本稿は小山清茂さんらの「日本和声」に基づき、日本の伝統音楽における和声と音階の主要なテーマと最も重要なアイデア、事実をAIを使ってまとめたものです。その資料は、日本の音の美しさを追求し、特に日本伝統音楽の音階理論と和声理論に基づいた新しい体系を構築しようとする試みの一環として作成された「たにし会」の研究成果です。
序文では、日本的旋律法と西洋的旋律法の間にある「音の美しさの変化」を捉えることの難しさと、それが西洋音楽の和声や短調と結びついていると誤解されがちである点に触れています。この研究は、陰旋法・陽旋法を基盤として、伝統的な音の美しさを目指す体系作りを行っているとのことです。
主要なテーマとアイデア
この資料は主に、日本の伝統的な音階と和声の体系化に焦点を当てており、以下の主要なテーマとアイデアが展開されています。
1. 音階と調(第1章)
日本の音階は、主に陰旋法と陽旋法の2種類に大別されます。これらを基盤とする音階を「基礎的音階」と呼び、そこから派生する音階を「派生的音階」と定義しています。
- 陰旋法 (Insenpo):
- 資料では「陰旋法第1」と「陰旋法第2」の2種類が示されており、それぞれ異なる音の並びを持っています(p.9)。
- 例として、「だいろぼうつぼろ」(わらべうた)や「こきりこ」(民謡)などが挙げられています(p.9-10)。
- 陰旋法2は、「水管節」や「大漁節」に多く見られるとされています(p.11)。
- 陽旋法 (Yosenpo):
- 陽旋法は「陰旋法第1と陰旋法第2の3種類」に分類され、「陽旋法1」「陽旋法2」「陽旋法3」と呼ばれています(p.21)。
- 例として、「木曽節」(民謡)や「大漁節」(民謡)などが示されています(p.10-11)。
- 陽旋法1は「雪やこんこん」(京都)に、陽旋法2は「会津磐梯山」(福島)に、陽旋法3は「六段」(部分)などに多く見られるとされています(p.11)。
- 終止音と核音:
- 陰旋法・陽旋法のそれぞれの中心となる音を「終止音」と呼び、それが導く調の調べを研究しています(p.13)。
- 5音音階の場合、長2度なら「終止音」を「核音」と呼び、その音を中心とした音の動きを「調」と見なしています(p.14)。
- 調:
- 陰旋法と陽旋法の音階を基盤として、音階の第1核音を「レ」とし、その位置によって調を決定します。例えば「ミ」の位置が第1核音である場合、それは「三調陰旋法第1」または「三調陽旋法第2」と呼びます(p.15)。
- 様々な調における音階の構造が示されており、具体的な音符の例が多数記載されています(p.16-18, 22-24)。
- 派生的音階:
- 基礎的音階に「経過音」や「補助音」を導入することで生まれる音階を「派生的音階」と呼びます(p.19)。
- 「派生的陰旋法」と「派生的陽旋法」がそれぞれ「派生的陰旋法1」「派生的陰旋法2」「派生的陰旋法3」として提示されており、具体的な音符の例が含まれています(p.19-21, 22-24)。
2. 和音(第2章)
和音は、2つ以上の音が組み合わさってできる合成音を指します。この章では、和音の構成要素として、陰旋法・陽旋法、および派生的陰旋法・派生的陽旋法を考えています(p.25)。
- 基礎和音:
- 基礎的音階である陰旋法・陽旋法を基にした和音を「基礎和音」と呼びます。
- 主に二和音(2音)、三和音(3音)、四和音(4音)、五和音(5音)、六和音(6音)の構造が示されています(p.25-27)。
- 陰旋法1、陰旋法2、陰旋法3のそれぞれで、異なる音の組み合わせが提示されています(p.27-33)。
- 核和音:
- 核音を基盤として作られた和音を「核和音」と呼びます。
- 核和音は、陰旋法および調陰旋法に基づいて、第1核音上の二和音・三和音・四和音と、第2核音上の二和音・三和音・四和音に分けられます(p.33)。
- 資料では、核和音の一覧が図で示され、その上で核和音の様々な構成例が提示されています(p.33-35)。
- 派生和音:
- 派生的音階を用いた和音を「派生和音」と呼びます。
- 派生的陰旋法1、派生的陰旋法2、派生的陰旋法3のそれぞれで、二和音から七和音までの構造が具体的に示されています(p.37-45)。
- 基礎和音と派生和音の関係が解説され、特に派生和音は、基礎的音階の音に経過音や補助音が加わることで音程関係に変化が生じることが強調されています(p.37)。
- 偶成和音:
- 基礎和音、派生和音のいずれにも当てはまらない、一時的に生じる和音を「偶成和音」と呼びます。
- 偶成和音は、派生的音階を一つずつ取って作られる和音であり、基礎和音からは想像もつかなかった響きの和音となるとされています(p.49)。
3. 和音連結の方法(第3章)
この章では、和音の連結について、特に基礎和音に基づいてその構成と連結の定型が説明されています。
- 基礎和音連結:
- 陰旋法1、陰旋法2、陰旋法3のそれぞれにおいて、I度、II度、III度、IV度、V度、VI度の和音がどのように連結されるかが示されています(p.53-54)。
- 二和音、三和音、四和音、五和音、六和音の各々における和音連結の例が多数掲載されています(p.55-56)。
- 和音連結の定型:
- 「和音連結定型1」から「和音連結定型11」まで、様々な連結パターンが提示されており、それぞれに陰旋法、陽旋法の異なる調性が適用されています(p.57-81)。
- これらの定型は、実際の日本の民謡や童謡のメロディと組み合わせて、和音の連結がどのように機能するかを具体的に示しています。
- 付加和音:
- 既存の和音に、その音階以外の音が加えられた和音を「付加和音」と呼びます(p.84)。
- 付加和音は、陰旋法と陽旋法の両方で使用可能であり、特にその音色が変化に富むことが述べられています(p.85)。
4. 旋律と和音(第4章)
旋律と和音の関係性について、特に日本の伝統的な旋律に和音を付与する際の注意点や方法が示されています。
- 和音外音:
- 旋律が和音外の音である場合、「経過音」「しゅう音」「倚音」「掛留音」「先取音」といった種類に分類されます(p.91)。
- これらの和音外音が、旋律にどのような響きを与えるか、具体的な譜例とともに解説されています(p.91-92)。
- 実践:
- 「さくらさくら」「四斤じょ」「ねんねしなされ」「通りゃんせ」などの日本の伝統的な歌に和音を付与する実践例が多数掲載されています(p.93-97)。
- これらの例を通して、旋律に合った和音を選択し、ピアノ伴奏や合唱編曲を行う際の具体的なアプローチが示されています。
5. 転調・転旋(第5章)
この章では、旋律や和音に色彩的な変化を与える「転調」と「転旋」について解説しています。
- 近親調への転調・転旋:
- 陰旋法または陽旋法の調から他の調への変化、あるいは同一調性の和音から他の調性の和音への変化を「転調・転旋」と定義しています(p.107)。
- 共通音を介した転調、または特定の和音(特微和音)を導入した転調など、様々な方法が示されています(p.108-113)。
- その他の調への転調・転旋:
- 遠隔調への転調についても考察されており、その際に「共通音」や「特微和音」をどのように用いるかが説明されています(p.117-129)。
- 特に「陰旋法から陽旋法への転調」や「陽旋法から陰旋法への転調」が具体的な譜例とともに詳細に示されています(p.123-126)。
6. 借用和音(第6章)
和音に色彩的な変化を与えるため、一時的に他の調の和音を用いることを「借用和音」と呼びます。
- 他の調の借用和音:
- 他の調(同主調、同属調、平行調など)の主要な和音を借用するケースが説明されており、その際に和音記号に小文字の「g」を付すなどの表記法が示されています(p.131)。
- 陰旋法の和音を借りる場合、または陽旋法の和音を借りる場合の例が多数掲載されています(p.131-134)。
- 転調・転旋および借用和音を含む作例:
- 転調・転旋と借用和音を組み合わせた具体的な作例が示されており、これらの技法がどのように楽曲に適用されるかが解説されています(p.141-148)。
7. まとめ(第7章)
この資料のまとめとして、陰旋法と陽旋法の音階、基礎和音、派生和音、偶成和音といった構成要素を基に、それらの和音連結の方法や、転調・転旋、借用和音の概念が体系的に整理されていることが述べられています(p.149)。
- 日本の音の美しさを表現するために、これまで日本の民謡や童謡に和声をつけてきた様々な事例を検証し、具体的な作曲例(「ピアノソナタ第2番」や「能面」など)を通じて、その有効性を示しています(p.149-165)。
最も重要なアイデア/事実
- 日本の伝統音階の体系化: この資料の最も重要な貢献は、日本の伝統的な音階である「陰旋法」と「陽旋法」を明確に定義し、それらを基盤とした音階、和音、和音連結、転調・転旋、借用和音といった音楽理論を体系的に構築しようとしている点です。これにより、これまで感覚的に行われてきた日本の伝統音楽の和声付けに、明確な理論的枠組みを与えようとしています。
- 「たにし会」の研究成果: この資料は、小山清茂、中西寛らによる「たにし会」というグループの研究成果であり、日本の音の美しさを追求し、日本伝統音楽の音階理論と和声理論に基づいた新しい体系を構築することを目的としている点が強調されています(p.3)。これは単なる学術的な分析に留まらず、実践的な作曲への応用を目指していることを示唆しています。
- 西洋音楽理論との融合と区別: 序文では、日本の音階が西洋の和声や短調と誤解されがちであることに触れつつも、この資料全体を通して、西洋音楽の和声理論で用いられる概念(和音の種類、連結、転調など)を日本の音階に適用し、再解釈することで、独自の理論を構築しようとしています。これは、単に西洋理論を導入するのではなく、日本の音の特性を活かしつつ、普遍的な音楽理論との接点を探る試みと言えます。
- 豊富な実例と譜例: 理論的な説明だけでなく、日本の民謡や童謡、さらには現代の作品からの引用を通じて、具体的な譜例を豊富に示している点が特徴です。これにより、抽象的な理論が実際の音楽作品の中でどのように機能するかを視覚的に理解することができます(例: 「さくらさくら」「雪やこんこん」などの和声付け p.93, 101)。
結論
このブリーフィングドキュメントは、日本の伝統音楽の音階と和声に関する包括的かつ体系的な理論を提示しており、日本の音の美しさを深く掘り下げ、それを現代の音楽創作に応用するための貴重な基盤を提供しています。特に、陰旋法と陽旋法を核とした独自の和音理論と連結方法、そして転調・転旋や借用和音といった高度な技法に至るまで、詳細な解説と豊富な実例は、日本の音楽文化の理解を深める上で非常に重要です。
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