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染色体均衡型三方向転座の遺伝カウンセリング

染色体均衡型三方向転座(three-way translocation)の遺伝カウンセリング

                                  (2012年9月9日 室月 淳)

先日,非常に複雑な形態の均衡型染色体相互転座についての遺伝カウンセリングを行う機会がありました.染色体の3か所切断による3つどもえの相互転座(three-way translocation)をもつ親御さんからの次子再発率の相談です.きわめてまれなケースであり,わたし自身も経験がなかったので,尊敬する何人かの専門の先生方にご教示をいただいたうえで何とか遺伝カウンセリングをこなしました.日本語で解説された文章はこれまでほとんどないようですので,今後のためにも今回わたしが学んだ内容を簡単にまとめておきます.

非常に複雑な染色体組み換えをcomplex chromosomal rearrangement (CCR)といいます.CCRには,それぞれ1か所の切断点をもつ3つの染色体の三方向組み換え(three-way exchange)や,不均衡交差を考慮した理論的な場合で現実的に実証することが技術的に困難なカテゴリー,あるいは相互転座をもつもの同士が偶然結婚した場合(double two-way exchange)などがあります.

生まれてきた児のthree-way translocationは新生突然変異(de novo)の場合と家族性(familial)による場合が知られています.新生突然変異では表現形に異常がみられる例が報告されており,部分的に微小な染色体異常が観察されています.家族性の症例では親と同じ核型ととり表現形には異常はみられません.CCRは男性の配偶子形成に起因することが多いとされています.

遺伝カウンセリングでしばしば問題となるのは,カップルの一方が均衡型three-way translocationの保因者であるときです.染色体異常児が新生突然変異のときは再発のリスクはほとんどありませんが,どちらかが保因者のときは染色体異常児や流産を繰り返すか,不妊となることが一般的です.

Three-way translocationの保因者では,6価染色体(hexavalent)が成熟分裂/減数分裂(meiosis)で形成されます(図1).Symmetric segregation (3:3)(対称的3:3分離)では20種類の配偶子が形成され,そのなかで正常(A+C+E)または均衡型(B+D+F)を有するものを含みます.Asymmetric segregation (4:2, 5:1, 6:0) の分離様式や不均等交叉を含めると,形成される配偶子の種類はさらに増えます.

図1.形成される6価染色体(hexavalent)(文献2より引用)

Gardnerらのテキスト(1)によれば,経験的に知られる自然流産のリスクは50%であり,生存する異常児のリスクは20%,残りの30%前後が正常か均衡型とあります.またYoung(2)によれば,three-way転座の場合,一般的に流産率50%,染色体異常児の割合は20〜40%とほぼ似たような数字が記載されています.基本的にはこれまでの既往が異常児出産か,複数の流産か,異常な精子形成による男性不妊症か,あるいはde novoで発症した偶然によるものかで異なってきます.もしもこれまで複数の流産を繰り返している場合は,不均衡の組み合わせは流産となる可能性が高く,今後も流産が続く可能性が高くなります.もし既往に異常児が生まれているならば保因者は同じことを繰り返すでしょう.

3:3分離で形成される20種類の配偶子については,その接合体がはたして生存して生まれる可能性があるのか,生存した場合どのような異常があるのかは大きな問題です.そのためにはSchinzelのカタログ(3)が参考になります.一般的には派生染色体の欠失や重複部分が大きければ大きいほど生存の可能性は少なくなりますが,それが小さくてもその部分に生命維持に欠かせない遺伝子が含まれていれば生存は困難になります.

複雑な染色体異常保因者では流産を繰り返すか,不妊であることが一般的ですが,交互分離であれば表現上正常なこどもを持つことも可能です.したがって健児を得るまで妊娠にチャレンジするのもひとつの方法です.しかし楽観的なカウンセリングには注意する必要があり,健児を得るチャンスは低いという現実は直視しなければいけません.直感的にみても満足な妊娠の起こりうる可能性は多くはないでしょう.

妊娠が成立した場合には初期流産が起こるか自然の経過をみていく場合もあります.あるいは絨毛生検(CVS)を行って染色体をチェックする場合もあります.流産を繰り返す女性は染色体を早く調べて安心を得たいと思うこともあるし,逆にCVSや羊水検査によるわずかなリスクにも神経質になることもあるので,じゅうぶん注意してケアを行う必要があります.

Three-way translocationの保因者が流産を繰り返す場合では着床前診断が特に望まれると思われるかもしれませんが,CCRの複雑さや染色体転座の均衡と不均衡を区別することの難しさを考えればあまり現実的とはいえません.着床前診断においてこの検査精度を一体どのようにして担保すればよいのかが問題となります.着床前診断のFISH strategyについては,Verlinskyら(4)やHarper (5)などの本にも詳細には触れておらず,いまだ結論はでていないようです. 

専門的内容についてさまざまなご教示をいただきました久留米のS先生,鹿児島のI先生,
金沢のO先生,東京のM先生には心よりお礼申し上げます.

 

参考文献

(1) Gardner RJM, Sutherland GR, Shaffer LG, ed: Chromosome Abnormalities and Genetic Counseling 4th ed, Oxford University Press, 2011

(2) Young ID: Introduction to Risk Calculation in Genetic Counseling 3rd ed, Oxford University Press, 2006

(3) Schinzel A: Catalog of Human Chromosome Abnormalities 2nd ed. Walter De Gruyter Inc, 2001

(4) Verlinsky Y, Kuliev A, ed: Atlas of Preimplantation Genetic Diagnosis, 2nd ed. Informa Healthcare, 2004

(5) Harper J, ed: Preimplantation Genetics Diagnosis 2nd ed, Cambridge University Press, 2009

 

 追記 (2015年3月24日)

先日,Aさんというかたよりメールをいただきました.3本の均衡型相互転座の保因者ですが,元気な男のお子さんをお生みなられたとのことです.ほんとうによかったと思います.

わたし自身,遺伝カウンセリングの相談で初めてのことだったので,いろいろと勉強したことをその機会にまとめたものが上の解説でした.そういった意味で経験不足で,内容も不十分だったかもしれません.

Aさんが元気な子をお生みになったことは,わたしにとってだけでなく,世にいる同じような境遇の女性にとって,ご参考になるかもしれませんので,Aさんのご承諾を得てメールの文章をそのまま下に引用させていただくことにしました.

 

  • 「こんにちは,Aと言います.2, 4, 6番三本の相互転座保因者です.

室月様のホームページに,相当妊娠が難しいと書いてありましたが,私は二回初期流産のあとに人工授精で元気な男の子を生みました.いま三歳ですが正常に育ってます.二人目が欲しいので,日本産科婦人科学会の着床前診断の承認を,2013年から申請してますが,まだおりないです.

なので,三本の転座でも出産は可能です^_^ もしもご参考になれば幸いです.いま二人目治療をがんばってます」

  • 「年齢は37です.長男を産んだのは34でした.あと,多嚢胞性卵巣と,単頸双角子宮です.左側の子宮で毎回妊娠してます」

 

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カウンタ 9986 (2012年9月9日より)