症例70

臨床所見

5歳10カ月 女性
要約)20○○年10月に発熱を主訴に受診、ノロウイルス感染症と診断。抗生剤投与。 翌日の午前7時45分家族の前で呼吸停止。8時1分救急隊現着、アドレナリン投与。搬送。心肺停止状態で、蘇生開始。気道確保、骨髄路確保。8時36分病院着。アドレナリン投与で自己心拍再開したがその後、心拍再開せず、9時46分死亡確認。心肺蘇生中止からでAi-CT撮影。解剖なし。


画像所見


脳性麻痺のため脊椎側弯症。


胃食道逆流に対するfundoplicationの時間が経ち、脂肪化した胃壁の一部か。                  


腸管内には、液体が存在し、S状結腸にまで液面形成があり、内部に便塊を認めない。                  

診断

  • 脳は両側大脳半球、中心灰白質、脳幹部、小脳がびまん性に高度の萎縮を示す。延髄・橋の萎縮も著明で、呼吸など基本的な生命維持機構の障害の存在を示唆する。  
  • 右後頭部平坦化の変形あり、右向きの長期臥床生活での成育歴を示唆する。左側頭部に慢性硬膜下血腫が存在するが、脳萎縮と右向き臥床生活を示唆する。
  • 脳には急性の変化を明確には指摘できないが、強い脳萎縮が既に存在し、今回のエピソードの原因となる事象が生じていても指摘は困難であると思われる。また死後変化と生前の障害の弁別も困難であろうと思われる。 
  • 頭蓋骨の肥厚あり、脳萎縮による変化。  
  • 両側上顎洞に粘液嚢胞あり。篩骨洞、蝶形骨洞の含気低下あり。両側中耳の含気はほぼ消失。  
  • 心大血管に偏位・変形以外の異常なし。長期臥床患者のためか、心臓が小さく、脱水であった可能性がある。
  • 気切が行われ、気管内カニューラが入れられている。マクロな気道閉塞はない。
  • 右上葉に無気肺があるが、誤嚥によるものかどうかは不明であるが、死因とするほどのものではない。長期臥床生活患者によく見る沈下性の無気肺の特徴を有する。他の肺は比較的クリア。
  • 両側上葉無気肺は側弯によるものと考える。(側弯、無気肺で検索すると文献あり)
  • 両側多発肋骨骨折、右室自由壁直下のガス粒は胸骨圧迫後変化。   
  • 腸管内には、液体が存在し、S状結腸にまで、液面形成があり、内部に便塊を認めない。高度の下痢状態である。  
  • 脂肪肝。長期TPNや低栄養状態の可能性を示す。   
  • 胃内にリング状の脂肪構造を認める。ポリープではなく、胃食道逆流に対するfundoplicationの時間が経ち、脂肪化した胃壁の一部ではないか。胃瘻が造設されている。   
  • 胆道系、膵、両側腎、脾に異常指摘できず。腹水は骨盤内にごく少量。     
  • 左大腿骨骨折後、周囲浮腫、左股関節脱臼。左大腿骨顆上骨折に対するシーネ固定状態。麻痺性の側弯、麻痺性の股関節脱臼と思われる。左股関節脱臼は右後頭部平坦化とともに右向きの長期臥床生活での成育歴を示唆する。四肢体幹の骨濃度の低下が著明。骨皮質も菲薄化している。骨格筋は萎縮し、脂肪浸潤も著明である。   
  • 右脛骨に骨髄針留置   
  • 脳性麻痺のため脊椎側弯症。  
  • 左大腿骨遠位骨幹端での横断骨折あり。修復反応なく新鮮な骨折に見える。臥床生活による骨密度の低下、筋萎縮、関節拘縮等による易骨折性があったところに、一連の心肺停止、搬送などが行われた過程で生じたものと推測される。骨折の修復反応的には受傷後4~7日以内程度であれば矛盾しないが、骨折の程度に比べて血腫の形成が軽度であり、血圧の低下した状態での骨折であったことを示唆する。   
  • 乳房の軟部組織が目立つ。脳性麻痺による思春期早発症と思われる。   

考察

  • 低酸素虚血性脳症との診断がなされていることに整合する、びまん性の高度の脳萎縮がある。脳性麻痺の状態を反映して、全身の筋萎縮、骨塩低下、麻痺性の側弯、股関節脱臼など二次性の変化が見られる。
  • 急性の変化としては腸管内を充満する腸液が指摘できる。死亡前日に小児科受診にてノロウイルス感染と指摘されている(迅速診断は年齢的に適応外であるが)。確かに小腸・大腸に等しく腸液貯留を認め腸管壁肥厚が目立たない状態は、どちらかといえばウイルス性腸炎を示唆する所見である。CTRXはキャンピロバクター腸炎などのを抑えるempiric therapy として投与されたのであろう。
  • ノロウイルスが原因かどうかは別として、腸管内への液体喪失が著しい状態であり、しかも長期臥床で自ら水分の経口摂取を増加できない患者である。また呼吸循環調節の中枢たる間脳や脳幹部の重篤な障害が存在して、恒常性の維持の能力に著しい低下が予想される状態である。循環血漿量減少による循環不全が死亡の原因として関わっているであろう事が推測される。下痢による脱水が原因ではないかと思われる。
  • 白血球、CRP、プロカルシトニン高値→敗血症疑
  • 貧血、平均赤血球容量と平均赤血球ヘモグロビン量の高値、赤芽球高値→巨赤芽球性貧血

担当者名

Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)