症例68

臨床所見

2歳9ヶ月 男性
要約)20○○年1月発症の左副腎原発神経芽腫(stage4S, MYCN増幅あり)で化学療法、放射線療法、外科的療法を行っていた。20○○年6月から化学療法を開始、7月○日からから熱発し表皮ブドウ球菌による敗血症、DICとして治療を継続していた。7日に痙攣重積発作を認め、頭蓋内播種病変の腫瘍内出血から脳ヘルニアを合併した。 8日13時頃呼吸停止、13時19分、死亡確認。13時47分Ai-CT撮影。(死亡確認から約30分でAi-CT施行)。解剖なし。


画像所見


左側頭葉内側・左視床付近、後頭蓋窩を主な出血点とする大量の脳出血。


後頭骨に骨梁や板間層に粗造化。                  

診断

  • 左側脳室後角から下角内に、周囲を圧排する大きな血腫があり、左側脳室全体、第三脳室、右側脳室、第4脳室内にまで連続している。これらの血腫内に腫瘍混在の可能性はあるがCTでは区別は不可能である。
  • 左側脳室後角から下角の血腫はやや低吸収であり、DICや出血後早期による凝固が相対的に進行していない血腫を見ているものと思われるが、腫瘍であっても見分けはつかないと思われる。左側頭葉内側部分や左視床で血腫が脳実質内に入っている部分があり、穿破により上記の血腫を形成した出血点の可能性がある。
  • 右前頭葉の下前頭回と思われる部分には、脳表に径8mm程度の高吸収結節があり、別の出血点あるいは転移巣と思われる。
  • 小脳の左半球にも表面、実質内に高吸収の領域が相当程度出現しており、左側脳室以外の別の出血点あるいは転移巣が存在する可能性が高いと思われる。
  • 骨条件では蝶形骨の大翼、眼窩周囲、斜台、後頭骨に骨梁や板間層に粗造化、硬化像があり、骨髄・骨転移を疑わせる所見であるが、現時点では骨皮質の破壊像や周辺の明らかな腫瘤形成像がなく、治療後の変化のみを見ている可能性もある。これら斜台周囲や中頭蓋窩内表面、海綿静脈洞内、後頭蓋窩の左半には、高吸収領域が出現しており腫瘍進展の可能性を示すが、出血と区別がつかない。また腫瘍が存在するとしても出血が混在していると推定される。 
  • 脳全体は低吸収化しており脳溝、脳槽の描出が不明瞭化して、びまん性脳浮腫の状態にある。左大脳半球では、白質はさらに低吸収化が強く、灰白質は腫大し、皮髄境界が不明瞭化しており、血腫による圧迫だけでなく転移性病変の存在を示しているのではないかと推測する。
  • 血腫による圧迫により鉤ヘルニアも生じているが、中脳・橋・延髄は周囲の血腫による圧迫が強く内部のdensityにも異常が認められ障害が生じていることは明らかである。
  • 両側前頭骨からVPシャントチューブが挿入されている。チューブの malpositon はない。
  • 脊髄硬膜嚢内には、本来脊髄が存在しない部分に脳脊髄液より高吸収な領域があり、血腫の移動、独立した出血、脊髄硬膜嚢内の播種の可能性を示している。CTのみではこれらの鑑別はできない。
  • 気道内、肺内の含気はAiCTとしては非常に良好に保たれている。生前の過膨張を疑わせる所見もない。   
  • 右肺尖部背側に径7mm大のair space lesionあり。転移より感染巣を疑わせる所見である。左背側下葉末梢に数mm大結節があり、前記と同様の病変かもしれない。他の肺には病変指摘できず。   
  • 心腔内には液面形成が明瞭で、死亡時急速な転帰をたどったことが示唆される。心嚢水、胸水なし。   
  • 中心静脈カテーテルが右鎖骨下から挿入されており、先端は上大静脈と右房の移行部付近に認められる。適正な位置である。   
  • 肝内に不定形な低吸収領域が多発しており、輪郭の変化を伴う。肝転移あるいはその痕跡を見ているものと思われる。肝臓は実質がびまん性に高吸収化(CT値80以上)している。輸血による鉄沈着があるのではないかと思われる。   
  • 肝門部、膵頭部周囲、腎門部などに多発性の点状石灰化あり、腫瘍のリンパ節転移が退縮した痕を見ているものと思われる。   
  • 両側腎は輪郭が不整である。過去あるいは現在の転移や炎症の存在を示唆する。現時点では尿路の拡張は見られない。   
  • 右副腎は正常形態。左副腎は認められず、切除後のクリップが認められる。   
  • 膵は正常形態である。脾臓は小さめであるが通常の死後変化で納得できる範囲内。   
  • 腸管の配列、形態には明らかな異常は指摘できない。上行結腸~横行結腸には壁内気腫が存在するが、蘇生時の空気進入が起こりにくい部位であるため、生前ある程度以前から存在していた可能性がある。生前に敗血症があったことや、小大腸の壁肥厚、内腔ガス貯留による拡張もあり、バクテリアルトランスロケーションを反映した所見かもしれない。   
  • VPシャントチューブの走行経路・周囲に異常なし。   
  • 骨軟部にはこのCTでは転移巣、その他の異常は指摘できない。   

考察

  • 左側頭葉内側・左視床付近、後頭蓋窩を主な出血点とする大量の脳出血により、呼吸中枢の障害を来して死亡に至ったと考えられる。腫瘍転移の存在はAiCTのみでは明示できないが、脳実質内の描出の変化、頭蓋骨の粗造化などから転移の存在が示唆される。

担当者名

Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)