先生が「前回は異常なかった!!」と言い張っているのを見て,それまでの信頼をすっかりなくしてしまいました
  • 診察中に不自然な言動をしないで欲しい
  • きちんと診断してほしいし,わかったらなるべく早く専門病院に紹介して下さい
ス霖里亡悗垢觴由記載
  • 動転していて,話がうまく頭に入らなかったので,何度もゆっくりと繰り返して説明してもらえるといいと思います
  • 1回の説明に終わらず何度でも説明してほしい
  • ガンのときすらオブラートに包まず正しい告知がなされています
  • 病気の説明を,言葉だけでなく手元に残るメモのようなものがあれば理解しやすいのでは
  • 正しい情報をください.生まれてくる子は植物人間のようなことを言われました
  • 「水頭症の可能性」が何を意味するのか理解できなかった.何々などの可能性が疑われますまで話して欲しかったな
  • 説明の場に医師だけでなく助産師もついていてくれたら・・・・・・
  • うしろからチラ見されたりして不快だった.「何,泣いてんの?」って感じでみてとれた
  • 説明しているときにうしろで看護師さんたちが笑っていたのはとてもショックでした

(2)妊娠中のその後の対応や経過(図2)

図2. 妊娠中のその後の対応や経過  

〜択と決定

上記の告知と説明を受け,限られた時間の中でご両親は妊娠継続や分娩方法・分娩時期などの難しい選択を迫られることになる. 「なぜその対応を選択しましたか?」という質問に対し,それが「児にとって一番望ましい」13名,「自分と夫にとって望ましい」7名,「医師・スタッフが勧めたから」4名,「他に方法がなかったから」4名,「上の子供たちにとって望ましい」2名であった.

またその選択を今から振り返ってどのように感じているかについては,「しかたがなかったと思う」12名,「一番よかったと思う」 5名,「どうすることもできなかった」1名という結果だった.

妊娠中の支援

妊娠中もっとも支えになったのは,夫(配偶者)が12名,両親が3名,医療スタッフが3名,なしが1名であった.妊娠中絶を選択した2名に,「もしカウンセラーとの面談の機会があるとすれば受けてみたかったですか」と尋ねたところ,「絶対あるべきだ」が1名,「いいえ」が1名と答えが分かれた.

Gタ叡罎離吋△亡悗垢觴由記載
  • スタッフさんたちはこうゆう病名でもめずらしくないんだろうけれど,もう少しやさしく接してほしかった
  • 「今の気持はどうですか」と聞かれましたが,つらいに決まっていて,こんなのは論外です
  • 絶望の境地で妊娠中を過ごすのは母子ともに不健全と思った
  • 妊娠中は一貫して同じ先生にみてもらいたい
  • 大学病院だったため,たくさんの研修医が見学したり,これは何ですかなどと質問していた.そっとしておいて欲しかった
  • 二分脊椎のあかちゃんだからといって特別扱いをしないでほしい
  • ふつうの妊婦さんとは健診を別に分けてほしかったです
そ仍坐宛紊離吋△亡悗垢觴由記載
  • 帝王切開のとき,「赤ちゃんはしっかり慎重に取り上げますからね」と言っていただいたことがうれしかった
  • 生まれたときは何はともあれおめでとうと言ってほしい
  • 産む前以上に産んだあとのフォローは何もありませんでした.出産後のフォローを十分にお願いします
  • このような子が生まれてしまったのは自分の責任だったのか,この子とこれからどう関わっていくのか,入院中ずっと涙の毎日でした
  • 前日の手術であまり動けなかった私を,回診のとき「待って下さい」といっているのに無理やり動かされた
ノ死産後のケアに関する自由記載
  • 悩みに悩んで中絶を選択しましたが,自分たちの出した答えが間違っていたのかとても悩みました
  • 流産の後赤ちゃんに会わず,納棺そのほかすべてをお願いしたところ,「赤ちゃんがかわいそう」と言われた.「冷たい親」と思われ,つらい思いをした
  • 病室を出ると人に分かられているので顔が上げられなかった

(3)全体をとおして

”垈に感じたことば
  • 生まれてみないと何ともいえません
  • あなたなら大丈夫よ
  • 前回は異常なかった!!
  • いいおかあさんになれないよ
  • 生まれてもきっとたくましく育っていくでしょう
  • 次はがんばってね
⇔紊泙気譴燭海箸
  • 我慢しないで下さいね
  • 何かあったら何でも話してください
  • 大丈夫.安心してね
  • あかちゃんはしっかり取り上げますからね
  • 悪いのはあなたじゃあない
  • おめでとうございます.元気な赤ちゃんですよ
  • なかった.何をいわれても素直に受け入れられなかった
あなたと同じような立場の方へのアドバイス
  • 希望を捨てないで
  • どんな子でもあなたのもとを選んで生まれてくるのよ
  • お腹の中で必死に生きようとしているから,お母さんも一緒にがんばりましょう
  • その子があなたのもとに生まれてくるのにはきっと意味があるはず
  • どうしようもできないことだから,ゆっくり時間をかけて気持を整理してほしいです
  • その子はいつでもママの中で大事に眠っていて守ってくれるから,次は大丈夫って自信をもってください

 考察

(1)二分脊椎の出生前診断

胎生初期に神経管の閉鎖が不完全なために起きる発生異常であり,無脳症,脳瘤,潜在性二分脊椎などがある.周産期医療で重要となるのは開放性脊髄髄膜瘤(顕在性二分脊椎)である.被覆されない髄膜瘤から髄液が羊水中に流出して頭蓋内は虚脱し,脳の発育と頭蓋のアンバランスが生じるため,小脳や脳幹が頚部に落ち込み(キアリ奇形),髄液循環障害を来して水頭症が進行する.二分脊椎の子は出生後に髄膜瘤による下肢麻痺や膀胱直腸障害を来たすほか,キアリ奇形の10〜20人に1人は嚥下や呼吸障害を起こす.水頭症に対しては出生後に脳室‐腹腔シャント術が必要となる.このように二分脊椎は,産科,新生児科,脳神経外科,泌尿器科,整形外科,リハビリ科など多くの専門家による包括的医療が必要な疾患である.

わが国での二分脊椎の発生頻度は1万出生に4.9であり,欧米での出生数が低下したため先進国ではもっとも高い数値となっている.欧米諸国の多くでは妊娠12〜14週に母体血清αフェトプロテイン(AFP)のスクリーニングを行い,ついで胎児超音波検査による精査が行われる.神経管閉鎖障害が疑われれば,羊水中のAFPとacetylcholinesterase量の測定によって97%の確率で診断が可能とされる.確定診断後に人工流産される例もあると想像されるが,出産を選択する両親も少なくない(1).わが国では水頭症が明らかになる妊娠30週前後に紹介されてくることが多い.近年の胎児MRI診断の普及により確定診断のみならず,脊髄髄膜瘤の位置や嚢胞内の神経組織の有無などが評価でき出生後の神経学的予後の推定も可能である(2).

(2)出生前診断の告知や説明に関する現状と課題

第一にご両親と医療者のあいだの信頼関係が告知やその後のケアに重要と考えられる.疾患としての二分脊椎の説明だけではなく,診断されたご両親の気持ちを受け止めた上での心のケアである.医師として心から診療にあたることが望まれる.告知では医療者自身の人間性そのものが試されることになる.上記の調査の回答には医療者として非常に耳に痛いことばが並んでいるが,われわれはこれらの事実をしっかりと心してなお一層の努力が必要である.

最初の面談告知のときに受けた両親の感じ方次第によって,その子をどう受け止めていくか,子の障害を長期的に受容できるかどうかが大きく左右される.そこでは何が伝えられるかだけでなく,いかに伝えられるかが重要である.問題が特定された時点でできるだけ早く,両親がふたりそろったところで,明確かつ率直に説明を行うべきである.妊婦だけでなく夫が同席することにより,この問題をまずふたりで分かち合うことの大切さを伝え,ふたりで話し合いをしやすい環境をつくることに役立つ.説明に際しては小児科医師などにも同席してもらうのは有用である.二分脊椎の子のケアを経験したことのある医療者ならば,ほかでは得られないような貴重な情報をご両親に提供できると考えられる.

障害をもったこどものご両親に初めて告知を受けたときのことを聞くと,当然のことではあるが,その事実だけで頭がいっぱいになりほかに何をいわれたのかを覚えていないことが多い.86%が質問すべきことさえ思いつかないほど動揺を示していたことからわかるように,こういった”bad news”(悪い知らせ)のすべてを一度で理解させるのはほぼ不可能なのだろう(3).理解と受容には時間がかかる場合が多く,ご両親の受容を援助するためには理解度や環境に合わせて何度かに分けてお話していく必要もある.最初の告知のときには情報の伝達だけではなく,むしろ「希望を捨てない」「あなたを見放さない」というメッセージをきちんと伝えること最重要である(4).

基本的なことだが告知を行う環境の準備にも考慮する.「うしろからチラ見されたり…」,「うしろでスタッフが笑っていた」,「説明の場に医師だけでなく…」という回答については一部に誤解もあるのかもしれないが,告知や説明の場の環境の重要性を物語っている.同じ説明でも外来の喧騒の中で行うのと静かな部屋で行うのでは,ご両親に与える印象はまったく異なる.一般の診療以上にプライバシーの保護には気をつけなければいけないと思われる.

(3)告知後のフォローおよび妊娠分娩のケアに関する現状と課題

適切かつ充分な医学情報を提供して,あとはご両親の自己決定にまつというのは一見正しそうにみえる.しかしご両親の決心を支えるのは情報そのものだけでなく,児の予後などといったある程度不確定な事実を前にして,ご両親の迷いながらも気持ちを決めなければならないその不安定な心理状態を共に分け合うことがときに必要となる.両親の子の受容を目指しつつ,たとえ両親がどのような選択をしようともその決定を支援していく.

二分脊椎の子はいくつかの障害を抱えながらも,きちんとした治療とケアを行うことにより充分に人生を全うできる力がある.そして仮に障害を抱えていても生まれてくる命を祝福する準備があることをきちんと伝える必要がある.不安と,場合によっては絶望を感じながら妊娠中を過ごす母親に対して,生まれてくるこどもを肯定してくれるこれらの言葉は大きな応援,助けになると考えられる.帝王切開のとき「赤ちゃんはしっかり慎重に取り上げますからね」といわれたことがうれしかったというは如実にこのことを示している.「おめでとうございます.元気な赤ちゃんですよ」というお産のときに当たり前のようにかけられるこの言葉が,二分脊椎の子の母親にとって「励まされたことば」であったのは,どんな子どもであってもわが子である限り認めてほしい,肯定してほしいと願っているからだろう.どんな状況にあろうとも「生まれてくる子におめでとう」をぜひ言ってあげたい.

出生前にこどもの診断を受け,その後のさまざまな葛藤をくぐり抜けて障害も含めこどものすべてを認識し,愛情をもって積極的に育児を行っているご両親から,「あなたと同じような立場の方へのアドバイス」としていくつかの言葉が上げられている.ご両親が呑み込んだまま書かれることもなかった無数の苦渋と個々の経験に裏打ちされたこれらの貴重なアドバイスを決して無駄にはせず,これからの周産期臨床をとおして新たな患児のご両親に伝えていきたいと思う.

 おわりに

胎児超音波検査による出生前診断の目的は,病気をもったこどもにもっとも適した分娩方法と時期を選択し,出生直後から適切な治療法を提供するためにある5.これからの困難に立ち向かうための心の準備をし,二分脊椎をもったからこその生を実現する手伝いをするためといえる.さらには疾患に応じて産科,新生児科,脳神経外科,泌尿器科,整形外科,リハビリ科などといった適切な医療チームが形成され,医療計画を立てることが必要である.生まれつきの疾患をもった子と両親が出生後,できれば妊娠中から一緒に歩きだせることがわれわれの究極の目標である.  

 謝辞

本アンケート調査にご協力いただきました仙台SB会会長・忽那加菜子氏と会員のみなさまに厚くお礼を申し上げます.

本稿の要旨は2008年5月の第32回日本遺伝カウンセリング学会学術集会において発表した.また本稿の内容は日本遺伝カウンセリング学会誌「臨床遺伝」に投稿したものを一部改稿したものである.  

 文献

(1) Chaplin J, Schweitzer R, Perkoulidis S: Experiences of prenatal diagnosis of spina bifida or hydrocephalus in parents who decide to continue with their pregnancy. J Genet Couns 14:151-162,2005

(2) 室月淳,岡村州博:胎児中枢神経系異常の診断―MRIを用いて.産婦人科実際49:1819-1826,2000

(3) Krahn GL, Hallum A, Kime C: Are there good ways to give ‘bad news’? Pediatrics 91:578-582,1993

(4) 室月淳:妊娠期に発見された児の異常―予期せぬ結果をどう伝えるか.ペリネイタルケア21:658-662,2002

(5) 室月淳:胎児奇形の診断を受けた両親のためのケア遺伝カウンセリングと出生前診断.日産婦誌60:N324-N328,2008    

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カウンタ 39987 (2012年4月19日より)