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「心の被曝」

「心の被曝」

                                (2012年9月1日  室月 淳)

南相馬市原町区萱浜地区.東日本大震災時の津波によって多くの犠牲者をだした地域です.いまは瓦礫も撤去され,一面の草原となっています.

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南相馬市立総合病院を訪問するたびに玄関先で空間線量をはかっています.毎回その値は少しずつですが確実に下がっており,今回は0.24マイクロシーベルト/時でした.これは365日間玄関先に立ち続けても2ミリシーベルト程度の外部被曝にしかならない値です.

周知のとおり100ミリシーベルト以下では発ガンのリスクを疫学的に証明できませんが,放射線健康カウンセリングではとりあえずLNT仮説に基づいて低線量でもできる限り避けるべきとお話します.しかし同時に,放射線は環境要因のひとつにすぎず,医療の専門家としてクライエントの健康課題や生活習慣などの包括的に問題をとらえ,健康増進に取り組むことになります.

国立がん研究センターのホームページには,放射線によるガンの相対リスクと生活習慣における相対リスクを比較した表があって,とても参考になります.たとえば100-200ミリシーベルトの被曝(相対リスク1.08)は野菜不足や受動喫煙とほぼ同じ,200-500ミリシーベルト(1.19)の被曝は肥満,運動不足などとほぼ同じ,500-1000ミリシーベルト(1.40)の被曝は大量飲酒とほぼ同じ,1000-2000ミリシーベルト(1.80)の被曝は喫煙とほぼ同じ発癌リスクとされています.

がんのリスク– 放射線、ダイオキシンと生活習慣(国立がん研究センターホームページ)

市立病院のO先生とお話したとき,「いま南相馬市民にとって最大の問題なのは,外部被曝でも内部被曝でもなく心の被曝である」とおっしゃられたことがいまもいちばん心にひっかかっています.「外部被曝」は詳細な空間線量測定によって,「内部被曝」はホールボディカウンターによる線量測定によってリスクを評価し対応が可能でしょう.しかし「心の被曝」は南相馬市民の内面をジワジワと浸食し,ひとびとに大きなストレスを与えつづけています.市民のあいだを分断し,震災後の復興を妨げる最大の要因となっているのではないかというわけです.

南相馬市の震災前の人口は7万1千人でしたが,昨年9月の避難準備区域の解除によってひとが戻ってきて,今年の7月で4万6千人(65%)まで回復しました.しかし20-30代の帰還率は非常に悪く半分以下となっています.若い夫婦がもどってきて,南相馬で安心して妊娠出産し子育てしていく,それこそが地域の復興の姿そのものだろうと思います.「心の被曝」にどのように取り組んでいくか,それがいちばんの問題となっています.

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カウンタ 1466(2012年9月2日より)