症例75

臨床所見

6歳2ヶ月 男性
要約)網膜芽細胞腫


病歴)20○○年4月(2ヶ月時)両側網膜芽細胞腫、20○○年2月鞍上部腫瘍(三側性網膜芽細胞腫)発症、autoPBSCT併用大量化学療法、放射線治療(全脳全脊髄24Gy、局所16Gy) 20○○年5月右下肢不全麻痺あり、再発。20○○年11月播種性病変増悪。翌年2月全脳照射30Gy。7月サイバーナイフ施行。播種増悪による意識障害が出現、自発呼吸停止。20○○年1月○日午前8時42分死亡。午前9時3分 Ai-CT撮影。


画像所見


脳表、脳室壁はびまん性に高吸収を示し広範な髄液播種巣を示している。


                   ヘモジデローシスと思われる。                  


                   左目義眼、右目網膜側に石灰化を残し、小眼球。                  


                   筋が著明に減少。                  

診断

  • 頭部CTでは脳表、脳室壁はびまん性に高吸収を示し広範な髄液播種巣を示していると考えられる。脳底槽周囲には粗大な結節状となった播種巣が認められる。髄内にもところどころ高吸収化した部位があり腫瘍浸潤を示唆する。延髄を含めた脳幹部、両側大脳半球は低吸収化し、びまん性脳浮腫の状態を示す。左眼球は摘出後。右眼は萎縮し内部が石灰化している。   
  • 右眼窩、副鼻腔、聴器、中耳に大きな異常指摘できず。左眼窩周囲の骨には眼球摘出術の痕。咽頭・喉頭・頸部気管レベルで舌根沈下や分泌物によると思われるは気道の内腔の描出減少が認められる。唾液腺、甲状腺:著明に萎縮。
  • 背側肺の気管支周囲を中心に含気低下がある。気管支壁の肥厚、周囲の肺野は透過性亢進し、含気低下部位と明瞭な境界をなし、慢性の気管支炎、沈下性肺炎の存在を示唆していると思われる。
  • 心拡大なし。心腔内に液面形成あり。死に至る経過はある程度の期間があるようだが、急性死を思わせる(ある程度の死戦期を持って緩和医療後に死亡した患者の心大血管内腔には鋳型状凝血塊があることが多い)。  
  • 大血管の分岐等の異常は指摘できない。胸腺は萎縮し脂肪浸潤により低吸収化している。食道の拡張がある(食道蠕動麻痺、胃食道逆流などによるものか)。  
  • 肝はびまん性に高吸収化。病歴から考えると輸血によるヘモジデローシスが生じていた可能性が高いと思う。肝円索近傍の門脈内ガスあり。おそらく蘇生術は施行されていないこと、死亡確認から 20分後の死後CTであることを考えると、生前に生じていた腐敗ガスであろう。肝動脈は上腸間膜動脈分岐。
  • 肝十二指腸間膜内に最大断面で2mm程度の高吸収の線状構造あり。肝管、胆嚢管、総胆管、膵内胆管などの胆石ではないかと思われる。
  • 右腎に少数の腎結石。膵は小さめに見える。
  • 小腸は軽度の腸管浮腫を示す。配列、分布などに異常はない。大腸は泥状便とガスで拡張している(便の高吸収化は緩下剤による?)。盲腸~近位上行結腸は長く、椎体左縁レベルにまで伸びている。虫垂径は正常上限。近位上行結腸壁内気腫があり、上腸間膜動脈分枝に連続している。上記門脈ガスと同様に早期の腐敗現象と考える(死後に右下腹部の皮膚表面から硫化水素ガスによる青緑色となるが、他領域より回盲部領域が腐敗が早いため)。
  • 腹腔内遊離ガス像なし。腹水なし。   
  • 膀胱壁肥厚と内腔のガス粒があり、長期に尿道バルーンカテーテルが留置されていたことを思わす。  
  • 筋が著明に減少し、四肢の麻痺により長期の臥床、体動減少の状態にあったことを示唆する。皮下脂肪はあり、栄養状態は悪くなかったようである。骨折は指摘できない。  
  • 左前胸壁皮下にポートあり、皮下トンネルを通して左鎖骨下静脈から SVC 内にカテーテ ルが留置されている。ポート、カテーテル周囲に異常所見なし。  

考察

  • びまん性の髄液播種、脳内転移により呼吸中枢の障害等により死亡に至ったという可能性は有力な仮説として提出できる。中枢神経障害は腫瘍の進展によるもので、出血や腫脹の増強によるヘルニアの出現など二次的な事象によるものではない。
  • 頭部以外では長期臥床による慢性気管支炎像、麻痺による筋委縮像などは認められるが、特に死因に関与するものとは考えられない。

担当者名

Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)