症例57

臨床所見

10歳 男性
要約)朝の歯磨き中に咳込み、吐血して、かかりつけの病院を受診。特に問題ないとして16時頃帰宅。その後、ご飯も食べられていた。22時頃就寝。22:40ころ吐血あり、だんだんと意識がもうろうとなってきたため、救急要請、覚知22:57,現着23:04,病着23:18, RR6, PR48, JCS300, 血圧×、車内で心静止、CPA、CPR1時間施行、蘇生せず。◯年◯月◯日0:25 死亡確認。0:53 AiCT撮影。  既往歴) アラジール症候群。肺動脈閉鎖症、心室中隔欠損症、主要大動脈肺動脈側副血行路、右内胸動脈右下肺動脈シャント術後。解剖なし。


画像所見


気管挿管チューブ内に液体が存在。


小葉中心性のすりガラス状透過性低下から air bronchogram を伴った容積減少を伴わない濃厚陰影まで、様々な程度に気腔を埋める病変が両側肺に広範囲に認められる。


胸椎には蝶形椎体が多発。

診断

  • 語られている死亡状況との照合について言及すると、うつぶせによる窒息事故であるということを示す所見はないが、その可能性を否定する所見も認められない。

解説

  • 頭蓋内出血の所見なし。灰白質・白質のコントラスト低下あり、体積変化は小さく、通常の死後変化によるものと推定できる。
  • 両側側脳室脈絡叢内に石灰化、右には脈絡叢嚢胞あり。 静脈洞・大脳鎌・小脳テントの高吸収化あり。右の後交通動脈が非常に太い。血液就下の影響が当然考えられるが、生前チアノーゼが強い状態であり、その影響も考えられる。
  • 過去の破壊性変化の痕なし。形成異常を疑わせる所見なし。骨折なし。
  • 両側前頭脳表、右尾状核頭部、左小脳脳表に血管内ガスあり。蘇生術後変化だが、来院時心肺停止状態で搬送された後に死亡した症例で典型的に認めるガス分布(主に後頭蓋窩、静脈洞内に認める)とは異なること、左咬筋~外側翼突筋~耳下腺の境界領域にも血管内ガスがある(静脈だと虚脱するので、おそらくは外頚動脈分枝)ことから、動脈内ガスと考える。
  • 胸部は小葉中心性のすりガラス状透過性低下から air bronchogram を伴った容積減少を伴わない濃厚陰影まで、様々な程度に気腔を埋める病変が両側肺に広範囲に認められる。右上葉、右肺中葉に特に濃厚陰影がある。気腔を埋める病変であれば全てこのように見え、所見自体は非特異的ではあるが、臨床経過を考えると、大部分は肺出血を吸入した像と考えられる。その出血点としては、肺動脈閉鎖からMAPCA(主要体肺側副血行依存)の発達によって異常拡張した肺胞や気管支表面の血管が想定される。異常陰影の中でも特に濃厚な、右上葉や右肺中葉に出血点があるのではないかと推測する。末梢気管支内には粘液栓の様な異物があり、喀血の誤嚥と思われる。縦隔にはMAPCAを塞栓したコイルが多数認められる。
  • 撮影時、気管内チューブは右主気管支に入っている。気管挿管チューブ内に液体が存在し、右下葉枝内に液体が連続している。チューブ直下でCT値が70HUほどであり、血餅に一致する。両側鎖骨下静脈、左内頚静脈、両側腕頭静脈、左上大静脈内にガス粒あり(蘇生術後変化)。心腔内(右房、右室自由壁沿い、左室心尖部)、冠静脈に連続する左室心筋血管内には蘇生時に生じたと考えられる少量のガスが認められ、右心系で発生したガスが右→左短絡(心室中隔欠損)を通って左室腔内に到達し、大循環系へ拍出され脳内など末梢にも少量分布している。
  • 右肺の cardiophrenic angle の部分に少量の気胸がある。ただしその部分では側副路の破断によって生じる出血は見られない。循環状態が悪化してからの蘇生過程での空気漏出であろうか。
  • 腹部には蘇生時のバッグバルブマスキングによる換気により、胃はガスで拡張している。また胃内に比較的高吸収の内容物の貯留あり、液面形成を示している。おそらく喀血を嚥下したものが多く胆管形成不全による肝不全で凝固系の異常があり、出血が止まりにくかったものと思われる。
  • 横隔膜下、肝周囲には、液体貯留があり、腹水である。門脈周囲浮腫、胆嚢漿膜下浮腫を認める。左腎は萎縮または低形成を示しており、多発嚢胞と点状石灰化を伴う。
  • 胸椎には蝶形椎体が多発しており、第10胸椎は、完全に分離しているアラジール症候群に一致する。
  • 解説

    • AiCTでは、喀血が生じこれが肺の広範な範囲に吸引された像が観察されている。患者は、アラジール症候群の主要症候の一つである肺動脈閉鎖で、著明なMAPCAの発達が生じていたと考えられる。気道系に異常血管があり、これが破綻して喀血が起こり、呼吸不全また失血自体による循環不全も加わって死亡に至ったものと考えられる。  
    • 患者は肺動脈閉鎖で、他院で外科手術が行われた後に受診していた。 MAPCAや肺血管床の問題で常に低酸素の状態であった。パフォーマンスステータスは悪く、すでに外科的治療の適応はないと診断されており、在宅酸素療法を行っていた。受診時はご家族が確認しただけで135mlの喀血が認められ、血中ヘモグロビン値は19g/dl程度から16g/dl程度へと低下していた。胸部単純X線写真で右中葉の含気低下が認められ、同部位からの喀血と推測されている。  
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    担当者名

    Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)