症例69
臨床所見
13歳9ヶ月 男性
要約)基礎疾患に脳腫瘍(小脳Glioblastoma)。今回誤嚥性肺炎の加療目的で入院。入院3日目に痙攣発作あり、CT施行。脳腫瘍増大、脳ヘルニアを起こしていた。元々DNARの方針。肺炎の治療を継続しながら経過観察。
20○○年11月21:52死亡確認。22;:27 Ai-CT実施。心肺蘇生未施行、死亡確認から約30分でAi-CT撮影。
画像所見
脳幹部、右大脳基底核、右大脳半球の大半を浸潤する腫瘍。
両側主気管支以遠にも液体貯留。
診断
-
脳幹部、右大脳基底核、右大脳半球の大半を浸潤する腫瘍があり、脳梁を介して左大脳半球へも進展を示している。内部は低吸収の部分が多いが、石灰化や出血を示すと推測される高吸収領域が混在する。容積の増大が著しく右から左への強い midline shift、テント切痕を越えての下行性のヘルニアを生じている。
脳幹部への腫瘍浸潤と圧迫により呼吸など生命維持に不可欠な機能に重大な障害が生じていたと思われる。
-
前頭骨の右半の開頭が行われ、金属プレートを用いて再建が行われている。
-
大後頭孔減圧術が行われ、大後頭孔後縁をなす後頭骨の部分切除が行われている。クリップが数個認められる。
-
眼窩・眼球:異常指摘できず。
-
鼻腔・副鼻腔:粘膜肥厚や液体貯留による含気の悪化はある。骨性の異常はない。
-
中耳・内耳:含気は概ね保たれている。耳小骨や内耳の骨迷路に異常指摘できず。
-
気道:器質的狭窄を疑わせる所見はない。上咽頭内に低吸収貯留物あり。
-
唾液腺、甲状腺:小さめではあるが概ね正常形態を保つ。
-
指摘できる心の形態異常なし。心腔内に液面形成があり、最終的には比較的急速な転帰をたどったことを示唆する。また積極的な蘇生が行われれなかったことに関連していると思われる。大血管は異常指摘できない。その他縦隔は胸腺は痕跡的。
-
背側肺に広範に含気低下部位が生じている。気管支はこれらの部位でむしろ拡張して見える部位、肺内に気泡が散在して見える像があり、長期臥床により相当時間にわたり無気肺となっていた事や感染の合併を示唆する。気管内に液体が充満しており、両側主気管支以遠にも液体貯留による気道腔の狭小化がある。前記肺陰影からの浸出物が気道内に逆流し、貯留したものと考える。
-
右には少量の胸水が現れている。
-
肝右葉後区域外側を中心にその表面に接して限局的な液体貯留あり。CT値は37~42で血性腹水、貧血時の出血、膿汁、被包化され濃縮した腹水等の可能性を示す。VPシャント中に横隔膜下に被包化腹水を見ることはあるが、本例の撮影時の状況ではシャントチューブとは離れた位置にある。
-
胆嚢が拡大して内腔の濃度が高く、長期経口摂取停止を示唆する。胆道系の拡張は指摘できない
-
両側腎、両側副腎、脾:概ね正常に確認できる。
-
骨盤内にも少量腹水あり。VPシャント中としては量が少なめで、CT値は高く、VPシャントによる髄液のドレナージが減少していたのではないかと推測させる。
-
筋萎縮あり。骨濃度も減少していると思われる。いずれも長期の臥床生活を示唆する。皮下や後腹膜の脂肪組織の軽度ながら広範な浮腫性変化あり。
-
VPシャント:2本のVPシャントが挿入されている。シャントの断裂、経路の異常、シャントチューブ周囲の液体の滲出、腹腔内でのシャント周囲の偽嚢胞形成、腹腔内での先端の迷入など異常所見はない。
-
後頭蓋窩の本来の大槽にリザーバーが挿入されている。
-
PICC:左上肢のbasilic vein を通り、左の腕頭静脈内に先端が認められる。迷入所見はない。
-
前頭部の頭蓋骨の欠損部に4枚の金属(チタンメッシュプレートと推測)を認める。プレートの脱転はない。
考察
-
脳腫瘍の増大による脳幹部への直接進展と圧迫が著明で、呼吸機能など生命維持に不可欠な機能の喪失が起こったものと思われる。
-
脳幹障害により喀痰の強制呼出ができず、気道内クリアランスが非常に低下した状態であった。呼吸運動低下→喀痰貯留→呼吸阻害という終末期にしばしば認められる経過だったと考える。通常、カテーテルによる吸引は鼻腔内吸引、口腔内吸引程度に留まる。カテーテルによる気管内吸引は、気管内挿管チューブや気管カニューレ経由でないと難しい。脳幹が障害された患児にとって気管内吸引は非常に侵襲的で、それ自体が呼吸停止を起こす可能性があったであろう。
-
脳腫瘍、気道内喀痰貯留以外には生命維持を困難にするような状態が発生していたという画像所見はない。
-
デバイスは正常な適用をされており、医原性の意味のある有害事象の発生を示す所見は認められない。
担当者名
Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)