症例62

臨床所見

3歳2ヶ月 女性                   
要約)窒息
             病歴)先天性水頭症あり、胃瘻栄養や神経的な管理のため、○○病院通院中。数日前から家庭内で上気道症状が流行しており、本児も○月24日頃から鼻閉が目立っていた。25日から活気が乏しい印象があり、夜からSPO2低下して、在宅の酸素を使用していた。26日も同様。27日午前3時頃には呼吸を確認。4時頃に呼吸停止に気がつき救急要請。現場にて搬送の適応なしと判断、状況死因把握のため、自家用車で警察とともに来院。27日9時50分Ai-CT撮影(呼吸停止に気がついてから約5時間50分でAi-CT撮影 )解剖なし。
既往歴)先天性水頭症
処置)胸骨マッサージ
病院での読影)著明な水頭症、頭蓋内出血なし、両肺に広範なすりガラス影、浸潤影あり、crazy pavement pattern。気管内及び気管支内に内容物充満、含気なし。肺野は誤嚥による変化か、肺水腫を反映するのか。


画像所見


上咽頭には泡が下に沈んだようになった液体。


喉頭蓋部分には、液面形成があり、あわ粒が混じっている。                   


固形物様に見える部分がある。                   

診断

  • 頭部は両側のschizencephaly に水頭症を合併した状態であり、前頭葉の内側部分や、右頭頂葉の一部、後頭葉が菲薄化して残存している。残存している前頭葉の皮質形成は異常で多小脳回様に見える。シャントが行われている。シャント断裂は無い。腹腔内で一回転している。先端は左鼠径付近にあり、腹水が存在するため、シャントは行われていると思われる。    
  • 両側視床は存在が確認できるが、大脳基底核は存在が判らない。小脳皮質も菲薄化しており、橋底部も非常に萎縮した状態である。下垂体は明瞭には確認できない。下垂体柄らしき構造と後葉の高信号らしき構造が認められるがいずれも明瞭ではない。3歳2か月にも関わらず、大泉門は開いており、脳圧は高めだったの可能性がある。
  • 両側の嗅球は概ね正常形態で認められる。
  • 両側MCAはsupraclinoid portionの分岐部付近では確認できる。非常に細い。両側椎骨動脈から脳底動脈、右上小脳動脈は存在している様に見える。静脈洞は上矢状静脈洞、右横静脈洞、右S字静脈洞は確認できる。
  • 両側視神経は正常より細い。左眼球は前眼部が狭小化している様に見える。右眼球は眼内出血の後があり小眼球症を呈している。CT時には右は義眼様のもが認められる。左も厚いコンタクトレンズ様のものを装着している様に見える。
  • 上咽頭には泡が下に沈んだようになった液体(固形物が混じっているかもしれない)、Se:102では、70度くらい左に回転させると後鼻腔部分に水平面があり、固形部がある。
  • 胸郭内で気管内にやや高吸収の物質が充満しており、気管・気管支の気腔が消失している部分の長さが長い。気泡と混在している部分も多い。気管内には液体と固体が混在した様に見える。真中が凹み、粘稠な液体と思われる。image40/198で、固形物様に見える部分がある。image10-12/198 喉頭蓋部分には、液面形成があり、あわ粒が混じっている。固 形物混じりの液体と思われる。
  • 肺野はCT値が平均で30から40に達しており最大で80に達する部分もある。
  • 肺は網目状に見え、元施設の読影にある様にcrazy-paving patternとの表現は妥当すると思われる。もちろん細菌性肺炎をはじめとする様々な感染症、肺水腫、肺出血など様々な病態で現出する所見である。
    この方の場合、肺、気管・気管支の高吸収物での閉塞、と言う所見は死後変化だけでなく生前の状態を反映していると思われる。すなわち肺炎や誤嚥などの肺胞内浸出性変化があり、同時に中枢気道のレベルでも閉塞機転が生じていたことが推測される。
  • 肝、胆道系、右腎、膵、子宮は内部の情報に乏しいが、位置、輪郭、大きさなどに異常は指摘できない。左に腎結石が数個認められる。脾は萎縮しており生前の臥床生活と死後変化を反映していると考えられるが、病的意義はない。  
  • 胃瘻が造設されている。胃瘻周囲に異常指摘できず。胃内に食物あり。腸管の配列、口径、壁、内容物に特記すべきことなし。
  • VPシャントチューブと走行部位周囲の異常指摘できず。腹腔内液体貯留量はVPシャント中としては少ない。大腸内には、便があり、皮下脂肪はあり、栄養補給は良好であったと考えらえる。
  • 与えられた画像の範囲内では骨折を示す所見はない。ただし骨評価用の関数の使用や骨の観察に適した断面の再構成が行われておらず、評価は限定的なものにとどまる。
  • 両側大腿骨頭は外側上方に偏位して脱臼位にある。臼蓋形成不全があり早期(乳児期)に脱臼していたことを示唆する。
  • 腰椎レベルで左へ凸の側弯となっている。麻痺性側弯であると考えられる。脊椎周囲および臀部の骨格筋の萎縮と脂肪浸潤が目立つ。
  • 考察

    • Schizencephalyとそれに合併する水頭症、皮質形成異常、脳幹部・小脳形成異常が認められ、肺では広汎な肺胞内浸出性変化と気道の閉塞を確認している。  
    • 死に至る過程を推測すると、胃内からの逆流した固形物混じりの液体を誤嚥したものと考えられる。その一部が上咽頭、中咽頭に残っている。この方には生前から肺炎や誤嚥によるによる肺胞内浸出性変化があり、誤嚥などにより気道閉塞から死亡に至ったのではないかという仮説が提出できる。  
    • 本児の様に、重篤な脳奇形で脳幹機能が大きく損なわれている状態では、咳嗽反射などにより通常は重篤な事態に至らない気道分泌物の亢進などの状態であっても、ときに致死的になりうることはよく経験されるところである。  

    担当者名

    Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)