症例73

臨床所見

0歳8ヶ月 男性
要約)不詳の死


病歴)健康状態はかわりなく、前日も普段通りに過ごしていた。風様症状はなかった。○月19日22時頃父と添い寝をしていた(最終生存確認)。○月20日の0時頃泣き声は聞こえた気がした(姿は見ていない)。1時50分父が起きたところ、うつぶせになって冷たくなっているのを発見。父親が気がついたときには鼻出血が見られた。約5分後救急隊要請。現着時、心肺停止状態。マスク換気で救急搬送、2:13 病院着、外傷はなし、下顎や上肢は硬直、蘇生に反応せず、2:32死亡確認。 3:10 Ai-CT 撮影。


解剖)司法解剖。


画像所見


頬の脂肪が多いか?


                   大量の腹腔内遊離ガスあり                  


びまん性のすりガラス状の透過性低下あり。これに加えて小葉中心性の粒状影 、tree-in-bud様の陰影、さらに濃厚な斑状影も加わっている。                  


                   大量の腹腔内遊離ガスあり                  

診断

  • 頭蓋内出血は認められない。静脈洞、大脳鎌、小脳テントは血液就下によると考えられ る高吸収を示す。頭蓋骨骨折なし。軟部組織損傷を示唆する頭蓋の軟部組織の腫脹は指摘 できず。外傷性変化は認められない。若干長頭である。軽度三角頭蓋 metopic synostosisを認める。   
  • 灰白質・白質コントラストは全体的に低下している。脳槽は概ね正常形態を保っているが、8ヶ月児としては脳溝は軽度の狭小化を示していると思われる。通常の死後変化と考えられる所見であるが、窒息など生前の低酸素虚血性障害が加わっていた可能性については評価不能と思われる。
  • 両側眼窩・眼球、副鼻腔、中耳に異常指摘できず。頬の脂肪が多い。全体的に脂肪沈着が多い。何らかの代謝性疾患の可能性はある。
  • びまん性のすりガラス状の透過性低下あり。これに加えて小葉中心性の粒状影、tree-in-bud 様の陰影、さらに濃厚な斑状影も加わっている。死後のCTから生前の肺の異常の有無を判断するのは困難で、この様な肺所見を呈していても組織的には有意な異常所見が認められないとされることはあるが、臨床情報との推測される陰圧性肺水腫による肺出血や細菌性・ウイルス性肺炎などの可能性は推測できると思われる。  
  • 乳児の突然死の主要な原因のひとつとして大動脈縮窄症が挙げられ、この児でも大動脈弓の下で口径の変化がある印象を受けるが、有意な狭窄と言える程度のものではない。肺動脈にも異常は指摘できない。心内奇形や心筋厚は分からないが、心臓全体として大きさは正常範囲内である。心嚢水は大量のものはない。  
  • 大量の腹腔内遊離ガスあり。小腸の拡張は目立たず、結腸内の拡張が相対的に目立つものの、消化管の口径差は目立だたない。腸管の捻転その他の配列異常、腸重積も指摘できない。胃の噴門部~胃底部の小弯側では壁が不連続になっているようで、胃内ガスと胃外ガスが連続しているように見える。小腸はガスで拡張していないのに大腸はガスによる拡張があり、便も多く、一部は水平面形成している(ただ、生前、健康状態は変わりなかったとのこと)。非常に大量の空気漏出であり、胃など上部消化管からの漏出が疑われる遊離ガスの量である。腹腔内遊離ガスは蘇生術による二次的変化と考える。
  • 肝腫大はない。肝の形態にも異常はない。
  • 肝内は濃度が不均一である。一見、脂肪浸潤を疑うがCT値の測定を信頼すると、かなり低吸収域に見える部分でも CT 値は 50~60 程度あり低下していない。脾臓よりも高吸収である。肝内で高吸収に見える部分ではCT値が70から80程度ある。
  • 相対的な低吸収域はある程度、樹枝状に分布しているようにも見える。超音波検査では明瞭な門脈内ガスがあってもCTでは解像されないことはよく経験される。本児でも腹腔内に大量のガスが存在することから、解像されないが、ただCT値の低下をもたらす空気が肝内に存在するのかもしれないが、単に推測にとどまる。
  • 肝が異常に高吸収となり、乳児の突然死の原因となりうる病態としては、糖原病によるグリコーゲン蓄積が著名であるが、本児では肝腫大はなく積極的には考えにくい。またperiosis hepatisなど血管系の異常も肝内の高吸収の原因となりうるが、大出血する場合を除いては突然死の原因ともならず、積極的に提唱する根拠に乏しい。 肝内が不均一であり、何かびまん性の病変が存在する可能性もありえるが、CTでは明確な判断に至らない。   
  • 両側腎、両側副腎、膵は正常形態に見える。脾臓は小さいが通常の死後変化として納得できる程度。腹水はほとんど認められない。  
  • 右精巣は鼠径管内にあって停留精巣である。左精巣は陰嚢内。脂肪織の過剰増殖や女性 化乳房の原因となりうる精巣腫瘍を示唆する精巣の腫大は認められない。  
  • 肋骨は両側とも12本。第1肋骨は小さく頚肋様の外観。肋骨骨折の所見は認められない。 皮下脂肪が目立つが、歩行開始前で“まん丸な赤ちゃん”の状態とだけであるようにも見える。輸液量などを除いて計測した体重などは、月齢平均に比して過大であったろうか。脂肪組織の分布には異常な印象があったであろうか、注意をしてみることを推奨する。  
  • 下肢の筋の断面など相対的に小さい印象を受ける箇所もあるが、同月齢の比較対照例と比べて大きな差はない。  
  • 男児ですでに母体ホルモンの影響を脱しているのに両側前胸部で乳腺組織らしき陰影が見られる。肥満による脂肪組織の過剰は末梢の脂肪組織での女性ホルモンのへの転換による女性化乳房をもたらし得る。本例でも印象的に見えるが、同月齢のホルモンや栄養状態に大きな異常のなさそうな男児と比較しても、本児の乳腺の描出は特に大きなものではない。  

考察

  • 最も顕著な異常所見は大量の腹腔内遊離ガス像である。急変前に潰瘍や壊死腸管があり、そこから空気漏出が起こった可能性は否定できないが、腹水その他の腹部所見がないこと、生前の臨床情報などによれば、蘇生時に胃などの上部消化管から漏出した可能性が高いのではないだろうか。なお念のために付言すると蘇生過程でこの様な腹腔内遊離ガスが生じたとしても、それ自体が蘇生の成否や予後に影響するということはない。
  • 多数の代謝異常が乳児の突然死の原因となりうるが、CTのみで特異的な所見が得られるものは残念ながらごく稀である。本例で肝内の CT 値が高めであることは糖原病の可能性を考えさせるが、肝腫大もなく積極的には考えにくい。本例で代謝性疾患の関与はタンデムマススクリーニングの結果の参照や剖検後の各種検体検査で解決されるべき問題となると思う。
  • 体脂肪の量や分布の判断には読影者間でのバラツキが見られた。本児が同月齢の児の平均に比して身長や体重の平均値に対し偏位しているかどうかは、一見しておく価値があると思う。 乳児の予期しない突然死であり、申すまでもなく感染の関与は慎重に検索されるべきである。本児の肺所見は死線期・死後変化だけで納得できるものであり、また生前に感染所見や呼吸器症状はなかったようであるが、電撃的な肺炎や髄膜炎の可能性はやはり一応考慮されうべきと思われる。髄膜炎については画像的な根拠はないが、肺炎については生前 に変化が生じていた可能性もありえる。
  • 蘇生の過程で気道出血がみられたこと、肺に肺胞出血としても整合する所見があることなどから窒息から陰圧性肺水腫が存在していたという推測は成り立ちうると思われるが 残念ながら決定的なものではない。

担当者名

Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)