厚生労働省の調査会で私の論文が使用されました

スタチンとフィブラートの併用原則禁忌解除へ

スタチンとフィブラートの併用は現在「原則禁忌」です。「原則禁忌」という言葉が禁忌かどうかよくわからない、あいまいなメッセージになりかねないという事で、添付文書の記載要領が変わり2019年をターゲットに「禁忌」あるいは「慎重投与」と言った別のメッセージに置き換える作業が進んでいます。そうした流れに加え、日本動脈硬化学会がこの2種類の系統の薬剤を併用することにはメリットがあり、一律にこの2種類の系統の薬剤を併用しないように制限するのを解除してほしいという趣旨の要望書を厚生労働省へ出していました。原則禁忌との判断に至ったきっかけとなった論文では、セリバスタチン(←市場からは撤退)とゲムフィブロジルを併用するで横紋筋融解症を発現するリスクが高まるとされていました。その後の解析によると、両薬剤を併用することで薬物動態が変化し、スタチンへ過剰に曝露してしまい、横紋筋融解のリスクが上昇したとされています。私が以前、横紋筋融解を解析した時にこの2種類の薬剤を併用することで転帰が死亡になるリスクが高まる訳ではない、とは思ってました。

この問題についての審議が2018年9月25日(火)に田中田村町ビル会議室で開催されました。その平成30年度第8回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の資料に、私の論文が紹介されていました。

紹介されたのは「取扱注意」の資料1-2の中で、PMDAがまとめた資料です。

この様な集計を論文としてまとめているのは、私の論文の1報だったという。他に同じような観点で集計した論文はないという事のようです!この腎障害患者を取り上げた部分集団についての解析はオリジナルの投稿時にはなく、投稿した際にレビューワーからの指示で、しぶしぶ、嫌々ながらやった部分です。嫌々ながらやった部分ではありますが、書かれているデータに間違いはないと思います。

規制当局は一旦設定した注意喚起を緩めたために、そのリスクの被害にあう人が出ることはぜひ避けたいと考えている様で、リスクについての注意喚起を解除することには一般に大変慎重です。そんな中、治療上のベネフィットを享受できるであろうヒトのために汗を流した方々の努力に拍手です。その過程でこの集計が何かの役に立ったのなら嬉しいところです。

ちなみにこの論文、Internal Medicine誌と言うインパクトファクター1.0弱という、低インパクトジャーナルに掲載されながら、被引用回数42と言うそのジャーナルの中ではナカナカの人気の記事です。(タダでダウンロードできるので、検索で引っかかったものの中でとりあえず気楽に読んで引用していると言うのかもしれませんが)

2件のコメント

  1. 議事録が公開されました。(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212686_00005.html)

    私の公開論文は今回の審議のような観点から議論する向きには必ずしもフィットしない解析方法をとっていました。AERSのデータの解釈は難しい部分があって,そのデータを誤って解釈しているような場面が少なからず存在するのですが,今回の審議会の中では適切に評価していただいているようです。
    審議会に参加された方々のなかで,望月委員(慶応大学)が適切な解釈を述べてくださっていました。適切なコメントありがとうございます。

    —以下議事録から引用—
    ○望月委員 スタチンとフィブラートの併用が、臨床上、必要なケースがとても多いということは、今までの先生方の御説明でよく理解できました。
     これは事務局にお聞きすればいいと思うのですが、資料1-2「調査結果報告書」の11ページの「3.公表文献」の説明のところです。
     AERSのデータから2004~2009年の横紋筋融解症の症例を収集して、後向きで解析をされている結果で、先ほどから議論になっている腎機能障害の影響についてのところなのですけれども、AERSのデータなので報告バイアスとかいろいろあるとは思うのですが、ここの数字を見てしまうと、腎機能障害合併例では相当注意したほうがいいのかなという感覚を持ってしまうのです。
     最後の3行ぐらいで、腎機能障害の合併例で致死的転帰の割合が13.5%で、非合併例では6.6%ということで、95%CIも重なっておらず、統計学的に有意差がついている。これはスタチン単独ですけれども、裏側にスタチンとフィブリン酸誘導体の併用の場合も、腎機能障害合併例では10.5%で、非合併例では0.0%ということで、これも統計学的に有意になっている。
     AERSのデータなので、こういう解析のデータがどこまで信頼できるのか、私もよくわからない部分もありまして、ここはどう解釈をしたらいいのかというのをちょっと御説明いただけたらと思います。
    ○安全第二部長 PMDAから御説明させていただきます。
     望月委員御指摘のとおり、ここはAERSの、日本でいうと副作用自発報告のデータですので、そこは限定的に解釈をする必要はあるとは考えております。
     このデータだけで何か結論づけたことを言うのは難しいと思うのですが、PMDAの報告書の中では、このほかに国内での製造販売後の調査などの状況も踏まえて、市販後に得られている併用例で、原則併用禁忌となっている腎機能の悪い方に関するデータとしては非常に少ない状況もあるのですけれども、海外の添付文書の状況なども踏まえまして、一定の注意はしながらも原則禁忌は解除というか、今後、添付文書が変わっていくということも踏まえまして、「原則禁忌」から「慎重投与」として、「重要な基本的注意」等において一定の注意はしていくのが適当ではないかというのが全体の報告となっております。
    ○望月委員 日本での経緯としては、併用禁忌でもなく、原則禁忌でもなくスタートして、自発報告でたくさん集まってきた中の解析をすると併用例が多かったということで、注意喚起をするということで原則禁忌になったという歴史が最初のほうに書かれています。その経緯から考えると、きちんと原則禁忌にしておくことで併用されないということで、自発報告では併用例の横紋筋融解症はほとんど報告されていないというのが自然な解釈かなと思っているのです。
     確かに併用で問題ない等々の記述はあるのですが、先ほどの2型糖尿病のACCORDのサブ解析のスタディーを見ると、バックグラウンドの患者たちはほとんど腎機能が悪くない方たちですよね。そうすると、腎機能が悪い人たちでは、幾らAERSのデータが自発報告なので報告バイアスがあるといっても、これだけはっきり差が出ているので、腎機能が悪い人たちでどういう注意喚起をしなければいけないかというところはよく考えておかなければいけないかなと、これからは読み取れるなと私は思っています。
     「原則禁忌」を外すことに関してよりも、むしろ腎機能が悪い人たちで併用する場合の注意喚起をどのようにしていくかが大事なところかなと思いました。

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