■侵害受容反応

│情動 emotion│

　←→大脳辺縁系/痛みの感情説/情動関連痛みテスト/ストレス　参考1/2/3/4/5/6

●痛みの情動的側面

→情動　→情動行動　→辺縁系

• 痛みには感覚的側面と情動的側面がある。←→痛みの定義/痛みの様相/→痛みの感情説
  
  
• 痛みの情動的側面を伝える脊髄視床路の内側系は、古い系であり、動物が生命を脅かす可能性のある侵害刺激に対応する系であるのかもしれない。
• 生命を脅かす可能性がある痛み刺激が加わると、不快な情動を感じるとともに、身を守るための情動行動や、心臓機能の亢進や発汗など自律系神経反応も伴われる。
  
  　

  BC4C頃	Aristotle（アリストテレス P BC 384〜BC322/3/7, 古代ギリシャの哲学者、Plato↑の弟子）は、「痛み」を五感に含めなかった。彼の著書「De partibus animalium 動物部分論」では、「感覚」の起源は心臓にある。知覚の波が血管に沿って心臓に伝わるが、それが激しいとき「痛いという情緒」が生じると説明した。また、心臓が柔らかくて熱をもち、そこに多量の血液がたまると、痛みが発生するとも説明している。「De anima 霊魂論」に述べている「五感」は「視覚」・「聴覚」・「嗅覚」・「味覚」・「触覚」であった。「痛み」は、感覚ではなく、生理的な反応によってひきおこされる不快や苦しみである情動としてとらえていた。*
  1675年	Baruch (Benedict) De Spinoza（スピノザ P 1632/11/24〜1677/2/21, オランダのユダヤ系哲学者、神学者）は、デカルトとは異なり、情動としての痛みをとらえ、悲嘆と憂鬱を痛みがもつある種の特性としてとらえている。
  1872年	Charles Robert Darwin（P 1809/2/12〜1882/4/19, イギリスの自然科学者）は『人間と動物における情動の表現』↓で、人間と動物との表情の類似から、表情がもつ実用的な機能について論じ、動物での情動研究を基にしてヒトの情動を論ずる根拠を与えた。また、彼は情動を「非常事態にさらされた生物が、適切に対処し、生存の可能性を増加させるもの」であるととらえていた。つまり、情動の生物学的意義は、個体維持と種族保存を達成するためにある。参考1/2
  1848年 9月13日	Phineas Gage（フィネアス・ゲージ 1823/7/9?〜1860/5/21, アメリカのダイナマイト職人, 当時25歳）は、Vermont州の小さな町 Cavendish の近くで鉄道敷設のための山岳開拓工事で不慮の事故に遭遇した。岩盤を爆破するために仕掛けたダイナマイトが爆発しないので、鉄棒でつついたその瞬間に爆発し、長さ 109cm、太さ3cm、重さ6kgの鉄棒は彼の下顎から頭を貫通し彼の後方へ３０m近く飛んだ。奇跡的に一命を取りとめ、記憶や知性は以前のままであるにも関わらず、性格だけが著しく変化した。前頭葉の眼窩面（前頭眼窩回）と前頭葉の先端部（前頭極）が損傷したために、情動をコントロールができなくなった。事故以前は、生き生きとした働き者として周囲の信頼を得ていたが、事故後仕事に復帰した彼は、きまぐれで、非礼で、下品になり、彼の仲間に敬意をほとんど示さなかった。また、辛抱強さを失い、頑固になり、そのくせ、移り気で、優柔不断で、将来の行動のプランもきちんと決めることができなくなった。1860年5月21日に死亡し、 Gageの頭蓋骨と鉄の棒はHarlowの元に送られた後、ハーバード大学のWarren Anatomical Museumに保管されている。　→参考 1/2/3
  1878年	Pierre-Paul Broca（P 1824〜1880, フランスの内科医)は、ほ乳類の脳に共通する脳幹を取り巻く皮質領域（:帯状回、海馬傍回、梁下回、海馬）を大脳辺縁葉 le grande lobe limbiqueと呼んだ。現在われわれが大脳辺縁系と呼んでいるものは、ブローカの大辺縁葉よりもずっと広い領域を含んでいる。
  	Sigmund Freud（P 1856〜1944, オーストリアの精神科医）の精神分析理論では、性衝動や攻撃欲求などの原始的本能は、自我構造論の「エス Es（イド id)」として定義されている。そして、そのエスを社会化して抑制する精神機能（良心・倫理観）として、エディプス・コンプレックスの体験によって形成される「超自我 superego」が考えられました。現実検討能力を司る「自我 ego」は、本能的欲求の充足を志向するエスと社会適応のための欲求抑制を行う超自我のバランスをとる働きをする。
  19世紀末	「ジェームズ・ランゲ説 James-Lange Theory of Emotion」（情動の末梢起源説）：William James（P 1842/1/11〜1910/8/26, アメリカの心理学者）とCarl Lange（1834〜1900, デンマークの心理学者）が提唱した理論で、身体変化の認知が情動を生むという説。 　情動 emotionは、感情 feelingより原初的な快・不快に近い感情内容であり、持続時間が短く、感情の程度が生理的変化を伴うほどに激しいという特徴を持ってる。James-Langeの理論は、「外部刺激→生理学的変化・行動の形成→感情体験（感情の自己知覚）」といった時間的順序で、情動の形成過程を捉えている。 　自分自身の情動の生起を経験するよりも早く、涙が流れたり、心臓の鼓動が早くなって発汗したりといった生理学的反応が起こる。彼らの理論は、「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」のであり、嬉しいから笑うのではなく、笑うから嬉しいのであり、敵意を抱くから怒るのではなく、怒るから敵意を抱く。we feel sorry because we cry, angry because we strike, afraid because we tremble, and not that we cry, strike, or tremble, because we are sorry, angry, or fearful」というJamesの言葉に象徴されている。
  1890年	Friedrich Leopold Goltz（P 1834〜1902, ドイツの生理学者）が大脳皮質を除去したイヌでも怒りの反応が生じることを示した。
  1894年	Henry Rutgers Marshall（1852〜1927, アメリカの心理学者）は、痛みは感情であり、感覚ではないと述べた。→痛みの感情説
  1915年	Walter Bradford Cannon（P 1871〜1945, アメリカの生理学者、William James↑の弟子）は、動物の恐怖に対する反応としてfight or flight responseを定義した。
  1929年	「キャノン・バード説 Cannon-Bard theory」（中枢起源説）：Sir Charles Sherrington（P 1857〜1952, イギリスの生理学者）とWalter Bradford Cannon ↑は、James-Lange↑の末梢説に異論を唱えた。Cannonは情動の座が視床にあり、Bardは情動の座が視床下部にあるとした。 　Sherringtonは、末梢神経の自律神経系を損傷した犬が、心臓などの内臓器官からのフィードバックを脳に受けることの出来ない状態で情動反応を見せた事例を挙げた。 　Cannon（1927）は同一の生理学的変化が、複数の情動経験で起こることを挙げて、James-Lange説では複数の質的な差異のある情動経験の存在を説明できないという反論をした。皮質下組織（特に視床）が情動の座であり、視床から「情動の衝動」が起こり、それを大脳皮質が抑制すると考えた。 　Cannonは視床が情動反応を調整する中枢であると提唱し、Philip Bard（P 1898/10/25 〜1977/4/5, アメリカの生物学者）が動物実験で実証した。大脳皮質を除去されたイヌが見せかけの怒り（sham rage）と呼ばれる攻撃を伴わない 威嚇の表出を見せる。このことを踏まえ、ネコの皮質、視床、視床下部の前部を除去しても見せかけの怒りが見られる、視床下部が全て除去されるとこの行動が見られなくなった。情動は1知覚→2視床の興奮→3情動反応（末梢）と情動体験（皮質）の順に起こる。
  	情動の経験と表出に関する理論は、その他にもトムキンスやゲルホーンらの『顔からのフィードバック説』というものもあり、これは感情と対応した顔の表情を作る顔筋の変化が脳幹や大脳辺縁系、視床下部などにフィードバックして情動の経験と自覚を生じるというものです。つまり、主観的な情動の経験よりも先に、顔の筋肉の変化が起きて感情に合った表情が作られることによって情動が自己知覚されるという考え方が『顔からのフィードバック説』と呼ばれるものです。
  1936年	Hans Selye（P 1907〜1982, カナダの生理学者）は、有害な因子によって体に生じた歪みと、それに対する防衛(適応)反応を「生体内の歪みの状態」、すなわちストレスと呼んだ。
  1937年	「Papezの情動回路 Papez circuit」：James W. Papez（P 1883〜1958, アメリカの神経解剖学者）は、臨床データも考慮して、情動回路モデルを提唱した。 基本的にCannonらの説を支持しながらも情動に関与している部分は視床や視床下部だけではないことを突き止めた。 感覚入力は視床で中継されて、視床下部へ伝わり、そこで情報処理を受けた後、下行性と上行性に伝えられるとした。 下行性伝導は脳幹および脊髄へ向かい、とくに、自律的反応を起こす。 上行性に向かうものは、 視床下部乳頭体→視床前核→帯状回 ↑ ↓ 脳弓←←←←海馬←←←←海馬傍回 という閉回路（すなわち情動回路）が持続的に興奮することで情動が生まれると考えた。 Papetzの回路は情動というよりも、記憶の形成に関与する。 彼は帯状回皮質を情動の情報の受容部位と考えた。Papetzの回路モデルの特徴は、視床下部へは二つの経路からの感覚情報が入力され、一つは、直接視床下部に入り、その情報はそこで処理され情動的意味が付加されるが、他は、大脳皮質で処理された後、視床下部に到達する高度の「情動的色彩」を帯びた感覚情報も存在するとしている点である。
  1937年	「Klüver-Bucy症候群」：Heinrich Klüver（P 1897/5/25〜1979/2/8 心理学者）とPaul Bucy（P 1904/11/13〜1993 シカゴの神経学者）はアカゲザルの両側側頭葉を切除し、その結果として出現する5つの徴候を示した。 　→クリューバー・ビューシー症候群
  1946年	Henry Knowles Beecher（P 1904〜1976, ハーバード大学麻酔学教授）が「Pain in Men Wounded in Battle*」の中で、痛みの認知的要素と情動的要素の影響を示唆した。
  1949年	Walter Rudolf Hess（P 1881〜1973, スイスの生理学者、1949年にノーベル賞受賞）は、ネコの間脳、脳幹部を系統的に電気刺激し、視床下部刺激が、自然の刺激によって誘発されるのと同様の攻撃行動あるいは防衛行動が誘発されることを発見した。視床下部の腹内側部とその周辺部の刺激によって、怒りの反応が誘発され、その怒りは対象のない怒りであるということから見せかけの怒り sham rageと呼んだ。←→睡眠
  1949年 1973年	Paul Donald MacLean（P 1913〜2007, 米国の生理学者）は、Broca↑の辺縁皮質およびそれと神経結合している皮質下組織を辺縁系 limbic systemと呼び、情動および内臓機能に関与する１つの機能系とする概念を提唱した。 辺縁系が自律機能に密接に関連しているので、内臓脳 visceral brainとも呼んだ。 MacLeanのモデルにおける情動発現のセンターは広義の海馬体（海馬回、歯状回および扁桃体を含んだ領域）である。海馬体からの出力は視床下部を介して情動反応と自律反応を発現させるとした。 「三位一体脳説 a hierarchy of three brains in one—a triune brain」（1973年）：恒温動物の脳に３型のシステムから構成される階層性があると考えた。 原始爬虫類脳 protoreptilian brain 進化の時間的過程において最も古い年代に発生した脳器官であり、自律神経系の中枢である脳幹、間脳と大脳基底核からなる。 原始的な学習や記憶に基づいた、型にはまった行動を現わす。これらの行動は個体維持と種族保存に基本的なものである。 魚類や爬虫類では、大脳基底核が最高の行動運動統合部位で大脳皮質は未発達である。これらの動物の行動反応は辺縁系と視床下部で開始され、そのパターンは柔軟性に乏しいステレオタイプ型である。 心拍、呼吸、血圧、体温などを調整する基本的な生命維持の機能を担い、爬虫類に特徴的な自分のテリトリーの防衛意識などを発生させる。 旧哺乳類脳 paleomammalian brain 爬虫類脳に次いで進化した脳器官。哺乳類で初めて発達した海馬、帯状回、扁桃体などの大脳辺縁系から成り立つ。 この脳領域には情動の座があり、rigid/stereotypicな原始爬虫類脳の働きを、ある程度、柔軟に制御している。 個体の生存維持と種の保存に役立つ快・不快の刺激と結びついた本能的情動や感情、行動につながる動機を生起させる機能を担い、危険や脅威から逃避する 反応、外敵を攻撃する反応を取る原始的な防衛本能を司る脳の構造部位である。 大脳辺縁系は、本能的に遂行される“種の保存の目的＝生殖活動”を司る部位であり、自己の遺伝子を継承する為の情動的評価に基づく社会的活動や集団行動を行い、無力な子の育児や保護を行う母性的な欲動・本能の源泉でもあるとされる。 げっ歯類や下等哺乳類でも辺縁系と視床下部が反応発現の主体となっている。辺縁系と視床下部は行動発現の開始部位の一つである。すなわち、「情動過程」そのものに基づく行動発現と結びついている。 新哺乳類脳 neomammalian 高等哺乳類においてみられる発達した脳の最上層の新皮質。最も新しい年代に発生した脳器官であり、大脳新皮質の両半球から成り立つ。 言語機能と記憶・学習能力、創造的思考能力、空間把握機能などを中軸とする高次脳機能の中枢であり、ヒトと高等哺乳類において特に発達した知性・知能の源泉でもある。 マクリーンの仮説では、新哺乳類脳は、最も高次の階層構造として最も高度で複雑な情報処理を行う部位であるとされるが、大脳新皮質単独では高度な情報処理を行うことはできず、大脳辺縁系や脳幹、小脳などと相補的に協調し連動しながら高次な精神機能を実現していると考えられる。 新皮質は、外界環境因子を分析し、高度の精神活動を行なう。 霊長類になると、大脳皮質（とくに感覚野と連合野）、小脳、大脳基底核が著しく発達し、ここに行動発現に対する「認知過程」の関与が入ってくる。この過程で、道具の使用を学んだサルたちが表象能力をもちはじめる。 新皮質と辺縁系との相互連絡は動物が高等になるにつれて発達し、とくに側頭連合野・前頭前野と辺縁系との間の線維連絡は密になり、情動行動とその基盤はさらに複雑になり、質的にも異なったより発達したものとなる。ヒトでは新たに言語野が発達し、言語は個体および集団間のコミュニケーション手段として大きな役割を果たすようになる。 ここで、動物の古い脳の上に新しい脳が付加されるという進化の方向の道筋と人間の精神の構成の生物学的基盤が示されている。 「辺縁リング説」:パペッツの情動回路の大部分が大脳辺縁系に存在していることから情動を司る部位が「大脳辺縁系」であるとした。MacLeanは大脳辺縁系をリング状に結ぶ回路網が情動を作り出していることに気付いた。大脳辺縁系は内臓活動を支配する場でもあり、これで内臓と感情の結びつきも説明される。
  1954年	James Olds（P 1922〜1976, ハーバードの心理学者）とPeter Milner（アメリカの心理学者）は、ラットがレバーを押すと一瞬弱い電流が流れ、脳が刺激される研究法（自己刺激実験）を考案した。側坐核や腹側被蓋野が快情動を司る中枢（脳内報酬系↓）であることが明らかにした。
  1963年	M.D.エガーとJ.P.フリンによるネコの攻撃実験
  1964年	「シャクター・シンガー理論 Schachter-Singer 情動の二要因理論」:Stanley Schachter（1922〜1997, 心理学者）とJerome Singer（児童心理学者）による理論で、情動経験の成立に関して、生理的な覚醒とその状況に関する認知の認知の両方が不可欠（情動の二要因理論）とする。
  	大脳辺縁系という概念はその後もNauta、Heimerなどによって拡張されている。
  年	Ludwig Wittgenstein（P 1889〜1951 20世紀を代表する哲学者）も痛みが感覚であると同時に情動であると捉えていた。
  1979年	IASPの用語委員会が出した痛みの定義には、感覚的側面だけではなく、情動的側面があることが示された。
  1995年	Antonio R Damasio（ポルトガル生まれ、アメリカの行動神経科学者）がソマティック・マーカー仮説を提唱した。

●情動　←→痛みの情動的側面/情動記憶/辺縁系/扁桃体　　→参考1/2

• 情動発現の諸説
  ↑ジェームズ・ランゲ説（情動の末梢起源説）/キャノン・バード説（情動の中枢起源説）/Papezの情動回路/辺縁リング説
  
  
• 情動とは単に、「喜怒哀楽」などの感情だけではなく。思考、学習・記憶、認知機能などと同様にヒトでもっとも発達した高次精神機能の一つである。
• 個体生存維持のための利益に近づき、不利益から実を遠ざける。
• 感情は研究の対象とはならないが、観察できる情動は研究対象となる。
• 情動とは単なる感情ではなく、自律神経反応や行動が伴われる。
• 痛みの感覚的側面は主観的な評価しかできないが、自律神経反応などを対象として痛みの情動的側面の一部を客観的に評価できるとも言える。



• 脳の発達段階に応じて、情動は、単純なものから複雑なものに変化していく。

  一次性情動 　個体や種族の維持が脅かされる時に生じる情動 　生得的な基本的欲求に直接関係する情動

  二次性情動　←→理性に対立する脳の機能 第一段階 「快」と「不快」 　生まれたばかりの赤ちゃんでも、おしめが濡れると、泣く。 第二段階 「喜び」「悲しみ」「恐れ」「怒」など　←→シャーデンフロイデ 第三段階 「楽しい」「悲しい」「寂しい」「イライラ」など 第四段階 「愛情」「同情」「道義心」など

  
  
• 本能行動 instinct behaviorの中枢は視床下部にある。

  摂食行動 飲水行動 性行動 生体防御行動：痛みを回避するためにとる本能行動。 本能的な欲求が満たされると主観的には快情動が生じる。

  
  
• 大脳辺縁系は、生命の大原則にとって好ましいものか好ましくないものかを判断する。

  好ましいと判断した時	→→→	快の情動が生じる。
  好ましくないと判断した時	→→→	不快の情動が生じる。

• 扁桃体で評価し、その結果を情動行動として発現させる。
  
  

  アパシー　apathy 普通なら感情が動かされる刺激対象に対して関心がわかない状態のことを言い、興味や意欲の障害であると考えられている。 アパシー（apathy）のaはないという意味の接頭語で、pathosはギリシャ語でpassionを意味する。 1990年にMarinは臨床症状としてのアパシーを、意識障害、認知障害、情動的苦悩によらない動機付けの欠如ないしは減弱した状態と定義した。ここで言う動機付け（モチベーション）とは目的ある行動（goal-directed behavior）の開始、持続、方向性、そしてその活力に対して必要な駆動力を指す。 うつ病の主要な症状ではあるが、アルツハイマー病、脳血管性認知症、パーキンソン症候群などでも生じる。

●情動行動と動機づけ　←→侵害受容行動/ストレスに対する自己防衛行動/痛みの行動学的研究/行動学的研究/マウスの行動

• 動物では、生理的欲求に基づく本能行動が満たされると主観的には快感を生じ、生理的には快の情動行動が発現される。
  
  
• 情動行動とは快感、怒り、不快、恐れなどの情動の変化を伴う動物の行動様式
• 情動（刺激）は、（情動）行動を引き起こす「動機づけ」となる。

  情動			情動行動
  快感・喜び		→→→	接近行動	快情動行動＝報酬刺激獲得
  不 快 感	恐怖 Fear	→→→	逃避、回避行動	不快情動行動＝嫌悪刺激回避
  	怒り Rage	→→→ →→→	闘争、逃走行動 攻撃行動
  	悲しみ	→→→	フリージング

• 動物の恐れは逃避 escape または回避 avoidance 行動として現れ、怒りは闘争 fighting、または攻撃 attack 行動して現れる。
• これらはどちらも、立毛筋収縮、散瞳、血圧上昇、頻脈、発汗のような自律反応を伴う。恐れと怒りは混合して生じることもあることが示すように、動物周囲の威嚇に対して個体保全、身体防御に関連して生じる情動といえる。
• A10領域（中脳ー辺縁系）を含むドーパミン神経系が関与する。
• 痛みには負の情動が含まれ、痛みが動機づけとなって、行動が引き起こされる。　←→痛み行動/痛みの感情説
• 快と痛みは行動を引き起こす動機づけになるものであるが、快は痛みを抑制する。
  
  

  闘争・逃走反応 fight or flight response＝緊急反応 emergency reaction 　←→急性痛/逃避反射/fear-avoidance model 動物の怒りは闘争 fighting、または攻撃 attack行動として現れ、恐れは逃避 escape または回避 avoidance 行動して現れる。 これらはどちらも、立毛筋収縮、散瞳、血圧上昇、頻脈、発汗のような自律反応を伴う。恐れと怒りは混合して生じることもあることが示すように、動物周囲の威嚇に対して個体保全、身体防御に関連して生じる情動といえる。 交感神経による防御反応　←→ストレスに対する行動/可動化＠ポリヴェーガル理論 「闘争−逃走反応」とは、動物が外敵に遭遇する時には、みずからの生命を守るための原始的な自己防衛本能 身を守るために。敵が弱そうであれば闘争し、敵が強そうであれば逃走する。 Cannon↑の説：情動ー交感神経系学説 　生命の危険や恐怖の記憶と結びついた外部情報は、闘争・逃走反応として処理される。 ネコはイヌにほえたてられると、激しく興奮し、瞳孔は散大し、呼吸数と脈拍数が増加し、血圧は上昇する。 キャノンは、X線を通さない物質をえさに混入し、消化管の作用を観察した。恐怖に身をすくめているネコの胃腸の運動は抑制され、唾液や胃液の分泌が減少した。（Wilhelm Conrad Röntgen（ドイツの物理学者、1845〜1923）によるＸ線の発見は1895年） ほえるイヌを前にして緊張状態にあるネコの血中に、アドレナリンが多量に分泌されているを発見した。 キャノンは、ここではじめて、医学分野でストレスという言葉を用いた。 交感神経緊張が増加し、心拍数が増加し、血圧を上昇し、呼吸を促進し、瞳孔が散瞳する。 痛み情報が脳に到達した時も、脳は緊急事態だと判断し、交感神経系の活動が優位となり、闘争・逃走反応様の反応が生じる。　←→急性痛 侵害刺激が加わったときにも、このような情動性自律反応が引き起こされる。 副腎髄質から放出されるアドレナリンは、心拍数の増加、血圧上昇、血糖値の上昇、筋肉の緊張を生じさせる。 特に血圧上昇は、視床下部室傍核のパゾプレシン放出ニューロンの活動促進が密接に関係している。 これらの一連の反応は、すべて目前にさしせまった緊急状態に対応するための反応である。 ヒトでも、恐怖や苦痛、興奮などをともなう緊急事態には、同様の反応を示す。

  
  

  怒り Rage→攻撃行動 aggressive behavior 見せかけの怒り（偽の怒り） sham rage：怒りの対象が明確でないの生じる痛み。 脳内には、怒りの対象がないのに、刺激すると自然の刺激によって誘発されるのと同様の攻撃行動あるいは防衛行動を誘発する部位がある。 ネコの外側視床下部や扁桃体には、を電気刺激すると、耳を伏せ、毛を逆立てて、「シャーッ！」と怒り出す部位がある。　←→Grimace scale sham rageに伴われて、立毛筋収縮、散瞳、血圧上昇、速脈、発汗のような自律反応や、顔の表情（情動の表出）などが生じる。 恐怖 fearは怒りrageは大脳皮質に抑制抑制されている。 1892年 Friedrich Goltz（P 1834〜1902, ドイツの生理学者）が大脳皮質を除去したイヌ（decorticate dog）でも怒りの反応が生じることを示した。 1929年 「キャノン・バード説 Cannon-Bard theory」（中枢起源説）：において、ネコの皮質、視床、視床下部の前部を除去しても怒り反応は見られるが、視床下部が全て除去されると怒り反応は生じないことを確認した。その怒りは対象のない怒りであるということからsham rageと呼んだ。 1949年 Walter Rudolf Hess（P 1881〜1973, スイスの生理学者、1949年にノーベル賞受賞）とブルガーは、ネコの間脳、脳幹部を系統的に電気刺激し、視床下部刺激が自然の刺激によって誘発されるのと同様の攻撃行動あるいは防衛行動が誘発されることを発見した。視床下部の腹内側部とその周辺部の刺激によって、sham rageの反応が誘発されることを確認した。←→睡眠 ↓攻撃行動 感情的攻撃 背を丸め、歯をむき出し、うなり声を上げなどの怒りのしぐさを伴う行動。 そばにラットなどの攻撃対象がいる場合に、防衛的な威嚇のディスプレーを示すが、通常はかみつくところまでいかない。 誘発部位：扁桃体から腹側扁桃体遠心路あるいは分界条を介して、視床下部の腹内側核 VMNから中脳中心灰白質にかけての領域 しのびより攻撃 （静かなかみつき） あたりを見直して歩き回り、ラットを見つけると、静かに忍び寄って、かみつく行動 捕食行動の一つである。 誘発部位：視床下部の外側野 逃走行動 誘発部位：視床下部の背内側核から中脳中心灰白質にかけての領域

  
  

  快感　pleasure 脳科学的には、脳内報酬系における神経伝達物質を介した神経細胞間の活動で定義される。食・摂水・睡眠など、動物としての本能に根ざした行動は、快感という報酬と不快感という罰によりコントロールされる。食欲など欲求が満たされれば快感を覚え、満たされなければ不快感を覚える。欲求とは、不快感を解消し、快感を得ることを（本能的に）希求する心のありかたと捉える事も出来るといえる。その他、大脳の高次機能の発達した人間は、長期的な目標の達成等、動物的欲求以外の状態からも快感を得る事が可能である。美しいものを見て、素晴らしい音楽を聴き、楽しい時を過ごす事によって人は快感を得る。 その達成までの期間の長短はあるが、人間の行動は何らかの快感を得る事を目指したものが多く、人間の行動原理、価値観の根本を規定する脳の状態である。 覚醒剤やアルコール飲料、あるいはギャンブルなどは、強く直接的な快感をもたらし、これらがいくら健康面や社会的に問題視されても、それを求める人は少なからずいる。依存症はこれらのもたらす快感に深く囚われた状態であり、身体依存は克服できても精神依存を克服する事に困難を伴う場合が多い。これらの事例に快感の人の行動、判断への影響を強くみてとることができる。

  多幸感　euphoria　←→モルヒネによる多幸感　参考1 特定の自然報酬、有酸素運動、笑い、音楽の聴取、作曲、ダンスなどの社会的活動は、多幸感を引き起こしうる。 愛情による至福感や、競技で勝利したときの陶酔感、オーガズムは、多幸感の例である。また多幸感は宗教的儀式や瞑想によっても生じうる。特定の薬物の副作用として生じる場合もあり、また、精神や神経の疾患によって生じる場合もある。高齢者が自然と感じるようになる幸福感も多幸感の一種とされる（老年的超越）。 脳内で、快楽などを司るA10神経のシナプス間に、幸福感を司る神経伝達物質であるドーパミンが、大量に放出されている状態とされる。 娯楽的な薬物使用とは、活力や、多幸感や喜びを生じさせるという目的での薬物の使用を描写する、医学的でない用語である。すべての薬物が薬物依存症を引き起こすわけではなく、薬物が引き起こす喜びは、急性の作用（rush）と、続く多幸感から成り立ち、依存へとつながる精神的な動因がもたらされる。

  
  

  不安 anxiety　恐怖 fear　←→抗不安薬/不安障害/行動解析/恐怖ｰ回避モデル/恐怖条件付け/恐怖記憶/エンリッチメント/恐怖症 不安：精神反応を引き起こす原因となる明確な対象が存在しない 恐怖：精神反応を引き起こす原因となる明確な対象が存在する *恐怖は行動の表出であり、不安は行動の抑制である。 交感神経反応や視床下部—下垂体—副腎皮質系：HPA系の亢進などの生体反応を引き起こす。 扁桃体が生物学的評価を行い、情動行動やフリージングを引き起こす。 不安の制御は「三角中隔核－内側手網核のコリン作動性神経－脚間核－コルチコトロピン遊離因子受容体タイプ2を発現しない正中縫線核のセロトニン作動性神経」の回路が担っている。 恐怖の制御は「前交連床核－内側手網核のサブスタンスP作動性神経－脚間核－コルチコトロピン遊離因子受容体タイプ2を発現する正中縫線核のセロトニン作動性神経－腹側海馬・CA3領域に発現するセロトニン5-HT7受容体」の回路が担っていることが推定されている。　参考1

  新奇性恐怖反応　neophobia　←→phobia 新しい環境などへの恐怖 新奇性恐怖反応と条件性食物嫌悪（Conditioned Food Aversion）は独立し た現象ではなく、相互に影響を及ぼしあうことが知られている。

  
  

  フリージング（すくみ反応、凍結反応）　freezing response, freezing behavior　←→ 不動化 immobilization 　←→すくみ運動/アキネシア/カタレプシー 受動的ストレス反応（行動抑制反応）　←→ストレスに対する行動 ストレス刺激により、じっと動かなくなり、外部に対して反応しなくなる。 血圧も心拍も低下する。 Hans Selye（P 1907〜1982, ハンガリー出身のカナダの病理学者、生理学者）の「汎適応症候群」によりHPA系を介して誘発される。 不快情動に関与する扁桃体←→視床下部←→ 腹外側中心灰白質　が関与する。 不安時や慢性痛により、中脳皮質DA路が活性化されると、フリージングが誘発される。 逃避できない内臓痛や深部痛や慢性痛の様相と類似 中脳皮質DA路の情動行動に対する効果は、locomotor activityの抑制であり、中脳皮質DA路を選択的に破壊すると多動症が発生する。 前頭前野→側坐核shellからの出力が、中脳網様体の歩行運動野や中脳中心灰白質（フリージング誘発部位）にどのような経路を通って投射するかについては、十分な解明に至っていない。 側坐核から直接に投射する経路、側坐核shell→腹側淡蒼球あるいは側坐核shell→腹側淡蒼球→外側手綱核を介して投射する経路などがあり、現時点では特定できない。* 腹外側PAGが関与する。 副交感神経優位であるが、ストレスを感じているので、身体内部では、ストレス反応が起きている。HPA axisの亢進などが起きる。 ネコにくわえられたネズミのメタファー ネズミは天敵に捕われるなどの生命の危機に瀕して、不動状態に陥る。これは、無理に可動して闘争・逃走反応を起こしてしまうと、さらに傷つけられてしまう可能性が高いため、生命維持のために合理的な反応である。もし犬などの天敵に見つかれば、ネコはネズミを離して身軽になって逃げようとするはずだから、その可能性にかけてトドメを刺されないように失神して死んだふりをした方がいい。 動物にフットショック（Footshock: FS）を与えると体を硬直させ、動きの止まるフリージング反応が引きおこされる。FSのような嫌悪刺激（非条件刺激）と音や光などの中立刺激（条件刺激）を同時に与えることを繰り返すと、条件刺激だけを与えても、あたかもFSを受けたかのようにフリージング反応を生じる。これが恐怖条件付けである。→恐怖条件付け文脈試験 パーキンソンの「すくみ運動」も「freezing phenomenon」と呼ばれる。

  解離　dissociation　（心理学）　←→ 不動化 immobilization 解離とは、周りの世界から隔絶されていると感じる状態 無意識的防衛機制の一つであり、ある一連の心理的もしくは行動的過程を、個人のそれ以外の精神活動から隔離してしまう事である。抽象的に表現するならば、感覚、知覚、記憶、思考、意図といった個々の体験の要素が「私の体験」「私の人生」として通常は統合されているはずのもののほつれ、統合性の喪失ということ その中には誰にでも普通にある正常な範囲のものから、障害として扱われる段階までを含んだ幅広い解釈があり、解離を主として著しい苦痛を伴うものは解離性障害に分類されるが、こうした症状は他の障害や、身体疾患でも生じる。 解離という見方を最初に提起したのはピエール・ジャネである。1889年の『心理自動症』のなかで「意識の解離」をとりあげ、「ある種の心理現象が特殊な一群となって忘れさられるかのような状態」を下意識による「解離」の動向とみなして、ヒステリー症状などの原因になっていると考えた。 フロイトは抑圧という概念を用いて精神分析を形づくっていくが、ヒルガードは1977年の論文で、フロイトの抑圧という概念は水平の壁、あるいは蓋と表現している。この場合、無意識は意識と異なるためその水面下に沈んだ記憶は想起不可能である。それに対して解離の場合は相互に連絡はとれないが、それぞれの意識状態において異なった意識・無意識がある。そこから解離は水平の壁（蓋）ではなくて、垂直の壁であるというのである。ただし、いずれにしても、ある一定の体験の記憶とそれに関わる思考が、通常の意識から切り離されるという点では同じである。 思考・感情・経験が意識や記憶へ統合されないために、一時的にあるいは持続的に人格の統合性が失われる状態 知覚体験が中断して、情動的な反応から分離してしまう行動変容状態である。 解離は脅威への適応応答であり、フリージングの一形態ある。 解離はトラウマに直面した時の正常な反応であるが、闘争・逃走反応の選択肢がない場合によく使われる戦略であり、自分自身に注意を向けないようにシャットダウンする。極端な場合は、体を離れて精神的および感情的にシャットダウンすることで死んでしまう。 つらい体験を心に収めておくことができずに、体験そのものやその体験にまつわる感情などを無意識的に心の外へと切り離す心理的な防衛機制 苦悩を避けるために、自分のパーソナリティの一部を一時的であるが徹底的に一部変更すること 解離には生物学的解離と心理的解離離がある。 健康な生物学的解離は「睡眠という生物学的な現象に伴い、夜中にトイレに行ったことを思い出せない」。 病的な生物学的解離は「脳震盪という脳への生物学的な影響のために交通事故を思い出せない」。 健康な心理的解離は「講義に退屈するという心理現象のために白昼夢を見、授業の内容を思い出せない」。 病的な心理的解離が解離性障害であるとする。 ヒルガードの実験のように催眠によっても意図的に解離を引き起こせるが、それはここでいう「健康な心理的解離」であり、また薬物によっても解離を引き起こすことがあるが、それは「病的な生物学的解離」の範囲であり、解離性障害ではない。 幻覚剤の影響下で発生することもある。ケタミンやフェンシクリジンは解離性麻酔薬に分類され、マウスでにケタミンやフェンシクリジンの投与すると、ヒトの行動解離に似た状態が誘発される。その時、脳梁膨大後部皮質の第5層ニューロンにおける低周波の律動活動と関連する。 てんかんに伴われることがある。てんかん患者では、発作前後の自己申告による解離のタイミングに同様の律動が見られ、右または左の深部後内側皮質を短く電気刺激すると解離体験が引き起こされた。 解離には誰にでも普通にある正常な範囲のものから、障害として扱われる段階までを含んだ幅広い解釈があり、解離を主として著しい苦痛を伴うものは解離性障害に分類されるが、こうした症状は他の障害や、身体疾患でも生じる。

  シャットダウン　shutdown 神経学的には限界の状態 身体がシャットダウンするこの状態は、生物学的にはトカゲから進化する過程でのなごりである。トカゲは、身をシャットダウンすることで酸素の無駄な消費をおさえている。 カメは危険が迫った時に首を引っ込める。戦うことも逃げることもできないような困難が迫ってきた時、身体のあらゆるシステムをシャットダウンして、被害を最小限に抑えようとする防衛反応である。 フクロネズミは捕食者を察知するとシャットダウンし、死んだふりをする。捕食者は死んだようなフクロネズミには興味を失い、他の獲物を探しに行く。 トラウマによるシャットダウン状態は、そのトラウマ状況に適応するための正常な反応と考えられます。 ポリヴェーガル理論では、シャットダウンは「生命の危機である」と判断した時の防衛反応の一つであり、背側迷走神経複合体が関与する。

  
  
• 情動の表出　emotional expression、顔の表情　facial expression　←→共感/表情筋/フェイス・スケール/Grimace scale

  レオナルド・ダ・ヴィンチ（1452~1519）も「絵画論」で顔の様態の一般的な原則について考察していた。

  Charles Bell（P 1774〜1842）　参考1 Essays on the Anatomy of Expression in Paintings：初版は1806年で、第2版が1824年に、1840年に第3版が出版され、第4版は1847年にイギリスのマレー社から出版された。 人間と動物はずいぶん違い、ある意味で表情というのは人間にしかない。動物の場合にはただ気分の反映というものが出てくるだけ。 ベルのキーワードの1つに「デザイン」という言葉がある。これは「God's design」ということ。ヒトというのは神に近い。つまり、きわめて完璧に近いレベルに作られていて、そのデザインにあわせて筋肉や表情が創られると言っている。そういう意味で「神のデザイン」というものがあって、いろいろなものが創造されてきている。その意味では、ダーウィン↓とはまったく逆。 「表情を解剖する」の中では、表情は「マインド（mind）」がその内容を外へ向けて表出する道具として存在する，と考えられているようだ。 顔を赤らめたり、青ざめたりするのもやはり呼吸器系・循環器系に関係する表現であるとベルは言っている。 ベルは「恐怖」ということ1つにしても、「fear」「terror」「horror」ときっちり分けている。明らかに心理状態としては違うので、表情はすべて違うとしている。

  Charles Robert Darwin（P 1809/2/12〜1882/4/19, イギリスの自然科学者）　参考1/2/ Charles Robert Darwin（1809〜1882）は「人間と動物における情動の表現（The Expression of the Emotions in Man and Animals）」（1872年）↑で、人間と動物との表情の類似から、表情がもつ実用的な機能について論じている。 ダーウィンはベル↑に刺激を受けていた。「The Descent of Man」（「人間の由来」）のイントロにはベルの仕事を紹介して、「この素晴らしい解剖学者は、人はある種の筋肉をただ情動表現の目的のためにのみ与えられていると主張する。この考えは人が下等な動物から進化したという考えに反するので、後に表情についての別の本で取り上げたい」と書いていたベルの本の　第2版より大幅によくなった第3版を参考にした。 ダーウィンは世界各地の人たちにさまざまな表情の写真を送り、写真がどんな感情を表しているかを尋ねた。その結果、喜び、悲しみなどの表情が文化の違いを超えて人類共通であるという結論を下していた。 「ダーウィニズムの人間論」（入江重吉著、昭和堂）では、ダーウィンの感情表現に関する一般原理は「(1)有用な連合性習慣の原理」、「(2)対照の原理」、「(3)最初より意思から独立な、またある程度まで習慣から独立な神経系の構造による動作の原理」とまとめている。 第1の原理は一定の心の状態のもとで、それを満足させるような動作や、顔つきといったものが起こって、それが身についていき習慣が遺伝で固まる。 第2の原理は、それと反対の感情、心の動きが起こった時は、顔つきや動作そのものには意味がなくても、赤と黒、プラスとマイナスのように反対の動作が起こる。思いつきですけれども、例えば怒る時に拳を振り上げるのは、ダーウィン的に言えば動物が飛び掛かる時の姿勢なので（第1の原理）、なだめる時に、「ナアナア」と言って腕を水平に「セーフ」の形に広げるのはその逆の第2の原理から出てくることになる。

  表情フィードバック仮説　Facial Feedback Hypothesis　←→エクマンのBasic Emotion Theory：BET 表情作成が情動を喚起する仮説 フェイシャルフィードバック仮説、顔面フィードバック仮説と呼ぶこともある。 心理学者のシルヴァン・トムキンズが「表情フィードバック仮説」を提唱し、1988年にフリッツ・ストラック、レオナルド・マーティン（Leonard L. Martin）、ザビーネ・ステッペル（Sabine Stepper）が行った実験で仮説が支持された。 表情フィードバック仮説は、身体化された認知の一種ともいえる。

  Ekman and Friesen’s POFA　* Paul Ekman（1934年〜　米国の心理学者）は感情と表情に関する先駆的な研究を行った。 表情が文化依存的ではなくて人類に普遍的な特徴であり生得的基盤を持つことを明らかにした。 エクマンが研究を始めた1960年代には、表情を含む人間の社会行動は文化に依存するという、女性人類学者マーガレット・ミード（Margaret Mead、1901年12月16日〜1978年11月15日）らの見解が広く支持されていたので、ダーウィンの結論には疑問を抱いた。 エクマンはミードが調査したニューギニアを訪問し、狩猟採集生活を営む人たちに他の異なる文化の下で暮らす人たちの写真を見せて、写真から感情を正しく判断できるかどうかを調べた。パプアニューギニアの部族民などを調査することで、基本的な感情のリストを作った。孤立し、石器時代の文化で暮らす人々が、他の異なる文化の人の表情を写した写真から、意図を正しく読み取れることを確認した。エクマンは同じ実験を、ボルネオ・アメリカ合衆国・ブラジル、そして日本でも行ったが、結果は同じだった。1969年にサイエンス誌に発表されたエクマンの論文は、表情が人類共通であることを世界の科学者に知らしめた。ダーウィン↑は正しかったのである。 エクマンは次の感情が全人類に普遍的であり、生物学的基盤を持つと結論した。 エクマンが普遍的であると結論したのは怒り、嫌悪、恐れ、喜び、悲しみ、驚きである。 ポール・エクマンとウォーレス・フリーゼン（Wallace V. Friesen）は1975年に、さまざまな文化で基本情動にあたる西洋人の顔写真を使い、これらの表現が意味するものを被験者に指摘させる、という極めてシンプルで、かつ説得力のある方法で基本情動仮説を証明した。 普遍的な情動表情の存在ドラマ 基本情動仮説 Basic Emotion Theory：BET　←→表情フィードバック仮説 エクマンは1994年に、感情を表す普遍的な表情があるという理論を提案した。 楽しい＝笑顔 怒り＝顰め顔 悲しい＝泣き顔 「幸福（情動経験）」は「笑顔（身体的反応）」という表情と相互に影響しあっている。 感情はどのように顔に表れるのか、顔のなかで独立した動きの可能な3つの領域の組み合わせにより説明した。基本6感情において、眉・額の部分（眉より上の部分）、目・瞼・鼻根の部分（目の周辺部分）、頬・口・鼻の大部分と顎を含む部分（目より下の部分）の3領域それぞれに表れる特徴について詳述しているが、それらの特徴は表情筋の動きのパターンに基づいている。 顔の感情の写真　Pictures of Facial Affect：POFA　←→Grimace scale＠げっ歯類 エクマンの有名な感情認識テスト：感情を研究するための顔の動きの視覚的描写 1976年に公開されたPictures of Facial Affect（POFA）刺激セット 6つの普遍的な感情と中立的な表現を描いた白人俳優の110枚の白黒画像で構成され、POFAは世界中の正常な精神集団で、感情認識率の研究に使用されている。 基本6感情 six basic emotions 喜び happiness 驚き surprise 恐れ fear 悲しみ sadness 怒り anger 嫌悪 disgust エクマンは、彼の最初の異文化研究でこれらの刺激を使用した。これらの写真はさまざまな文化の大規模な規範グループによって評価されているため、多くの研究者がPOFAを支持しています。しかし、批評家に応えて、エクマンは最終的に、日本と白人の感情の表情（JACFEE）と呼ばれるより文化的に多様な刺激のセットをリリースした。 ポールエクマンが1993年に作成した顔の感情の写真のコレクションは、異文化間研究、最近では神経心理学研究で広く使用されている顔の表情の110枚の写真で構成されている。すべての画像は白黒で、規範を提供するパンフレットがコレクションに含まれている。これらの画像は、強度や顔の構成が同じではないことに注意することが重要である。 顔面動作符号化システム　Facial Action Coding System：FACS Paul Ekman、Wallace Friesenらが1978年に開発した視認可能な顔の動きを包括的に測定するための分析ツールであり、表情理論でもある。 エクマンはあらゆる表情を分類するためにFACSを作った。 人間の顔に現れる表情を，Action Unit（AU）と呼ばれる様々な顔面筋の動作の有無の組み合わせで機械判別可能な形に符号化するための仕組み 動作単位を明確にして，その組み合わせにより表情を記述することでベクトル空間モデルなどで表情を扱うことが可能になる。 エクマンはStephen Porgesのポリヴェーガル理論を「人間性に関する真に革命的な視点（a truly revolutionary perspective on human nature）」と言った。　←→社会交流システム＠ポリヴェーガル理論

  
  
• 脳内報酬系 brain reward systemと懲罰系 punishment system
  　James Olds(P)とPeter Milner（1954年）↑がMcGill UniversityのDonald Olding Hebbの研究室での脳内自己刺激の実験を契機として、脳内に行動発現と関連する領域があることがわかった。

  脳 内 報 酬 系

  脳内報酬系 brain reward system　←→DAによる鎮痛系 ペダルを押すと餌をもらえるようにすると、ラットはペダルを押し続ける。　←→オペラント条件づけ 餌は正の強化因子 positive reinforcementとなり、行動の発現率を上げる作用をする。 食物だけではなく水や異性など、動物がそれを求めて接近するものは正の強化因子となり、報酬に結びついた刺激と定義される。 視床下部の内側前脳束を中心に、それにつながる中脳腹側被蓋野 (A10)、扁桃体、側坐核、前頭前野などである。 中脳腹側被蓋野 (A10)から側坐核ヘ投射するドーパミンニューロンが情動発現のキーとなる。 人も恋をするとドーパミンが放出され、快感を感じる。 居眠りをする時にもドーパミンが放出され、快感を感じる。 モルヒネによる多幸感 euphoriaもドーパミンが関与する。 β-エンドルフィン放出によるランナーズハイもドーパミンが関連する。 快感をもたらす薬物による依存 アンフェタミン（覚せい剤）---ドーパミンの放出促進 モルヒネ---ドーパミンの放出を抑制する介在ニューロンを抑制 コカイン---ドーパミントランスポーターに作用し、放出されたドーパミンの除去を抑制 一度快感を覚えると、再び快感に浸りたいという気持ちが湧いてくる。 　何度もその刺激を受けることにより、A10神経のネットワークが強化される。 　　→→→ヤル気のレベルアップに繋がる。

  脳 内 懲 罰 系

  懲罰系 punishment system 不快な味やにおい、敵対動物などは、負の強化因子となり、動物は逃避し、不快な行動を繰り返さないようにする（発現率の低下）。 このような刺激は罰としての生物学的意義がある。 コカインを使い始める契機は、快情動と結びついた正の強化であるが、薬が止められなくなる理由は、むしろ禁断症状（不安やうつ状態など）と結びついた負の強化である。 腹側視床、腹内側視床下核、内側毛帯 報酬系より遥かに狭い。

  
  
  

●アタッチメント理論，愛着理論 attachment theory　←→愛着障害

• 主に幼少期における養育者などとの関係性，ことにアタッチメントattachment（愛着）が，人間の生涯にわたるパーソナリティや社会的適応性などにいかに影響を及ぼすかを問う発達理論
• John Bowlby（1907/2/26〜1990/9/2, イギリス出身の精神科医、児童精神医学）が1969年によって提唱し、その後 Mary Dinsmore Salter Ainsworth（1913/12/1〜1999/3/21, アメリカの発達心理学者）が1978年に、Mary Main（1943〜, アメリカの発達心理学者）が1990年に発展させた理論
• 精神科医の岡田尊司先生（1960年3月4日〜，東京大学哲学科→京都大学医学部）がボウルビィやエインスワースの愛着理論をまとめ、こころの安全基地を持つ事が病める人々の前進する鍵となることを説いた。動物行動学を礎とし、ボウルビィやエインスワースによって地歩を固め発展してきた愛着理論は、現代において人間理解に欠かせない要素となっている。

  Attachment is characterized by specific behaviors in children, such as seeking proximity to the attachment figure when upset or threatened (Bowlby, 1969).

  
  

  アタッチメント attachment 「attachment」：付着、取り付け、添付ファイル　以外に「愛情を持つこと、愛着、愛情、コミット」なども辞書に載っている。 心理行動的な安全制御システムともいうべきもの 体温や血圧などを適正な一定範囲内に保持・調整する生理的システムと同じような、他個体との近接関係の確立・維持・回復のためのホメオスタティックなコントロール Bowlbyは生物個体ー特に生後間もない生物個体ーが危機的状況で不安・恐れと言ったネガティブな情動状態に陥った際にとる、他個体への接近行動—厳密には、他個体への近接を図ろうとする傾向を「attachment」という用語で言い表した。 Bowlbyはアッタチメントを情動的絆そのものとし，人が特定の他者との間に築く緊密な情動的結びつき(emotional bond)であると提唱した。

  
  
• Bowlbyは1950年代第二次世界大戦後のイタリアで孤児院、乳児院などに収容された戦災孤児の発達、身長、体重の増加、罹病率、死亡率、適応不良などが問題になり、施設病ではと疑われた時に調査に携わり、1951年に母親による世話と幼児の心的な健康の関連性についての論文を発表した。その中で新生児が自分の最も親しい人を奪われ、また新しい環境に移され、その環境が不十分で不安定な場合に起きる発達の遅れや病気に対する抵抗力や免疫の低下、精神的な問題などを総称して「母性的養育の剥奪」（deprivation of maternal care）と定式化し、後にこの概念は世界保健機関による親を失った子供たちのための福祉プログラムの根幹となった。
• Bowlbyは11958年には子供と母親の結びつきの本質についての考察の成果を、『母子関係の理論』という研究にまとめ上げた。これは母と子の間には生物学的な絆のシステムというものが存在し、その関わりが母と子の情緒的な関係の発達を左右しているというものであった。
• Bowlbyが提唱した愛着理論は、動物行動学的視点をその基礎とし、ヒトや動物における養育者（主に母親）と幼児の相互作用の観察研究を通して導き出されたものである。動物行動学的視点からの愛着は，子供自身の安全性と生存性を確保するために有する目的試行的な行動システムを強調していて、その行動システム、言いかれるなら、愛着システムの設定目標である養育者である大人への近接性保つものである。

  動物行動学的視点 精神分析家であり児童精神医学者でもあるジョン・ボウルビィは、幼児と母親の関係において動物行動学的知見が有用であることに気づき、ニコ・ティンバーゲン、コンラッド・ローレンツ、ロバート・ハインドらと交流を深めた。 ローレンツ（Lorenz,1935）が解明したひな鳥のインプリンティングは鳥のアタッチメント行動形成に他ならない。ボウルビーはアタッチメントを通して家庭環境（養育の在り方）が子どもの社会行動（パーソナリティ）に大きな影響を与えることに着目した。 WHOの精神保健コンサルタントでもあったボウルビィは、人間の「タッチメント」に注目し、子どもの心の発達には養育者との愛情ある母性的関わりが必要であることを「Maternal Care and Mental Health（1951）」において発表し、母性的養育の剥奪は子どもに精神的な問題や少年非行などの深刻な影響を与えることを報告した。 それまでジークムント・フロイトによって説明されてきた欲動理論とは異なり、1969年から発表された『Attachment and loss』三部作において、乳幼児は世界を探索するための『安全基地（secure base）』を必要とし、乳幼児の不安の多くは養育者との安全な愛着がないために起こることを指摘した。

  パーソナリティ発達理論 * フロイト理論では、個人は一連の発達段階を通り、その段階のいずれかに固着したり退行したりするというモデルであるが、愛着理論においては、個人は並んだいくつかの可能な「発達経路」のうちの１つに沿って発達していくというモデルに置き換えられた。 ボウルビィ（１９８８）の発達経路のモデルは、アンナ・フロイト（Freud, A., １９６３）がいう複数の「発達ライン」をモデルにしたとみられ、乳児は潜在的にいくつかの経路が開かれているが、そのときの環境において、人との交渉によって規定されながら進んでいくと考える。 感受性があり、応答的な親をもつ子どもたちは健康な経路に沿って発達することができるが、そうでないと逸脱した経路にそって発達するとみる。こうした発達の際、個人間の親密な情緒的絆を形成し、相互関係的経験の反復したパターンに基づいて形成される、自己や愛着人物に関する「ワーキングモデル」を利用すると仮定されている。

  学習理論 愛着の学習理論は子供が白紙の状態で生まれるので、生来の生物学的行動ではなく、すべての行動が学習されることを提案している。行動主義者は、古典的条件付けまたはオペラント条件付けのいずれかを通じて学習される行動に説明を集中している。古典的条件付けは、1927年にパブロフによって最初に研究された。 乳児の母親などの特定のものは、中立刺激として知られている乳児の生後1か月の間に乳児に栄養を与えるたびに一貫して存在するため、食物と関連するようになる可能性がある。この文脈では、子供が食事をしている間に母親が存在する中立的な刺激は、無条件の刺激と一貫して関連付けられ、最終的には同じ応答を生成する。その後母親は学習された条件付き刺激になり、条件付き応答を生成する。これにより乳児に一度見られた母親は、条件付きの反応である快感を子供に与える。 オペラント条件付けは最初にスキナーによって報告され、次に行動を動機付ける何かを説明する愛着とドライブ削減理論に関して、ダラードとミラー（1950）によってさらに研究された。次に乳児が空腹の時に、結果として生じる不快感を軽減するための動機があるため、これを調査した。子供が養われると、これは前向きな強化である喜びの感覚を生み出す。食物によって報われる行動は繰り返され、食物は報酬と関連して行動を強化するので、主要な強化剤になる。 母親または主介護者になることができる食物を供給する人は、彼らが報酬の源になるので、二次強化者になりる。結論として、愛着は、子供が食べ物を提供する人に報酬を関連付け、それらを求めるために発生する。

  
  
• アタッチメント理論は人間関係に関与する心理学、進化学、生態学的理論であり、子供は社会的、精神的発達を正常に行うために、少なくとも一人の養育者と親密な関係を維持しなければならず、それがなければ子供は社会的、心理学的な問題を抱えるようになる。
• 愛着が人間の生涯にわたるパーソナリティや社会的適応性などにいかに影響を及ぼすかを問う発達理論
• ボウルビィが示した原義はより限定的なものであり、危機的な状況に際して恐れや不安などの負の情動を経験した時に、特定対象との近接を求め、またこれを維持しようとする生物個体の傾性というものであった。こうした近接関係の確立・維持を通して，自らが安全であるという感覚felt securityを絶えず確保しようとするところに多くの生物個体，とりわけヒトの本性があると考えた。
  
  
• 愛着理論を発展させたMary Ainsworth は安全基地（Security Base）」という概念を提案し、また幼児における愛着行動のパターンを分類し、「安全の愛着」、「回避の愛着」、「不安の愛着」の3つに分けた。4つ目の愛着パターンは、「混乱の愛着」であるが、後で発見された。 子供に提供される心地よい安定や保護などを保証した環境のことを指す。 人における「巣」であり、安全基地であるのが、家族という単位である。人が職場や学校などでの生活環境で身体的・心理社会的ストレスを受けて、傷ついたときに慢性疼痛が起こり、それを癒すときには、一旦安全基地である家族の場である家庭が重要な役割を果たす。
• 愛着の研究は子供の愛着障害から始まったのだが、今では大人においても愛着が果たす役割の重要性に注目が集まっている。愛着行動の一要素として含まれる可能性があるのは、全ての年齢における同僚との関係、性的吸引力、幼児や病人や老人がケアを必要としていることなどである。

●Damasioのソマティック・マーカー仮説 somatic-marker hypothesis 　　←1/2/3

• Antonio R Damasio（ポルトガル生まれ、アメリカの行動神経科学者）の著書「Descartes' Error : Emotion, Reason, and the Human Brain」（1995年）（生存する脳―心と脳と身体の神秘）で提唱された説

  ---意思決定 decision making における情動と感情の役割に関する仮説。 ---推論と意思決定には、理性と感情は両方必要。脳と身体からなる一つの「有機体」に支えられている。 ---推論と意思決定には、理性と感情は両方必要。脳と身体からなる一つの「有機体」に支えられている。 ---脳が選択のオプションを思い浮かべると、身体が自動的に反応し、快・不快の感情が生じ、それによって瞬時にオプションが絞り込まれる。 ---意思決定は合理的ではなく、情動と感情によって絞込みがなされた後、その結果が合理的に解釈される。

  
  
• 一般に、「体性 somatic」とは

  「精神」に対して、「身体の」、あるいは「肉体の」を意味する。 皮膚、粘膜、筋、腱、骨膜、関節嚢、靭帯など。

  
  
• Damasioのソマティック・マーカー仮説

  somatic marker：身体からの情報。それぞれの身体情報は、直感を引き起こすイメージとしてマークされている。（この仮説における「身体情報」の代表を、福土先生は「内臓感覚」として説明した。） somatic response：情動や動機づけに常に付随する、身体的（・内臓系の）反応。 somatic state：前頭前野に記憶されている身体状態。推論や意志決定時に、過去にネガティブな結果に帰結した特定の行動オプションが、不快な『直感 gut feeling』として頭に浮かぶ。 ソマティック・マーカー仮説：推論や意志決定には、ソマティック・マーカーが不可欠の役割を果たす。

  脳は「外界が身体に引き起こす変化でその外界を表象する」。ある特定の情景を見たり聞いたりしたときの記憶は、身体と脳に起こった変化全体の記録である。心は脳のみにあらず、「一つの有機体」としての身体全体から生じる。 行動を選択する場合、多数の行動オプションの帰結を丹念に検討していたのでは時間がかかりすぎる。 過去にオプションXを選択して悪い結果Yがもたらされた場合、この経験的な結びつきは、前頭葉に「不快な身体状態」として、記憶されている。 意志決定時には、直感的に、悪い結果YがもたらされるオプションXが切り捨てられる。 ソマティック・マーカーによって、選択肢の切り捨てられる。選択の理由を聞かれても、言語的には表現しにくい、「身体からの情報」による直感に基づく。

  前頭前皮質腹内側部、前頭前野腹内側部ventromedial prefrontal cortex：vmPFC（＝a subsection of the orbitomedial PFC)は、外的な刺激とそれに伴う情動、動機づけを連合する場であり、ソマティック・マーカーのために必要な神経システムである。 ソマティック・マーカーは自動化された危険信号として機能して、特定の行動がもたらすかもしれないネガティブな結果に注意を向けさせて、選択肢を効果的に絞り込む。推論なしに問題を解決する『直感 gut feeling』の正体である。

  要約 脳だけが情動を決定するのではない。 意志決定に前頭前野の機能が重要であるが、その機能を決定づけるのが、前頭前野に記憶されている身体状態である。 過去に体験した身体感覚によって作られた情動・感情の回路を使い、ネガティブな選択肢を排除する。

  ソマティック・マーカーのメカニズムには、身体を介するものと、バイパスするものの2つがある。彼は後者を「あたかも」的メカニズムと呼び、本物の身体状態が生み出すような感覚を体性感覚皮質が作り出すことによって意志決定に影響を及ぼす。 この仮説を実証する検査として、Iowa Gambling Taskが考案されている。

• Damasioは、情動的状態と情動的感情を分けている。

  情動的状態 emotional state 身体的反応、内臓・骨格筋の状態変化と内的状況の変化の集合。 このような変化は、知覚や思考によって喚起される。 喚起メカニズムが生得的な場合、それは一次的(primary)と呼ばれる。 学習されたものである場合、二次的(secondary)と呼ばれる。 情動的状態は、知覚されないこともある。

  情動的感情 emotional feelings 情動的状態を構成する身体や脳の変化を象徴する脳の状態。＝情動的状態の知覚。 情動的感情は意識されないこともある。

  情動と感情は「生命調節」という、有機体の最も重要であり、最も基本的なプロセスの中でいわば因果的につながっていて、情動は「身体」という劇場で、感情は「心」という劇場で演じられる。 有機体にとって最も重要な事は生ける身体の維持である。生命の維持のために、様々な種類の「ホメオスタシス調節」が、進化の家庭で生み出された。Damasioは、ホメオスタシス調節のうち進化的に最も新しいレベルのものが感情であり、そのすぐ下のレベルに情動があると考えている。 情動はホメオスタシス調節のほぼ最高レベルのものであり、感情はその情動から生まれ、どちらも有機体の生存と深く関わっている。

  感情* Damasioは、スタンレー・シャクターらの情動の二要因理論を発展させ、感情を体験・認識することは、刺激に対して発生した身体反応を説明するために皮質が作るストーリーであると主張している。 例えば、被験者にアドレナリンを注射した後で不快な環境に置いたところ、アドレナリンの副作用を知らされていない被験者は、アドレナリンにより起こった動悸や冷や汗などの反応を環境のせいにし不快がったが、副作用を知らせておいた被験者はアドレナリンのせいだと判断し、不快さも少なかったという。 つまり皮質が、身体の反応を、前後の文脈と照らし合わせて解釈し感情というストーリーを作ったということになる。

  
  

  シャクターの情動の二要因理論　two-factor theory of emotion 社会心理学者のスタンレー・シャクター（Stanley Schachter, 1922〜1997）とジェローム・エベレット・シンガー（Jerome Everett Singerr, 1934〜2010）が1964年に唱えた説：「情動は、身体反応による生理的な喚起とその認知的な解釈（ラベリング）の相互作用によって生じる」　要するに生理的反応に対する認知と解釈によって情動が異なるということ 情動経験は，(1)自律神経系の活性化と、(2)環境内の手がかりによるその解釈，の二つの要因から成立するという理論 彼らは、大学生に興奮剤としてアドレナリンを投与する実験を行い、身体に与える影響（心拍上昇など）についての3つ教示と、アドレナリンの有無を注射を組み合わせて６グループを作った。そして、怒りと喜びを誘う「サクラ」を入れた結果、身体反応が同じでも、状況（サクラ）によって感情が違うことが突き止められた。つまり、感情は身体反応の知覚そのものではなく、身体反応の原因を説明するためにつけた「認知解釈のラベル」であると考えた。 Damasio↑は、スタンレー・シャクターらの情動の二要因理論を発展させ、感情を体験・認識することは、刺激に対して発生した身体反応を説明するために皮質が作るストーリーであると主張している。 経験の誤帰属　misattribution of experience 文字通り誤った帰属、つまり真の原因でないものに原因を帰すること 刺激によって生じた生理的喚起の原因を別の刺激に誤って帰属させること 誤帰属の研究は、1960年代以降、Schachterの情動の二要因理論 に関連する情動帰属の問題の中で始まった。 シャクターの情動の二要因理論から派生した実験のパラダイム

  
  

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共感　empathy　←→内受容感覚

• 共感とは、他者の情動表出を観察した際に、同様の情動を経験することおよび他者の情動を認識することを主に指す。
• 非情動的な認知状態の認識として用いられることなどもあり、多義的な概念である。
• 神経基盤として、下前頭回のミラーニューロン、扁桃体などの情動関連領域、内側前頭前野を中心とするメンタライジング関連領域の関与が提案されている。
• ASDにおける共感の弱さの形成機序が明らかになっていったのは1980年代以降のことであると考えられる。代表的な理論として、心の理論障害説（Baron-Cohen, 1995）があげられる。
• プレーリーハタネズミはストレスを感じているパートナーに共感して、慰める行動をとる。つがいの一方を隔離し、一連の軽いショックを与えた後、再び相手の元に戻すと、ショックを受けていないプレーリーハタネズミは、パートナーのgroomingを始めた。共感には前帯状回のオキシトシン関与し、オキシトシンの拮抗薬を注射すると、groomingは起らなかった。　参考1/1
  
  

  メンタライジング　mentalizing　参考1 他者の心的状態を見出したり推論したりすることをメンタライジングという。 人が円滑な社会的生活を営む上で重要な能力となる。 メンタライジングの萌芽は乳児期初期の社会的知覚だと考えられる。すなわち、人に対する志向性から始まり、母子関係に代表される二項関係、さらに第三者もしくは対象物を含む三項関係の成立、そして他者の誤信念を理解する「心の理論」の成立へと続く。

  メンタライゼーション　mentalization 心理学においてメンタライゼーションとは、顕在化している行動の動因として、自身や他者の心の状態を想像して想定する能力を指す。 メンタライゼーションとは想像する能力に下支えされた心理活動の形態の一つとして捉えることができ、この能力によって、人々は、志向的な心理状態である欲求、願望、感覚、信念、目標、目的、理由などという枠組みで、人間の行動を知覚し、理解することが可能になる。 時として「誤解を理解すること」とも説明される。またDavid Wallinが述べたところによると、「考えについて考えること」とも言える。 メンタライゼーションは、自動的にも能動的にも起きることがある。メンタライゼーションする能力、つまりメンタライジングは、強い情動下においては弱体化する。

  
  
  

  ミラーニューロン　mirror neuron Rizzolattiらの研究においてサルの腹側運動前野および下頭頂小葉で見つかった、自分が行為を実行するときにも他者が同様の行為をするのを観察するときにも活動するニューロン 単に行為の視覚特性に反応しているのではなく、行為の意図まで処理していることが示唆されており、他者の行為の意味の理解・意図の理解などとの関与が提案されている。ヒトの相同領域でも、ミラー・ニューロンと解釈できる活動が示されている。 霊長類などの高等動物の脳内で、自ら行動する時と、他の個体が行動するのを見ている状態の、両方で活動電位を発生させる神経細胞である。他の個体の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように"鏡"のような反応をすることから名付けられた。他人がしていることを見て、我がことのように感じる共感能力を司っていると考えられている。このようなニューロンは、マカクザルで直接観察され、ヒトやいくつかの鳥類においてその存在が信じられている。ヒトにおいては、前運動野と下頭頂葉においてミラーニューロンと一致した脳の活動が観測されている。 ミラーニューロンは他者の動作の視覚的な表象と自己の運動が同じニューロンの上に表現されるニューロンで、最近の高次脳機能研究のトピックの一つとして取り上げられている。 ミラーニューロンが記録されたのは，サルの腹側運動前野のF5という領域である。もともとF5には、手の運動のいろいろなパターン（精密把握，握力把握など）に選択性を持つニューロンが存在し、手の運動のプロトタイプを持っているといわれている。F5は弓状溝の中にある部分（F5ab）と、その後方の弓状溝の外の脳表面にでた部分（F5c）に分けられるる。F5abは頭頂間溝外側壁の前方部分にあるAIP野と結合が認められる。F5ab-AIP野ネットワークは手指で操作する物体の3次元的な特徴をもとに手の運動を制御する役割がある。

  
  
  
• 共感性を刺激個体の情動表出によって生じる観察個体の情動としてとらえる。さらに、刺激個体の不快表出が観察個体の不快になることを「負共感」、刺激個体の快表出が観察個体の快になることを「正共感」とする。この2つが狭義の共感であり、個体間で情動の同一化(statematching)が起きる。
• 刺激個体の快表出が観察個体の不快になる場合 (ヒトではいわゆる嫉妬など)、刺激個体の不快表出が観察個体の快になる場合 (ヒトでは「他人の不幸は蜜の味」)があり、これらは個体間の情動状態の対比(state contrast) である。前者を「逆共感」、後者を「シャーデンフロイデ」という。

  	観察者
  刺 激 個 体	快 不快 快 正共感 positive empathy 逆共感 reversed empathy 不快 シャーデンフロイデ 　schadenfreude 負共感 negative empathy

  
  

  シャーデンフロイデ　schadenfreude（ドイツ語） 自分が手を下すことなく他者が不幸、悲しみ、苦しみ、失敗に見舞われたと見聞きした時に生じる、喜び、嬉しさといった快い感情 ドイツ語で「他人の不幸（失敗）を喜ぶ気持ち」を意味する。日本語で言う「ざまあみろ」の感情であり、日本でのシャーデンフロイデの類義語としては「隣（他人）の不幸は鴨（蜜）の味」、同義の「メシウマ（他人の不幸で飯が美味い）」という俗語が近い物として挙げられる。 英語では「Roman Holiday」という表現に相当するが、これはローマ帝国時代、休日に奴隷の剣闘士を戦わせる見世物を市民たちが楽しんだことに由来するもので、映画の「ローマの休日」からきたものではない。

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　→辺縁系

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