症例74

臨床所見

1歳 女性
要約)重症新生児仮死で出生。脳性麻痺、喉頭軟化症、胃食道逆流症、West症候群で定期通院中。○年○月1日、午前2時頃口腔内分泌が多く、母による吸引手技を実施。その際は呼吸しており眠りについた。午前6時頃母が目を覚ましたとき、児が呼吸していないことに気がつき、救急要請。到着時心肺停止、その後病院で蘇生処置を行ったが反応無く、死亡確認。 死亡日時)○年○月1日午前6時頃(推定)


画像所見


両側視床には両側ほぼ対称性、内側部分に明瞭な高吸収化が認められる。


                   背側、気管支血管束周囲に著明にびまん性のすりガラス状の透過性低下あり。                  


                   大脳鎌が前方部分で厚く、厚みの不均等がある。                  

診断

  • 顔面頭蓋に対し神経頭蓋の大きさが不均衡に小さく小頭症であると思われる。矢状断像で観察して中脳以下の脳幹部と小脳は比較的volumeが保たれている。両側大脳半球・白質・基底核・視床にはびまん性の萎縮が認められる。 ⇒解釈:びまん性の脳萎縮は様々な原因により起こりうるが、病歴にある重症新生児仮死による脳症の後変化として理解するのが、妥当であると考えられる。   
  • 両側視床には両側ほぼ対称性、内側部分に明瞭な高吸収化が認められる。⇒解釈:これも病歴にある重症新生児仮死による脳症によって基底核視床壊死が生じ、その後変化として理解するのが妥当であると思われる。基底核視床壊死の石灰化はより限局的な変化が典型的ではあるが、この様に広く全体的な高吸収化も経験される。 CT上、両側基底核が石灰化するものとしては例えばGM2-Gangliosidosis (Sandhoffや Tay Sachs disease)は印象的であるが、この所見のみを根拠に鑑別に上げる必要はないと思われる。
  • 灰白質・白質コントラストが認められにくい。全体的に同程度で局所的にコントラスト減弱が強い部位はない。⇒解釈:脳溝・脳槽の描出は平均的であり、浮腫はなく、今回のエピソード時に脳のコントラストを低下させる障害が加わった様には考えにくい。生後1歳時は生理的にも灰白質・白質コントラストが低下する時期であり、これに脳萎縮が強い被験者の状態、死後変化などを加わったものと思われる。
  • 大脳鎌が前方部分で厚く、厚みの不均等がある。⇒解釈:たしかに硬膜下血腫を疑わせる所見である。ただし架橋静脈周囲には出血はなく、また穹窿部や大脳鎌への出血の進展も見られない。こういった点はよく見る硬膜下血腫とは異なっている。乳幼児の硬膜内に見られる静脈叢の拡張を見ている可能性もあるのではないかと思う。ただし根拠は強くない。  
  • 頭蓋骨骨折なし。眼窩・副鼻腔・中耳・内耳にも異常なし。  
  • 海綿静脈洞内にガスあり(蘇生術後変化)。
  • 肝腫大はない。肝の形態にも異常はない。
  • 背側、気管支血管束周囲に著明にびまん性のすりガラス状の透過性低下あり。これに加えて小葉中心性の粒状影、tree-in-bud様の陰影、さらに濃厚な斑状影も加わっている。⇒解釈:死後のCTから生前の肺の異常の有無を判断するのは困難で、この様な肺所見を呈していても組織的には有意な異常所見が認められないとされることはあるが、細菌性・ウイルス性肺炎などの可能性は考えうると思う。生前からの沈下性肺炎の存在を示唆する所見はない。
  • 胃、食道下部は拡張している。胃、食道の拡張は、バッグマスクなどによる蘇生時変化の可能性もあるが、既往に、胃食道逆流もあり、肺の所見は、吐しゃ物誤嚥の可能性がある。ただし、撮影時内腔に残渣。吐物は認められない。
  • 大動脈弓の下で口径の変化がある印象を受けるが、有意な狭窄と言える程度のものではない。⇒ 解釈:乳児の突然死の腫瘍な原因のひとつとして大動脈縮窄症が挙げられるが、大動脈からの分岐には異常パターンは見いだせない。   
  • 心内奇形や心筋厚は分からないが、心臓全体として大きさは正常範囲内である。心嚢水は大量のものはない。  
  • 右心系中心に心腔内ガスが認められる(蘇生術後変化)。  
  • 大量の胃内ガスあり。十二指腸以下の拡張は目立たず。腸管の捻転その他の配列異常、腸重積も指摘できない。大量腹水貯留の所見も認められない。腹腔内遊離ガス像は認められない。腸管気腫像も認めない。  
  • 肝内ガスあり(蘇生術後変化)。  
  • 骨折など外傷性変化認めず。右脛骨前面には骨髄針を刺入した痕と思われる軟部組織の濃度上昇あり。  
  • 腰椎レベルで左へ凸の側弯あり。⇒解釈:麻痺性側弯の可能性が高いのではないかと思う。  

考察

  • 直接死因となりうるような大量出血などの所見は認められない。近時点での外傷性変化も認められない。
  • 頭蓋内には、周産期に重症新生児仮死によると思われる脳萎縮が強く認められ、両側基底核の高吸収化もそれに関連するものと思われる。直接的な死因は示されないが、脳性麻痺、喉頭軟化症、胃食道逆流症、West症候群で、口腔内分泌が多いという状態は、短時間で容易に換気不全を招来する状態であり、そこから生じる低酸素虚血の状態となれば、本例で見られたように急速な転帰を辿りかねないことは、容易に推測されることであろうと思われる。
  • 肺の所見は、重篤化の要因となる肺の感染症の存在について、一定の可能性を示唆するものである。
  • 頭蓋内の大脳鎌の前半部分が厚く描出されていることは硬膜下出血の可能性を示すが、架橋静脈周囲の出血もなく、少なくとも非偶発的外傷の際に見られる頭蓋に急加減速が加わった事による出血のようには見えない。硬膜内の静脈叢の拡大によるものではないかという推測を提出しておきたい。

担当者名

Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)