PIVOTシステム 主要点ブリーフィング資料
このブリーフィング資料は、ドナルド・S・ラインハルト博士の「PIVOTシステム百科事典」からの抜粋「PIVOTシステムの35の基本点」に基づき、その主要なテーマ、最も重要なアイデア等をレビューするものです。( https://basilkritzer.jp/archives/4714.html
主要テーマと重要概念
PIVOTシステムは、主に金管楽器奏者のための、物理的なメカニズム、感覚、および効率的な練習方法に焦点を当てた包括的な演奏法です。このシステムは、個々の奏者の身体的特徴を考慮し、論理的かつ科学的なアプローチを通じて、レンジ、耐久性、柔軟性、音質を向上させることを目指しています。
1. 感覚理論の重視とウォームアップの目的 (Sensation Theory & Warm-up)
システムの中核には「感覚理論」があり、奏者は常に演奏中の感覚に意識を集中することが求められます。ウォームアップの主な目的は、「昨日の演奏感覚を再確立するか、演奏前の感覚と演奏中の感覚を調整・整合させ、不可欠な統一された感覚に融合させること」と述べられています。ウォームアップ中は、音程や音質よりも「息を吹く感覚」に意識を集中し、「HOOO(舌を使わない)アタック」で開始することが推奨されます。また、「ひずみを感じるほど大音量で、または挟み込みや抑え込みを感じるほど小音量でウォームアップしてはならない」と、適切なダイナミクスレベルの重要性が強調されています。
2. 湿潤な唇とアンブシュアの形成 (Wet Embouchure & Formation)
「唇を唾液で飽和させる」ことが強調されており、これは演奏前に数回行うべきとされています。湿潤なアンブシュアは「現代の金管楽器奏者にとって第一の選択肢であるべき」とされ、乾燥した状態では舌の動きによってアンブシュアが崩れる可能性が指摘されています。 唇の形成については、「触れているだけの状態」を維持し、開口部(唇の隙間)は実際に息を吹いている間のみ生じるべきとされています。「下唇の膜がわずかに引き込まれて下歯にかかり、上唇の先端が下唇に触れる(わずかに重なる)ように、バジングするような唇の形」が理想とされます。
3. マウスピースの設置と圧力の管理 (Mouthpiece Placement & Pressure Management)
マウスピースは「正確な演奏角度」で唇に近づけられ、この角度は顎とアンブシュアのセッティングに不可欠です。マウスピースの設置時には「外側と内側のアンブシュアを融合させ、一体化したユニットと感じさせる」十分なグリップ圧力が加えられるべきです。PIVOTシステムでは、「ニュートラルにするために押すのであって、押すために押すのではない!」と、前方圧力(すぼめる抵抗)と後方圧力(マウスピース圧力)のバランスを取り、中和させる「ニュートラル化」の概念が導入されています。
4. 呼吸法と舌の役割 (Inhalation & Tongue Function)
呼吸法:
- 常に「置く、吸う、吹く」の順序を守り、「吸う、置く、吹く」は避けるべきです。
- 吸息時には「IM(オムやウムではない)という高音のささやき声の吸息を口角から行う(口の中央からではない)」ことが推奨されます。
- 舌はIM吸息中に「歯から約16分の1インチ後退」し、「非常にリラックス」している必要があります。
- 通常の口角吸息では、「横隔膜と腹部がしっかり突き出る」べきであり、これにより胸部のわずかな拡張と喉の開放感が得られます。
- 肩を上げる呼吸は短息の原因となるため、「いかなる吸息中も肩が持ち上がることを絶対に許してはならない」とされています。
- 吸息の最高点では、「アタックを絶対に遅らせてはならない」と、吸息から吹息へのシームレスな移行が強調されています。
舌の役割: 舌には複数の重要な役割があります。
- マウスピースの設置中に下歯または下歯茎に接触すること。
- IM吸息中にわずかに後退すること。
- 演奏する音域に応じて、上歯の裏、上歯茎、またはそれより高い位置を打つこと。
- 「いかなる音域でも、いかなる時も、舌の先端が歯と唇の間に入り込むことを絶対に許してはならない」。これは、レンジ、耐久性、柔軟性の不足の主な原因とされています。
- 舌は打った後、「すぐに口の中に素早く戻る(場合によっては下がる)」ことで、円錐状の気柱が前方に移動し、必要な唇の振動を生成することを可能にします。
5. ピボットとポッカー(すぼめる)の重要性 (Pivot & Pucker)
「上昇するために笑顔を作ってはならない;ピボットを学び、そしてすぼめることを学びなさい!」と明記されており、笑顔のアンブシュアではなく、「リップポッカー(唇をすぼめる)」が重要な要素であることが示唆されています。PIVOTの主な目的は、「唇と歯の間の不可欠なラインアップを常に保持し、唇の振動が音域の特定の場所で妨げられたり消滅したりしないようにすること」です。
6. 練習方法と心構え (Practice Methodology & Mindset)
- 日々の練習期間中は「規定された機械的(物理的)な手順を極端に実行」する一方で、演奏中は音楽に全神経を集中させるべきです。
- 「感覚が新しいのは最初の時だけ」であり、新しい機械的ポイントを習得する際には、その後の試行で最初の時と同じくらい鮮やかな感覚を期待しないよう警告しています。
- 「演奏に秘密はない — ただ論理と常識があるだけ」と述べられており、知的な、一貫した日々の練習と研究が「才能」よりも常に勝ると強調されています。
- 真剣な学習者には、「1時間半から5時間の学習と練習」が毎日推奨されています。特に重要なのは、「練習した時間と全く同じだけ休むことを学ばなければならない」という点です。これにより、「演奏の予備力と耐久力を常に構築」し、無思慮な練習によって損なわれないようにします。
7. 個々の身体的特徴への配慮 (Consideration for Individual Physical Characteristics)
PIVOTシステムでは、「4つの標準的なアンブシュアと顎のタイプ、および5つのサブタイプ(合計9つ)」が利用され、奏者はそのいずれかに分類されるよう指示されます。これは「個々の相違に科学的な配慮がなされる唯一の方法」であり、「それによって母なる自然が満足する」とされています。
結論
PIVOTシステムは、感覚への意識、具体的な身体的メカニズム(唇の形成、マウスピースの圧力、呼吸、舌の動き)、そして論理的かつ継続的な練習を重視することで、金管楽器奏者の演奏技術向上を目指すものです。特に、アンブシュアの特定の形状、口角からの吸息、舌の動きと位置、そしてピボットとポッカーの概念は、このシステムの中核をなす要素です。練習においては、量だけでなく質、そして休息の重要性が繰り返し強調されており、個々の身体的特性に合わせたアプローチが成功への鍵であると説かれています。
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