症例56

臨床所見

2歳1ヶ月 女性
要約)出生時、早産で入院した。 ◯年◯月に肝芽腫の診断を受け、化学療法と手術を受け、その後寛解し自宅退院した。◯年◯月◯日発熱があり、近医受診して夏かぜの診断。発熱が治まらないため再受診した。◯月にイベントに出かけたが、調子が悪くなり途中で帰宅するため駐車場に向かっていた途中に意識レベルが低下し、救急通報を依頼、病院へ来院。初期波形Asystole. CPRを施行. 15:03CPR中断、PEA。15:10 死亡確認。15:39 Ai-CT撮影。 既往歴) 肝芽腫


画像所見


右室より左室の内腔の方が大きく描出される。


門脈周囲域の拡大と低吸収化が目立つ。


腸間膜脂肪内にリンパ節腫大または門脈瘤あり。

診断

  • 語られている死亡状況との照合について言及すると、うつぶせによる窒息事故であるということを示す所見はないが、その可能性を否定する所見も認められない。

解説

  • 頭蓋内出血の所見なし。灰白質・白質のコントラスト低下あり、体積変化は小さく、通常の死後変化によるものと推定できる。血液就下による静脈洞・大脳鎌・小脳テントの高吸収化あり。早産児ということであるが、周産期の破壊性変化の痕なし。形成異常を疑わせる所見なし。骨折なし。
  • 背側肺は気腔が水濃度のもので充満し含気を失っているが、長時間の蘇生の後であり、この所見から生前の状態の推定は困難であると思われる。したがって当然、生前から心不全の状態にあった可能性もありえる。 両側中等量胸水貯留あり。蘇生術のみでこれだけの胸水貯留を起こすような症例は経験がなく、生前からあった所見と考える。これから類推すると、肺陰影は、生前の心不全による間質性~肺胞性肺水腫、先行病変としてあったかもしれない肺炎に、蘇生術(特に輸液負荷)や受動無気肺が加わり、今回のような含気低下を起こしているのではないか。肺の浸出物は気道内に逆流し、これを充満している。  
  • 心臓内は、心臓停止後、心肺蘇生中大量輸液により内部吸収値が低下しており、大量輸液でのCPRの影響もあると思われる。 右室より左室の内腔の方が大きく描出される。通常のAiCTとしては左室の大きさが過大である。感染症状が2日ほど先行し、急激な悪化を辿ったことから確かに心筋炎から拡張型心筋症を起こしたことは有力な鑑別診断のひとつになると思われる。 トロポニン値は211.3(基準値26.2以下)は上昇しているが、これは蘇生術によっても上昇する。 ヒト脳性Na(BNP)値は4841.8(基準値18.4未満)は著明に上昇しており、生前に重症心不全があったことを示唆している。 心室中隔に1ヶ所点状石灰化?極めて不明瞭。左主気管支後壁に石灰化? 右房、右室の自由壁直下ガスは蘇生術後変化。
  • 肝右葉切除後。残存肝に単純CTでは腫瘍の存在は指摘できない。 腹腔内には相当量の腹水。平均的CT値は16~19程度であり、血性成分はあったとしても少ないと思われる。 膵臓周囲、両側前腎傍腔に液体があり、急性膵炎が考えられる。膵臓背部SMA周囲に液体貯留があり、後腹膜脂肪の浮腫がある。腸間膜脂肪内にリンパ節腫大または、門脈瘤あり。門脈周囲のグリソン鞘の拡大、両側胸水などもある。これらの鑑別疾患には、急性膵炎の結果の可能性、あるいは、右心不全の関与がある可能性が挙がる。 腸管の空気による拡張は長時間の蘇生に伴うものと思われる。腸管血管瘻はなく、門脈内ガスも発生していない。 両側鼠径から下腹部の皮下脂肪の吸収値上昇、血管内ガスは、蘇生術後変化で説明可能。
  • 解説

    • 腫瘍再発を疑わせる所見はない。早期産と言うことであり、それは肝芽腫の発生には関与していると思われるが、現在画像所見で確認できる奇形症候群や周産期の破壊性変化の痕は認められない。 先行感染(~2日)から心筋炎を来したのでは、という施設での推測は合理的なひとつの仮説と思われる。また、膵臓周囲、両側前腎傍腔、その他サードスペースに液体貯留があり、急性膵炎と考えられる所見がある。この他、具体的に死因に結びつく画像所見は指摘できない。  

    担当者名

    Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)