□鎮痛法	│麻酔薬 anesthetic│←→動物麻酔薬/意識/覚醒/筋弛緩薬/麻酔の用語

┏全身麻酔薬 ┗局所麻酔薬

→全身麻酔と局所麻酔との比較 →局部麻酔と麻薬との比較 →全身麻酔と脊椎麻酔の比較 →麻酔により増強される術後疼痛

→分節麻酔/分離麻酔 →バランス麻酔→モニター →ニューロレプト麻酔：NLA →全静脈麻酔：TIVA

●全身麻酔薬 general anesthetic　←→局所麻酔薬

• 一般に、麻酔薬は脳を全体的に抑制する（例外：ケタミン）。
• 最初、自然の睡眠に近い眠りから始まり、すぐに深い昏睡に至る。
• 全身麻酔には、吸入麻酔と静脈麻酔がある。

  吸入麻酔薬	亜酸化窒素（笑気）/エーテル/クロロホルム/エチルクロライド/シクロプロパン/フルロキセン/ハロタン/メトキシフルラン/エンフルラン/イソフルラン/セボフルラン/デスフルラン
  静脈麻酔薬	チオペンタール/ジアゼパム/ミダゾラム/モルヒネ/フェンタニル/レミフェンタニル/ケタミン/プロポフォール（エトミデート）（抱水クロラール）

  
  

  □痛みと鎮痛の歴史年表

  all

  全麻1/2/3(用語,麻酔器)/4

  局麻

  BC	古代からマンドレーク/曼陀羅華/ヒヨなどの薬草が鎮痛などに使われていた。
  AD2C	華陀 Hua Tuo（P 110〜207, 後漢末の医師）は、麻沸散を酒と一緒に飲ませて、麻酔をし、開胸手術や頭蓋切開を行っていたと言われている。　⇒詳細
  19C	19世紀は、人類の長年の夢である「痛みからの開放」が「全身麻酔」技術の発展として花開いた世紀であった。華岡青洲による初めての全身麻酔手術（1804年）、Wellsによる笑気麻酔（1845年）、Mortonによるエーテル麻酔（1846年）、Simpsonによるクロロホルム麻酔（1847年）の成功、そしてPravazによる注射器の開発（1852年）が、現在の全身麻酔の基盤となった。(それまでは、患部を冷却によって麻痺させていた↓。）
  1804年 （文化1年） 10月13日	華岡青洲（P 1760（宝歴10）〜1835（天保12）は、がマンダラゲとトリカブトを主成分とした経口麻酔薬の「通仙散」を開発し、世界で初めて全身麻酔での乳がん手術を成功させた。　⇒詳細
  1813年 （文化10年） 10月13日	青洲↑の麻酔術は「門外不出」で普及しなかったとされてきたが、宮河順達（青洲の弟子）が杉田玄白の一門に麻酔術を教え、杉田立卿（りゅうけい、1786〜1846、玄白の息子）が江戸の玄白宅で乳がん手術が行った。立卿の乳がん手術記録は、「療乳記」（漢文６ページの小冊子、松木明知・弘前大名誉教授が東京都内の古書店で発見した。）として印刷して関係者に配っていた。手術には、「麻睡之剤」を用い、重さ数10gのがんを摘出、傷を洗い、香油を塗って縫合した。患者は６時間で意識が戻り、1カ月で回復した。
  1835年	奥田万里（漢方と蘭方の折衷医、各務文献に整骨術を学んだ）は骨折治療書「釣玄四科全書整骨篇」の中で、「麻睡湯」という用語を使用した。
  1846年	William Morton（P1819〜1868, アメリカの歯科医）がエーテルによる全身麻酔による公開手術を、マサチューセッツ総合病院臨床講堂で成功させた。
  1846年	Mortonの公開手術の成功を知ったSir Oliver Wendell Holmes（P 1809〜1894, ハーバード大学の医学部教授、作家、Mortonの友人、Warren↑の同僚）は、麻酔の様子をギリシャ語から「Anesthesia」という言葉で表現し、Morton手紙を書いた。 　“αν-“ ：“without”を意味するギリシア語の接頭辞 　“αἲσθησις“ ：“sensation”を意味するギリシア語 　Anesthesia ：lack of sensation：感覚のない状態
  1850年 嘉永3年	「麻酔」という用語は、杉田成郷（せいけい、1817/12/18〜1859/3/23、玄白の孫、蘭学者）が初めて使った。成郷が翻訳した「済生備考」「亜的耳吸法試説」は、もともとドイツ語で書かれたJ. Schlesingerの「ether anesthesia 」のオランダ語版を訳したもので、鎮痛状態と意識消失を「麻酔」と表現した。 　「麻」 ：analgesia or loss of regional sensation 　「酔」 ： loss of consciousness Most people consider that "Ma" is originated from "(Hemp, Asa)" or "(Marihuana, Taima)", however, this is definitely incorrect and "Ma" of "Ma-sui" has no direct relation with the pharmacological effect of hemp.*
  1855年 安政2年	杉田成郷↑がわが国最初のエーテル吸入麻酔を行った。

• MortonPのエーテル麻酔の公開実験以来飛躍的に進歩し、現在では硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔、局所麻酔など全身麻酔以外でも患者さんの状態および手術術式によって様々な対応が可能となっている。
• 現在では、さらに鎮痛、不動化、有害反射の抑制の要素も満たす状態が全身麻酔と考えられている。
  

　[全身麻酔薬とは]

• 麻酔とは、薬物などによって人為的に疼痛をはじめとする感覚をなくすことである。
• 手術は、全身麻酔・硬膜外麻酔・クモ膜下脊髄麻酔・その他の各種神経ブロック（腕神経叢ブロック、閉鎖神経ブロック、局所浸潤麻酔など）で行われる。
• 全身麻酔は、鎮痛、鎮静、筋弛緩などの要素から構成される。
• かつては麻酔薬と筋弛緩薬を用いる麻酔が一般的であったが、現在使用されている薬剤単独ではこれらの要素を適切に管理することは困難であり、麻酔薬、鎮痛薬、筋弛緩薬を組み合わせて行うバランス麻酔が一般化している。
• 筋弛緩を伴う吸入麻酔の際は人工呼吸器が必須であり、気化器と一体になった麻酔装置が用いられる。

○吸入麻酔薬 Inhaled anesthetics, inhalation anesthesia　←→参考1

• 吸入麻酔薬は、呼吸を介して肺から体内に入る。
• 第二次大戦後にフッ素や塩素、臭素といったハロゲン元素を炭素に組み込んだハロタンやメトキシフルラン、エンフルラン、セボフルラランといった麻酔薬が登場した。現在はセボフルランが主に使われている。

過去に 使用	揮発性麻酔薬	エーテル/ クロロホルム/フルロキセン/ハロタン/メトキシフルラン/エンフルラン
	ガス麻酔薬	エチルクロライド/シクロプロパン
現在使用	揮発性麻酔薬	セボフルラン/イソフルラン/デスフルラン
	ガス麻酔薬	亜酸化窒素




亜酸化窒素 nitrous oxid（笑気ガス laughing gas） ←→ □痛みと鎮痛の歴史年表 all → 全麻2笑気 笑気ガスは、臨床でよく使われるガス麻酔薬であるが、麻酔作用は弱いにもかかわらず全身麻酔によく使われている。 麻酔導入、覚醒が早く、比較的呼吸・循環抑制が少ない。 強力な鎮痛作用を持つが、最小肺胞濃度（MAC）が高いため単独で全身麻酔をするのは困難である。 麻酔作用は弱く（MAC=105）、単独では使用せず、補助薬として有効。 単独では歯科麻酔・無痛分娩で用いる。他の揮発性吸入薬との併用が多い。 ビタミンB12の不活性化により造血機能障害や神経障害を起こすことがある。 ビタミンB12欠乏症の人に対し、笑気ガス麻酔を行うと、メチルコバラミンが破壊され急性増悪を来たす。 [フジテレビ系　「ジェネラル・ルージュの凱旋」第2話「過呼吸」）2010年4月13日 現在では全静脈麻酔 (TIVA)の普及や、オピオイド主体のバランス麻酔が普及していること、術後の悪心嘔吐の頻度が高まったり、笑気自体が温室効果の原因となるなど、次第に敬遠される方向にある。 　[長所] 作用発現が速く、副作用が少ない。 他の麻酔薬との併用でその併用薬の量を減らすことができる。 　[短所] 麻酔作用が弱く、単独では使用できない。 耽弱性がある（依存）。 体内閉鎖腔の膨張を起こす（気胸・腸閉塞時）。 使用後、地球環境に悪影響を与える（地球温暖化・オゾン層破壊）。 　[作用機序] 脳幹のオピオイドの放出を促進し、その結果下行性疼痛抑制系のノルアドレナリン作動性ニューロンを活性化し、脊髄での抑制性伝達を増強する。 脳幹でのNMDA受容体への拮抗作用、およびオピオイド、ドパミン、ベンゾジアゼピンなどの受容体への作用がある。

セボフルラン、セボフルレン sevoflurane（セボフレン®）　→参考1 常温液体のハロゲン化吸入麻酔薬。無色で芳香臭があり、極めて安定である。 セボフレンの構造式にはフッ素７原子を含むことから、sevenとfluorineを結んで、セボフレンと命名された。 1968年 米国Travenol Laboratories（現米国Baxter社）がセボフルランを合成した。 1978年 Holaday（アメリカ）がセボフルランの臨床使用を開始した。 1990年 丸石製薬がTravenol社から開発権を取得し、日本並びに海外における開発に着手し、「セボフレン」の販売名で世界に先駆けて日本で製造承認申請を行い、ハロゲン化吸入麻酔薬として発売された。 丸石製薬が浜松医科大学の池田和之教授（当時の手術部長）にセボフルランの基礎研究を依頼し、日本で発売されるに至った。 血液／ガス分配係数が吸入麻酔薬の中で最も低いため、導入・覚醒が速い。 気道刺激性が低く、心筋カテコラミン感受性亢進作用に関しては吸入麻酔薬の中で最も低い。さらに調節性がよいことから、現在、日本で最もよく使用されている吸入麻酔薬である。 日本ではイソフルランとともに、吸入麻酔の主流になっている。 ほぼどんな用途でも用いることができ現在最も頻用されている吸入麻酔薬である。 代謝産物であるCompound Aが腎機能障害をおこすとされるが、高流量で用いる場合はほとんど問題がない。 セボフルランでの術中覚醒は非常に少ない。 セボフルランは視床や小脳の抑制が強く、エピソード記憶の回避という点で有利な海馬シナプスか蘇生の抑制作用を持つ。 低用量で、情動記憶に関与する扁桃体を抑制する。 脳内GABA濃度に作用されにくい鎮静・健忘作用を有するので、術中覚醒予防効果がある。 　[長所] 血液/ガス分配係数が0.63と低く、導入・覚醒が速い。 気道刺激性が低く、臭気がよい。そのため、緩徐導入に適する。 　[短所] 肝腎障害の危険があるという研究データがある。

イソフルラン isoflurane（フォーレン Forane®） 常温液体のハロゲン化吸入麻酔薬であり、無色でエーテル様臭がある。 1965年 Ross C. Terrell（MINRAD Inc.）が合成した。 1975年 Dobkin（アメリカ）がイソフルランの臨床使用開始 1979 年 FDAが承認した。 1982年 英国で発売 1990年 日本で発売 エンフルランの異性体で、血液/ガス溶解係数がエンフルランより低く、急速な導入・覚醒が可能。 最近ではセボフルランとともに吸入麻酔の主流になっている。 特有の刺激臭があるため、気道を刺激することがある。 ハロタンやセボフルランに比べ、気道刺激性は弱く、肝・腎毒性は最も弱い。 末梢血管拡張により血圧は低下するが、心収縮量抑制は、ハロタンやエンフルランよりも少なく、心拍出量低下も少なく、比較的安定である。頭蓋内圧上昇作用が揮発性麻酔薬の中では一番小さい。 ハロタンと同様に、筋弛緩作用は弱いが、非脱分極性筋弛緩薬と併用すると、筋弛緩作用は増強する。 強烈なエーテル臭と気道の刺激性から、緩徐導入は困難であるが、生体内代謝率の低さから、肝・腎機能の低下した患者の麻酔などで好んで用いられる。 作用機序：GABA受容体に作用し、GABAに対する受容体の親和性を増加させ、Cl-チャンネルの透過性が亢進し、シナプス後膜が過分極し、シナプス伝達が抑制される。 虚血心筋保護作用（吸入麻酔薬によるpreconditioning）がある。モルモット心筋細胞を用いてパッチクランプでは、イソフルランは単独では細胞膜のATP感受性カリウムチャネル（sarc KATP）を開口しないが、薬剤による虚血疑似状態では開口する。 　[長所] 麻酔作用が強く、導入覚醒も迅速　(セボフルラン＞イソフルラン＞エンフルラン＞ハロタン) 生体内代謝率が0.3％と非常に低く、そのため肝腎障害が少ない。 不整脈を生じるアドレナリン量はハロタンの約3倍と安全。 エンフルランのような痙攣誘発作用がない。 脳血流増加作用が他の吸入麻酔薬に比べ少なく、脳外科麻酔に適する。 　[短所] 臭くて、気道刺激性があり、高濃度で咳・喉頭痙攣などが起こりやすい。 末梢血管拡張により血圧が低下しやすく、そのため脈拍が増加しやすい。

デスフルラン desflurane（スープレン®） おもに米国で使用される吸入麻酔薬 日本では2011年4月22日に医薬品製造販売承認を取得、7月発売 イソフルランのCl（塩素原子）をF（フッ素）に変えた薬剤 メチルエチルエーテル誘導体、蒸気圧が高い（摂氏20度で669mmHg）ので加熱加圧式の気化器が必要 血液への溶解度を示す血液/ガス分配係数が他のハロゲン化麻酔剤に比べて最も小さいので、速い麻酔作用の発現と麻酔後の早期の覚醒・回復が期待でき、かつ麻酔深度が調整しやすいことが特長 麻酔作用の出現が早く、覚醒も速い。血液/ガス比も脂肪への溶解度も低い。 　 Sevo Des Iso En Hal 血液/ガス比 0.65 0.425 1.55 1.45 1.9 脂肪への溶解度 48 27 45 36 51 MAC 1.8 6.6 1.2 1.6 0.8 脂肪親和性が低く、生体内でほとんど代謝されないのでハロタンのような肝障害の危険がない。 気道刺激性があるので吸入導入（Slow Induction）には使用できないので、プロポフォールで静脈導入後より使用する。 MACが大きいので投与量が多く、気化器の中がすぐに空になることには注意が必要。 刺激臭がある最も溶解度が低い吸入麻酔薬であるが、刺激臭が強いため、導入が遅延する場合がある。 非常に揮発性が高く、酸素と置換するため、酸素の供給をしないと導入中に低酸素症を生ずる。 TRPA1チャネルを活性化するために、灼熱感を感じる。

ハロタン halothane（Fluothane®） 常温液体のフッ素を含む（ハロゲン化）吸入麻酔薬。無色で芳香臭がある。 1951年 Charles Walter Suckling（1920〜　英国Inperial Chemical Industries社 (ICI) ウィドネス研究所の化学者）が、麻酔作用を持つ可能性があるハロゲン化薬物について理論的に解析し、ハロタンを合成した。 1956年 Michael Johnstone（UK）とC. Ronald Stephen（USA）がハロタンを臨床使用した。ハロタンは臭気がきつくなく、作用は強力で、薬物導体特性にも優れた折、不燃性で毒性も低いという点で、エーテルやシクロプロパンよりも決定的に優れており、次第に古い麻酔薬に取って代わっていった。 1958年 Burnapがハロタン麻酔後の肝障害による死亡した症例を報告した。 1959年 日本でハロタンの臨床使用開始 ハロタンによる全身麻酔の数日後に、重篤な肝障害を起こすことが報告され、セボフルランやイソフルランの登場後は、臨床で使用頻度が減少した。 他の揮発性麻酔薬に比べてMACが小さいため（0.75%）、麻酔作用は強く、麻酔深度の調節が容易。気化させやすく、導入および覚醒も速い。 鎮痛効果や筋弛緩作用は弱いが、非脱分極性筋弛緩薬と併用すると、筋弛緩作用は増強する。 循環系に対しては、心筋・血管平滑筋ともに直接抑制し、血圧が低下する。 心臓刺激伝導系がカテコールアミンに対して過敏になり、重篤な不整脈が発生する。 呼吸に関しては気道分泌・気管支収縮も抑制する。 作用機序：GABA受容体に作用し、GABAに対する受容体の親和性を増加させ、Cl-チャンネルの透過性が亢進し、シナプス後膜が過分極し、シナプス伝達が抑制される。 TREK-Kチャネルを阻害する。

エンフルラン enflurane（®） ハロゲン化エーテルの一つ。無色でエーテル様臭がある。 常温液体のハロゲン化麻酔薬。 容易に揮発するが、室温では液体である。 1963年 Ross C. Terrellによって開発された。 1966年 1966年から臨床使用され、1980年代まで使用された。 イソフルランと異性体であるが、薬理作用は異なる。 深麻酔で痙攣を誘発し、筋痙攣や不随意運動、脳波上で痙攣波を発現するだけでなく、通常の麻酔深度でも過喚起発作によって痙攣が誘発されやすいという報告から、現在はほとんど使用されていない。 カテコールアミンに対する心筋感受性を高めないため、ハロタンに代わり使用されたが、最近はセボフルラン・イソフルランにさらに代わった。

メトキシフルラン methoxyflurane（ペントレン®） フッ素を含む（ハロゲン化）吸入麻酔薬、揮発性全身麻酔薬 1960年代から1970年代初頭に使われた。 強い鎮痛作用および術後わずかな鎮静作用を有する。 非爆発性のエーテルと形容される吸入麻酔薬である。 非爆発性であるため電気メスとの併用が可能であり、大いに期待されたが、腎毒性が明らかとなり発売中止となった。 メトキシフルランの代謝は、腎障害の原因になるフッ素イオンの放出をもたらす。

フルロキセン、フルオロキセン fluroxene フッ素を含む（ハロゲン化）吸入麻酔薬、揮発性全身麻酔薬 1953年から1977年の間に使用された。Krantz 引火性のため使われなくなった。 クロロフォルムとフルロキセンは直接肝障害を持ち、そのため使用中止された。

シクロプロパン cyclopropane、サイクロプロパン、サイクロプロペイン ハロゲン含有吸入麻酔薬、ガス麻酔薬。 1881年 August Freundがシクロプロパンを開発した。 1929年 Henderson and Lucasが麻酔効果を発見した。 1936年 シクロプロパンが工業生産された。 1942年 Harold R. Griffith（P 1894〜1985, モントリオールの麻酔科医）とEnid Johnsonがクラーレを使って最初の筋弛緩薬を使用して手術したときは麻酔薬としてシクロプロパンを使った。 気道への刺激がない、麻酔作用が強い、導入・覚醒が速いなどの利点がある。 引火爆発の危険性の高いため、間欠的に呼吸回路内に投与し完全閉鎖式で行われていた。 爆発性があり危険なため、使用が中止された。

エチルクロライド ethyl chloride（＝クロールエチル、塩化エチル chlorethyl） （Gebauer's Ethyl Chloride®）参考1 表面麻酔薬 topical anesthetic、冷凍麻酔 refrigeration analgesia、冷却剤、劇物 冷却したエチルクロライドの噴霧により､局所の皮膚を凍結させて（冷却麻酔）､短期間感覚を鈍麻させて､抜歯したり、表在性の腫癌を切開する。 1759年 Guillaume Francois Rouelle（1703〜1770）がエチルクロライドを発見した。 1816年 Pierre Jean RobiquetとJean Jacques Colinはエチルクロライドがエチレンと塩酸の混合物であることを発見した。 1848年 Oscar Heyfelder（1828〜1890, Johann Ferdinand（1798〜1869）の息子）がドイツではじめてエチルクロライドを全身麻酔に使った。 1849年 Thomas Nunneley（1809〜1870, 英国の外科医）がエチルクロライドを使ったが、麻酔には推奨しなかった。 1866年 Benjamin Ward Richardson（1828〜1896）がエチルクロライドを噴霧する容器「Richardson's spray 」を発明した。 1880年 Glasgow Committee of the B.M.A.はエチルクロライドを動物実験には使えるが、人には適当でないと報告した。 1894年 Carlson（スウェーデンの歯科医）とThiesingが、エチルクロライドを口腔内にスプレーして、抜歯に成功した。（quoted. W. J. McCardie, 1903） 1897年 Billeter（スイスの歯科医）がエチルクロライドを局所麻酔として使用した。歯肉にスプレーすると、患者やよく寝る傾向であることを観察していた。 1898年 LotheissenとHeitz（ウィーン）がエチルクロライドを全身麻酔に使用した。semi-open method 無色澄明の流動しやすい液体で、常温常圧では気体である。 特異なエーテル様の臭いがあり、味は灼くようである。 水に溶けにくい（20℃で水100mLに0.574g溶ける）ので、皮膚に浸透しない。アルコール又はエーテルに溶け易い。 極めて引火しやすく、点火すれば緑色の辺縁を有する炎を上げて燃え、塩化水素を発生するので、使用には注意。

○静脈麻酔薬 intravenous anesthesia

• 静脈内に投与して、鎮痛・鎮静効果を得る。
• 吸入麻酔薬に比べ、調節性に乏しい。
• 現在は主に吸入麻酔薬を補う目的で用いられている。
  1. 吸入麻酔の導入
  2. 吸入麻酔維持の補助
  3. 局所麻酔の補助
  4. 小手術時・検査時の単独使用
• 薬物動態モデルを用いて輸液ポンプの投与速度を調節し、望んだ値に薬物濃度をコントロールする方法
• 静脈麻酔では投与速度を調節することにより麻酔深度を調節する方法が一般的であるが、麻酔深度の調整が困難であった。近年、TCIにより、薬物動態モデルを用いて輸液ポンプの投与速度を調節し、簡便で確実な静脈麻酔が可能となった。
  

  バルビツレート系	チオペンタール
  ベンゾジアゼピン系	→ジアゼパム/ミダゾラム
  オピオイド系	→モルヒネ/フェンタニル/レミフェンタニル
  NMDA受容体作動薬	→ケタミン
  GABAA受容体作動薬	プロポフォール（エトミデート）
  ニューロレプト麻酔/全静脈麻酔

  
  

  チオペンタール（ラボナール®）、チアミラール（イソゾール®、チトゾール®） 　←→バルビツール酸誘導体-チオペンタール/チアミラール 主に静脈麻酔薬として利用されるバルビツール系静脈麻酔薬。 鎮痛作用はない。 脳圧を下げる効果があるので脳外科で多用される（ 脳の酸素消費量が減少するので蘇生時の脳保護に用いることもある。）。 小児にも成人にも使用可能である。 麻酔作用：脂質溶解性が高いため容易に中枢神経系に到達して麻酔効果を発揮するが、速やかに再分布して覚醒する。 抗痙攣作用 　[副作用] 疼痛閾値を低下させるので、疼痛が増強することがある。 疼脳全般の機能を低下させる。 呼吸抑制が強いのに加えて、特に交感神経の抑制が強いために喘息には禁忌となる。 交感神経抑制 心筋収縮力を減弱するほか、副交感神経を優位にして喘息を誘発する。 したがって気管支喘息には対して本剤を使用することは禁忌となる。 ポルフィリン代謝を阻害する。

  プロポフォール propofol（ディプリバン®、プロポフォールマルイシ®）　→参考1 化学名：2,6ジ-イソプロピルフェノール(2,6-diisopropylphenol) 無色〜微黄色透明の液体で脂溶性であり、エタノール、ジエチルエーテル、ヘキサンなど有機溶媒にはよく溶けるが、水にはほとんど溶けない。 バルビタールとは異なる構造をもつ新しい静脈麻酔薬。超短時間作用性の催眠薬 円滑で迅速な導入、麻酔深度の調節が容易、副作用が無く、覚醒が速いこと、アナフィラキシーを引き起こさないことなどを目標に開発された。 1985年 Stark（イギリス）Propofol (2,6-di-isopropyl-phenol、Diprivan)公開シンポジウム 1995年 12月に国内発売された。 1999年 「集中治療における人工呼吸中の鎮静」の適応が追加された。 2001年 プロポフォールのためのTCI用のシリンジポンプ（ディプリフューザーTCIポンプ）が国内承認された。 2003年 8月↓、本邦でも新しいプロポフォール製剤（Propofol MCT/LCT1％）が臨床使用できるようになった。 2005年 9月に2％プロポフォール製剤が販売開始 プロポフォールは難水溶性のため、大豆油、グリセロール、卵黄レシチンから成る脂肪乳化剤を溶媒として製剤化されている。 プロポフォールは、目的とする鎮静レベル（Ramsayスケール-3）に速やかに到達し、維持、調節が容易な鎮静薬として発売された。 GABAA受容体作動薬：GABAが減少した状態ではプロポフォールの鎮静作用は弱まる。 肝臓での代謝が速く、麻酔の導入にも維持にも好んで用いられる現在最も主流の全身麻酔薬である。 気管支拡張作用をもち、蓄積性が少ない。 プロポフォールは脳血流量を減少させ、脳圧を上昇させないことから、脳外科手術の麻酔において広く使用されている。 脳循環に対する作用や、電気生理学的検査に影響が少ない。 プロポフォールのフリーラジカル消去作用が示唆されている。 麻酔導入だけでなく、完全静脈麻酔にも使用される。 鎮痛効果がないので、フェンタニルなどの麻薬鎮痛薬や硬膜外麻酔などの局所麻酔と併用して、完全静脈麻酔が可能。 虚血心筋保護作用（吸入麻酔薬によるpreconditioning）がある。パッチクランプ法を用いた研究では、プロポフォールはATP感受性カリウムチャネル（sarc KATP）活性を直接的に抑制する。 小児に対する麻酔目的での使用は禁忌ではないが、避けられる傾向にある。 1995年発売のプロポフォール製剤は長鎖脂肪酸トリグリセリドを基剤として、血管痛を誘発したが、2003年から使用できるようになったプロポフォール製剤（Propofol MCT/LCT1％）は中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)と LCT を 1：1 で混合されたものであり、血管痛の原因とされる水相中のプロポフォール分子の量がかなり減少し、血管痛が軽減した。 プロポフォールはTRPA1やTRPV1チャネルを活性化するために、灼熱感を感じさせ、術後疼痛も増強させる可能性がある。 プロポフォールに関する注目すべき留意点として、注入時痛（血管痛）とpropofol infusion syndrome (PRIS) がある。 [長所] 作用発現が迅速かつ円滑。 覚醒も速く、作用が残らない。 喘息患者にも使用可能。 完全静脈麻酔で麻酔ガスの汚染が防げる。 [短所] （静脈注射時、血管痛が強い。） 微生物汚染の危険性がある。 TRPA1やTRPV1チャネルを活性化するために、灼熱感を感じる。 術中覚醒が起こりやすい。 プロポフォール注入症候群 Propofol infusion syndrome：PRIS　参考1 集中治療分野における、長期間鎮静のためにプロポフォールが投与された患者の病態 PRISはまれではあるが、致死性合併症である。 高用量プロポフォールの長期投与時に代謝性アシドーシス、脂質異常症、多臓器不全が進行し、徐脈性不整脈、心停止に至る。 乳酸アシドーシスやBrugada型心電図変化は前駆症状と考えられ、認められたらただちにプロポフォール投与を中止する。 原因としてミトコンドリアにおける脂質代謝障害や、遺伝子欠損症の関与が疑われている。 プロポフォールを漫然と長期投与しないように、鎮静レベルはRASSなどで評価する。 ディプリバン®は水に溶けにくいプロポフォールを1%脂肪性剤で乳化させている。脂肪製剤を乳化剤としたエマルションの形 2009年6月25日に急死したMichael Jacksonはデメロール®（メペリジン）だけでなくディプリバン®（プロポフォール）やリドカインも常用していたとされる。

  エトミデート etomidate 非バルビツレート系全身麻酔薬、麻酔導入薬鎮静、催眠薬 イミダゾール基を有する静脈麻酔薬 GABAA受容体作動薬と考えられている。 作用時間が極めて短く、血圧の低下を生じない特徴がある。 古くから脳の世界では、脳神経保護の標準治療麻酔薬とされていたが、検証されていない。 急性で重症の患者に迅速気管挿管（Rapid Sequence Intubation： RSI）を行う際の鎮静薬として、現在のところエトミデートが最も多用されているが、エトミデートは可逆的な副腎機能障害を引き起こす可能性がある。そこでエトミデートの代替として、ケタミンが使用できるかどうか検討した結果、ケタミンがエトミデートの代替になり得ることが示された｡フランスParis大学のPatrocia Jabre氏らの報告で、詳細はLancet誌電子版に2009年7月1日に掲載された。 エトミデートは用量依存的な11βヒドロキシラーゼ阻害により可逆的な副腎不全を引き起こすリスクがある。 エトミデートのアナログ・メトキシカルボニル（MOC）-エトミデートを使うと長期副腎抑制や血圧低下をもたらさずに安全に麻酔を誘導しうることがラットの実験で示された。 TRPA1チャネルを活性化するために、灼熱感を感じる。

  ケタミン（ケタラール®） →ケタミン 解離性麻酔薬と呼ばれる。視床、大脳新皮質は抑制するが、大脳辺縁系を賦活する。 NMDA受容体のアンタゴニスト 血圧上昇、頻脈などをおこす。 体性痛を非常によく抑え、熱傷の疼痛除去でも好んで用いられる。 2007年から麻薬指定された。

  抱水クロラール chloral hydrate = trichloroacetaldehyde（エスクレ®） 最初に使われた静脈麻酔薬 抱水クロラールには沈静、催眠、抗けいれん作用があるため、バルビツール酸系とともに睡眠薬として用いられたが、安全域が狭く依存性も強かったため、より安全なベンゾジアゼピン系睡眠薬の開発によりそれらに取って代わられ、現在では睡眠薬としてはほとんど用いられない。 1832年 Justus von Liebig（Gießenh ギーゼン大）が抱水クロラールを合成した。 1869年 Oscar Liebreich（ベルリン大、ホッペザイラーの弟子）が、抱水クロラールを睡眠剤として使用した。 1872年 Pierre Cyprien Ore（Bordeaux の生理学の教授）が、静脈内麻酔として、抱水クロラールの使用に成功した。最初イヌで試し、そして1875年に患者で行った。しかし，抱水クロラールはその作用がおそく、かつ麻酔量と致死量が近いために広く用いられなかった。 1905年 Krawkow（Kravkov） Nikolai Pavlovich （1865〜1924, ロシアの薬理学者）が、hedonal（ウレタンの誘導体）を静脈内麻酔に使用した。

  
  

  バランス麻酔 balanced anesthesia 単に手術中の鎮静・鎮痛・筋弛緩という古典的な麻酔の三要素を満たすだけでなく、十分な鎮痛薬を使用することによって、手術中のストレスを最小限にとどめるような工夫をされた麻酔。 William Morton P の時代は単一の吸入麻酔で、麻酔の条件を満たそうとしていた。 Philip D. Woodbridge（Temple大学初代麻酔科教授）は1957年に全身麻酔の4要素 4 components of general anesthesiaを「意識消失 unconsciousness (block of mental function)（健忘 amnesia）」「無痛 anesthesia (感覚遮断 block of sensory function)」「筋弛緩 muscle relaxation （運動遮断 block of motor function)」「手術の妨げとなる生体反射の除去 Reflex blockade of the respiratory, cardiovascular, or gastrointestinal tract」と提唱した。 ある麻酔薬単独でも麻酔は不可能ではないが、充分に麻酔が深くなるまでに時間がかかったり、吸入量が増して副作用が増えたりすることがある。 20世紀の後半になり、単一の麻酔薬では限界があり、無痛、睡眠、筋弛緩、有害反射の除去を別々の薬物で達成しようとする努力がなされた。 複数の薬剤や麻酔法を組み合わせることで、これら各要素のコントロールを行うのがバランス麻酔である。 笑気と併用したり、静脈麻酔薬と併用して麻酔する。 　→麻酔の深度

  （完）全静脈麻酔 Total Intravenous Anesthesia：TIVA　←→経静脈局所麻酔法 TIVAは、麻酔状態を得るのに必要な薬剤を全て静脈内投与することにより行う麻酔法である。 笑気とケタミンを除き、全身麻酔薬には鎮痛作用がない。 バランス麻酔の概念に基づき、鎮痛、鎮静、筋弛緩などの各要素を担う薬剤を組み合わせて使用する。 プロポフォール＋フェンタニル プロポフォール＋レミフェンタニル プロポフォール＋フェンタニル＋ケタミン プロポフォール＋ペンタゾシン プロポフォール＋ブプレノルフィン ドロペリドール＋フェンタニル＋ケタミンなど [長所] 導入・覚醒が速やか。 必要な薬剤を必要なだけ使用するバランス麻酔となる。 術後鎮痛がよい。 麻酔ガスによる環境汚染がない。 気化器が不要。 揮発性麻酔薬を使用しないため、呼気から出てくるガスがなく、余剰ガスの排出の問題もないため、地球環境にもやさしい麻酔法ともいえる。 [短所] 麻酔深度の評価が難しい。 注入ポンプが必要。 投与薬剤の相互作用の予測が困難なことがある。 ルートトラブルなどのヒューマンエラーにより術中覚醒が起こる可能性があるので注意！

  オピオイド麻酔　←→オピオイド/オピオイドフリー麻酔 Edward Lowenstein（MGHの麻酔科医）は1969年に心臓手術における大量モルヒネ麻酔の使用を広める契機となる論文を発表した。(Cardiovascular response to large doses of intravenous morphine in man. New England Journal of Medicine, Vol 281, No25, 1969) 当時全身麻酔の補助薬としてモルヒネは使用されていたが、総量は一般に10∼20mg程度であった。 Lowensteinのレジデントが間違ってモルヒネを大量投与したところ、予想外に安定した麻酔をかけることができたという経験から、心臓麻酔等における大量モルヒネ投与が行われるようになった。 Lowensteinは，モルヒネ1A（10mg＝1ml）を10A（100mg＝10ml）注射器に入れて準備していた。 10mg静注するつもりで、『Give ten』と言うと、レジデントは，10ml（＝100mg）静注した。しかし，想定外の循環動態が安定した麻酔になったことから、Lowensteinはモルヒネ麻酔の研究に取りかかった。 麻酔法の大きな変革はこれまでも色々あったが、2007年のレミフェンタニルの発売により、超短時間作用性オピオイド鎮痛薬の登場で、全身麻酔における薬剤の使用法は劇的に変化した。

  オピオイドフリー麻酔　opioid free anesthesia：OFA　←→オピオイド麻酔/マルチモーダル鎮痛療法 近年アメリカでは過度処方や乱用が問題になり、オピオイドを減らす風潮が広まっている。　←→オピオイドクライシス α2アゴニスト、NMDA受容体拮抗薬などを含めたマルチモーダル鎮痛療法を用いることでオピオイドを投与しない麻酔ができ、十分な鎮痛が得られる可能性がある。 マルチモーダル全身麻酔　multimodal general anesthesia　参考1/1　←→Multimodal pain therapy/バランス麻酔/オピオイド麻酔 デクスメデトミジンなどの特定の中枢神経系標的を持つ薬剤と、マグネシウムなどのあまり特異的でない標的を持つ薬剤などを追加するバランスの取れた全身麻酔 より少ない用量でより多くの薬剤を使用すると、副作用を最小限に抑えながら、所望の効果をさらに最大化すると仮定されている。 侵害受容システムの異なるターゲットで作用する薬剤の組み合わせを選択して、術中の侵害受容と術後の痛みの両方を制御する。 これらの薬剤も覚醒を低下させるので、意識のない状態を制御するために必要なやおよび/または吸入エーテルの投与量が減少させることができる。 この戦略を効果的に使用するには、痛覚抑制と意識喪失のレベルを同時に監視する必要がある。 日本では、1980年代から硬膜外麻酔はマルチモーダル全身麻酔法の柱として重要な役割を果たしてきたが、21世紀までには神経ブロックは全身麻酔に使われなくなった。日本局所麻酔学会は2007年学術集会（横浜）でその使命を終わることとなったが、超音波ガイド下神経ブロックの普及により、再度全身麻酔に神経ブロックの使用が重要となる。

  ニューロレプト麻酔 Neurolept anaesthesia：NLA 強力な神経遮断薬と鎮痛薬を静脈内に投与して、患者の意識を残したまま周囲に全く無関心な状態と無痛を得る方法。 術者との応答を保ちながら手術が可能となる。 患者の意識は保たれ、循環動態も安定している。 笑気等の吸入麻酔薬を併用して意識をとり、気管挿管して脳外科麻酔に使用。 原法は、ドロペリドール（神経遮断薬）＋フェンタニル（オピオイド系鎮痛薬） ドロペリドール ドーパミン受容体遮断薬、神経遮断薬、全身麻酔薬 交感神経・α遮断作用→血圧低下 錐体外路刺激症状→Parkinson病には禁忌。 作用時間が長い。 フェンタニル モルヒネの50倍の鎮痛作用。 吸抑制作用が強い（ナロキソン・レバロルファンで拮抗） 急速投与すると筋緊張亢進（鉛管現象） 気管支平滑筋収縮（喘息に注意） Neurolept anesthesiaの変法としてジアゼパム＋ペンタゾシンが用いられる。

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　[全身麻酔と局所麻酔との比較]

	全身麻酔	局所麻酔
作用	中枢神経系でのシナプス伝達抑制	主としてNaチャネルブロッカーによる神経伝導抑制
意識	消失	あり
健忘作用	あり	なし
鎮痛作用	さまざま（意識消失により痛みは感じない。）	あり
反射	抑制(全身性)	抑制(局所)
筋弛緩	全身の骨格筋	局所
投与方法	吸入、静注、筋注、座薬、中枢	皮下注、筋注、神経叢、硬膜外、くも膜下腔

　[局所麻酔と麻薬との比較]

	局所麻酔	麻薬
鎮痛作用	あり	あり
精神作用	なし（局所麻酔中毒ではけいれんが生じることがある。）	あり（無関心、多幸感）
投与方法	皮下注、筋注、神経叢、硬膜外、くも膜下腔	経皮的、静注、硬膜外、くも膜下腔
作用部位	末梢神経、中枢神経系の神経膜内部	末梢、脊髄後角、下行性抑制系
血圧	下降	あまり下降しない
呼吸抑制	なし	呼吸中枢の抑制
筋弛緩	あり	なし
副作用	中毒になると全身けいれん、呼吸停止	悪心、嘔吐、呼吸抑制、かゆみ
拮抗	なし	ナロキソンなど

　[全身麻酔と脊椎麻酔の比較 ] (→くも膜下ブロック)

	全身麻酔	脊椎麻酔
使用薬	吸入麻酔薬・静脈麻酔薬	局所麻酔薬
血圧変動	導入時は高血圧になりやすい	低血圧になりやすい
術中のストレス	意識がないが、適当な鎮痛がされないと身体的ストレスを受ける。	眠剤を使わないと周囲の音が聞こえる。精神的ストレス。
副作用	使用薬によっては、肝障害や腎障害。	局麻薬アレルギー・神経損傷
合併症	悪性過高熱、無気肺、歯牙損傷、かすれ声等	全脊麻（呼吸筋麻痺・低血圧・意識消失）
操作	気道の確保に熟練が必要	注射針一本と2〜3ccの局所麻酔薬でできる｡





分節麻酔 segmental anesthesia 1931年にAchille Mario Dogliotti （P 1897/9/25〜1966/6/2, Turin, Italy Universita Di Torinoの外科医) がsegmental epidural anesthesiaを確立した。 上下の数分節の脊髄神経を遮断する麻酔 脊椎麻酔では困難であるが、硬膜外麻酔では容易である。

分離麻酔（選択的麻酔） differential anesthesia ある特定の神経を選択的にブロックすること 脊髄くも膜下麻酔では、温痛覚よりも触覚がブロックされにくい。 ---温痛覚を伝えるAδ線維やC線維の径より、触覚を伝えるAβの径のほうが太いため、局所麻酔薬にブロックされやすい。---size principle 最近の研究では、細い無髄のC線維が最もブロックされにくいという報告がある。 局所麻酔薬に感受性の低い電位依存性Naチャネルのサブタイプ（Nav1.8）がC線維に多く発現しているので、C線維が最もブロックされにくいサブタイプがC線維に多く発現している可能性も示唆されている。 硬膜外麻酔では、運動神経を遮断せずに知覚神経や交感神経だけを遮断される。

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○麻酔のモニター/麻酔の深度

• 麻酔時は麻酔薬により深い意識消失状態にコントロールされているが、麻酔と睡眠とは異なる。
• 多くの全身麻酔では中枢神経系の機能を抑制したり、大脳新皮質を解離させたりして意識を可逆的に失わせるが、Neurolept anaesthesiaでは意識を保った麻酔もある。
  
• Guedelの麻酔の深度：古典的なエーテル麻酔では、浅い麻酔で眼球が動くとされる。
• バランス麻酔の概念の元では、麻酔を１次元の「麻酔深度」というもので捉えるのではなく、個々のコンポーネントごとに別個の尺度を考慮するようになっている。
• しかし現時点では臨床応用できるものではない。

  鎮静	Bispectral Index：BISモニター（アスペクト社）　←→麻酔中の脳波/RASS 全身麻酔中の鎮静度のモニター 処置脳波パラメータであり、米国のFDAにより麻酔薬の催眠効果の測度として承認されている。鎮静深度の管理に使用されることが多い。 フーリエ変換を基本としているが、詳しいアルゴリズムは公開されていない。 BIS値 脳波波形 100 覚醒および警戒（高周波数活動、瀰漫性パワースペクトル，同期化） 60 中等度催眠レベル（より低い周波数、移動したパワースペクトル） 40 深い催眠レベル（群発抑圧交代が始まる、さらに移動したパワースペクトル，δ活動優勢） ０ 深い麻酔レベル（完全な群発抑圧、等電位脳波） BIS値が60以下に維持されている場合に術中覚醒の発生率が低下することが報告されている。 BISは前頭葉の脳は解析に基づいているため、視床から大脳皮質領域への鎮静作用の指標になり得ても、辺縁系、海馬、扁桃体などが関与している術中記憶や健忘の指標としては不適切である。 Burst suppression ratio 脳波を時間軸に沿った電位変化や形態変化で捉え、深い鎮静状態でみられる高周波数高電位な時相と殆ど平坦な低電位相が繰り返す脳波パターンにおける低電位相の占める割合。 　全身麻酔の脳波は一般に徐波で、ノンレム睡眠時の脳波様である。
  鎮痛	四肢の精神性発汗や皮膚血流 心電図解析による自律神経活動を観察する MAC 最小肺胞内濃度 minimum alveolar concentration：MAC ---　吸入麻酔薬効力の指標 MACが低いほど、作用が強い。 1気圧下において、吸入麻酔薬により動物の半数（50%）を不動化させるのに必要な肺胞内における吸入麻酔薬の濃度。 有害刺激（皮膚切開）を加えられた患者の半数（50%）が体動を起こさない最小麻酔薬濃度 薬物間を比較した場合、MACが小さいものほど麻酔作用が強いことを示す。 ED50に相当する。吸入麻酔ではその効果は脳で限界濃度に達した時に発現するが、現実として脳内濃度を常に把握することは困難であるため、肺胞濃度を指標として麻酔維持を行う。 外科手術にはMACの1.2〜1.5倍の濃度が必要であるとされる。対象動物の95%が不動化する時の肺胞内濃度をAD95と呼ぶ。 [MACに影響する因子] 年齢⇒加齢と共に低くなる。 体温⇒低体温で低下→覚醒遅延の原因 併用薬物⇒麻酔併用で低下→麻薬を併用すると低濃度の吸入麻酔薬で維持できる。
  筋弛緩	筋弛緩モニター リラクソグラフ、MiniStim(MS-Ⅱ)、MiniStim(MSⅢ-A)、INNERVATORなど いずれも尺骨神経に極上刺激を加え、母指の誘発筋電図（リラクソグラフ）や収縮（その他の機種）を観察する。 single twitch---10秒以上の間をおいて単発で刺激を加え、筋肉の反応を対照と比較して評価する。 train of four：TOF count---術中の筋弛緩のモニター、2Hzで4回末梢神経を刺激し、筋肉の反応を見る。最初と4回目の比をもって評価する。 筋収縮が回復しているときはこの比が1に近くなる。
  疼痛刺激に対する循環動態や瞳孔径の変化を観察し（≒MACBAR：MAC of blocking adrenergic response）

  
  

  目標血中濃度調節投与 Target Controlled Infusion：TCI 薬物動態モデルを用いて輸液ポンプの投与速度を調節し、望んだ値に薬物濃度をコントロールする方法。 静脈麻酔では投与速度を調節することにより麻酔深度を調節する方法が一般的であるが、麻酔深度の調整が困難であった。 近年、静脈麻酔薬の薬物動態に関する研究が進み、特に諸外国においては、それに基づいたコンピューター補助式の投与方法であるが確立し、簡便で確実な静脈麻酔が可能となった。

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迅速気管挿管 Rapid Sequence Intubation、クラッシュインダクション 静脈麻酔薬と脱分極性筋弛緩薬を用いて、素早く麻酔導入を行なうこと。 適応: 誤燕を生ずる可能性のある患者＝Full Stomach 方法 導入前にAラインを取る。 酸素で3回深呼吸をしてもらうか、脱窒素化してから導入する。 ヘッドアップにして、cricoid pressure（輪状軟骨を圧迫）をして、ケタミンやチオペンタールなどを様子を見ながら投与する。 入眠後にスキサメトニウム（サクシン®、レラキシン®）を投与した後、換気しないで挿管する。 挿管が確認されカフを膨らませた後、cricoid pressurを解除する。 胃チューブを入れ、胃内容を吸引する。 覚醒下挿管 Awake Intubation 適応: 新生児、Full Stomach、挿管困難症、shock 頸椎症、RAの環軸椎亜脱臼 鎮静状態を得て(フェンタニル、ジアゼパムなど)から、気道の表面麻酔し、直接喉頭鏡、あるいは盲目的経鼻的に挿管する。 full stomach 胃の中に消化中の食べ物が貯留している状態。貯留した内容物は、嘔吐することがある。 通常の予定手術では、絶飲食にして胃を空っぽにしておくが、交通事故や心筋梗塞などのための緊急手術では、絶飲食にする余裕がない。 麻酔導入では、患者がいわゆるfull stomachであることを前提とし、速やかな麻酔導入から気管内挿管を行うのが望ましいと考えられる。

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術中覚醒 anesthesia awareness　←→覚醒　参考1/2

• 術中覚醒とは選択する麻酔薬剤の種類や投与量によっては無意識が得られず、術中に意識が回復することがある。
• 術中覚醒・記憶とは、手術中に意識があり、その間に覚えていることであり、PTSDの発症が懸念される深刻な問題である。
• 術中作成により、覚醒体験がエピソード記憶として術後長期間残ることが精神的後遺症としてPTSDに繋がる。
• セボフルランでの術中覚醒は非常に少ない。
• プロポフォール、TIVAで術中覚醒が起こりやすい。プロポフォールのドーズを下げると術中覚醒を起こす可能性がある。TIVAでは 1. 個体の大きさ（薬物動態・感受性の差など）　2. 投与システム（ルートトラブルなどのヒューマンエラー）が問題となる。
• BIS値が60以下に維持されている場合に術中覚醒の発生率が低下することが報告されている。
• BISは前頭葉の脳は解析に基づいているため、視床から大脳皮質領域への鎮静作用の指標になり得ても、辺縁系、海馬、扁桃体などが関与している術中記憶や健忘の指標としては不適切である。
• 術中覚醒の原因の一つに、麻酔薬の作用における個人差に伴う相対的浅麻酔がある。個人差が生じる理由として、アルコール、不安、うつなどが麻酔薬抵抗性に関与している。このような状態では脳内のGABA濃度が25〜50%減少していると考えられている。脳内の興奮と抑制のバランスが崩れると、麻酔薬の感受性が変化すると推測される。
• 手術患者は、不安、ストレス、痛みなどによって脳の興奮と抑制のバランスが崩れている可能差異があるため、鎮静作用が脳内GABA濃度に影響されやすい麻酔薬では個人差が生じやすいと考えられる。
  脳内のGABA濃度に鎮静作用が影響されない麻酔薬：セボフルラン
  脳内のGABA濃度に鎮静作用が影響される麻酔薬：プロポフォール
• 術中覚醒・記憶の予防のためには、鎮静と鎮痛だけではなく、健忘も考慮することが重要である。（健忘作用の強い薬：ジアゼパム（セルシン®、ホリゾン®）ミダゾラム（ドルミカム®）、セボフルランなど
• 術中覚醒が発生した場合には、術後インタビューで客観的な説明や同情の気持ちを示すことが重要で、不安が強い場合には精神科へのコンサルタントを行う。

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