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ファンタジーの世界での論争

ファンタジーの世界での論争

                                (室月 淳  2013年5月3日)

NIPTがはじまって1か月がすぎました.

この1か月の記憶は,ほかの同僚に迷惑をかけながら,検査,カウンセリング,書類作成,外部との対応,講義などなど,NIPTにかんすることしかないといっても過言ではありません.先週,2か月ぶりに胎児鏡下レーザー手術が緊急ではいり,術中は例のごとく右往左往しながらなんとかこなしたのですが,とてもたのしくて充実感がありました.やはりNIPTだけやっているのは精神衛生上問題がおおいようです.

ところでわたし自身の性格的問題なのか,複数の場所で本来ならばかかわらなくてもいい倫理論争に巻きこまれています.そして最近つくづく感じるのは,こういった議論は,「コストをまったく考慮しないファンタジーの世界で行われている」ということです.

NIPTにかんする倫理的な議論のなかで,カウンセリングの重要性が再確認され,さらに適正におこなうために認定制,報告制がとられました.しかしそのためにとられる手間と時間は莫大なものです.臨床遺伝専門医の社会的責務ということで当初からかかわってきて,実際の検査の立ち上げもおこないましたが,この1か月の手間や人件費を考えるととてつもない大赤字であり,病院側には多大な迷惑のかけどおしです.

遺伝医療や遺伝カウンセリングに正当な対価をみとめていないいまの日本の医療制度においては,研究として大学医療機関がおこなうか,政策医療として国立機関がおこなうかしか方法がありません.一般病院がNIPTをおこなっていくのはかなりの努力と無理を要します.

コストの問題をさけたファンタジー論争からうまれるのは理想という名の幻想であり,臨床の現場でシステムが公正に機能することは期待できなくなります.本音と建前の乖離は,陰にかくれたところで営利医療をはびこらせることになるかもしれません.すなわち過去の羊水検査や母体血清マーカーの二の舞ということです.

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カウンタ 1775(2013年5月3日より)