症例65

臨床所見

8歳5ヶ月 女性                   
要約)○年○月○日2680g, 在胎39週3日で出生。直後にチアノーゼ、心雑音指摘、○○病院にて無脾症候群、房室中隔欠損症、肺動脈閉鎖、総肺静脈還流異常、右は胃静脈閉塞の診断で治療開始。○年5月26日に左BTシャント、6月25日に右BTシャント、9月3日に両方向性Glenn手術、肺動脈形成、共通房室弁形成、肺静脈閉塞解除術施行。○年9月4日Fontan手術の術中、肺高血圧のため手術中止。以降内科的治療。○○病院にてフォロー。○年7月28日喀血あり、7月30日入院。31日○○病院へ転院。8月1日体肺側副血管からと思われる大量の喀血直後に突然の心肺停止。1時間半の蘇生処置後心拍再開したが、脳死状態。徐々にARDS悪化。9月13日気管出血を契機に徐脈、14時11分に死亡確認。16時20分Ai-CT実施。(死亡確認から約2時間でAi-CT撮影 )
             病歴)無脾症候群、単心室症、Glenn手術後。
             解剖)なし。


画像所見


左側脳室内には出血が見られる。


左胸腔内に空気漏出が生じている。

診断

  • 皮質、大脳基底核など灰白質は凝固壊死を反映して高吸収化し、白質は軟化の状態になりつつあると思われ、低吸収化している。脳の腫大により脳溝、脳槽は狭小化して認めにくくなっている。左側脳室内には出血が見られる。基底槽なども低吸収化した周囲組織を背景に高吸収化して見える。CT値は高々40程度であり、実際のくも膜下出血よりは軟膜静脈のうっ血などによる、いわゆる pseudo-SAH sign が現れたものである。
  • 低酸素虚血性侵襲により重篤な脳全体の障害となった像であり、心停止後に臨床的脳死状態に陥ったという臨床経過に整合する所見となっている。
  • 右上顎洞、右前後篩骨洞、右蝶形骨洞は含気消失、左蝶形骨洞も含気障害。
  • 死後CTとしては甲状腺が非常に高吸収な印象を受ける。
  • 気管切開状態。右肺は肺尖部を除いて、左肺は腹側肺を除いて、含気が消失している。含気を失った肺は平均でCT値が40~60、最高では90程度を呈しており、臨床的に確認された喀血の吸引像を示していると思われるが、それ以前の無気肺や肺胞浸潤との鑑別はつかない。長期間の人工換気による影響もありそう。
  • 左胸腔内に空気漏出が生じている。左肺の胸膜下にはブラ様の小嚢胞性病変が密集しており、これらのものから空気が胸腔内に漏出した可能性が高いと推測する。空気漏出が生じた生前の時点を推定する根拠には乏しい。死亡時には蘇生処置は施行されていないので左胸腔ドレナージを施行していたという情報に一致する。死因に関与する様な影響を及ぼす空気漏出ではない。
  • 先天性疾患を有する患者の肺では、かなり低年齢から胸膜下にこの様なブラ様の小嚢胞が多発することが知られており、その様な素因の関与があったのではないかと推測する。右肺末梢に点状石灰化あり。性状・起源不明。漏斗胸あり。
  • 右胸心、房室中隔欠損、右大動脈弓などはわかる。Glennで左の腕頭静脈が肺動脈に灌流しているように見える。両側BTシャントの人工血管残置あり。
  • 肺門部の小さな金属陰影あり。MAPCAを塞栓したコイルなどだろうか。または肺高血圧症を呈している場合、肺動脈自体の石灰化も起こるが、その様なものを見ている可能性もある。
  • 心大血管内腔に鋳型状の凝血塊あり。ある程度の死戦期があったことを伺わす。両側頚部、鎖上、腋窩リンパ節の集簇、腫大あり(何らかの感染症の可能性を疑う)。
  • 肝臓は左右横隔膜下の volume は概ね等しいが、右がより大きい。 肝門部は正中。胆嚢は単一で底部は左向き。胆嚢内に高吸収 debris あり。他に胆石疑わせる所見なし。門脈分枝パターンは明確には確認できないが、右側に門脈臍部様の部分あり。  
  • 胃は左横隔膜下にあり。内容物のCT値は平均で65程度。消化管はガスにて拡張著明。8/1の長時間の蘇生処置後であり相当量の呑気があったと思われ、その後9死亡するまで蠕動運動不良であれば、このような状態で矛盾しない。消化管内の高吸収内容は血性のものとして整合する。下大静脈内の血栓に石灰化と思われる点状高吸収あり。骨盤内脈管にも同様の静脈石様陰影あり。
  • 考察

    • びまん性脳浮腫、皮質壊死の像で臨床的脳死にあったという臨床情報に整合する。  
    • 両側肺は含気を失って高吸収化しており、大量喀血の吸引が起こったとの推測に整合する。 肺には胸膜下の小嚢胞の多発が認められ、肺高血圧となる肺構造の荒廃があったことを示唆する。  
    • 画像所見は、MAPCOの発達とそこからの大量喀血、心停止による深刻な脳障害、臨床的脳死からの死亡、という臨床診断を特異的に支持するわけではないものの、矛盾する点なく整合するものであるといえる。  

    担当者名

    Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)