症例55

臨床所見

5歳8ヶ月 男性
要約)急性脳症 病歴) 原因不明の水頭症、精神発達遅滞、気管軟化症で生後2ヶ月時に気管切開施行され、他院でフォローされていた。 ◯年◯月◯日、15:30より意識混濁とチアノーゼを認め、直後に全身性の強直性間代性けいれんを認めたため、病院へ救急搬送された。けいれん重積で入院し、急性脳症に準じた集中治療と脳低温療法を行った。復温後も意識や自発呼吸の改善がなく、脳波では、全般性に平坦であり、脳の活動低下と判断した。 以降は昇圧剤を使用しながら維持していたが、感染に伴う全身症状の悪化のため◯年◯月◯日午後8時4分永眠された。午後9時55分Ai-CT実施。 処置)抗菌薬ハベカシン、メロペネム、昇圧剤、ドパミン、トプミン、抗利尿ホルモン剤、ミニリンメルト


画像所見


頭側寄りの脳表近くに両側性に、断面が半円状で周囲を卵殻様の石灰化に縁取られた領域が存在する。


頚部リンパ節腫大が強い。

診断

  • 語られている死亡状況との照合について言及すると、うつぶせによる窒息事故であるということを示す所見はないが、その可能性を否定する所見も認められない。

解説

  • 頭部CTでは脳組織は低吸収化して、輪郭も不明瞭化しており、脳軟化が進行した状態である。大脳皮質や中心灰白質には正常構造の形態を反映した比較的高吸収な領域があり、dystrophic calcificationなどを示していると考えられる。
  • 頭頂よりに多数の血腫.新生児・乳幼児の静脈性梗塞からの出血のパターン
  • 頭側寄りの脳表近くに両側性に、断面が半円状で周囲を卵殻様の石灰化に縁取られた領域が存在する。頭頂葉の表面はこの様な病変に覆われている状態である。同様の性状の病変が大脳鎌周辺にも数カ所は見られる。
  • 脳軟化が激しく、extraaxial かintraaxialか明瞭には判断できないが、これらの病変の頭蓋骨側は脳回様の構造が認められる。すなわち表面から脳の一部が高吸収の明瞭な境界線で縁取られ、分画されたような状態である。新生児や乳幼児の、脳表静脈の閉塞による静脈梗塞などで現れる形態的な特徴を備えている。
  • 水頭症の存在と原因は判断不能:原因不明の水頭症と診断されていたということだが、軟化した状態からの推測では、中心灰白質が比較的原型をとどめており、著しい脳室拡大があったようには見えない。水頭症の原因の推測は困難。X-linked hydrocephalus、キアリ2型奇形、Dandy-Walker奇形、(先天的)脳腫瘍、Ⅲ度以上の脳室内出血、などの痕跡は発見できない。
  • 頚部はリンパ節腫大が強い。臨床的脳死状態になったとしても、組織融解などで、その事が原因となって頚部リンパ節腫大を来すことはないので、終末期に見られた感染は頭頸部にも病巣があったのではないかと推測する。舌が低吸収化し、脱神経denervationによる筋萎縮・脂肪浸潤を見ているもの。
  • 胸部CTでは気管支内腔に水濃度のものが充満、両側胸水死後間もないAiCTであり、死後変化による液体漏出だけでなく、生前の肺水腫の存在を示唆する所見。 背側肺は虚脱。生前状態の推定が難しいが、長期臥床による鎮下性肺炎の形成を推測する。 肺門周囲の石灰化は性状不明。石灰化リンパ節、石灰化血栓、気管支・血管壁の石灰化、気道内異物などの可能性を考える。
  • 左房内には液面形成が見られるものの、左室内は均一な豚脂様血栓あり。急性死ではないことを示唆。
  • 腹部は胆嚢結石・胆砂・胆嚢壁腫大著しい。両側腎に腎乳頭・腎洞内に石灰化。膀胱壁肥厚がある。
  • 性状は明確ではないが盲腸~結腸肝彎曲部の壁肥厚と周囲の腹水。盲腸から上行結腸・結腸肝彎曲部の壁肥厚と周囲の傍結腸溝から骨盤内に腹水あり。腫大した虫垂は確認できない。横行結腸内に長期滞留した高吸収の便あり。拡張した盲腸・上行結腸内にも一部高吸収の太い充満物。炎症性変化にしては周囲の脂肪組織の混濁が目立たない印象。十二指腸内に複数の点状高吸収 薬剤等消化管内のものと推測(薬物投与が行われていなければ、石灰化の可能性がある)。
  •   その他に全身の浮腫あり。全身の筋は委縮、脂肪変性がある。
  • 解説

    • 原因は推測できないが、重篤な脳障害から恒常性の維持が困難となり、感染を契機として死亡に至った。感染巣はリンパ節腫大を根拠に頸部、胆石胆嚢壁腫大を根拠に胆嚢炎、腸管壁腫大と腹水を根拠に右結腸を候補に上げる。
    • 髄膜の腫瘍、転移、全身の肉芽腫性疾患も考えられるが、全身の変化を一元的に説明すると、結核の可能性がある(頸部、縦隔の結核性リンパ節腫脹、気管支近くの石灰化、慢性胆嚢炎、慢性膀胱炎、腎石灰化)。原因不明の水頭症が、結核性の髄膜肉芽腫であったのかもしれない。右前頭部にパンチドアウトがあり、結核に一致する。
    • 生前から、結核性髄膜炎で水頭症になるが、髄液では、結核菌が検出されることはほとんどないので、原因不明の水頭症と診断され、水頭症の進行、髄膜炎、髄膜肉芽腫の進行で、脳死に近くになり、急性脳症と診断され、治療したが、死亡した可能性がある。脳以外の石灰化、頭蓋のパンチドアウト、その他臓器所見から周産期結核の進行の可能性がある。家族の結核検査が必要と考える。
    • 先天的あるいは周産期に結核にかかっていた可能性を除外する必要がある。

    担当者名

    Ai情報センター(小児死亡事例に対する死亡時画像診断モデル事業登録症例)