■構造と機能

│内因性疼痛抑制系│　　←→痛みの伝導系/侵害受容反応/鎮痛法

内因性疼痛抑制系：中枢神経系は、痛みを抑制するしくみを備えている！

1965年	Ronald MelzackとPatrich D Wall（P 1925〜2001）がThe gate-control theoryを発表した。
1969年	David V. Reynoldsが脳の局所刺激による鎮痛効果（SPA)発見した。
1973年	オピエート受容体が発見された。
1975年	内因性オピオイドペプチドが発見された。
1979年	Allan BasbaumとHoward Fieldsが下行性疼痛抑制系↓を証明した。
1979年	Daniel Le Barsらが DNIC↓を発表した。




┏下行性疼痛抑制系(5HT/NA) ┣上行性疼痛抑制系 ┣Segmental gate effect ┣広汎性侵害抑制調節 ┣ストレス鎮痛 SIA ┣EIH ┣⇒内因性オピオイドペプチド ┣抑制性伝達物質 ┗脱感作/インターナリゼーション

←→

様々な鎮痛法があるが、 疼痛抑制系を利用した鎮痛法もある。 刺激鎮痛法 オピオイド セロトニン受容体関連薬 GABA受容体作動薬 抗うつ薬

●脊髄に作用する下行性疼痛制御系 descending pain modulatory system
　　　descending antinociceptive system: DAS
　　　descending analgesia system

1954年	Karl-Erik Hagbarth（1926〜2005/5/17　スウェーデン）とKerr DIBが脊髄腹外側部に誘発された反応が、網様体、小脳、大脳、皮質などの脳の様々な部位の刺激で抑制されることを観察した。
1969年	David V. Reynolds（オンタリオ州のMountain ViewにあるNASA AMES研究センター、ウィンザー大学の心理学者）が、外科手術に使われる止血鉗子を改良した疼痛計を用いて、ラットの四肢先端部や尾を圧迫し、嫌悪反応を調べた。PAGの背外側を電気刺激すると、この嫌悪反応を誘発する圧刺激の閾値が上昇した。そこで麻酔薬を使わずに、PAGを60Hzの正弦波で 電気刺激して、開腹手術に成功した。 ---しかし、Reynoldsの研究は注目されなかった。(Reynolds DV: Surgery in the rat during electrical analgesia induced by focal brain stimulation. Science, 164:444-445. 1969 *)
1971年	John C Liebeskind（1935〜1997, UCLA心理学）のLabのDavid Mayerらは、Reynolds↑の研究を知らずに、独自の方法で同様の現象を発見し、それが刺激鎮痛法：SPAとして知られるに至った。 　中脳と間脳の種々の部位の電気刺激による鎮痛効果を調べ、PAGのほぼ全域と間脳の第３脳室周囲灰白質の電気刺激が鎮痛効果を持つことを示した。 　Huda Akilらは、SPAはナロキソンで遮断されることを示し、Liebeskindは脳がオピエート様物質を脳が作ることを予測した。
1977年 1979年	Donald E. RichardsonとHuda Akilが、脳内刺激鎮痛法を始めた。痛みの治療のため、視床破壊手術を行おうと、中脳と間脳の移行部に電極を刺入し、試みに電気刺激したところ、痛みが軽減した。そこで電極を固定し、患者がスイッチを押すと、脳に刺激電流が流れるようにした。
1979年	Allan BasbaumとHoward Fieldsが下行性疼痛抑制系を証明した。[PubMed, J Comp Neurol. 1979 Oct 1;187(3):513-31.] 　PAG刺激鎮痛やモルヒネ腹腔内投与による鎮痛は、背外側索 dorsolateral funiculus: DLF破壊で減弱あるいは消失する。




1. セロトニンの系　←→　発痛物質/伝達物質/5-HT受容体/5-HT神経系/薬/抗うつ薬/刺激鎮痛 視床下部　→　中脳周囲灰白質　→　延髄腹側網様体（−脊髄のDLF−）→　脊髄後角 　　[PubMed] 視床下部 視床下部視索前野 preoptic area of the hypothalamus などから中脳中心灰白質PAG↓や延髄大縫線核NRM↓に投射している。 視床下部のβ エンドルフィンを含むニューロンがPAGに投射している。 視床下部弓状核ARCからのオピオイド性投射路もPAGに終止している。 中脳中心灰白質 :PAGと中脳背側縫線核 :NRD　←→刺激術 PAGは、視床下部、扁桃体 amygdala、楔形核 nucleus cuneiformis、橋延髄網様体、青斑核などから入力を受ける。 PAG/NRDニューロンは、延髄大縫線核に投射する。 PAGには、μ受容体があり、モルヒネが作用する。 通常PAG/NRDニューロンはGABA介在ニューロンにより抑制されている。 GABA介在ニューロンを、下垂体から放出されるβ エンドルフィンなどが抑制すると、PAG/NRDニューロンは脱抑制され、下行性疼痛抑制系が活性化される。カンナビノイド受容体も局在する。 PAGを電気刺激、あるいはグルタミン酸で刺激すると、抗侵害受容反応（鎮痛）が生じる。 脊髄後角第V層の侵害受容ニューロンの侵害刺激に対する反応は、PAG刺激で抑制される。 PAG背側部刺激による抗侵害受容反応は、ナロキソンで拮抗されず、methysergideで拮抗される。モルヒネによる鎮痛はRVMの破壊で消失する。したがって、PAG以後の系にはオピオイド系ではなく、セロトニン系であると示唆される。（？） 尾側PAGの腹側には、エンケファリン含有ニューロンやダイノルフィン含有ニューロンがあり、これらは延髄に下行して鎮痛効果を発揮する。 吻側延髄腹内側部　Rostroventromedial medulla: RVM、大縫線核 NRM, B3 ┏ 大縫線核 nucleus raphe magnus (NRM) ┣巨大細胞網様核 nucleus reticularis gigantocellularis（NRGC) ┗傍巨大細胞網様核 nucleus reticularis paragigantocellularis（NRPG) PAG/NRDからの入力を受け、脊髄のDLFを下行する。 NRM刺激による抗侵害受容反応は、αアドレナリン拮抗薬やナロキソンでは拮抗されない(?) RVMには、 On cell とOff cellとneutral cellがある。 On cell　侵害受容反射（逃避反射)を起こす直前に、burst dischargeを出す。疼痛伝達に関与する。 Off cells　（逃避反射の直前に活動が一時停止する。）下行性疼痛抑制系のGo信号を出す。 （Off cellsへの電気刺激やモルヒネの注入で、Off cellsが発火すると、脊髄後角侵害受容ニューロンの応答が抑制される。） neutral cell　侵害刺激が来ても来なくてもニューロン活動は変わらない。 　セロトニン作動性ニューロンは、neutral cellである。 RVMには多数のμ、δオピオイド受容体が存在している。 オピオイドは、On cellのμ受容体に作動し、痛みの伝達を抑制する。 Off cellは通常GABAニューロンによりtonicな抑制を受けている。オピオイドがGABAニューロンを抑制すると、脱抑制によりOff cellの興奮性が上昇し、下行性疼痛抑制系が活性化される。 RVMのセロトニン作動性ニューロンは、脊髄後角侵害受容ニューロンを制御する。 ┏下行性疼痛抑制系 ┗下行性疼痛促進系 縫線核ニューロンの細胞体にも5-HT1A受容体があり、セロトニンにより抑制される。脱抑制により活性化される。 脊髄後角 2次侵害受容ニューロンは、抑制的セロトニン受容体（5-HT1A)を持つ。 １次ニューロンの終末は、興奮性セロトニン受容体（5-HT2A、5-HT3、5-HT4)と抑制的セロトニン受容体（5-HT1A、5-HT1B、5-HT1C)を持つ。 GABAを伝達物質として持つ抑制性介在ニューロンは、興奮性セロトニン受容体（5-HT2A、5-HT3)と抑制的セロトニン受容体（5-HT1B、5-HT1C)を持つ。 疼痛抑制 2次ニューロンと１次ニューロン終末の抑制的セロトニン受容体にセロトニンが作用 介在ニューロンの興奮性セロトニン受容体にセロトニンが作用 疼痛促進 １次ニューロン終末の興奮性セロトニン受容体にセロトニンが作用 介在ニューロンの抑制的セロトニン受容体にセロトニンが作用 2次侵害受容 　ニューロン 5-HT1A 疼痛抑制 抑制性介在 　ニューロン 5-HT1A 疼痛促進 5-HT2A 5-HT3 疼痛抑制 １次ニューロン 　の終末 5-HT1B 5-HT1D 疼痛抑制 5-HT2A 5-HT3 5-HT4 疼痛促進 ---縫線核からは、疼痛抑制系と促進系が考えられるが、硬膜外腔にセロトニンを注入すると鎮痛が得られるので、やはり抑制のほうが優性か？？？ ？下行性疼痛抑制系の機能不全により慢性疼痛に陥る？

2. ノルアドレナリンの系　←→アドレナリン受容体ー抗うつ薬ー脳内カテコラミン神経系/アドレナリンによる鎮痛 中脳橋中脳背外側被蓋 A7、橋青斑核 A6、延髄吻側のA5から脊髄前側索を下行し、脊髄後角の侵害受容ニューロンを抑制する。 ノルアドレナリン、α2アドレナリン受容体が関与する。 ノルアドレナリンは、1次侵害受容ニューロンの終末と2次侵害受容ニューロンに作用する。 脊髄後角に転写因子HES5を発現するアストロサイトが局在し（Hes5-CreERT2マウスによる解析）、これらのアストロサイトは青斑核から脊髄に投射する下行性ノルアドレナリン神経で刺激すると、痛覚過敏が生じる。選択的にノルアドレナリン神経シグナルを抑制したマウスでは、カプサイシンによる痛覚過敏反応が顕著に抑制されたことから、これまで痛みを抑える作用が常識であったノルアドレナリン神経に、まったく逆の作用があることがことがわかった。＠津田先生1/2/3

●視床に作用する上行性疼痛抑制系

感覚的側面を司る腹側基底核群に対する抑制系 PAG/NRD電気刺激はVB complexの侵害受容ニューロンの反応を抑制する。 情動的側面を司る髄板内核群に対する抑制系 モルヒネ投与は髄板内核群侵害受容ニューロンの反応を抑制する。

●Segmental gate effect

痛みがある部位と同じ分節に触刺激を加えると、痛みが抑制される。 痛みがある領域を支配する大経線維を刺激すると、痛みが抑えられる。 　触刺激を伝えるAβ線維は、脊髄に入ると同側の後索を上行するが、その側枝は、脊髄後角の介在ニューロンにもシナプス接続している。介在ニューロンは一次求心性線維の終末とシナプス接続していて、介在ニューロンからGABAが放出されると、一次求心性神経終末はシナプス前抑制により、伝達物質の放出が抑制される。 MelzackとWall が提唱したゲートコントロールセオリーを応用して、臨床では経皮的電気刺激(TENS)が行われている。

●広汎性侵害抑制調節（diffuse noxious inhibitory control: DNIC） [Pubmed 1/ 2]

広汎な部位に侵害刺激を加えると、痛みが抑えられる。 1979年にDaniel Le Barsらは、ラット脊髄のWDRニューロンの反応が、侵害刺激を広汎な身体の部位に加えた時に抑制されることを記録した。(Le Bars D, Dickenson AH, Besson JB. Diffuse noxious inhibitory controls (DNIC). I. Effects on dorsal horn convergent neurons in the rat. Pain 1979;6:283-304.) 脊髄後角や三叉神経脊髄路核の侵害受容ニューロンの反応が、受容野から離れた広汎な部位の皮膚、筋、内臓などに加えられた侵害刺激（機械、熱、化学刺激）によって抑制されるという現象 セロトニン系、ノルアドレナリン系などなどの下行性疼痛抑制系が関与するとされる。 鍼の手技による侵害受容ニューロンの抑制とDNICの時間経過が類似していることから、両者のメカニズムに共通するものがある可能性がある。 定量的感覚試験：QSTでも用いられるパラダイムである、conditioned pain modulation：CPMは、DNICの効果と類似している。

●exercise–induced hypoalgea: EIH　　参考1/2/3/4

• 上先生＆仙波先生が精力的に研究された。
• 神経障害性疼痛モデル動物にランニングやスイミングのような運動を負荷すると、機械的アロディニアや熱痛覚過敏が抑制される。
• Seltzerらの方法に従い坐骨神経部分損傷：PSL
• 自発運動：VEは損傷坐骨神経におけるM2型マクロファージの増加およびIL–1βやTNFαのような炎症性サイトカインの産生を抑制する。
• 後根神経節でのBDNFやNGF産生が抑制される。
• 脊髄後角におけるミクログリアやアストロサイトの活性化の抑制、IL–1β、BDNF、GDNF産生の抑制、ミクログリアでのアセチル化ヒストンH3K9の増加、GABA作動性ニューロンにおけるGABAとグルタミン酸デカルボキシラーゼ65：GAD65産生の維持
• 脳幹ではβ–エンドルフィン、met–エンケファリン、炎症性サイトカイン産生の抑制とセロトニン産生の増加がEIHの出現に重要な役割を担うことが示されている。このようにEIHは損傷神経、後根神経節、脊髄後角、脳幹など広汎な領域において多様な因子が変動することにより起こると考えられる。
• 自発運動：VEが NPP によって抑制されていた外側腹側被蓋野：latVTA ドパミン：DAニューロンの活性化を促すとともに、側坐核：NAcのlateral Shell の GABA 作動性ニューロンの活性 化も高める。
• 自発運動：VEによる latVTA-DA ニューロンの活性化には、背外側被蓋核：LDTのcholinergic：AChおよび glutamatergic：Gluニューロンと視床下部外側野：LHAの orexinニューロンが 関与することも明らかにしている。
• 痛みの慢性化には、脳報酬系や扁桃体：Amygを含めた 中脳辺縁系の機能低下に関与することから神経障害性疼痛に伴い生じた中心核：CeAの興奮は VE によって抑制される。特に外側外包核：CeCで顕著に抑制される。
• VE は Amyg 内側基底核：medBAにおける Glu ニューロンの活性化を促する。
• runner mice の側坐核：NAcに注入した retrobeads red：RBRは medBAに優位に取り込まれ、RBR 陽性ニュー ロンの約 75%が VE により活性化されることがわかった。これらの結果は、VE に伴う外側脚傍核-CeC経路 の抑制およびlatVTA-NAc lat Shell経路とmedBA-NAc経路の活性化を介したmesocortico-limbic systemの機能の改善が EIH に重要な役割を果たすことを示唆した。

●ストレス鎮痛 stress-induced analgesia: SIA　←→ストレス/アドレナリンによる鎮痛　参考1

• 戦闘中や運動競技中に受傷しても痛みを感じない。
• 1976年にHuda Akilら、Hayes RLら、Rosecrans JAがそれぞれ別々に、ストレスや情動によって痛みが抑制されることを報告した。
• Foot shock induced analgesia, FSIA：Huda Akil（John C LiebeskindのLab）は、グリッドを介して強いフットショックを被験動物に与えると、その刺激パターンによって、また刺激部位の違いによってオピエート、非オピエートの関与する様々な鎮痛が発現する。
• ストレス鎮痛には内因性オピオイドペプチドが関与する。
• 様々なストレスは、下垂体からACTHとβエンドルフィンを放出するので、ストレスがあるときは、痛みを感じないことがある。
  
  

  David Livingstone（P 1813/3/19〜1873/5/1, ヴィクトリア朝期のスコットランドの宣教師、探検家）の『Missionary Travels and Researches in South Africa 南アフリカにおける宣教師の旅と探検』『アフリカ横断探検記』 Livingstoneが最初にアフリカに行ったとき：1840年12月8日、蒸気船で当時イギリス領であった南アフリカへ出発、ケープタウンへ到着後移動し、ボチュアナランド（現ボツワナ）のクルマンに居を構える。ロンドンの監督官からの指示を待つ間、布教の拠点となる地方を探し、アフリカ内陸部を北上し方々を探検、クルマンから北東方向へ200マイルの地点にある、マボツァを第一の拠点に設定する。 その直後、Livingstoneが夜間に野生ライオンに襲われて大怪我をする---　左腕に噛みつかれ、振り回されているうちに、痛さも恐ろしさも感じなくなった。（死後その傷は彼を識別する身体的な証拠となった。） I did not see any one else shoot at him, but I saw the lion’s tail erected in anger behind the bush, and, turning to the people, said, “Stop a little, till I load again.” When in the act of ramming down the bullets, I heard a shout. Starting, and looking half round, I saw the lion just in the act of springing upon me. I was upon a little height; he caught my shoulder as he sprang, and we both came to the ground below together. Growling horribly close to my ear, he shook me as a terrier dog does a rat. The shock produced a stupor similar to that which seems to be felt by a mouse after the first shake of the cat. It caused a sort of dreaminess, in which there was no sense of pain nor feeling of terror, though quite conscious of all that was happening. It was like what patients partially under the influence of chloroform describe, who see all the operation, but feel not the knife. This singular condition was not the result of any mental process. The shake annihilated fear, and allowed no sense of horror in looking round at the beast. This peculiar state is probably produced in all animals killed by the carnivora; and if so, is a merciful provision by our benevolent Creator for lessening the pain of death. Turning round to relieve myself of the weight, as he had one paw on the back of my head, I saw his eyes directed to Mebalwe, who was trying to shoot him at a distance of ten or fifteen yards. His gun, a flint one, missed fire in both barrels; the lion immediately left me, and, attacking Mebalwe, bit his thigh. Another man, whose life I had saved before, after he had been tossed by a buffalo, attempted to spear the lion while he was biting Mebalwe. He left Mebalwe and caught this man by the shoulder, but at that moment the bullets he had received took effect, and he fell down dead. The whole was the work of a few moments, and must have been his paroxysms of dying rage. In order to take out the charm from him, the Bakatla on the following day made a huge bonfire over the carcass, which was declared to be that of the largest lion they had ever seen. Besides crunching the bone into splinters, he left eleven teeth wounds on the upper part of my arm. 『それは一種の夢見心地を引き起こす。痛みも恐怖もない。ちょうどクロロフォルムを嗅がされた患者が、手術の様子を全部見ながらメスの感覚がない、と言っているのに似ている……こうした状態は、おそらく肉食獣に殺される動物がみな感じると思われる。もしそうなら、それは死の苦痛をなくすために、慈悲深い創造主が与えてくれたものだろう』 イギリスのアフリカ探検家リチャード・バートンとジョン・スピークを描いた映画「愛と野望のナイル」（1989年）でも、リヴィングストン博士も登場し、ライオンに押し倒されて意識が薄らいでいきながら、骨をバリバリと咬まれた話をしている。

  
  

  滅却心頭火亦涼　→滅卻心頭火自涼　→ 心頭滅却すれば火自ら涼し 「滅却心頭火亦涼」 ---杜荀鶴（とじゅんかく 864〜904, 中国唐末期の詩人）の詠んだ七言絶句の詩『夏日題悟空上人院』。 三伏閉門披一衲 兼無松竹蔭房廊 安禅不必須山水 滅却心頭火亦涼 三伏門を閉ざして一衲を披る 兼ねて松竹の房廊を蔭う無し 安禅は必ずしも山水を須いず 心頭を滅却すれば火も亦た涼し 暑い三伏の時でも、戸を閉め切って僧衣を着ている。 その上に、松や竹が部屋や廊下に影を落とすことも無い。 しかし、禅の境地は、必ずしも静かな山や川を必要とはしない。 強い集中で五官を遮断した瞑想に入れば、火でさえも涼しく感じるものだ。 悟空上人は、炎暑三伏(夏至の後の三番目の庚の日を「初伏」、四番目の庚の日を「中伏」、立秋後の最初の庚の日を「末伏」と言い、「三伏」はこの三つの「伏」で、暑さの一番厳しい頃をさす。)の候に、寺の門を全部締め切って、しかも僧衣をきちんと着ている。この寺院には松も竹もなく、部屋や廊下を暑い日ざしからさえぎる何物もない。安らかに座禅するには、静かな山水の地に出かける必要はない。無念無想の境地に入れば、例え炎暑の中にいても、涼味を感ずるものだ。 滅卻心頭火自涼 『碧巌録』（12世紀・中国北宋時代に編纂された禅宗の古典）第四十三則の「洞山無寒暑」の評唱も、杜荀鶴の詠んだ詩↑に基づいている。 黄龍新和尚拈云。 洞山袖頭打領腋下剜襟。 争奈這僧不甘。 如今有箇出來問黄龍。 且道如何支遣。 良久云。 安禪不必須山水滅卻。 滅卻心頭火自涼。 黄龍（おうりゅう）の新和尚拈（ねん）じて云く 洞山袖頭に領を打し、腋下に襟をエグる。 争奈せん這の僧甘（うけが）はざることを。 如今（いま）箇（こ）の出で來つて黄龍に問ふこと有らば、 且（しばら）く道（い）へ、如何が支遣せん。 良久して云く、 安禪は必ずしも山水を須（もち）ひず、 心頭を滅卻すれば火も自ら涼し と。 洞山良价禅師（曹洞宗の宗祖、〜 869）と修行僧との問答。 修行僧：「寒い暑いが来たとき、どうしたらその苦悩が避けられて、心身が安らげられるでしょうか。」 洞山良价：（洞山も質問者の意を察して、「寒暑」は季節ではなく、人生苦の問題であるとふまえつつ）「どうして暑さ寒さがないところに行かない。」 修行僧：「暑さ寒さがないところとは、どこにあるのですか。」 洞山良价「別に変わったことではない。寒いときは汝が寒さになりきり、寒さに同化すればいい。そこが『無寒暑の境地（からだや心が置かれている状態）』だ。」 黄龍新和尚が取り上げていうには、洞山は当たり前の事を言ったのに、この僧が受け入れなかった事はどうすればよいであろう。今、この僧が来て黄龍に問うことがあれば、言いかえれば、どのようにすればよいだろう。良がしばらくして言うには、禅を行うに必ずしも山水に分け入る必要はない。無心になれば火も涼しく感じられる。 「心頭滅却すれば火自ら涼し」 快川紹喜（かいせんじょうき、 〜 1582年（天正10年）4月3日、安土桃山時代の臨済宗の僧、俗姓は土岐氏）和尚が恵林寺の山門で詠んだ辞世の句。 長篠の合戦で勝利を得た織田信長の軍勢は、武田一族を一気に滅ぼそうと、その本領である甲斐に攻め込んだ。快川和尚は、信長に敵対した六角義弼らを恵林寺（山梨県塩山、夢窓国師が開山した古刹、武田氏の菩提寺）にかくまっていた。信長は義弼らの引渡しを要求したが、快川和尚は拒否した。信長は恵林寺を急襲して焼き討ちをかける。火焔は全寺を覆い、快川和尚をはじめとする寺僧70人の籠もる山門の楼上にも火の手が上がり、焦熱地獄と化した。快川は一山の憎に向かっていう。「皆の者よ、われわれを焼き亡ぼすこの火焔に向かって、いかに対処するか、平生体得したさとりの力量の程をいえ、それを最後の言葉としよう」と。快川禅師の命にしたがい、それぞれ思い思いに自分のさとりの境界を短い言葉で述べる。最後に快川和尚は、「心頭滅却すれば火自ら涼し」の偈を静かに唱え、火焔が眉を焦がし、衣を焼き、肉をなめても、その姿勢を崩さなかったという。 （快川和尚は明智光秀と同じく美濃国の土岐氏出身。快川和尚が焼死した80日後に、信長は本能寺で明智光秀に攻められ、火の中で自刃した。） 杜荀鶴の七言絶句の結句の下三字は「火も亦涼し」で、快川禅師が唱えた「火も自ら涼し」である。「自ら」は、「そのままに」であり、火を火と見、熱いを熱いと受けとって、しかも火にも熱さにもふりまわされぬ自己を把握した、静かに澄みきった境地を「涼し」と表現している。 一切の雑念を去れば、外物に惑わされ、攪乱されることもない。心の持ち方次第で、たとえ火がやってこようと、熱くも何ともない。

  
  

  Henry Knowles Beecher（P 1904〜1976, ハーバード大学麻酔学教授） 第二次世界大戦中にイタリア前線で、著しく負傷した兵士150人のうちわずか32％が鎮痛のためのモルヒネを要求し、軽症の兵士ほど強い痛みを訴えた。平時外傷150例では83％がモルヒネを必要としたと報告していた。 これは、ストレス鎮痛と言うよりも、痛みの強さは組織損傷の強さに比例するものではなく、それぞれの人の心理社会的要因によって大きく変わると言うことかもしれない。著しく負傷したが、もう戦線で戦う必要がない。治療すれば、家に帰ることができるかもしれないという安心感や幸福感により、痛みに苦しまなかったというと考えられている。 （疼痛に対する反応は心理社会的要因によって、心理社会的要因によって大きく変化する。強い場合もあれば、弱い場合もある？　←Bio-psycho-social mediacl model）

○ストレスーアドレナリンによる鎮痛　←→ノルアドによる鎮痛/ストレス鎮痛

• 戦闘中の兵士達はストレスホルモンとも呼ばれるアドレナリンが大量に出ているために、重傷を負っても痛みを感じないことがある。
• 大脳皮質は、命が危ういような状況がもたらす極度の興奮状態では、痛み信号を無視してしまう？

○注意転換による痛みの克服　←→注意転換法

麻酔薬の麻沸湯を作った華陀 （P 110-207, 後漢末の名医）は、「三国志演義」では無麻酔で関羽の手術をしたことになっている。　←→麻沸湯下の外科手術 関 羽（162年〜219年）：中国後漢末期に劉備に仕えた武将。字は長生→雲長。司隷・河東郡解（現在の山西省運城市常平郷常平村）の人。蜀漢の初代皇帝・劉備に仕えた武将で、劉備の義兄弟でもある。義を重んじたため、後世の人間が神格化し関帝（関聖帝君）とされている。軍神・財神として中国各地の関帝廟にまつられ、日本の中華街などでも親しまれている。見事な鬚髯（鬚＝あごひげ、髯＝ほほひげ）をたくわえていたため「美髯公」などとも呼ばれ、浮世絵では常にみごとな漆黒のほおひげをはやした大男の姿であらわされいる。 三国志演義：中国の明代に書かれた、後漢末・三国時代を舞台とする時代小説・通俗歴史小説である。四大奇書の一つに数えられる。著者は定説をみず、施耐庵あるいは羅貫中の手によるものと伝えられている。 三国志演義　第74回〜第75回 　魏王配下の曹仁が防禦する城を関羽が攻撃した際、馬上にあった関羽は、曹仁配下の兵500名が射た矢の一本を右肘に受けて落馬した。帰陣した後，矢を抜いて傷口を調べると、出血は止まらず、矢尻に塗ってあった毒が既に骨まで達しており，青く腫れあがった右肘は動かすことができなくなった。この時の関羽の陣は幔幕を張って構えたものである。  陣を引き払って退却する意志がない関羽を気遣って，子の関平は四方に人を出して名医を探し求めた。この時、江東より船で来て陣中に入って来た者があった。この人物が沛国譙郡の名医華佗である。 　関羽の負傷を聞いた名医華陀が江東より小舟に乗って傷の手当に来ると、関羽は痛みを紛らわせるために、ちょうど馬良と碁を打っているところであった。華陀は傷口を見ると、トリカブトの毒が骨にまで到って青くなっていることを告げ即座に手術をすすめる。関羽がどのようにするのかと尋ねると華佗は、部屋の静かな所に柱を立ててそこに輪を打ちつけ、腕をその中に通して縄で固定し、顔を夜具で覆ってもらい、小刀で切開して骨に達した毒を削り取った後、薬を塗り糸で傷口を縫合して終わると微細に手術の方法を説明する。静かな所で夜具で顔を覆うのは、武勇の誉れ高い関羽が手術の際に痛みに耐えかねて泣き叫ぶ声を部下に悟られないようにとの立場をおもんばかってのことであろうし、輪に腕を通して縄で固定するのは、止血と手術部位の固定と考えられる。関羽はこれを聞くと「そんな柱などいらぬ」と剛胆にいい、酒を数杯飲むと馬良と再び碁を打ちながら平然と華陀に手術をさせた。 　華佗は小刀で肉を切りさき、骨をむき出しにすれば、すでに青くなっている。彼がぎしぎしと音を立てて削りはじめると、居並んだ者たちは真蒼になって顔をかくしてしまったが、関公は酒を飲み肉を喰って、痛さも感ぜぬがごとく談笑しながら碁をうちつづけていた。たちまちのうち、血は盆にあふれんばかり。華佗が毒をことごとく削り、薬を塗ってから、糸で縫い合わせるや、関公はからからと笑って立ちあがり、大将たちにむかって言った。 「どうじゃ、このとおり、伸ばしても少しも痛くなくなった。先生はまことに名医じゃ」 「わたくしもこれまで永らく医者をやってまいりましたが、将軍のようなお方ははじめてでござります。まことに神様でござります」。 　華佗は宴席でもてなされた後、礼を受け取らず、塗り薬を一包残して去った。 （　この頃、呉軍呂蒙の将馬忠の策で荊州は呉のものになってしまい、関羽は孤立する。やむなく関羽は麦城にこもるが、脱出しようとしたところを息子・関平とともに捕えられ、AC219年に首をはねられた。） 「通俗三国志之内　華陀骨刮関羽箭 療治図（かだほねをけずり かんうのやきずをりょうじするのず）」1853年（嘉永6年）---　大判3枚続　版元・蔦屋吉蔵　 　参考1/2/3 歌川 国芳（1798/1/1（寛政9年11月15日）〜1861/4/14（文久元年3月5日）： 江戸時代末期の浮世絵師、画号は一勇斎） 国芳の錦絵では、毒矢が の錦絵版画では、毒矢が当たって赤く腫れ上がった関羽の右腕を2カ所で緊縛し、華陀がメスでその中間部を切開している。盆を持って血や膿を受けている弟子の顔が関羽の腕の無効に少し見える。関羽は馬良を相手に囲碁に熱中し、泰然自若としているが、さすがに顔の表情には緊張がみなぎっている。3枚綴りの残り2枚に描かれた周囲の侍臣達は、口を開け、手をあげて関羽の剛胆ぶりに驚嘆しているまさに国芳ならではの図柄で、迫力がある。 「関羽割臂図（Operating on Guanyu's Arm）」（葛飾北斎の娘：葛飾応為（Katsushika Oi 、本名英）1818〜1854　肉筆画　作画年未詳）1/2 Cleveland Museum蔵、1998年まで日本にあったが、クリスティーズ（Christie's）のオークションで流出した。 流れ出る大量の血と周囲の驚愕ぶりを強調したリアリティーあふれる描写 肘の創の切開受けながら囲碁を打つ関羽、医師のメス、流れ出る血をお盆で受ける小者が描かれている。 原文では関羽が負傷したのは右腕となっているが、日本の二図は右肘である。 三国志の正史：樊城の戦いで関羽は毒矢を受けて荊州に引き揚げるが、関羽を治療したのは華陀とは書かれていない。




Immanuel Kant（P 1724/4/22〜1804/2/12, ドイツの思想家）は晩年ケーニヒスベルグで、急性痛風発作の激痛に襲われた。彼はこの激痛を何とかしようとして、痛みと無関係な一つのことに精神を集中した。例えば、ローマの雄弁家キケロという名前に関係すると思われるものなら何でも思い出したりした。翌朝には痛みがなくなっていて、痛いと想像していただけではないかと、不思議に思ったほどであった。彼はこの経験に基づいて、論文「Von der Macht des Gemuths durch den blossen Vorsaz seiner krankhaften Gefuhle Meister zu zein」を書いた。

●慣れ hanituation

• 一般に、痛みは他の感覚とは違い、「慣れ」「順応」はないとされている。

  [生理学用語集]反復刺激を与えたときに生じる刺激受容または反応の減退

  
  
• Arne May（頭痛の専門家）らは、疼痛刺激に対する慣れは疼痛抑制系の一部であり、帯状回が関与

  Pain. 2007, 131(1-2), 21-30. [PubMed] 21〜33歳の男性20人を対象に前腕に熱による疼痛刺激を与える試験を1週間にわたって毎日行った。被験者の75％では、繰り返し疼痛刺激を受けることにより最初の1週間以内に疼痛閾値が明らかに上昇し、これと並行して疼痛強度が低下した。これらの被験者では疼痛刺激への「慣れ」が生じたと考えられた。 fMRIで熱刺激に対してBOLD responsesが減少した領域は、thalamus, insula, SII and the putamenであり、逆にrACC, specifically the subgenual anterior cingulate cortex (sgACC)は活性が増加した。 Medical Tribune[2007/9/13 (Vol.40 No.37) p.07]←ドイツ連邦教育研究省（BMBF）発行のNewsletter （2007; 31: 7-8） 疼痛を感じるか否か，またどの程度の強さで感じるかを決定している領域は吻側帯状回であると考えられる。 吻側帯状回は内因性の疼痛抑制物質の結合に関与する領域でもあることから、疼痛抑制システムに重要な役割を担っていると考えられる」と主張している。 外部からの刺激と神経系のさまざまな部位を介した体内での疼痛処理が，疼痛知覚に影響を及ぼす。 ドイツでは約600万人が疼痛の持続に悩まされているが、「慣れ」は疼痛の慢性化から身を守るために、進化の過程で獲得された防御メカニズムなのかもしれない。 この機序が障害されると、慢性疼痛発現リスクの上昇につながると考えられる。 今回の研究では，一部の被験者において疼痛処理の方向性が異なっていることが示されたが，このことが，慢性疼痛を生じる者と生じない者がいる理由を解明する手がかりとなるかもしれない。

●抑制性伝達物質

• GABAやグリシンなどの抑制性伝達物質は、侵害受容ニューロンの興奮を調節している。
• GABA脱抑制によって、下行性抑制系が活性化される。
  
  
• その他の抑制性に働く物質
  　ソマトスタチン│オピオイド│カンナビノイド│ヒスタミン│セロトニン│ノルアドレナリン│

●脱感作 Desensitization　←→感作/ダウンレギュレーション

• 脱感作には、リガンドに対する受容体の感受性の低下が含まれる。
• 細胞表面における受容体発現レベルの低下に起因するものと説明されている。
  
  
• Gタンパク質共役型受容体（GPCR）のインターナリゼーション　←→GPCR　←→薬理学電子教科書/図

  受容体にリガンドが結合すると，受容体が細胞内に入って活性を失うことによって、受容体の暴走を制御する。 Gタンパク質共役型受容体のリン酸化とそれに続く細胞内活性調節タンパク質（β-アレスチンやダイナミンなど）との結合の結果、受容体の細胞膜内への移行（sequestration）とそれに付随して生じる細胞質内への移動（internalization）する。

  受容体にリガンドが結合すると、その受容体に結合していた３量体のGタンパク質が活性化する。 ３量体の“α”に結合していた GDP にリンが一つ付加され GTP になる。（GDT → GTP） GTP 結合型αサブユニットは、３量体から解離して、単独で効果器を活性化する。 “βγ”に、細胞質中のβ受容体キナーゼが結合し、受容体のセリン／スレオニン残基がリン酸化される。 Ｃ末がリン酸化された受容体に、短期的には、β-アレスチンが特異的に結合して、Gタンパクとの再会合が阻害される。＝脱感作 長期にわたり、この複合体はclathrinにより認識され、clathrin vesicleとして、細胞膜から細胞質中に引き込まれ、endosomeを形成する。＝インターナリゼーション internalization＝エンドサイトーシス ここで、脱リン酸化されて、再び細胞膜に移動する（resensitization）受容体と、分解（regulation）される受容体とに分かれる。

  末梢への痛み刺激を繰り返すと、NK1受容体のインターナリゼーションにより、脱感作が生じる。（[Pubmed]-1995年　Manthy） プロスタグランジンによる脱感作も、受容体のインターナリゼーションが関与する。 μ-オピオイド受容体（MOP）では、逆にインターナリゼーションが起こることにより、逆に耐性形成から逃れることができるという報告がある。

  インターナリゼーションを利用した治療の可能性 SP-サポリン：NK1受容体を持つニューロンを選択的に不活性化する物質 　SP-サポリンを利用すると、NK-1受容体を持たないニューロンには作用しないので、副作用なく、NK-1受容体が関与する中枢性感作を抑えられる可能性がある。

  
  
  
• 抗うつ薬の効果発現までに2〜4週間の服用が必要なのは、縫線核の5-HT 1A受容体の脱感作やダウンレギュレーションが関与している。
  　　→縫線核の5-HT1A受容体の脱感作
  
  

  ダウンレギュレーション: downregulation、発現低下、下方制御、下向き調節　←→脱感作 外部からの刺激に応答して、細胞がRNAやタンパク質などの細胞成分の量を減少させるプロセス アップレギュレーションと相補的プロセス ホルモンや神経伝達物質などの分子によって特定の受容体が活性化されると、その受容体の発現が細胞内で減少し、その分子に対する細胞の感度が低下することなど 局所的に作用するネガティブフィードバックメカニズム 抗うつ薬の効果発現までに2〜4週間の服用が必要なのは、縫線核の5-HT 1A受容体の脱感作やダウンレギュレーションが関与している。 RNAやタンパク質のダウンレギュレーションやアップレギュレーションは、エピジェネティックな変化によっても生じることがある。

  アップレギュレーション: upregulation、発現上昇、上方制御、上向き調節 ダウンレギュレーションと相補的プロセス アップレギュレーションの例は、ダイオキシンのような生体異物の分子に暴露された肝細胞の応答である。この状況では、細胞はシトクロムP450酵素の産生を増加させ、次にそれらがダイオキシン分子の分解を増加させる。

○快と痛み/ドーパミン　←→情動/脳内報酬系/ドーパミン　参考1

• 快と痛みは相対峙するものであるが、共に行動を引き起こす動機づけになる。（motivation-decision model of pain）

  快は痛みを抑制し、ナロキソンはpleasure-related analgesiaを阻害する。 痛みがあると快が減少するが、モルヒネは痛みを抑制することによってさらに快を強める。

  
  
• オピオイドとドーパミンの両方が痛みと快を修飾する。 　参考1/2
• 痛みの感受性：COMT活性が強い人（val/val homozygotes型のCOMT遺伝子を持つ人）では、ドーパミンが代謝され、エンドルフィンが放出されるので、痛みを感じにくい。

  ドーパミンは鎮痛に関与している！ 6-hydroxydopamine (6-OHDA)で中脳辺縁系のドーパミンを枯渇させると、アンフェタミンなどによる鎮痛効果が消失した。 中脳腹側被蓋野のニューロン活動を抑えると痛み関連行動などが亢進した。 中脳辺縁系のドーパミンニューロンは側坐核のD2受容体を活性化することによって、持続性の痛みの抑制に関与している。 phasic dopamine（一過性ドーパミン） 持続的ではなく、ドーパミン神経の活動電位の一過性の群発発射、あるいは群発発射によって放出されるドーパミン 中脳辺縁系のphasic activationは脚橋被蓋核と背外側被蓋核からの入力によって、腹側被蓋野のphasic dopamine activityが誘発される。 腹側被蓋野ニューロンのインパルスが増加すると、axonal varicositiesからドーパミンが一過性に放出される。シナプス後膜を活性化させた後、正常状態ではトランスポーターDATによって再取り込みされるので、放出は一過性 phasic dopamineはオピオイドの放出を増加させる。 快と報酬の予期は腹側被蓋野から側坐核へのphasic dopamine activityを引き起こし、側坐核が活性化されると、μオピオイドが放出される（？） ---脳内報酬系/中脳辺縁DA路 逆にオピオイドは腹側被蓋野のGABA介在ニューロンを抑制することによって、線状体のドーパミンのシグナルをダウンレギュレートさせる。 phasic dopamine levelはtonic dopamine levelによって制御されている。 phasic signallingの抑制は、禁断中の快への反応性の減弱（anhedonia：無快感症）を補強し、依存薬物の再投与によって回復される。 tonic dopamine（持続性、緊張性ドーパミン） 細胞外シナプス間隙に常時存在するベースラインのドーパミンレベル：低濃度のドーパミン 不規則なペースメーカー様発火により、常時少量、繰り返し放出されているドーパミン COMTによって代謝される。 D2 autoreceptorsは高親和性を示すので自発発射を起こし、又glutamatergicの海馬からの入力がシナプス前NMDA受容体を活性化させることによってドーパミンが持続的放出されている。 海馬支脚腹側部（hippocampal ventral subiculum ：vSub)を電気刺激かNMDAの局所投与で刺激すると、 側坐核と中脳腹側被蓋野の両方のドーパミンの流入が増加する。 vSub→（グルタミン酸）→側坐核→（GABA）→腹側淡蒼球（GABA）→腹側被蓋野（→側坐核） 淡蒼球からの持続性の抑制が消失するため、中脳腹側被蓋野DAニューロンは持続性に発火する（tonic dopamine activity）。　参考1 ストレスによって亢進する海馬の活動はドーパミンを持続性に放出させ、inhibitory dopamine D2 autoreceptors の活動を増加させる。 tonic dopamineは顕著な環境の変化に対するphasic dopamineの反応性を制御している。 tonic dopamineは直接鎮痛には関与しないがストレスや痛みが持続するとtonic dopamineレベルを増加させる。 hight tonic dopamine levelはphasic dopamineの放出を減弱させ、low tonic dopamine levelはphasic dopamineの発火を促進させる。 tonic dopamineはオピオイドのレベルを減少させる。 tonic dopamine levelの増加は、phasic dopamineのシグナルを減少させ、pain and stress syndromesを引き起こす。 tonic dopamine levelの減少は、phasic dopamineのシグナルを増加させ、衝動的な行動を引き起こす。 依存薬物からの禁断は痛覚過敏やtonic signallingと関連する。 tonic dopamine levelの減少はphasic dopamineの反応性の亢進を引き起こし、統合失調症の陽性症状を引き起こす。統合失調症における衝動は過剰な快の探索や依存薬物とも共通するものである。 快によるphasic dopamineの増加は（エンドルフィンの放出を誘導することによって？）、痛みを抑制する。 抑うつや慢性痛ではtonic dopamine levelの増加によってphasic dopamineの放出が減少するために、痛みが遷延する？ 　←→プラセボ/予期

○味覚による鎮痛

嗜好性食物（チョコレート）による鎮痛　参考1/2 Peggy Mason & Hayley Foo ラットにチョコレートの小片を与えたり、水や砂糖水を口に直接注入すると熱痛覚閾値が上昇する。 空腹や食欲とは関係がない。 サッカリンや水を飲んでいる時でもチョコレートを食べている時と同様に熱刺激に対する逃避反応（Paw withdrawal and lick latencies）が延長するので、鎮痛効果はカロリーとは無関係。 キニーネ（苦味物質）による吐き気やLPSによる悪心により、チョコレートによる鎮痛効果が消失した。。 medullary raphe magnus：NRMをムシモールで阻害すると鎮痛効果が消失したので、NRMが関与する。

ショ糖誘発鎮痛　sucrose-induced analgesia　参考1/2 Blassら：母子分離ストレスによって生じる超音波が、ショ糖溶液の摂取によって減少することを示す実験をおこなった。その結果、生後10日のラットにショ糖溶液を摂収させた群は、精製水を与えた群より母子分離の超音波発声が有意に抑制され、同時に痛み反応も有意に抑制された。この結果がオピオイドを介したものかを検討するためにナルトレキソンを前投与したところ、発声の抑制と鎮痛のいずれもが消失した。 米国などの新生児病棟などでは蔗糖誘発鎮痛法Sucrose-induced analgesiaは応用されつつある。 新生児の口腔内にショ糖水を与えることによって啼泣時間の短縮や心拍数上昇の抑制，顔面の苦痛表情の緩和が確認されています。 ラットでの実験：蔗糖水をラットの口腔内に与えることでβエンドルフィンが視床下部から脳脊髄液中に大量に分泌されることが確認されている。






[技術評論社　上/下]
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