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第10回日本胎児治療学会開催のごあいさつ

第10回日本胎児治療学会開催のごあいさつ

学術集会テーマ ”The fiction of one decade becomes the technology of another”

第10回日本胎児治療学会会長
室月 淳
東北大学大学院医学系研究科先進成育医学講座胎児医学分野教授
宮城県立こども病院産科部長

みなさま,仙台にようこそ.2003年に九州大の中野仁雄教授が会長として前身の日本胎児治療研究会を立ち上げてから,日本胎児治療学会も今回で節目となる10回目を数えるにいたりました.先日,たまたまなにかででくわした”The fiction of one decade becomes the technology of another”というフレーズがえらく気に入ったので,それをそのまま抜き出して本学術集会の今回のテーマとさせていただきました.

1992年に当時慶応大学の名取道也先生が本邦第一例の胎児鏡手術を報告され,同じころ国立循環器病センターの千葉喜英先生が子宮内シャント術を確立いたしました.この1992年ころからの10年間が本邦における本格的な胎児治療の最初の10年です.胎児治療がいわばきわものとして扱われていたあの時代に,医学としての認知をめざし長年にわたって努力を続けてこられた胎児治療第一世代の先生方に心からの敬意を表させていただきます.この世代の代表のおひとりである岡村州博東北大学名誉教授に特別講演をお願いして当時の歴史と思い出を語っていただくことにいたしました.

2003年からの次の10年間の胎児治療はまさに本学会が中心となりました.第一世代の先達がはじめられた胎児鏡下手術や子宮内シャント術をはじめとした治療を,第二世代であるわれわれが受けつぎ発展させてきました.「産婦人科診療ガイドライン産科編」にも胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術が取り上げられ,胎児治療はエビデンスのある治療として周産期医療のなかに定着するまでにいたりました.本年4月から「一絨毛膜性双胎妊娠において発症した双胎間輸血症候群に対する内視鏡的胎盤吻合血管レーザー焼灼術」が保険収載され,さらにダブルバスケットカテーテルが薬事で承認されて,本年7月からは「胎児胸腔・羊水腔シャントチューブ留置術」も保険適応となりました.2日目のシンポジウム「胎児治療の臨床試験をめざして」では,今回の臨床試験,薬事承認にいたるまでの経緯を振り返って今後のモデルとすること,そして実際にこれから予定されている胎児治療のいくつかの臨床試験を紹介いたします.

そしてこれからはどのような10年になるのでしょうか? 本学会における胎児治療の発展ではこれまでおもに外科的介入が中心となってきましたが,近年の遺伝子医療や再生医療の急速な発展により各種の新しい治療法の可能性が提示されています.これからの胎児治療を考えていくためには,基礎的研究をもとにさまざまな臨床応用がこころみられている他分野と交流,協力しながら進めていかなければなりません.そこで免疫グロブリン胎児医療研究会を主催してこられた神戸大学の山田秀人教授をお招きして,「先天性サイトメガロウイルス母子感染の制御,胎児・新生児治療」というご講演をしていただくことにいたしました.

そして第3日目の12月2日のシンポジウム「骨系統疾患の治療−胎児治療を視野にいれて」では,これまでの10年間将来の夢として語られてきた治療である幹細胞移植,iPS細胞を応用した治療,遺伝子治療,酵素補充療法などについて,それぞれ本邦における第一人者の先生方に語っていただきます.これらの治療法はすでに乳幼児を対象として臨床試験が始まっているものから,いまだ動物実験レベルのものまでさまざまな段階にあります.まさしく”The fiction of one decade becomes the technology of another”の過程にわれわれは立ち会っています.

これからの未来の10年は若手であるあなたがたのものです.胎児治療第三世代であるあなたがたに,われわれはこれまでの20年間の成果と教訓を総括して,さらにはおおざっぱでもこれからのある程度の方向性を示したいと思っています.そしてこれまで一緒にやってきた産科,新生児科,小児外科,泌尿器科,麻酔科の仲間たちの枠をこえ,より広い分野の専門家と協力しながら,新しい胎児治療の道を切り開いていくことを望みます.

最後になりますが,本学術集会開催にあたってご協力いただきましたすべての関係者にここで感謝のことばを申し上げます.準備や学会運営,講演依頼,あるいは資金面でも多くのかたに助けていただきました.ぎりぎりまで学会準備を放っておいたおかげで多くのかたがたにご迷惑をおかけしてしまいましたのは,すべてが怠け者で事務処理能力に欠ける本学術集会長の責任であります.まことにもうしわけありません.それでも今日という日を迎えることができたことに心からよろこびを感じております.できうるならばこの幸せをまわりの仲間や同志,友人とも分かち合いたいと願ってやみません.

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