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医学共通講義III 機能生物学入門

生体がどのようにして機能を発揮するかという根源的な問題の解決には、 様々な角度からのアプローチを有機的に連結していくことが必要です。 本講義では、中枢神経系の機能発現メカニズムを中心として、 以下のテーマに関連した研究を紹介し、どこまで解明が進んでいて、 今後どのような研究が必要なのかについて解説されます。 記憶形成・想起メカニズム、記憶・学習の分子機構、嗅覚神経系の機能発現メカニズム、 視覚受容の細胞メカニズム、シナプス伝達調節機構、グルタミン酸受容体の分子機構、 細胞内カルシウムシグナル機構、発生・分化の分子機構など。

ハイブリッドまたはオンラインでの実施になります。 ハイブリッドの場合は第6セミナー室での講義になります。 実施方法やURLは各日で異なります。随時更新していきますので注意してください。

機能生物学セミナー登録者はオンサイト参加してください(学生さんにはオンサイト参加を推奨し ます)。 他の参加者もオンサイト参加も歓迎致します。

※オンライン視聴時の注意事項
  • ・u-tokyo.ac.jp, umin.ac.jpのメールアドレスからしか聴講できません。
  • ・録音や画面キャプチャーなどは禁止されています。
  • ・単位取得学生はビデオ名の後に学生証番号を入れてください。
     チャットに学生証番号と名前を必ず入れて送信してください。
     確認できない場合は欠席扱いとなることがありますので注意してください。
  • ・単位取得学生は単位のために講義中のビデオオンが原則必須です。

2022年度

  • 2022年4月11日(月)14:55~16:40 詳細
    演者:理化学研究所脳神経科学研究センター・脳型知能理論研究ユニット 磯村 拓哉 先生
    場所:ハイブリッド開催 担当:統合生理学 大木 研一 教授
  • 2022年5月9日(月)14:55~16:40 詳細
    演者:京都大学大学院医学研究科 林 康紀 先生
    担当:神経生理学 狩野 方伸 教授
  • 2022年6月13日(月)14:55~16:40 詳細
    演者:崇城大学 生物生命学部生物生命学科 江﨑 加代子 先生
    担当:脳機能動態学 上口 裕之 連携教授
  • 2022年7月4(月)14:55~16:40 詳細
    演者:慶應義塾大学医学部 柚崎 通介 先生
    担当:分子生物学 後藤 由季子 教授
  • 2022年9月26日(月)14:55~16:40 詳細
    演者:生理学研究所 南部 篤 先生
    担当:細胞分子生理学 松崎 政紀 教授
  • 2022年10月24日(月)14:55~16:40 詳細
    演者:東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 林 悠 先生
    担当:理学系研究科 生物科学専攻 榎本 和生 教授
  • 2022年11月7日(月)14:55~16:40 詳細
    演者:東京大学大学院総合文化研究科 加藤 英明 先生
    担当:薬学部 池谷 裕二 教授
  • 2022年11月21日(月)14:55~16:40詳細
    演者:東京大学大学院新領域創成科学研究科・複雑理工学専攻 能瀬 聡直 先生
    担当:細胞分子生理学 松崎 政紀 教授
  • 2022年12月12日(月)14:55~16:40 詳細
    演者:京都大学大学院医学研究科・分子腫瘍学分野 藤田 恭之 先生
    担当:細胞分子薬理学 廣瀬 謙造 教授
  • 2023年1月16日(月)14:55~16:40 詳細
    演者:東京大学大学院医学系研究科 分子細胞生物学専攻 遺伝情報学 岡田 随象 先生
    担当:システムズ薬理学 上田 泰己 教授

2022年度 詳細

2022年4月11日(月)14:55~16:40
ハイブリッド開催(医学部教育研究棟13階第6セミナー室およびZoom)

理化学研究所脳神経科学研究センター・脳型知能理論研究ユニット 磯村 拓哉 先生
自由エネルギー原理は普遍的な脳理論なのか?


担当:統合生理学 大木研一 教授

Zoom URL: https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/j/81884703897?pwd=SWZHN1hhVXFHbTV5L1VUMytaQWdXdz09
ミーティングID: 818 8470 3897 パスコード: 663231
参加にはu-tokyo.ac.jp 又は、umin.ac.jp アカウントをご利用ください。

自由エネルギー原理は、Karl J. Fristonが提唱している脳の情報理論である[1]。生物の知覚や学習、行動は、変分自由エネルギーと呼ばれるコスト関数を最小化するように決まるとしている。その結果、生物は変分ベイズ推論と呼ばれる統計学的な推論を自己組織化に行うとされている。一方で、古典的な神経活動やシナプス可塑性のダイナミクスは微分方程式で記述可能であり、何らかの潜在的なコスト関数の勾配に従っていると考えられる。実のところ、任意のコスト関数は、ある生成モデルと事前分布の下での変分自由エネルギーであると解釈することができる。このことは、標準的な神経回路モデルのダイナミクスは潜在的に変分ベイズ推論を実行していると見なすことができることを意味する[2]。この観点に基づき、標準的な神経回路モデルが、推論、学習、予測、行動制御、行動計画などの適応的行動を最適な方法で実行できることを紹介する。また、自由エネルギー原理を用いて神経回路の自己組織化の結果を予測できる可能性についても紹介したい。

参考文献

  1. Friston, K. J. The free-energy principle: a unified brain theory? Nat. Rev. Neurosci. 11, 127-138 (2010). https://doi.org/10.1038/nrn2787
  2. Isomura, T., Shimazaki, H. & Friston, K. J. Canonical neural networks perform active inference. Commun. Biol. 5, 55 (2022). https://doi.org/10.1038/s42003-021-02994-2



2022年5月9日(月)14:55~16:40
ハイブリッド開催(医学部教育研究棟13階第6セミナー室およびZoom)

京都大学大学院医学研究科 林 康紀 先生
睡眠と記憶 - 記憶固定化の段階的可塑性メカニズム


担当:神経生理学 狩野 方伸 教授

Zoom URL: https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/j/84299260929?pwd=ZkNobm96ZTNXVGJXZm90dHZ6N1VGQT09
ミーティングID: 842 9926 0929 パスコード: 725595
参加にはu-tokyo.ac.jp 又は、umin.ac.jp アカウントをご利用ください。

記憶は海馬で最初に形成され、その後大脳皮質に移行していく。この過程を記憶の固定化という。固定化にはシナプス可塑性が重要であると想定されてきたが、その正確な時空間パタンはまだ十分に理解されてこなかった。そこで我々は新規の光遺伝学的技術を開発し、シナプス長期増強(LTP)を一定の時間枠の中で選択的に消去する手法を確立した。この手法により、LTPが記憶の異なる段階においてそれぞれの役割を担っていることを明らかにした。まず記憶の事象と同時に海馬で局所的に起こるLTPが神経細胞発火の文脈特異性を付与する。次に、同じ日の睡眠中に再度海馬でLTPがおこる。このLTPは発火の同期性を形成する。最後に、記憶の次の日の睡眠中に前帯状皮質で起こるLTPが、記憶のさらなる安定化に必要である。このように、記憶形成の初期段階にはLTPが段階的に起こることで記憶が長期的に固定化される。このように記憶事象から時間が経過してから起こるLTPをoffline LTPと名づけたが、これは本手法を用いることで初めて明らかになった。

参考文献

  1. Goto, A., Bota, A., Miya, K., Wang, J., Tsukamoto, S., Jiang, X., Hirai, D., Murayama, M., Matsuda, T., McHugh, T.J., Nagai, T., and Hayashi, Y. (2021). Stepwise synaptic plasticity events drive the early phase of memory consolidation. Science 374, 857-863.



2022年6月13日(月)14:55~16:40
オンライン
※ 今回のセミナーはオンラインのみになります。
 13階セミナー室は閉まっておりますのでお気を付けください。

崇城大学 生物生命学部生物生命学科 江﨑 加代子 先生
統合失調症病態メカニズムへのスフィンゴ脂質代謝の関与の解明
Elucidation of the involvement of sphingolipid metabolism in the pathological mechanism of schizophrenia


担当:脳機能動態学 上口 裕之 連携教授

Zoom URL: https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/j/89079654873?pwd=N0N6VjUvRTlFZUxPSjVxT25FZzhNQT09
ミーティングID: 890 7965 4873 パスコード: 172032
参加にはu-tokyo.ac.jp 又は、umin.ac.jp アカウントをご利用ください。

統合失調症は生涯リスクが約1%の重度の精神疾患で、幻覚、妄想などの陽性症状、情動の平板化や自閉などの陰性症状、および認知機能障害を特徴とする。思春期から青年期の10代後半から30代に発症することが多く、環境要因と遺伝的要因、およびそれらの複雑な相互作用によって引き起こされると考えられている。しかし未だ統合失調症の詳細な発症機序は解明されておらず、十分な予防・治療法が確立されていない。近年、臨床研究の成果により、統合失調症患者における脳白質容積の減少、脂質やアミノ酸などの代謝物の変化の報告が蓄積されてきている。我々は脳組織に豊富に含まれる脂質の中でも、神経機能に重要な役割を果たすスフィンゴ脂質の代謝に着目して統合失調症病態への関与を明らかにし、精神疾患の治療および予防に向けた臨床応用のための知見を得ることを目指している。

参考文献

  1. Esaki K, Balan S, Iwayama Y, Shimamoto-Mitsuyama C, Hirabayashi Y, Dean B, Yoshikawa T. “Evidence for Altered Metabolism of Sphingosine-1-Phosphate in the Corpus Callosum of Patients with Schizophrenia” Schizophr. Bull., 46 (5), pp. 1172-1181, 2020.



2022年7月4(月)14:55~16:40
ハイブリッド開催(医学部教育研究棟13階第6セミナー室およびZoom)

慶應義塾大学医学部 柚崎 通介 先生
All You Need is Synapse:Connectivityを分子基盤から読み解く


担当:分子生物学 後藤 由季子 教授

Zoom URL: https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/j/81007035323?pwd=b2MwVUJOY2tSa2czTWNtLzh5Q0dDdz09
ミーティングID:810 0703 5323 パスコード: 208413
参加にはu-tokyo.ac.jp 又は、umin.ac.jp アカウントをご利用ください。

脳の働きを解明するためには、局所回路や脳部位を繋ぐ結合(connectivity)をできる限り高精度で明らかにし、またできるだけ多くの神経細胞の活動を記録してその作動原理を解明することが重要なアプローチと考えられている。しかし、Connectivityの元となるシナプスは静的なものではなく、環境や経験に応じた神経活動によって機能的にも構造的にも可塑的に変化する。このようなシナプスの可塑的変化こそが、記憶・学習の実体であり、統合失調症や自閉スペクトラム症など多くの精神疾患や発達障害の原因となることが分かってきている。かつてファインマンは「創造できないことは理解できない(What I cannot create, I do not understand)」と述べた。私たちの研究室では、機能的・構造的なシナプス可塑性を作り出すことによって、シナプスの理解を進めることを目指している。今回は、機能的なシナプス可塑性モデルである興奮性神経伝達が長期間増強ないし抑圧される現象、Long-term potentiation (LTP)とLong-term depression (LTD)に対する私たちのアプローチについてまず紹介する。次に構造的シナプス可塑性を支えるシナプス形成分子についての研究成果をお話したい。

参考文献

  1. Suzuki K,…, Aricescu AR*, Yuzaki M*. A synthetic synaptic organizer protein restores glutamatergic neuronal circuits. Science 369:eabb4853, 2020.
  2. Yuzaki M. Two Classes of Secreted Synaptic Organizers in the Central Nervous System. Annu Rev Physiol 80:243-262, 2018.
  3. Kakegawa W,…Yuzaki M*, Matsuda S*. Optogenetic Control of Synaptic AMPA Receptor Endocytosis Reveals Roles of LTD in Motor Learning. Neuron99:985-998, 2018.



2022年9月26日(月)14:55~16:40
ハイブリッド開催(医学部教育研究棟13階第6セミナー室およびZoom)

生理学研究所 生体システム研究部門 南部 篤 先生
大脳基底核疾患の病態生理を統一的に理解する
A unified view of the underlying pathophysiology of movement disorders


担当:細胞分子生理学 松崎 政紀 教授

Zoom URL: https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/j/81785714613?pwd=NWJLaUJTM3hLZXNXcDhvUHFQRnl3dz09
ミーティングID: 817 8571 4613 パスコード: 421664
参加にはu-tokyo.ac.jp 又は、umin.ac.jp アカウントをご利用ください。

サル、げっ歯類、おそらくヒトにおいても大脳皮質を電気刺激し大脳基底核の出力核である淡蒼球内節・黒質網様部から神経活動を記録すると、早い興奮―抑制―遅い興奮の3相性の応答が得られる。これまでの研究から、早い興奮はハイパー直接路(大脳皮質—視床下核—淡蒼球内節・黒質網様部路)、抑制は直接路(大脳皮質—線条体—淡蒼球内節・黒質網様部路)、遅い興奮は間接路(大脳皮質—線条体—淡蒼球外節—視床下核—淡蒼球内節・黒質網様部路)を介することがわかっている。実際の随意運動の際にも同様に、運動情報が大脳皮質運動野から大脳基底核に伝達されるとすると、まずハイパー直接路が視床を抑制、投射先である大脳皮質運動野の活動をリセットし、次に直接路が視床を脱抑制し必要な運動を引き起こし、最後に間接路が再び視床を抑制し、惹起された運動をストップさせると考えられる1)
  このモデルを元に大脳基底核疾患の病態生理を考えてみよう。疾患モデル動物において大脳皮質を電気刺激し、淡蒼球内節・黒質網様部から神経活動を記録すると、3相性のパターンが体系的に変化していた。例えば、ドーパミン神経毒であるMPTPを投与して作製したパーキンソン病モデルサルから記録すると、直接路由来の抑制が消失していた2)。正常では淡蒼球内節での抑制が視床を脱抑制し運動を引き起こすが、パーキンソン病では抑制が減弱し視床を脱抑制できなくなり、運動を引き起こせなくなったと解釈できる。パーキンソン病モデルサルの視床下核にムシモルを局所注入し神経活動をブロックすると、大脳皮質由来の興奮が消失し抑制が復活すると同時に運動が回復した2)。これはハイパー直接路、間接路を介する興奮が減弱し、淡蒼球内節での抑制が相対的に復活したため、再び視床を脱抑制し運動が可能になったと考えられる。パーキンソン病に対して、視床下核の凝固術や脳深部刺激療法(DBS)が有効であるが、これらの治療メカニズムを説明していると思われる。また、6-OHDAを投与し作製したパーキンソン病モデルマウスに、L-DOPAを連続投与しジスキネジアを生じさせると、黒質網様部で観察される大脳皮質由来の遅い興奮が消失していた3)。正常では遅い興奮が運動をストップさせるが、これが消失したため運動をストップできなくなり不随意運動に至ったと解釈できる。このように大脳基底核疾患は、ハイパー直接路、直接路、間接路を介する動的な神経活動のバランスが失われることにより引き起こされ、バランスを元に戻すことにより治療できると考えられる。

参考文献

  1. Nambu A (2008) Seven problems on the basal ganglia. Curr Opin Neurobiol 18: 595-604
  2. Chiken S, Takada M, Nambu A (2021) Altered dynamic information flow through the cortico-basal ganglia pathways mediates Parkinson’s disease symptoms. Cereb Cortex 31: 5363-5380
  3. Dwi Wahyu I, Chiken S, Hasegawa T, Sano H, Nambu A (2021) Abnormal cortico-basal ganglia neurotransmission in a mouse model of L-DOPA-induced dyskinesia. J Neurosci 41: 2668-2683



2022年10月24日(月)14:55~16:40
ハイブリッド開催(医学部教育研究棟13階第6セミナー室およびZoom)

東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 林 悠 先生
レム睡眠の意義とメカニズムの解析


担当:理学系研究科 生物科学専攻 榎本 和生 教授

Zoom URL: https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/j/83045505498?pwd=QVIySDhKNTNJeWloT2Z4ZDBuNXJHdz09
ミーティングID: 830 4550 5498 パスコード: 432309
参加にはu-tokyo.ac.jp 又は、umin.ac.jp アカウントをご利用ください。

哺乳類の睡眠は、レム睡眠(急速眼球運動睡眠)とノンレム睡眠から構成される。レム睡眠は鮮明な夢を生じることで良く知られるが、その役割が脳科学における大きな謎であった。また、レム睡眠とノンレム睡眠の切り替えのメカニズムもよく分かっていなかった。我々はこれまでに、マウスを用いて、レム睡眠の制御に重要な脳幹のニューロンを複数同定した。さらには、こうしたニューロンの人為的な操作により、レム睡眠を任意のタイミングで増減できるマウスの開発に成功した。こうしたアプローチにより、脳機能や行動の制御におけるレム睡眠の役割の一端が見えてきたので、本セミナーで紹介・議論させて頂く。

参考文献

  1. Tsai CJ,,,, Hayashi Y. Cerebral capillary blood flow upsurge during REM sleep is mediated by A2A receptors. Cell Reports 17:109558 (2021).
  2. Kashiwagi M,,,, Hayashi Y. Widely distributed neurotensinergic neurons in the brainstem regulate NREM sleep in mice. Current Biology 30:1002-1010 (2020).
  3. Hayashi Y,,,, Itohara S. Cells of a common developmental origin regulate REM/non-REM sleep and wakefulness in mice. Science 350, 957-61 (2015).



2022年11月7日(月)14:55~16:40
ハイブリッド開催(医学部教育研究棟13階第6セミナー室およびZoom)

東京大学大学院総合文化研究科 加藤 英明 先生
タンパク質を視る、識る、創る -光遺伝学ツールの構造生物学-


担当:薬学部 池谷 裕二 教授

Zoom URL: https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/j/82000803102?pwd=dElYbHRzQjlWRUZ2WlNHR250ZXdQdz09
ミーティングID: 820 0080 3102 パスコード: 262830
参加にはu-tokyo.ac.jp 又は、umin.ac.jp アカウントをご利用ください。

チャネルロドプシンをはじめとしたイオン輸送型ロドプシンは、光を用いて神経細胞などの膜電位を操作するツール(光遺伝学ツール)として注目を集めている。X線結晶構造解析、クライオ電子顕微鏡単粒子構造解析技術の発展により、現在までに様々な陽イオンチャネル型ロドプシン、陰イオンチャネル型ロドプシンの高分解能構造が決定され、我々はその精緻な分子機構の構造基盤を一つずつ紐解きつつある[1]。こうして明らかになった構造情報は、その分子機構の理解に役立つばかりか、イオン輸送型ロドプシンの機能改変、すなわち光遺伝学ツールの改良にも大きな貢献をしている。今回のセミナーでは、チャネルロドプシンの構造機能相関、そして構造情報を利用したチャネルロドプシンの改変について最新の例を交えながら紹介する[2]。また、時間の許す範囲で今後の光遺伝学ツール開発の方向性についても議論したい。

参考文献

  1. Kato HE, Kim YS, Paggi JM, Evans KE, Allen WE, Richardson C, Inoue K, Ito S, Ramakrishnan C, Fenno LE, Yamashita K, Hilger D, Lee SY, Berndt A, Shen K, Kandori K, Dror RO, Kobilka BK, Deisseroth K. (2018) Structural mechanisms of selectivity and gating in anion channelrhodopsins. Nature 561, 349-354.
  2. Kishi KE, Kim YS, Fukuda M, Inoue M, Kusakizako T, Wang PY, Ramakrishnan C, Byrne EFX, Thadhani E, Paggi JM, Matsui TE, Yamashita K, Nagata T, Konno M, Quirin S, Lo M, Benster T, Uemura T, Liu K, Shibata M, Nomura N, Iwata S, Nureki O, Dror RO, Inoue K, Deisseroth K, Kato HE. (2022). Structural basis for channel conduction in the pump-like channelrhodopsin ChRmine. Cell 185, 672-689.



2022年11月21日(月)14:55~16:40
ハイブリッド開催(医学部教育研究棟13階第6セミナー室およびZoom)

東京大学大学院新領域創成科学研究科・複雑理工学専攻 能瀬 聡直 先生
適応的な行動を生む神経回路の機能発現
Functional development of neural circuits generating adaptive animal behaviors


担当:細胞分子生理学 松崎 政紀 教授

Zoom URL: https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/j/88616826133?pwd=ODh0QXYwYXpJS0FIUG5Zc2JxMVFxUT09
ミーティングID: 886 1682 6133 パスコード: 135669
参加にはu-tokyo.ac.jp 又は、umin.ac.jp アカウントをご利用ください。

外界との相互作用のなかで生存に適した行動を創出することは脳神経系の最も重要な機能である。一体、どのような神経回路のなかをどのように神経活動が展開することで、特定の行動が生成されるのだろうか。また、神経回路の発生過程においてどのような基本原理が働くことで、様々な感覚刺激を間違えなく特定の行動出力に配線することを可能としているのだろうか。私達は、コネクトミクス解析(連続電子顕微鏡画像三次元再構築)や高度な遺伝子操作が可能であり、中枢回路の構成と機能を単一細胞種のレベルで解剖可能なショウジョウバエ幼虫を用いてこれらの問題に迫っている。本セミナーでは、1.様々な体部位への触覚刺激を前進、後退、回転という異なる行動に適応的に結びつける神経回路の仕組みとその発生原理、2.萌芽的な運動回路において、自発活動により生じる未熟な運動のフィードバックを介して自己組織的に機能的な回路が形作られる仕組み、などの最近得られた知見を紹介したい。

参考文献

  1. Takagi S, Cocanougher BT, Niki S, Miyamoto D, Kohsaka H, Kazama H, Fetter RD, Truman JW, Zlatic M, Cardona A, *Nose A. Divergent Connectivity of Homologous Command-like Neurons Mediates Segment-Specific Touch Responses in Drosophila. Neuron 96(6):1373-1387 (2017) doi: https://doi.org/10.1016/j.neuron.2017.10.030
  2. Zeng X, Komanome Y, Kawasaki T, Inada K, Jonaitis J, Pulver SR, *Kazama H, *Nose A. An electrically coupled pioneer circuit enables motor development via proprioceptive feedback in Drosophila embryos Current Biology 31, 5327-5340.e5 (2021), doi: 10.1016/j.cub.2021.10.005
  3. Takagi S, Takano S, Morise S, Zeng, X, *Nose A, Segment-Specific Axon Guidance by Wnt/Fz Signaling Diversifies Motor Commands in Drosophila Larvae. Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3990386



2022年12月12日(月)14:55~16:40
ハイブリッド開催(医学部教育研究棟13階第6セミナー室およびZoom)

京都大学大学院医学研究科 分子腫瘍学分野 藤田 恭之 先生
正常上皮細胞と変異細胞間に生じる細胞競合
Cell competition between normal and transformed epithelial cells


担当:細胞分子薬理学 廣瀬 謙造 教授

Zoom URL: https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/j/83951668529?pwd=MkNOSUhYWnczL09DbWM5RWZMSHZxQT09
ミーティングID: 839 5166 8529 パスコード: 819572
参加にはu-tokyo.ac.jp 又は、umin.ac.jp アカウントをご利用ください。

現在のがん治療研究の潮流は、がん細胞と正常細胞の細胞内シグナルの違いを明らかにし、その差異をターゲットにしてがん細胞を特異的に攻撃するというものである。しかし、それらの研究で、がんは正常な細胞から起こり、正常な細胞に囲まれながら増えていくという「がんの社会性」についてはあまり顧みられることはなかった。がん細胞と周りの正常細胞はお互いの存在を認識できるのだろうか?また、両者は何か作用を及ぼし合うのだろうか?最近の研究によって、正常上皮細胞と隣接する変異細胞の間で細胞競合という現象が生じ、その結果、変異細胞が上皮細胞層から排除することが分かってきた。
  本講義では、哺乳類における細胞競合現象について最新の知見を紹介し、細胞競合がどのように上皮組織の恒常性維持やがん化に関わっているかを論説する。

参考文献

  1. Maruyama, T. and Fujita, Y. (2022) Cell competition in vertebrates — a key machinery for tissue homeostasis. Current Opinion in Genetics & Development, 72:15-21



2023年1月16日(月)14:55~16:40
ハイブリッド開催(医学部教育研究棟13階第6セミナー室およびZoom)

東京大学大学院医学系研究科 分子細胞生物学専攻 遺伝情報学 岡田 随象 先生
遺伝統計学で拓く病態解明・創薬・個別化医療
Statistical genetics, disease biology, personalized medicine


担当:システムズ薬理学 上田 泰己 教授

Zoom URL: https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/j/88533432477?pwd=YXYyL1R0RVNHdjNXaDNLM0RaRTdwZz09
ミーティングID: 885 3343 2477 パスコード: 769261
参加にはu-tokyo.ac.jp 又は、umin.ac.jp アカウントをご利用ください。

ゲノム解析技術の著しい発達により、膨大なデータが得られる時代が到来した一方、容量のオミクスデータを横断的に解釈し、社会還元するための学問へのニーズが高まっている。遺伝統計学は多彩な学問分野におけるビッグデータの分野横断的な統合に適した学問であり、重要性が認識されている。我々は、大規模ヒト疾患ゲノム解析の成果を、多彩な生物学・医学データベースと統合することにより、新たな疾患病態の解明や、疾患バイオマーカーの同定、疾患疫学の謎の解明、ドラッグ・リポジショニングを通じた新規ゲノム創薬、ゲノム個別化医療の推進に貢献できることが明らかにしてきた。「遺伝統計学・夏の学校」の開催など、若手研究者の人材育成についても紹介したい。

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