症例77

臨床所見

0歳0ヶ月 男性
要約)20○○/○/20、0時15分に出生。出生12時間後位から酸素化安定せず、血液検査で貧血の進行あり。消化管出血が疑われ、救命目的にて、開腹止血を施行。開放瀬肝被膜下出血、両側腎梗塞、両側副腎出血と診断。術後も完全な止血には至らず、持続的な輸血を要した。また、入院後はほぼ無尿、代謝性アシドーシス、高カリウム血症が進行したため、日齢3で腹膜透析。日齢4に超音波検査で右側頭葉に脳出血を来したため、以降の積極的治療を差し控える。以降はNICUで管理。20○○/○/27、22時32分永眠。23:18 Ai-CT。


解剖)なし


画像所見


右中頭蓋窩、右側頭葉表面の髄外出血と右側頭葉内の脳内出血と、これにより生じた鈎ヘルニア


                   肝内血腫とその穿破による大量の腹腔内出血                  

診断

  • 頭部の位置決め画像では、神経頭蓋と顔面頭蓋の比率に異常は認められない。頭蓋の形態には特定の疾患を思わせる形態的特徴は見られない。後頭部、後頸部、顔面にも軟部組織腫大が強い。   
  • 体幹部の位置決め画像では、姿勢は通常の筋緊張が解けた状態の新生児の仰臥位であり、この姿勢からの異常は読み解けない。体幹と四肢のバランスに異常は指摘できない。四肢も近位肢節、中間肢節の比率に異常は見られない。胸郭はベル形で肺野面積は小さめに見え肺低形成の可能性を考えさせるが、新生児で死後の検査であることを考えると、異常とは言い難いと思う。軟部組織浮腫が著しい。浮腫の程度には部位による偏りはないと思われる。位置決め画像では、カテーテルなどのデバイス類は認められない。
  • 右中頭蓋窩の髄外腔に高吸収の血腫が存在し、右側頭葉を覆うように進展し右のシルヴィウス裂にも入り込んでいる。髄外腔の血腫は脳溝に入り込んでおり、クモ膜下腔に出血していることは確かであり、脳室内や対側のクモ膜下腔にも出血が回り込んでいる。また硬膜下腔にも出血があるように見える。平均的な厚みが 1.5cm にも達する新生児としては相当量の出血であり、右から左への midline shift と右の鉤ヘルニアを生じており、中脳から橋に強い圧迫を生じている。
  • 右側頭葉は皮質の連続性が失われている部分があり、脳内出血も伴っているようである。脳組織はびまん性に低吸収化を示し、強い脳障害の存在を示している。コントラストがほとんど失われているため、正常構造が形成されているか等も評価が困難であるが、脳室内出血の形から推測される側脳室の形態、左大脳半球の脳溝に侵入するクモ膜下出血から想像される脳回、大脳鎌の存在等からすると、概ね正常に近い脳構造が存在したのではないかという印象は受ける。縫合は開大気味であり脳圧亢進を示唆する。右側頭部後方と左側頭部前方に軟部組織腫大がある。  
  • 側頭葉の脳内出血を伴い髄外腔に大きな血腫を形成している点は、新生児期の脳表の静脈圧迫等により生じる静脈梗塞の典型像ではないかと思われる。脳表の静脈閉塞のひとつの典型であるLabbe 静脈閉塞による静脈梗塞に類似するが、脳内出血の範囲はそれよりやや広い印象は受ける。"Spontaneous superficial parenchymal and leptomeningeal hemorrhage in term neonates."という記載で報告されている病態ではないかと思われる。脳表の静脈還流の異常が原因として考えられる。DIC の出血の場合はより広汎に、多発性に皮髄境界中心に出血を生じるのが特徴であり、それとは特徴が異なっている。  
  • 脳ヘルニアの出現により脳幹が強く圧迫されており、生命維持が困難な状態に陥っていることが判る
  • 眼窩、鼻腔、側頭骨内に形成異常、破壊性変化の痕は認めない。両側中耳の含気が見られない状態である。
  • 上・中・下咽頭で気道の内腔が認められなくなっている。分泌物や舌根沈下によるものではないかと推測する。声門下の気道は気管、両側の主気管支、区域気管支まで内腔の描出が良好である。狭窄は見られない。
  • 甲状腺は正常形態で認められる。両側耳下腺、両側顎下腺は存在するようだが、詳細がよく判らない。
  • 両側肺は背側肺の含気が失われて不透明化している。腹側肺は含気が保たれており、含気のある部分とない部分が比較的截然と分かれている。気管支は比較的末梢まで見えているが、基本的には末梢レベルでの分泌物等による無気肺を見ているのではないかと思われる。少量胸水貯留あり。   
  • 心臓の大きさは小さめの印象を受ける。3rd spaceに漏出し、循環血漿量としては少なめであったのであろうか。心腔内は良く見分けることができないが、明らかな液面形成は認めない。少量の心腔内ガスが認められる(蘇生術後変化の名残や早期腐敗現象)。大血管の分岐は明瞭には描出されないが、明らかな異常は指摘できない。  
  • 肝右葉前区域中心に肝内の血腫があり、それが腹腔内に穿破して腹腔出血となっている。腸管は腹腔内出血により浮遊して腹側に浮き上がっており、単純X線写真で言うところのいわゆる腸管のcentralization の像をなす状態となっている。出血は消化管内、左腎盂腎杯、尿管内にも認められる。出血が持続しつつもさらに輸血を行った結果、この様な大量の腹腔内出血となったと思われるが、直接死因となりうる出血量であると思われる。  
  • 脾臓、膵臓、副腎は概略的には輪郭が描出されている印象を受けるが、詳細は不明である。左傍正中に皮下気腫、腹腔内遊離ガスあり(開腹術後変化、腹膜透析チューブ、ドレーン留置後変化など)。  
  • 全身の骨には代謝性疾患、骨系統疾患などを疑わせる所見は認めない。骨折など外傷の所見も認めない。  
  • 全身の軟部組織浮腫が著明である。体幹部では浮腫の部分の CT 値が 30以上呈している部分も多く、皮下出血も生じている可能性もある。浮腫は全身性、びまん性であり、偏在は見られない。  右の鎖骨上窩に点状の 2mm 程度の高吸収物が認められる。性状不明にとどまるが、身体にカテーテルなどデバイス類がなく、エンゼルケアの後であることが推測され、そのような処置の過程で残ったものであろうか。臨床的な重要性はないと思う。  

考察

  • 原因については確定できないが、側頭葉で髄内・髄外の出血を合併している像は、変形しやすい頭蓋を有する新生児に特徴的な、脳表の静脈閉塞によって生じる出血の像としての特徴を備えている。稀ならず遭遇するものである。
  • 肝内血腫、肝裂傷も“分娩外傷”のひとつともされるもので、この様に大量となった場合は生命維持が困難となるものであり、これも新生児を取り扱う施設では時に遭遇するものである。
  • どちらも通常の分娩を経ても生じる状態であるが、胎盤早期剥離から胎児の状態が不安定となっていたということが、この様な周産期に遭遇する異常の発生の誘引として強く働いたと推測される。手術による止血にも関わらず、肝被膜下出血が制御できず、両側腎梗塞があったという手術所見から、DICを伴った、抗凝固機能低下が背景にあったと考えられる。

担当者名

Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)