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胎児CTの適応の変更点

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!!!胎児CTの適応は慎重に!!

胎児CTの診断能力は抜群である.
胎児CT(3次元胎児ヘリカルCT)の診断能力は抜群である.

もともと骨系統疾患の放射線診断学はほぼ確立している.Prof. Sprangerや西村玄先生といった碩学の努力により,X線所見に基づいた個別の骨系統疾患の疾患概念が確立し,さらに共通する特徴を抽出することにより大きなファミリーに分けられた.この数年で疾患遺伝子が次々と発見されているが,このファミリーがそれぞれ共通の原因遺伝子をもつことが明らかになり,彼らの目の確かさが改めて脚光を浴びている.

胎児CTと単純X線写真の共通点と相違点が明らかにされ,これまでの診断学に基づいて胎児CT所見を解釈することにより,胎児骨系統疾患がかなりの確率で診断できようになった.しかし一方で,最近,産科領域の一部でやや安易に使われている傾向も目につくようになった.

胎児の四肢長管骨の短縮を認めながら胎児CTを撮って特に病的な所見を認めず,出生後の精査で単純な胎児発育遅延であったり非特異的な骨化の遅れにすぎないといった例を仄聞する.上記に解説したとおり胎児被曝のリスクは決して高くはないが,それでも不必要な検査は可能な限りさけるべきである.

以下の胎児CTの適応ガイドラインはあくまでも私案である.

(1)妊娠28週以降である

(2)骨を主体とした先天異常が疑われる

(3)超音波だけでは診断が難しい疾患である

(4)四肢長管骨の-4SD〜-5SD以下の短縮を認める,あるいは長管骨の骨折や彎曲,胸郭の低形成といった明らかな骨病変を認める

胎児CTを妊娠28週以降のいわゆる3rd trimesterの時期に限局する理由は,ひとつは被曝リスクがもっとも小さくなる時期であること,もうひとつはachondroplasiaなどではこの時期以降でなければ所見がはっきりしないことによる.しかし骨系統疾患が間違いなく指摘され,妊娠22週未満にその重症度を明らかにしたいという状況もあるため,胎児CT施行時期についてはさらなる議論が必要かもしれない.

胎児CTのもっともよい適応は骨系統疾患や開放性神経管奇形,上顎体,人魚体などといった骨格系の先天異常である.それ以外の内臓系の疾患については一般的には超音波検査やMRIで充分と考えられる.

ほとんどの胎児骨系統疾患では四肢長管骨の短縮が-4SD〜-5SD以下である.それよりも短縮の程度が軽い場合は,胎児発育遅延や染色体異常,体質性の低身長などことが多い.例外としては長管骨の骨折を認める骨形成不全症(軽症型),彎曲を認める屈曲肢異形成症や,胸郭低形成を認める短肋骨異形成症グループの一部で四肢長管骨の短縮の程度が軽度な場合などがある.すなわち長管骨が-4SDより短くなくても,骨折や彎曲といった形態異常や胸郭の低形成の所見を認める場合には胎児CTの適応となる.

このように胎児CTの適応は慎重にすべきであるが,さらにその被曝線量についても極力すくなくすることを考える必要がある.2年前に厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「致死性骨異形成症の診断と予後に関する研究」,いわゆる澤井班研究で,胎児CTを実施している区内の施設に対して,被曝線量の推定に有用なCTDIVolとDLPの調査を行った.胎児CTはまだ標準的な撮影条件が確立されていないため,被曝線量軽減のためにはまず現状を把握すべきと考えたためである.

その結果,わが国における診断参考レベルはCTDIvol 11.3 mGyと判明した.しかし同時に調査施設のデータを分析すると,骨系統疾患の診断においては,被曝線量はCTDIvolの最低レベルの2.1〜3.7 mGyでもじゅうぶん撮影可能と判明した.このレベルまで減少させれば胎児CTの安全性は大きく高まると考えられ,胎児CTを実施する場合は各施設は線量管理を厳密に行い,胎児CT線量を可能な限り低減させるべきという結論となった.


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カウンタ {{counter 胎児CTの適応}} (2012年9月6日より)