症例59

臨床所見

0歳1ヶ月 女性
要約)◯年◯月◯日自宅で母親が沐浴中に故意に湯の中に児を沈めた。その後、母親自ら救急要請。 午後0時54分救急隊接触時、意識はなく心電図上も心静止の状態。心肺蘇生をしながら午後1時7分◯ ◯病院到着。1時8分収容、心肺蘇生を開始。1時50分蘇生に反応せず、死亡確認。 処置)気管挿管。末梢ライン確保、生食輸液、アドレナリン、炭酸水素ナトリウム投与、 胸骨マッサージ。解剖あり。司法解剖。


画像所見


鼻腔内に液体貯留。


脂肪肝。


気管内にも液体貯留。僅かに空気を含む。

診断

  • 脳の灰白質と白質のコントラストは減弱している。頭部CTとしては低線量撮影であるため単に撮影条件によるものか判断が難しくなるが、小脳がやや高吸収に描出される生理的な状態は描出されており、実際に灰白質と白質のコントラストは低下しているのであろう。 ・脳溝や脳槽の描出は正常大であり、脳の腫大は生じていないことから、灰白質と白質のコントラストの低下は死後変化を見ているものと思われる。灰白質と白質のコントラスト低下以外の異常所見は指摘できない。すなわち頭蓋内出血、破壊性変化の痕、形成異常などは認められない。
  • 延髄、脊髄にもCTでは異常は指摘できない。脊髄円錐の下端は第1腰椎背側レベルにあり正常高位である。仙骨管レベルの脊髄硬膜の中心付近に脂肪濃度あり脊髄終糸脂肪腫があると思われる。CTで見る限りは積極的な病的意義なし。
  • 鼻部分が鼻汁と思われる空気を含んだ軟部組織に占められており、鼻腔には水平面を作る液体貯留あり。副鼻腔の一部に液体あり。両側中耳の含気に異常なし。内耳の骨迷路に異常指摘できず。 /li>
  • 咽頭、気管には外圧迫、内腔狭窄の所見なし。内腔には水濃度のものが充満している。内部は不均一、鼻汁などと真水が混じったものか。溺水・肺水腫に関連している可能性がある。
  • 両側肺は、右の腹側の一部を除いてほぼ完全に含気を失っている。含気を失った肺のCT値は平均で37から40程度である。生理的にも間質の割合の高い乳児早期の肺であり生前の状態を推測することは難しい。
  • 甲状腺は正常位置に正常大で認められ、内部のCT値も比較的死後の低下が少ない。  ・胸腺は正常形態。両側の乳腺も生後1ヶ月の女児として正常大。  
  • 心停止後としては右心系の大きさが小さい印象を受け、生前循環血漿量の低下などがあったことを示唆する所見などではないかとの推測を促すが明確なものではない。心内奇形は評価できず。大血管の分岐は定型的。
  • 肝の大きさ、位置、形態に明らかな異常は指摘できない。肝内部は右葉中心に低吸収化している。両腕によるアーチファクトは生じているが横隔膜と明瞭なコントラストを形成しており実際に脂肪浸潤が存在すると思われる。この児の栄養状態は正常であったのであろうか。貧栄養、過栄養、栄養の偏りなどがないのであれば、呼吸鎖異常やウイルソン病などの脂肪肝を来す疾患も鑑別対象としたほうが良いと思われる。
  • 胆道系の拡張は指摘できない。胆嚢は肝下面にあり収縮していないようだ。膵の大きさ、形態、位置、周囲に異常は指摘できない。
  • 腸管内腔はガスで拡張。蘇生時に注入されたものではないかと考えられる。一部に腸管気腫の可能性や腹腔内遊離ガスの可能性が指摘できる気胞もあるが極微量であり、また病的意義はない。腸管の捻転や通過障害を疑わせる所見はない。腸管壁腫大もない。便は肛門入口まであり、低酸素による脱糞を表していると思われる。腹水は存在したとしてもごく少量。
  • 両側腎は、正常大、正常位置、腎盂腎杯尿管の拡張は指摘できない。ただし腎内部の吸収値が不均一な印象を受ける。皮質がやや高吸収なのか髄質が低吸収なのか不明。病的意義の有無も不明。膀胱は虚脱している。脾は小さめであるが通常の死後変化の範囲内。  
  • 子宮は生後1ヶ月の女児として正常大。右卵巣は径1.5cm大、左卵巣は径1cm大で正常位置に認められる。子宮は生後1ヶ月の女児として正常。 
  • その他、撮影されている範囲内では、骨に外傷性変化は見られない。両側大腿骨の近位骨幹端直下の骨濃度が薄いかもしれない。そうだとすると栄養不良や先天感染の所見の可能性が出てくるが、上腕骨の近位骨幹端などには不明瞭であり、確診出来ない。
  • 考察

    • 脂肪肝が著明である。栄養状態の異常、薬物・異物の飲用の可能性、代謝性疾患の可能 性を考えるべき。  
    • 鼻腔及び気管内の液体貯留を認める。肺は含気を失って気道内に水濃度のものが充満している。溺水としても整合しうる所見と思われるが特異的ではない。  
    • 脂肪肝が生じていることから、養育状況の異常の可能性等を考えるべきと思われる。  
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    担当者名

    Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)