症例78

臨床所見

6ヶ月 女性
要約)在胎37週3日、2400gで出生し、先天性横隔膜ヘルニア、右肺低形成、気管気管支軟化症、肺高血圧のため入院、加療中。日齢17日に横隔膜ヘルニア修復術、日齢69に気管切開術を行い、人工呼吸器管理。次第に気管気管支軟化症、肺高血圧が悪化し、高い換気圧も影響し、日齢175頃より、肺出血を起こすようになった。日齢179日から肺炎を合併し、抗菌薬治療、一酸化窒素吸入、呼吸器設定の変更など行ったが、日齢184に呼吸不全で死亡した。


解剖)なし。


画像所見


横隔膜ヘルニアによる肺低形成。両側肺にはほぼ含気が認められない


                   脳萎縮が強く髄外腔が拡大している                  

診断

  • (生前画像(動画1〜4))右肺は右胸腔内の上方に限局して存在しており、なおかつ透過性は低下している。側面撮影では新生児としては腹部が異常に扁平であり、横隔膜へリニアに特徴的な、いわゆる scaphoid abdomenの形態をなしている。胸郭はわずかに狭細な印象を受ける。胃の脱出認めず。心臓の左への張り出しが弱く、縦隔の右方偏位を示唆している。左肺の血管陰影は増強していない。単純X線写真単独では決定できないが、診断されている右先天性横隔膜ヘルニアには整合する所見である。   
  • 肋骨が狭細な印象は受けるものの、骨格系に明らかな異常は指摘できない。肋骨は両側12本あるが腰椎の形態をした椎体が6個認められる。
  • デバイスは挿管チューブ、胃管のみ認められ、malpositionは認められない。
  • 肺の容積計測などは省略させていただく。かなりな程度の liver up であり右肺の容積はかなり小さい。また右肺はほとんど含気を失っている。すでに診断されているように右肺からの血流は肝部下大静脈に還流するようで、Scimitar症候群のようである。先天性横隔膜へルニアには肺葉外肺分画症が合併することを経験するが、この症例では右肺の体循環からの動脈支配は明確には示されない。右肺動脈は細く、左肺動脈は相対的に径が大きい。肺の形成の程度の反映と思われる。  
  • (以下、Ai画像について)顔面、体幹部の軟部組織浮腫が強い。体幹に比して四肢がやや短い印象を受ける。  
  • 脳萎縮が強く髄外腔が拡大している。脳の volume 減少は皮質、白質双方に生じており、特に前頭葉で目立つ。
  • 脳内出血は指摘できない。相当な低線量撮影であるため髄外腔がくも膜下腔だけであるのか硬膜下腔の拡大を伴うのかなどは判断がつかない。脳実質内の異常、皮質の形成異常などについても低線量撮影であるため判断は困難。
  • 眼窩が浅く眼球突出に見える。頭蓋底はスライス厚は厚くよくわからない。
  • 気道の内腔描出はごく一部。あとは分泌物等が充満しているのではないかと推測する。甲状腺、両側の耳下腺、顎下腺は存在するようだ。頸部は軟部組織浮腫が著しい。
  • 両側肺にはほぼ含気が認められない。肺のCT値は平均で50程度、最高では80程度に達している部分があり、肺出血を繰り返していたという既往に整合する所見である。   
  • 大静脈~右房は死後の血圧(=平均循環充満圧)で予想される死後の拡張程度を越えた拡張がある。死後硬直による心筋肥厚はありそうだが、右室壁は左室と同等またはそれ以上の壁肥厚を示す。右室内乳頭筋の一部石灰化あり。これらは生前の肺高血圧症の反映と考える。少量心嚢水貯留あり。  
  • 臓器位置、大きさには異常は指摘できない。胆石は存在するようだ。  
  • 腹水があり腸管の浮遊があって、単純X線写真上腸管の中心化を呈するような状態である。腹水のCT値は20未満の部分がほとんどであり、非血性・低たんぱくの性状が推測される。腸管の走行に異常は指摘できない。腸管の偏在、異常な口径差も認められない。  
  • 腸管内にCT値が200を超えるような高吸収物がある。出血としては異常な高吸収すぎる。未吸収の薬剤などであろうか。腹腔内遊離ガス像は認められない。  
  • 著しい軟部組織浮腫の存在。骨損傷はそれぞれの骨に最適化された再構成像がないので詳細不明。この再構成像の範囲内では異常は指摘できない。  

考察

  • このAiCTからは死因を特定させるような所見を指摘することは出来ないが、横隔膜ヘルニアによる肺低形成があり、加えて肺静脈還流異常、その後の気管気管支軟化症、肺高血圧症、気管支肺異形成症、肺出血、肺炎などの発生から呼吸不全により死亡したとする、臨床診断に整合するものであると思われる。
  • おそらく加療されていた担当医の想定外の重大事象は、このAiCTの中には発見されないのではないかと思われる。その様な意味でAiCTの役割は果たされたのではないかと思われる。
  • なお検査内容について言及させていただくと、乳児に5mmスライスでの再構成はあまりにも厚すぎると思われる。頭部は5mmスライスでコントラストを良くした画を作るにしても、全身では1~2mm程度で再構成し、またその薄さで十分なコントラストが出るような線量を用いた方がいいのではないだろうか。非常な低線量撮影となっており臓器内部のコントラストはほとんど評価することができなくなっている。
  • またFOVが部位により最適化されていない。矢状断像や冠状断像、骨条件での再構成も観察のしやすさという点で有用性があると思われる。
  • ただしこの様な非常に割り切った簡易的な検査であっても、頭蓋内に死因となるような出血や脳腫脹はない、全身にも大出血などはない、骨損傷を疑わせる所見はない、などの概略的なチェックは可能であり、その様な目的で検査を実施されているものと思われる。

担当者名

Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)