症例80

臨床所見

4ヶ月 女性
要約)母親が留守をしている間に死亡していた。(約3時間)仰臥位から腹臥位になっていた。体表は異状なし。既往歴)生育歴にネグレクトの疑いあり(小児科より)。双生児の妹。蘇生 60 分


解剖)卵円孔開存、ネグレクトの疑いあり


画像所見


左外側上葉に限局性嚢胞領域


                  副腎がやや膨らんでいるか                  

診断

  • 脳溝・脳槽の描出は軽度狭小化し、灰白質・白質のコントラストも低下している。 生前に生じていたと考えれば、びまん性脳浮腫の可能性を示すが、生前に異常がなかった考えられる状況での死後画像でも経験される程度の変化である。生前の異常を反映しているのか死後変化なのかは明確には判断できないのではないかと思う。   
  • 頭蓋内出血なし。後頭部の静脈洞や側脳室内の脈絡叢に血液就下あり。延髄・上位頸髄に外圧迫像など粗大病変認めず。骨条件での再構成、矢状断・冠状断での再構成、VR等がないと評価が不十分だが頭蓋骨骨折はない。縫合離開も認められない。
  • 形成異常についてはCTであるため評価に限界あり。生命維持を困難とさせるような大きな形成異常はないと思われる。
  • 両側眼窩、眼球、鼻腔、副鼻腔、側頭骨(内耳、中耳)の形成に異常なし。 左右鼓室に液体貯留あり。中耳炎の所見である。右上顎洞炎あり。 両側耳下腺、両側顎下腺に異常なし。甲状腺は生体の正常より低吸収であるが通常の死 後変化として納得できる程度ではないかと思われる。 扁桃、頸部リンパ節はこの年齢の平均的な大きさで異常は指摘できない。
  • 気管および区域気管支レベルまでの気道は、撮影時内腔が開存している。肺は気管支血管束周囲の拡大があり、末梢ではコンソリデーションと過膨張が混在している。左外側上葉に限局性嚢胞領域があり、蘇生時や粗大な呼吸の際に生じる間質性肺気 腫で説明が可能と思われるが、鑑別疾患には先天性嚢胞性腺腫様奇形(CCAM)、肺葉性肺 気腫、気管支原性嚢胞などの小児嚢胞性疾患が挙がる。これらはより肺の観察に適した再構成関数や関心領域の設定により気管支との関係の詳細がわかれば、より確実な鑑別が可 能になるものと思われる。両側に薄い胸水貯留が見られる。  
  • 心臓全体の大きさ、左右の心腔の大きさの比、その他形態に異常は指摘できない。右心系内の液面形成あり。心嚢水は不明瞭だが少なくとも大量なものはない。大血管の分岐には異常指摘できず。右冠動脈内にガスがあるようだ。このため一定の走行部位の把握が可能となっているが、冠状溝に沿っておりわかる範囲内では定型的走行に見える。
  • 肝、胆道系、膵、両側腎に位置、形態、大きさ、内部の異常は指摘できない。 脾臓は小さめであるが死後の通常範囲内。肝に血管内ガスあり。副腎が両側膨らんでおり、形状が不規則であり、副腎出血の可能性があり。 胃、小腸、結腸、直腸内の配列、口径、分布などに異常は指摘できない。
  • 胃内容はCT値が平均20程度。ミルクを飲ませていたと思われる。腹水はモリソン窩から右傍結腸溝に少 量あり。皮下脂肪ほぼ正常にあり。胃内に液体貯留あり。
  • この CT では骨折の存在は指摘できないが、観察部位に合わせた再構成関数、関心領域の大きさ、再構成断面の選択を行わないと、この年齢の骨折は容易に見逃されるため、確信度の高い判断は不可能であると思う。

考察

  • 頭部では脳溝・脳槽の軽度狭小化と脳内コントラストの低下が認められたが、生前の変化か死後変化であるかの確実な判断は困難だと思う。しかし通常の死後変化として納得できるものであるし、生前にこの様な変化が生じていたとしても、それが死因となることは考えにくい。
  • 肺の所見は、含気を失っている部分と過膨張が混在しているので、生前よりの肺の異常が存在していた可能性がありうる所見と思われる。ただし長時間の蘇生行為が行われており強いアーチファクトを生じていると思われる。この AiCT から生前の肺の状態を確度高く推測するのは不可能ではないかと思われる。
  • 誤嚥性肺炎か窒息か鑑別出来るか、ということ問題設定に対しては、二者択一でどちらか必ず一方というのであればこれは誤嚥性肺炎を考えさせる像である。ただしどちらでもない可能性、両方が生じた可能性が大いにあるため、結局決定はできない。 心筋炎や何らかの致死的な代謝性疾患の存在というものも否定はできないが、その可能性を積極的に示唆する画像所見は得られていないと思われる。
  • 副腎が両側膨らんでおり、形状が不規則であり、副腎出血の可能性がある。この場合、Waterhouse-Friderichsen 症候群と思われる。解剖所見で副腎について出血があったか確認してほしい。
  • 乳児の小さい身体を大きな FOV で再構成しており、撮影された情報が生かし切れていないと思う。体や注目部位に適合させた FOV を設定し、MPR を作成するとより詳細な評価となる。また骨の評価に適した再構成関数での画像を作成することが絶対に必要と考える。また肋骨の評価には通常の軸位断像だけでなく、肋骨の走行に合わせた斜位再構成像を併用されることをすすめる。
  • また虐待の可能性が考えられる場合は、単純 X 線写真の撮影が長管骨骨折の評価のために撮影しておかれることを推奨する。

担当者名

Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)