症例58

臨床所見

1歳5ヶ月 男性
要約)○年12月10日20時頃母と入浴。母が児を一人にしたまま、15分くらい離れたときに溺水。発見時心肺停止。救急車で来院し心肺蘇生を行い、約1時間後に心拍再開。ICUに入院し集中治療を行うが、蘇生後脳症のため死亡。12月25日午後3時10分死亡確認。16時19分 Ai-CT撮影。(死亡確認から約1時間後にAi-CT撮影 )


画像所見


心筋腱の石灰化がある。


胃内に食物残渣があり、消化されていない。

診断

  • 脳はびまん性に低吸収化し、皮髄コントラストは減弱、脳室・脳溝・脳槽は不明瞭化している。大脳鎌や脳表の脈管が相対的に高吸収に描出され、いわゆるpseudo-SAH sign をなす。基底核はやや高吸収に描出され、CT reversal sign の痕跡を示す。びまん性脳浮腫から脳軟化に移行しつつある状態と推測される。1時間に及ぶと推測される心停止後、2週間程度を経過した像としては整合する像と思われる。
  • 骨条件では頭蓋骨骨は発見できない。縫合が離開しており脳浮腫の状態を示す。右側頭部と左後頭部の軟部組織腫脹が強く、最終段階で顔が右向きで管理されていたと推測される。
  • 両側の眼窩、眼球、副鼻腔、中耳、内耳の構造にこのCTでは異常は指摘できない。甲状腺、両側耳下腺・顎下腺は通常位置にある。 /li>
  • 気道は咽頭、喉頭レベルでは舌根沈下や水濃度に近いもので内腔が充満している。外圧迫像は認められない。皮下組織より深部の間質での浮腫が強い。
  • 気管から少なくとも葉気管支レベルまでは内腔が開存しており漏出液も見られない。内腔は正常口径だが、壁肥厚がある。肺は無気肺(荷重部無気肺、胸水による受動無気肺)、CT値が20未満と低濃度の両側胸水あり。
  • 左心室の乳頭筋に石灰化あり。心筋障害の存在を示す。溺水・心停止のエピソード時点の虚血による心筋障害の所見と解釈して矛盾しないと思われるが、この石灰化所見からはそれ以前の心筋障害の存在の可能性も考えられる。心腔、大血管内は低吸収になっている。
  • 心室中隔は高吸収化しているが、壁厚は通常に見える(初期死後硬直か)。心房中隔は不明。大血管の分岐に異常は指摘できない。右鎖骨下静脈、右房(特に右心耳)内にガス粒があり、12/10蘇生時に蘇生術後変化として発生したガスが残存しているか、または初期死後変化(腐敗)と考える。
  • 胸腺は内部不均一。肋骨骨折なし。
  • 下部食道内は水濃度の内容物が充満しているが、上部・中部食道内は内腔拡張していない。
  • 腸管内に大量の低吸収の液体貯留が生じている。小大腸壁肥厚あり。胃内に食物残差があり、消化されていない。溺水による風呂水の飲み込みにより胃液が希釈されたために、12/10の夕食の消化が遅延したものではないか。腹水は少ない。肝、両側腎は容量が少なく萎縮傾向を示す。肝内門脈周囲浮腫と胆のう漿膜下浮腫がある。肝静脈内ガス像あり。右房内ガスと同様に、12/10蘇生時に蘇生術後変化として発生したガスが残存しているか、または初期死後変化(腐敗)と考える。膵の輪郭は明瞭で萎縮は目立たない。脾臓は死後の撮影としては容量減少が少ない。胆嚢内腔の吸収値が高く濃縮胆汁の状態にあると思われる。
  • 膀胱内容が多く、内腔の少量ガス貯留がある。おそらくバルーンカテーテルが留置されていたこと、終末期は乏尿になることからは奇異な所見。内容物の吸収値は高くないものの、渦を巻いているようにも見えるが、連続的にみると、膀胱左を中心とした螺旋状に見えるので、ヘリカルアーチファクトと思われる。CT台の中心と一致する。  
  • びまん性脳浮腫から脳軟化に移行しつつある像、石灰化を伴う心筋障害の像が認められ、肝、腎など腹部臓器の萎縮も生じつつある。何らかの不整脈が生じた可能性もある。 心停止から蘇生後の重篤な臓器障害像と終末期の心不全や膠質浸透圧低下などによる全身浮腫の像を見ている。
  • 考察

    • 1時間に及ぶと推測される心停止後、2週間程度を経過し、臨床的脳死に近い状態を経て死亡した像としては整合すると思われる。  
    • 風呂で溺水を引き起こすような素因(神経学的な異常)、不適切な養育を受けていた痕跡はこのCTからは指摘できない。  
    • 純粋な偶発的事故か、何か身体的な素因があって溺水したものかを区別する所見は得られなかったが、家庭内の事故から死亡に至った事例であり、基礎疾患の有無、養育状況や育児に用いられた器具や家財の安全性などを含め、多面的な角度からCDR(チャイルド・デス・レビュー)が行われることが望ましいと考えられる。  
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    担当者名

    Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)