症例60

臨床所見

1歳11ヶ月 女性
要約)不詳の死。
             病歴)21 trisomy。imcomplete AVSD, bil SVC, 気管軟化症、左下葉枝軟化症、下咽頭軟化症、人工呼吸器管理中(high PEEP)、○月○日 17時頃、外出から帰宅。在宅用の酸素に切り替えた。17:20 頃子供の顔色が悪いことに気がつき、人工呼吸器の電源が入っていなかった。 救急隊到着時、心静止。人工マッサージをしながら 17時57分搬送。 18:36 死亡確認。19:28 Ai-CT 実施。解剖あり。


画像所見


左下葉無気肺。


肋骨骨折を認める。


肋骨骨折を認める。


肋骨骨折を認める。

診断

  • 頭部はノイズが多く詳細は判読不能。脳室拡大はない、前頭葉の相対的なvolume低下や弁蓋部の低形成など 21 トリソミーの形態的特徴が見られる、ということはかろうじて判る。硬膜下出血など頭蓋内出血の有無の判断は信頼できない。生前の脳浮腫の発生などの判断も困難であると思う。 頭蓋骨骨折の存在は指摘できないが、軸位断像のみの再構成のため、再構成スライスと平行に近い骨折は見落とす可能性がある。
  • 眼窩、鼻腔に異常指摘できず。両側の上鼓室では含気が消失している。
  • 環椎の前弓は未骨化である。環椎は軸椎に対して通常より前方に偏位しており環軸椎不安定性の存在を示唆するが、C1-2 で脊髄硬膜嚢の圧迫は発生しておらず、脊髄余裕空間は確保されている様に見える。 /li>
  • 気管切開が行われており気管内カニューラが挿入されている。気管から左右主気管 支レベルまで内腔は明瞭に確認され、狭窄や異物により閉塞所見は指摘できない。
  • 右上葉、右中葉 S5、右下葉 S7、右上葉 S1+2、S4、左下葉 S6、S9、S10 は無気肺の部分が大きく、他の部分は代償性に過膨張しているように見える。barotrauma の影響を受けやすい腹側にも無気肺や線維化を疑わせる境界明瞭な線状影があり過膨張所見と混在していることから、死戦期に形成された無気肺ではないと思われる。臨床診断にある様に気管軟化として整合する所見であり、また人工換気の影響、加えて臥床生活によるいわゆる沈下性肺炎などを見ているものと思われる。
  • 心臓は心筋と内腔との分界が得られていない。情報はあまり読み取れない。冠状溝の脂肪組織がこの年齢としてはやや目立つ印象。LMT らしき脈管が上行大動脈から分岐しているのが確認できる。 胸水はない。心嚢水は判らない。
  • 肝、両側腎、両側副腎、膵に異常所見は指摘できない。脾臓は小さめであるが正常死後変化として納得できる程度。
  • 腸管の異常拡張像なし。胃内容がある程度充満している。胃内容に異常な高吸収など特徴的な所見なし。直腸内には大便もあり、食事は与えられていたと考えられる。
  • 心臓と下行大動脈と横隔膜の間に低吸収の紡錘形の構造物がある。内部が均一であるので、前腸奇形(重複食道)の可能性もあるが、胃食道逆流による食道の拡張ではないかと思われる。
  • 腎下極レベルでの腹部中央で腸間膜が丸く一塊となったような像が現出している。内ヘルニアや腸管の固定異常を疑わせる端緒となり得る所見だが、このCT だけでの明確な判断は不可能。 腹水はない。
  • 右第 2、3、4 肋骨、左第 2、3 肋骨の前方で内側に屈曲する形での骨折あり。修復反応確認できず受傷時期不明。肋骨後部骨折確認できず。肋骨骨折は蘇生時のいわゆる心 臓マッサージの際に生じるものとして矛盾はしないが、それより以前の受傷である可能性も否定されない。  
  • 上肢には CT では骨折確認できない。下肢は撮影されていない。
  • 考察

    • 「人工呼吸器の電源が入っていなかった。」ということが事実なら、呼吸不全から死に至ったとの推測が行われているのだろう。CT では死に至るような著しい脳浮腫、相当量の出血、気道の閉塞などの所見は現れておらず、呼吸器停止による死亡という推測に矛盾はしない。 「人工呼吸器の電源が入っていなかった。」という原因は然るべきものの調査に適切に行われるものと思われる。  
    • 虐待による頭蓋内出血があったか否かについては、主に低線量すぎる撮影条件のため評価不能である。骨格系では両側で5箇所の肋骨骨折が認められた。その他の損傷は指摘できない。しかし骨格系の評価も、両下肢が撮影されていないこと、肋骨の走行面や個別の長管骨の長軸に沿った薄層の再構成画像などが作成されておらず、概括的な評価にとどまる。  

    担当者名

    Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)