症例81
臨床所見
1ヶ月 男性
要約)20◯◯年◯月◯日午前2時頃に瓶哺乳させ、ソファーの上で仰向けで母親と一緒に寝ていた。午前5時10分に母が覚醒したとき、児の体動がないことに気づき、救急要請。 死亡日時)午前 6 時 15 分 病歴)在胎 38 週 1 日、体重 3060g、骨盤位のため、予定帝王切開で仮死無く出生。母と一緒に退院。2週間健診で、右の高位精巣指摘。AiCTは最終生存確認から4時間半程度。異変発見から1時間14分程度。死亡診断から9分で撮影。
解剖)なし。
画像所見
静脈内に広範囲にガス像あり
胸郭がベル型
大脳白質のびまん性の低吸収
関節包、滑液包(鎖骨と肩甲骨の間)にガス
診断
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頭蓋の形態、神経頭蓋・顔面頭蓋の比に異常指摘できず。体幹部は大腿遠位まで撮影。体幹と四肢のバランスに異常感ぜす。上肢の肢節ごとのバランスにも異常指摘できず。胸郭は伸展不良であるが、死後の撮影としては通常よく経験される程度。消化管ガスは上腹部に多く、蘇生による送気の結果が考えやすい。
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頭部は頭蓋内出血を疑わせる所見は認められない。白質がびまん性の低吸収が目立つ。灰白質・白質コントラストは保たれているようにみえる。脳溝、脳槽、脳室の不明瞭化はなく脳腫脹の発生は指摘できない
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延髄、上位頸髄の輪郭や周囲に異常指摘できず。 脳の形成異常、過去の破壊性変化の痕は指摘できない。 静脈内に広範囲にガス像あり(蘇生術後変化)。
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頭蓋骨骨折は認められず。頭蓋骨の形態に異常指摘できず。 眼窩、副鼻腔、中耳・内耳に異常指摘できず。 舌根部レベルまでの気道に狭窄・閉塞所見なし。
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下咽頭と喉頭レベルは撮影範囲に入っていない。頸部気管から先の気管・気管支は大部分内腔が水濃度のもので充満されている。吸収値からは吐物なのか分泌物なのかは判断困難。
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肺は全体的にすりガラス状に透過性低下を示し、撮影時には上方に位置する腹側部分に優位に濃厚陰影が分布する。分布は左右対称的で、上肺・下肺に偏らない。濃厚な陰影内にさらに点状の高吸収域が散在している。両側肺底部に小葉間隔壁肥厚あり。
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心臓の位置、大きさには異常指摘できない。 心内部は評価困難。大血管も輪郭が描出されず分岐なども評価困難。 両側鎖骨下静脈、右房、右室、おそらく肺動脈内にガスあり。 関節包、滑液包(鎖骨と肩甲骨の間)にガスあり。
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肝、両側腎、両側副腎、脾などの大きさ、輪郭が把握できる程度で内部の評価は難しい。 胆道系、膵臓などは評価難しい。
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腸管の捻転や腹水なども指摘できない。指摘されているように右精巣は陰嚢基部付近にあり高位である。検査時、ヘルニア門の付近に太い索条陰影あり、腸管が脱出していることがわかる。これに連続する腸管の拡張 は指摘できない。
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虫垂は右腹部の肝下縁の高さにあり1ヶ月児として正常な位置。
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両側第 3、4、5 肋骨前方に、内側に屈曲する形での座屈骨折あり。後方骨折、陳旧性骨折なし。蘇生時に胸骨圧迫が行われたかどうか確認を要する。行われていたとするとそのための骨折としても整合する所見である。
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その他には骨折指摘できず。 右鼠径部に皮下組織の混濁あり。ライン確保などの処置が試みられていたか確認要する。 皮下脂肪の厚みや分布には異常を感じない。
考察
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大脳白質のびまん性の低吸収は生後1ヶ月としてもかなり低吸収に見える。死後変化としてこの様になることは考えにくく、生前からのものではないかと思われる。
正確な日齢は提供されていないが、生後1ヶ月内で生後2週程度であれば正常とみなせるのではないか。満1ヶ月となっているとするとやはり通常見ない低吸収に見えるが、病的意義が非常に高いかと問われると、正直不明である。
代謝異常で予後不良なものでも白質のびまん性低吸収を来すものもあるが、タンデムマ ススクリーニングなどで評価されていたのではないか。未検索の場合、一応代謝異常の可能性を示す所見と思われるが、強く疑えるものではない。
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気道内の含気が大部分消失蘇生を行ったのであれば気道内は吸引され吐物が充満していることは考えにくいが、肺内の腹側に点状高吸収を含んだ濃厚陰影があることは、死戦期の急性左心不全による滲出以外に、気道への誤嚥の可能性も示すのではないかと思う。これについては当然、蘇生時の気道吸引物の情報も重要になると思われる。
また臨床情報からはまったく疑わせる要素に乏しいが、肺内の含気不均等が比較的目立ち、生前からの肺炎などの存在も一応考えられる所見ではある。
死亡状況から考えると、顔面や胸部の圧迫による窒息の可能性もありえる仮説であり、画像所見もそれを否定するところはないと思われる。
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両側性6箇所肋骨骨折 蘇生時の胸骨圧迫により生じたものとして納得できる形態である。ただし、申し上げるまでもないが目撃者のいない乳児の家庭内心肺停止であり、不適切養育にあたる状況がなかったかどうかは、調べることが必要になると思われる。
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右鼠径へルニア。右精巣高位。死亡には関連しない。明確な外傷死・先天異常の所見なし。胸郭がベル型をしており、floppy infant な印象があります。floppy mitral valve などの可能性はある。
担当者名
Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)