症例64

臨床所見

1歳8ヶ月 男性
要約)○月18日から嘔吐、下痢を認め、夕方に38.5度の発熱あり。救急外来受診。問題なく、帰宅。19日は活気はなかったが、ミルクは哺乳できた。14時に両眼は正中で固定、呼びかけに反応無くなったため、15時過ぎに再度受診。来院時、けいれんあり。呼吸不安定HR220、血圧低下あり、大量の下痢を認めた。ICUに緊急入院。20時10分に心室細動、一時洞調律に復帰するが、再燃を繰り返す。 22時53分死亡確認。20日0時24分 Ai-CT実施。(死亡確認から約1時間30分でAi-CT撮影 ) 既往歴)拡張型心筋症で加療中 解剖)あり


画像所見


心臓は明確な拡大には見えない。


両側の背側肺は含気を失っている。

診断

  • 頭部CTとしては線量が低く、脳内のコントラストは判読が不可能。脳内出血はなさそうだが、硬膜下出血やクモ膜下出血は判断が不能。
  • 脳溝や脳槽を狭小化する様な脳浮腫は発生していないようだ。
  • 脳室拡大なし。このCTで指摘できる形成異常の所見はないが、低線量でノイズが多く、皮質の形成異常などは判らない。
  • 右胸鎖乳突筋腫大と表面皮下脂肪混濁あり(ルート確保に伴う変化)。ルート確保による変化は、両側肘正中、左手背、両側そけい部にも認める。左上腕皮下索状脂肪混濁は何らかの注射痕。両側鎖上リンパ節集簇と脂肪混濁あり(感染に伴う?)。
  • 気管分岐部から両側の主気管支、背側の気管支の内腔にはCT値20~30程度のものが充満している。両側の背側肺は含気を失っている。両側胸水があるようだが含気を失った肺と区別ができない。腹側残肺に小葉間隔壁肥厚と斑状浸潤影あり(間質性、肺胞性肺水腫)。
  • 左肺の縦隔側部、肺底部に気腫があり、長い蘇生術による間質性肺気腫かもしれない。しかし、蘇生術後変化としてしばしば認める心大血管内ガスはない。
  • 心臓は明確な拡大には見えない。ただ輪郭が判らない部分があり、心腔の大きさ、心筋の厚みなどは確実にはわからない
  • 肝臓はびまん性に軽度低吸収化しており脂肪肝の状態であると思われる。胆道系についてはよくわからない。胆嚢径は軽度拡大しているが、壁肥厚はない。内腔に鋳型状高吸収があり、胆泥が考えやすい。
  • 膵は正常位置にあり、輪郭が確認できる。内部の濃度は肝との相対的コントラストの印象を反映してか高めに見える。脾臓は収縮しているが通常の死後変化と見なせる程度。
  • 腹水あり。尾側の両側傍結腸溝や骨盤内に多い。CT値は20台で血性ではない。後腹膜の脂肪組織内に索状陰影が増強しており浮腫性変化の存在が疑われる。小腸レベルでは内腔は水濃度のもので充満している(下痢を反映)。左半結腸は内腔が虚脱している。内腔が虚脱気味のところでは壁肥厚があるようにも見える。閉塞機転はなさそう。S状結腸は過長で、下行結腸は通常より内側を走行しており、後腹膜に固定されていないよう。盲腸は通常よりも頭側にあり、かつ腹壁直下に位置している。  
  • 膀胱は虚脱しており、内腔にガス貯留している(尿道バルーンカテーテル留置、抜去後)。両側精巣は鼠径管内にある。
  • 与えられた画像の範囲内では骨折を示す所見はない。ただし骨評価用の関数の使用や骨の観察に適した断面の再構成が行われておらず、評価は限定的なものにとどまる。全身筋肉は萎縮しているが、特に殿部~大腿でそれば目立つ。寝たきりであったためか、筋肉量が少ないが、皮下脂肪の量は多く、栄養不良ではない。

考察

  • 両側肺は生前からあるいは死戦期の強い肺水腫の状態を示していると思われる。腹水、後腹膜の浮腫性変化は生前からの右心不全の存在を示していると考えられる。
  • 基礎疾患に拡張型心筋症があり、記録にある様に心室頻拍から心室細動など致死的な不整脈を生じて死亡したという推測がまず考えられる。画像所見から死因は特定できないと思われるが、その様な推測には整合する。

担当者名

Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)