症例63

臨床所見

3歳3ヶ月 男性                   
要約)21 トリソミー、房室中隔欠損症心内修復術後
             病歴)◯年◯月◯日にcomplete AVSDに対して心内修復術を施行。術後4日に抜管。6日目に一般病棟に帰室。その後徐々に MR,TR 悪化し、心不全状態増悪。翌年◯月◯日 カテーテル施行。検査後、気管内出血持続し、心不全管理に努めているが、気管内出血が持続、心不全状態回復せず、MRに対しMVR 実施。その後も呼吸、循環動態は不安定な状態。ECMOから離脱できず、ICU で集中管理されていた。 ◯月◯日朝方右瞳孔散大CT 施行、脳出血あり。昼頃、左瞳孔も散大。夕方再度 CT 実施、脳ヘルニア悪化。その後も脳出血改善せず、 ◯月◯日9 時 15 分永眠された。
解剖)なし


画像所見


右側脳室内に穿破する右大脳半球からの急性期出血。


膵腫大・内部濃度低下、輪郭不明瞭化、出血と思われる高濃度。                   


肺は含気を失って高吸収化。                   


胃の大弯側に接して限局的な液体貯留。                   

診断

  • 右側脳室内に穿破する右大脳半球からの急性期出血が存在し、右から左への midline shift、downward herniation を生じている。出血は左側脳室、第三脳室、第IV脳室、大槽から髄外のくも膜下腔にも流出している。出血点はピンポイントでは同定できない。    
  • 脳実質はびまん性の低吸収化を示している。downward herniation による脳幹部の圧迫も強く、呼吸障害等から生命の維持が困難な状態に陥っていると思われる。
  • 出血による正常構造の変化が著明で、出血前に脳内に血管奇形や形成異常、過去の水頭症や破壊性変化が存在したかどうかについては判読できない。
  • 眼窩、副鼻腔には異常は指摘できない。 両側中耳の含気が失われている。内耳の骨迷路に異常指摘できず。
  • 頬部の皮下脂肪が過大である。咬筋や脊椎周囲の筋の萎縮が著明である。
  • 小児であることを考慮しても頸部のリンパ節が目立ち腫大があると思われる。(何らかの感染か?、病的意義不明)。
  • 鼻腔、咽頭、気管には外圧迫、内腔狭窄の所見なし。内腔には水濃度のものが充満している。心不全による肺水腫に伴う気道内への浸出物逆流や気管内出血に関連している所見だが、通常の死後変化の範疇内の所見(終末期入院患者の死後 CT では高い頻度で認める所見)。
  • 両側肺は、右の腹側の一部を除いてほぼ完全に含気を失っている。含気を失った肺のCT値は平均で70か80程度の到達しており非常に高い。CT値が100を超えている部分もあり、肺出血を見ているだけでなくヘモジデリン沈着なども進行していたのではないか。わずかに含気の残っている右肺の腹側部分では肺胞隔壁は肥厚し、air space consolidation が生じている。
  • 両側胸水が認められる。胸水の CT 値は高々20 程度であり、出血の割合や蛋白濃度は高くないと考えられる(炎症性の滲出性胸水ではなく、非炎症性 の漏出性胸水)。
  • 甲状腺は正常位置に正常大で認められ、内部の CT 値が低いが通常の死後変化の範囲内。胸腺は萎縮している。前胸壁の手術部位に少量の液体貯留あり。縦隔脂肪の増生が見られるが心臓手術後には見られる所見。
  • ASVD 修復術後の膜状の人工物、MRV 後の人工弁あり。これらの人工物には意図された位置からの逸脱や破損は指摘できない。心嚢液あり。高々5mm程度の厚みで心タンポナーデを起こす様な量ではない。
  • 肝の大きさ、位置、形態に明らかな異常は指摘できない。脂肪浸潤指摘できない。肝臓の前後面近傍に腹腔内遊離ガスあり(ECMO あるいはドレーン抜去などの可能性)。
  • 胆道系の拡張は指摘できない。胆嚢壁は低吸収で、壁肥厚している。心疾患の存在を考えると右心不全の所見としての壁肥厚の可能性が指摘できる。胆嚢内は高吸収で濃縮胆汁や胆砂貯留の状態にあると思われる。長期間の経口摂取の停止があったと思われる。
  • 膵腫大あり、膵の内部 density も低めである。死後の膵融解像と区別が困難だが、死亡確認2.5時間後の死後CTにしては分葉が不明瞭な印象があり、生前に膵炎の変化が存在していた可能性が指摘できる。膵には部分的に高吸収で石灰化や出血を疑わせる部分がある。
  • 胃から小腸、結腸にいたる広範囲の腸管壁腫大、腸間膜脂肪組織の混濁がある。原因は確定はできないが、心不全や膠質浸透圧低下の関与が考えられ、さらに腸管壁高吸収化は、充血、びらん、出血を反映していると考える。
  • 胃の大弯側に接して限局的な液体貯留があり横行結腸周囲にまで連続している。同部には高吸収水平面形成があり血液を混じている。上記の辺縁不明瞭化した膵に直接接しており膵炎の波及による浸出物の可能性がある(網嚢内または胃結腸間膜に沿った被包化液 体貯留内の血性浸出物疑)。他には心不全や膠質浸透圧低下の関与が考えられるが、それで はこの部分のみ液体貯留する理由は説明できない。
  • 腹水は少量認められる。右腎萎縮、左腎の代償性肥大があり左右差が顕在化している。右腎萎縮の原因を推測させる所見は指摘できないが、右腎に嚢胞性病変なく、石灰化もなく、上部尿路の拡張も指摘できない。脾は小さめであるが通常の死後変化の範囲内。
  • IVC から右腸骨静脈内に壁在血栓の石灰化が複数見られる。カテーテル留置歴を示すが 病的意義乏しい。
  • その他、頸部以外の皮下組織の浮腫が著明。また 21 トリソミーであることを考えても筋量が異常に減少しており、相当期間臥床の状態となっており、咀嚼なども行われていない状態であったと推測される。撮影されている範囲内では、骨に外傷性変化は見られない
  • 考察

    • 右側脳室内に穿破する右大脳半球からの急性期出血が存在し、右から左への midline shift、downward herniation を生じている。脳幹部の圧迫も強く、呼吸障害等から生命の維持が困難な状態に陥っている。  
    • 肺は含気を失って高吸収化しており、肺出血が相当存在していたことを示唆する。  
    • 膵腫大・内部濃度低下、輪郭不明瞭化、周囲の液体貯留など膵炎を考えさせる所見がある。  
    • 全身浮腫著明、筋萎縮著明。  
    • 心内修復術後、僧帽弁置換後。意図せざる逸脱や破損は指摘できない。  
    • 直接死因は脳出血、脳ヘルニアの圧迫による脳幹部の機能障害である。  

    担当者名

    Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)