救急医療における守秘義務の問題

救急医療メーリングリスト(eml)より


 このペ−ジは救急医療における守秘義務に関する、救急医療メーリングリスト(eml)での論議の一部をご紹介します。この論議をもとに、emlメンバー有志が日本救急医学会雑誌レターとして投稿した論考が別ペ−ジに収載されていますので、併せて御参照下さい。
 皆様のご意見を web担当者(越智元郎)までお寄せ下さい。

目 次

救急医療メーリングリスト(eml)より

(ご発言者の敬称は省略させていただきます)


Date: 27 Dec 98 21:04:46 +0900
Subject: [neweml: 05900] Re: 守秘義務の問題・学会誌のレターへ投稿
From: "K.Nakagawa@JIJIPress"

 越智さん、こんにちは。中川@時事通信です

Sun, Dec 27, 1998 15:19, wrote Genro Ochi:
> 「救急医療における守秘義務の問題」は私にとりまして、本年のeml
>における大変印象深い論議となりました。前にもご紹介いたしました
>が、この時の論議をもとに短い論考をまとめ、日本救急医学会雑誌レ
>ター欄に投稿することに致しました。今回の一応の原稿ができ、以下
>のペ−ジに収載いたしましたので、皆様ご参照下さい。

 どうも、読んでもまだ腑に落ちないところがあります。議論の発端になった和歌山
の保存資料の件は、経過から見ても令状主義の原則で対応されるべき事案だったと思
うのですが、日常の中で警察が初動捜査で現状保存したりする前に、救急隊員や救急
医が証拠資料を入手してしまうことはあり得ますよね。初動の段階から令状主義を強
調するのも無理があると思います。

 具体的にどういうやり方がいいのかは、たぶん各地で行われている警察、消防、救
急医、保健所などの議論の場=飲み会的なものがありますよね。そういうところで望
ましい方策を探ることではないでしょうか。被疑者の人権は守られるべきだとは思い
ますが、被害者の治療だけでなく、被害回復だって急がれるべきこともあるでしょ
う。いろんな事態を判断して即応することが求められる救急医が、一方的な見方、考
え方で対応するのはどうかなと思うのですが。もっと現場は臨機応変でしょう。そこ
でも、守られるべき一線はあるとは思いますが、越智さんらの原稿ではちょっと一方
的な見方からとなっていると思います。emlに警察現場の方がおられないから、ここ
での議論の延長だとああなるしかないのでしょうが。「警察現場の方とも意見を交換
しながら、どういうやり方がいいのかを探っていく必要がある」というような一文が
あれば、まだ複眼的で腑に落ちるのですが。

** 中川 和之 / 時事通信社・神戸総局


From: Genro Ochi Date: Sun, 27 Dec 1998 23:34:17 +0900 Subject: [neweml: 05902] Re: 守秘義務の問題・学会誌のレターへ投稿  中川さん、皆様、おち@愛媛です。中川さんからは色々なご助言 をいただき、感謝しております。 時事通信 中川さんより(neweml: 05900) > どうも、読んでもまだ腑に落ちないところがあります。議論の発端になった和歌山 >の保存資料の件は、経過から見ても令状主義の原則で対応されるべき事案だったと思 >うのですが、日常の中で警察が初動捜査で現状保存したりする前に、救急隊員や救急 >医が証拠資料を入手してしまうことはあり得ますよね。初動の段階から令状主義を強 >調するのも無理があると思います。 → 今回の守秘義務の論議のきっかけは、和歌山カレー事件のK容   疑者の骨髄液を、本人の了解なしに病院側が警察へ「任意提出」   してよいか、というものでした。この、本人の了解なしの試料   の「任意提出」が適切ではなく、本来捜査令状によって行うべ   きであったという点で、中川さんと私の考えは完全に一致して   います。   初動の段階で、事実解明の重要な証拠となりうる試料などを、   救急医療関係者が自らの「良心」に従って届け出ることもあり   得ると思いますが、その行為は患者さんの権利を侵害する恐れ   があることを承知の上でないといけないと思います。以下は私   共の論考に新しく付け加えた部分でございますが、病院あるい   は救急医療関係者は難しい立場に置かれていると思います。そ   の点、届け出を受ける警察の立場は単純で、何ら失うものはあ   りません。 ホームページより | 救急医療関係者は医療と社会の接点に位置し、様々な事故や犯罪 |の関係者に対して診療を行う場合がある。われわれは治療現場に残 |された着衣や凶器、毒物ならば胃内容物や血液、尿などにしばしば |明白な証拠能力があることを知っている。これらの試料などの分析 |や保管は、病因や病状の評価にとどまらず、事件の真相を明らかに |する上で極めて重要なものとなる。テキストにある「犯罪捜査に対 |する国民の協力」とは、こうした情報や試料を自らの「良心」に従 |って届け出ることを意味していると考えられる。しかし、その行為 |が無制限に法によって保護されるということはあり得ない。 中川さんより > 具体的にどういうやり方がいいのかは、たぶん各地で行われている警察、消防、救 >急医、保健所などの議論の場=飲み会的なものがありますよね。そういうところで望 >ましい方策を探ることではないでしょうか。被疑者の人権は守られるべきだとは思い >ますが、被害者の治療だけでなく、被害回復だって急がれるべきこともあるでしょ >う。いろんな事態を判断して即応することが求められる救急医が、一方的な見方、考 >え方で対応するのはどうかなと思うのですが。もっと現場は臨機応変でしょう。そこ >でも、守られるべき一線はあるとは思いますが、越智さんらの原稿ではちょっと一方 >的な見方からとなっていると思います。 → 前にも書きましたが、私個人は警察や保健所との会合などは一切   経験がございません。試料などを提出するかどうかは本来は患者   さんが決めることではありますが、事実解明につながる重要な試   料などをきちんと保管するなどの協力は可能だと思います。   ただ、一つのやり方として、患者さんが自分の潔白を証明するた   めに、積極的に供述や証拠の提供をするよう、警察から患者さん   を説得なさったら、医療側は余計な精神的ストレスを受けず、守   秘義務に関するリスクもおかさせずに済むのではないでしょうか。   もちろんもう一つの道として、裁判所で令状をとればそれで済む   ことです。その辺りのことは、警察と飲み会までして打ち合わせ   ておかなくても、警察の自助努力?で済むのではないかという気   がします。   今、読みますと故・若杉教授の守秘義務に関するご記載は、楽観   的に過ぎる点があると思います。それを修正しようという立場か   ら書いていますので、その意味では私の記載は中立ではありませ   ん。   中川さんが「救急医療に関わる法的問題」の章の「7.守秘義務」   の項と「8.警察への資料の提供」の項を執筆されるとしたら、   若杉教授の記載をそのまま踏襲されますか? あるいは修正ある   いは変更されるとすればどの部分を、どのように変えられますか?  中川さんをはじめ、皆様のご意見をお聞かせ下さい。それでは皆様、 また。 **  愛媛大学医学部救急医学 越智元郎(gochi@m.ehime-u.ac.jp)

Date: 28 Dec 98 02:48:49 +0900 Subject: [neweml: 05905] Re: 守秘義務の問題・学会誌のレターへ投稿 From: "K.Nakagawa@JIJIPress"  越智さん、こんにちは。中川@時事通信です。 Sun, Dec 27, 1998 23:34, wrote Genro Ochi: >→ 前にも書きましたが、私個人は警察や保健所との会合などは一切 >経験がございません。試料などを提出するかどうかは本来は患者 >さんが決めることではありますが、事実解明につながる重要な試 >料などをきちんと保管するなどの協力は可能だと思います。  意識がない患者由来の試料だから了解が取れないと言って、医師が「令状もってこ い」と言うかたくなな姿勢をとるべきだということでしょうか。それには異議がある と申し上げているのですが。 >  中川さんが「救急医療に関わる法的問題」の章の「7.守秘義務」 >  の項と「8.警察への資料の提供」の項を執筆されるとしたら、 >  若杉教授の記載をそのまま踏襲されますか? あるいは修正ある >  いは変更されるとすればどの部分を、どのように変えられますか? ホームページから >4)犯罪捜査に対する協力としての、警察署への自発的な届け出などである。  私の考えでは、ここはこのままでもいいと思います。 ホームページから > また一方「8.警察への資料の提供」の項には以下の記載がある。 > > 犯罪捜査や事件処理の目的で、警察官から患者の着衣、身体の付着物、手術によって >摘出された弾丸や異物、検査済みの血液や尿などの提出を求められることがある。犯罪 >捜査に対する国民の協力という面からこれらの試料を提供することは法的に特別問題は >ない。  この部分が楽観的に過ぎるのは異議はありません。素人考えで間違っていたら申し 訳ないですが、私としては、 「犯罪捜査…問題はない」を 「差し押さえ令状などに基づいた手続きが原則だが、新たな被害の発生が予想される などの緊急事態に令状に基づかないで試料を任意提出したとしても違法ではない。」  とするぐらいが妥当ではないでしょうか。緊急事態としてどういうことが想定され るかは、警察と救急医の双方の立場を理解しながらの議論で検討することが可能では ないか、その議論に消防や保健所も関与したほうがいいのではないかというのが私の 考えです。その上でどう記述すればいいか決めればいいと思いますが、ぎちぎちに書 くことは難しいような気もしますが。  患者の人権を守ろうとするあまり、新たな患者=被害者が出ることを実態として容 認するようなやり方はどうも納得がいきませんよね。それをすべて警察の自助努力に 委ねるのも常識的ではないと思いますが。患者は被疑者の場合もありますが、被害者 の場合もありますよね。被害者患者が、被疑者特定などのために試料提供することは 十分納得すると思いますが、意識がなかったらそれもできないと言うのは常識的では ないですよね。  でも、被害者の一人だと思った患者が、あとから被疑者だったことが分かって、そ の試料提供を勝手にやったとして医師を訴えるかもしれない。でも、令状を請求する 時間的余裕が十分にあるような今回の和歌山のようなケースとは違って、緊急時だと 判断して任意提出したことまで裁判所が医師の行為は不当と認定することはないと思 うのですが。どんなものでしょうか>藤田さん。 ホームページから >し、その行為が無制限に法によって保護されるということはあり得ない。結果的に患者 >の権利を侵害し、患者情報の保護に配慮を欠く施設であると非難されたり、極端な場合 >は損害賠償請求を受けることもあるだろう。したがって、患者のプライバシーを尊重し >ながら、なおかつ真相解明に協力をするためには、「令状主義」に反しない限度で、警 >察官に協力をするのが原則であると考える。  ここに書かれているように、「無制限の保護はあり得ない」ことは理解できます。 しかし、無制限ではなくても、常識的な保護はあり得ると思うのですが。「令状主義 に反しない限度」という言葉が、「令状がなければ何も協力しない」という意味なら ば、「したがって」という言葉でつなぐには距離の開きが大きいと思うのですが。  私としては、机上の法律論ではなく、実態論を踏まえた上での法律論をして欲しい と思います。そのための相互の情報交換の場が有効だろうと思っています。先のメー ルで関係者の会合での意見交換が有意義だろうと書いたのですが、emlで時折報告さ れる限りでは、救命救急や法医学の分野での情報交換ですよね。先の厚生省から出さ れた毒劇物対策の報告書でも、救急医や消防、保健所と警察の日ごろからの連携を深 めることの必要性が指摘されていたと思います。そういう場からの実態を踏まえた議 論が有効だろうと思いますが、いかがでしょうか。そういう議論を交わされたような ことはなかったですか?。 ** 中川 和之 / 時事通信社・神戸総局

From: Genro Ochi Date: Mon, 28 Dec 1998 11:28:18 +0900 Subject: [neweml: 05908] Re: 守秘義務の問題  おち@愛媛です。時事通信 中川さんとの論議を皆様にも読んで いただいています。余りテンポが速すぎるのも弊害があるかも知れ ませんが、この機会に守秘義務に関して中身の濃い意見交換をさせ ていただければ幸いです。emlの皆様も、どうぞお気軽に口をはさん で下さい。さて、 中川さんより(neweml: 05905) > 意識がない患者由来の試料だから了解が取れないと言って、医師が「令状もってこ >い」と言うかたくなな姿勢をとるべきだということでしょうか。それには異議がある >と申し上げているのですが。 → 事実解明(それはしばしば治療上も必要です)のために重要な   試料であれば、医療従事者がその存在を明らかにしたり、変質   したりしないように保存をすることは可能だと思います。それ   は医療従事者の「良心」にもとづいてする行動であり、その行   動が結果として患者の権利を侵害すればそれに対して責を負う   ことを覚悟の上でとる行動です。   そこから一歩踏み出し、容疑者である患者の試料を警察に提出   するのであれば、患者の了解を得るか「令状を見せて下さい」   と警察官に確認するのが当たりまえではないでしょうか。 >ホームページから >>4)犯罪捜査に対する協力としての、警察署への自発的な届け出などである。 > > 私の考えでは、ここはこのままでもいいと思います。 → この記載については、故・若杉先生と中川さんは同意見という   ことですね。私は上記のように、緊急避難的な場面などで「警   察署への自発的な届け出」が可能だと考えていますが、それは   医療関係者の own riskのもとにとる行動だと思います。若杉先   生のご記載では「警察署への自発的な届け出」であれば、無条   件で容認されるという風に受け取られるのではないでしょうか。   私自身、この教科書をもとにそのように考えて来ましたし、学   生にそう教えました。今は「まてよ、、」という疑問が湧いて   おりまして、中川さんをはじめ皆様のご意見をお聞きしている   所です。 >「差し押さえ令状などに基づいた手続きが原則だが、新たな被害の発生が予想される >などの緊急事態に令状に基づかないで試料を任意提出したとしても違法ではない。」 > > とするぐらいが妥当ではないでしょうか。 → このような場合は、中川さんの言われる通りなのだと思います。   令状を待てない緊急事態もありうる(試料が変成する?、証拠   が隠滅される?)ということも文に入れたら、中川さんや同じ   お考えの方は安心されるかも知れませんね。 > 患者の人権を守ろうとするあまり、新たな患者=被害者が出ることを実態として容 >認するようなやり方はどうも納得がいきませんよね。それをすべて警察の自助努力に >委ねるのも常識的ではないと思いますが。患者は被疑者の場合もありますが、被害者 >の場合もありますよね。被害者患者が、被疑者特定などのために試料提供することは >十分納得すると思いますが、意識がなかったらそれもできないと言うのは常識的では >ないですよね。 → 新たな患者=被害者が出る恐れがあるような場合は、医療従事   者は自らの「良心」にもとづいて、適切な対応(令状なしに、   警察へ試料や情報を提供すること)をすることがあるのではな   いでしょうか。そこの部分は中川さんと同じ意見です。ただ、   それが天下晴れて許されていることではなく、平常時であれば   患者(容疑者)の権利を侵害する行為であることは知っておく   必要があると思います。 > ここに書かれているように、「無制限の保護はあり得ない」ことは理解できます。 >しかし、無制限ではなくても、常識的な保護はあり得ると思うのですが。「令状主義 >に反しない限度」という言葉が、「令状がなければ何も協力しない」という意味なら >ば、「したがって」という言葉でつなぐには距離の開きが大きいと思うのですが。 → 私は「令状がなければ何も協力しない」と考えているわけでは   ありません。令状がなければ原則として試料を提供しがたい、   と考えています。令状がない段階で私共ができる協力には、上   に書きましたように、事実解明の上で重要な試料の存在を明ら   かにしたり、変質したりしないように保存をするなどのことが   あり得ると思います。 > 私としては、机上の法律論ではなく、実態論を踏まえた上での法律論をして欲しい >と思います。そのための相互の情報交換の場が有効だろうと思っています。 → 相互の情報交換については賛成ですが、愛媛県を例に上げます   と4つの第3次救急医療機関、30とか40の救急告示病院(実際   の数は存じません)と警察とが意見交換をするような場はござ   いません。このことは今後の課題であり、現状では担当警察官   と救急担当職員が日々直接に接触しています。   救急医療関係者にとりましては、日本救急医学会監修の教科書   「標準救急医学」は、本当に権威のある判断基準であろうと思   います。警察関係者、救急医療関係者、法律関係者などの合意   を形成していただき、それにもとづいて円滑な救急医療をおこ   なってゆきたいと思います。その意味では、「標準救急医学」   の改訂が間近に迫ったとお聞きしており、この教科書の中の   「救急医療に関わる法的問題」の章につきましては、新たな記   載を御願いしたいと考えております。  最後に、昨夜ホームページ収載作業をしておりまして、私の気持 ちにぴったり来る部分を見つけましたので引用させていただきます。 中川さんはこれまでの警察関係者との交流から、彼らへの理解が深 いわけですが、私にとっては警察が私共の「任意提出」に甘えてお られる部分があるのではないかというのが、正直な気持ちです。 高田さんより(neweml: 05578) |ただし、警察からは「正論かも知れないが社会的正義に消極的」で「警 |察の捜査に協力しない問題施設」とみなされ、地域の病院などでは他の |関係でもギクシャクする可能性も出てきます。この問題は医療機関側の |認識が大事です。しかし、それ(「医療機関の自発的協力」)を要求し |たり当てにする警察があるとすれば、違法行為を勧める警察の認識も問 |題と思います。  随分な長文となりました。おわび申し上げます。それでは、中川 さん、皆様、また。 **  愛媛大学医学部救急医学 越智元郎(gochi@m.ehime-u.ac.jp)

Date: 28 Dec 98 13:17:57 +0900 Subject: [neweml: 05909] Re: 守秘義務の問題 From: "K.Nakagawa@JIJIPress"  越智さん、皆さん、中川@時事通信です。 Mon, Dec 28, 1998 11:28, wrote Genro Ochi: > → この記載については、故・若杉先生と中川さんは同意見という >  ことですね。私は上記のように、緊急避難的な場面などで「警 >  察署への自発的な届け出」が可能だと考えていますが、それは >  医療関係者の own riskでする行動だと思います。若杉先生の >  ご記載では「警察署への自発的な届け出」であれば、無条件で >  容認されるという風に受け取られるのではないでしょうか。私 >  自身、この教科書をもとにそのように考えて来ましたし、学生 >  にそう教えました。今は「まてよ、、」という疑問が湧いてお >  りまして、中川さんをはじめ皆様のご意見をお聞きしている所 >  です。  無条件で容認されると言うことではないと思います。私としては、後段部分の記載 に令状主義の原則と、その原則からはみ出してもいい事態があり、その際には自発的 な届けや 任意提出してもown riskではあるけれど、容認されうることを示せばいいのではと思 っています。そういう意味では、越智さんと同じ考え方だと思います。  ただ、越智さんと異なるのは、すべてOKだという認識がこれまであったかどうか です。すべてOKという認識は、確かに警察を過剰に甘えさせることにもなります し、警察捜査が令状主義の原則をかなり徹底するようになっている現状からも、時代 にそぐわない認識だと思います。改めて、越智さんから100%OKという認識が常 識となっていると聞くと、ああいう文章になってもやむをえないかなあとも思いまし た(^_^;)。 >>「差し押さえ令状などに基づいた手続きが原則だが、新たな被害の発生が予想され る >>などの緊急事態に令状に基づかないで試料を任意提出したとしても違法ではな い。」 >> >> とするぐらいが妥当ではないでしょうか。 > > → このような場合は、中川さんの言われる通りなのだと思います。 >  令状を待てない緊急事態もありうる(試料が変成する?、証拠 >  が隠滅される?)ということも文に入れたら、中川さんや同じ >  お考えの方は安心されるかも知れませんね。  その緊急事態として、どういうことが考えられるか、知恵の出し合いが必要ではな いかと思っています。 >  救急医療関係者にとりましては、日本救急医学会監修の教科書 >  「標準救急医学」は、本当に権威のある判断基準であろうと思 >  います。警察関係者、救急医療関係者、法律関係者などの合意 >  を形成していただき、それにもとづいて円滑な救急医療をおこ >  なってゆきたいと思います。その意味では、「標準救急医学」 >  の改訂が間近に迫ったとお聞きしており、この教科書の中の >  「救急医療に関わる法的問題」の章につきましては、新たな記 >  載を御願いしたいと考えております。  趣旨はごもっともだと思います。 >高田さんより(neweml: 05578) >|ただし、警察からは「正論かも知れないが社会的正義に消極的」で「警 >|察の捜査に協力しない問題施設」とみなされ、地域の病院などでは他の >|関係でもギクシャクする可能性も出てきます。この問題は医療機関側の >|認識が大事です。しかし、それ(「医療機関の自発的協力」)を要求し >|たり当てにする警察があるとすれば、違法行為を勧める警察の認識も問 >|題と思います。  こういう認識の警察があれば、警察内部でも問題になると思います。ただ、その際 にどういう相互協力があり得るのかを、前向きに知恵を出し合っていけば、問題施設 という認識なんて生まれないと思います。警察組織は、だいぶ開かれては来ています が、まだまだ外部とのつきあいがへたくそだと思いますので、双方のいらぬトラブル を未然に防止するための相互理解を重ねることの重要性を、救急医側も理解して、対 処して欲しいのです。 ** 中川 和之 / 時事通信社・神戸総局 ** http://member.nifty.ne.jp/n-kaz/index.html

Date: Tue, 29 Dec 1998 16:02:53 +0900 From: "Fujita, Y." Subject: [neweml: 05929] Re: 守秘義務の問題・学会誌のレターへ投稿  弁護士の藤田です。  こんにちは。 K.Nakagawa@JIJIPressさん wrote: >  越智さん、こんにちは。中川@時事通信です。 >  でも、被害者の一人だと思った患者が、あとから被疑者だったことが分かって、そ > の試料提供を勝手にやったとして医師を訴えるかもしれない。でも、令状を請求する > 時間的余裕が十分にあるような今回の和歌山のようなケースとは違って、緊急時だと > 判断して任意提出したことまで裁判所が医師の行為は不当と認定することはないと思 > うのですが。どんなものでしょうか>藤田さん。  刑事手続上の問題と民事上の問題がありますが、刑事手続上は証拠能力のある証拠と判 断される場合が多いと言えるかも知れません。  でも、緊急時と言っても、どの程度緊急なのか、緊急性の有無を判断するために必要な 情報を得た上での判断なのかどうかなども問題になりうるかなという気がします。 (なお、当然のことながら、警察はすべての情報を開示するわけではありません。)  なお、令状の発行は非常に簡単に行われています(ゆるやかすぎるという批判がありま す。)。そして、少なくとも都市部では、令状をとる時間的余裕がないというほどの緊急 事態は私には想定しにくいのですが。  もし私が医師だったら、試料の任意提出を求められた場合には、  「すみませんが、令状をとってきてくれませんか。」  「令状がないのに提出して、後で患者側からプライバシー侵害等で訴えられたら、たま りませんから。」  「患者側から民事訴訟を起こされた場合に、警察が面倒をみてくれるわけではないでし ょう?」  「令状さえ持ってきてくれたら、堂々とお渡しできますから。」 などと言うと思います。  もし、警察官から「緊急事態だから・・・」と言われたら、  「私は、その事件についての情報を(全部は)把握できていませんから、本当に緊急事 態かどうかを判断できないですよ。判断しろと言う方が無理ではないですか?」  「おっしゃることが事実なのかどうか確かめる方法がありませんし、また、確かめると しても、時間がかかるでしょう。」  「今すぐ署に電話して令状をとる手配をされる方が早いと思いますよ。」 などと言うだろうと思います。 -- 藤田康幸 Fujita, Yasuyuki  E-mail  y.fujita@f.email.ne.jp Homepage  http://www.ne.jp/asahi/law/y.fujita/index.html

Date: 29 Dec 98 16:41:48 +0900 Subject: [neweml: 05930] Re: [neweml: 05929] Re: 守秘義務の問題・学会誌のレターへ投稿 From: "K.Nakagawa@JIJIPress"  藤田さん、みなさん、中川@時事通信です Tue, Dec 29, 1998 16:02, wrote Fujita, Y.: > でも、緊急時と言っても、どの程度緊急なのか、緊急性の有無を判断するために 必要 >な情報を得た上での判断なのかどうかなども問題になりうるかなという気がしま す。 >(なお、当然のことながら、警察はすべての情報を開示するわけではありませ ん。)  そのために、相互に信頼関係を持てるような日ごろからの情報交換の場が重要だと 思います。ここに不信感があれば、「令状がなければダメ」という対応になってしま うかもしれませんが、それは不幸な事態だと思います。警察も犯罪捜査の為に存在し ているわけでなく、犯罪の未然防止も仕事であり、そのための実務レベルでの相互協 力は十分なされうると思います。それが、結果としてその時にやりとりした試料が捜 査上の証拠になり、患者である被疑者の不利になったとしても、やむを得ないことが ありうると思います。 > なお、令状の発行は非常に簡単に行われています(ゆるやかすぎるという批判があり >ます。)。そして、少なくとも都市部では、令状をとる時間的余裕がないというほどの緊 >急事態は私には想定しにくいのですが。  時間単位で発行されるとは思いますが、やはり別の新たな生命の危険を防止するた めにその1時間でも無駄にできないことはあるのではないかと私は思います。医師は 人の生命や健康を守るために存在しているわけで、法律を守るために存在しているの ではないですから。  私としては、日本救急医学会監修の教科書である「標準救急医学」の記載は、十分 ではないと思いますが、その記載を変えるだけではなく、日常から救急隊や警察、保 健所との情報交換、意志疎通を図っておくことが求められることも、もし教科書に入 っていないのであれば強調しておいて欲しいと思います。先の厚生省が示した毒物対 策でも、そういうことが求められていると理解しています。 ** 中川 和之 / 時事通信社・神戸総局 ** http://member.nifty.ne.jp/n-kaz/index.html

Date: Tue, 29 Dec 1998 18:35:54 +0900 From: "Fujita, Y." Subject: [neweml: 05931] Re: 守秘義務の問題・学会誌のレターへ投稿

 弁護士の藤田です。  中川さん、レスポンスが早いですね。(^_^) K.Nakagawa@JIJIPressさん wrote: >  藤田さん、みなさん、中川@時事通信です > Tue, Dec 29, 1998 16:02, wrote Fujita, Y. : > > でも、緊急時と言っても、どの程度緊急なのか、緊急性の有無を判断するために必要 > >な情報を得た上での判断なのかどうかなども問題になりうるかなという気がします。 > >(なお、当然のことながら、警察はすべての情報を開示するわけではありません。) > >  そのために、相互に信頼関係を持てるような日ごろからの情報交換の場が重要だと > 思います。ここに不信感があれば、「令状がなければダメ」という対応になってしま > うかもしれませんが、それは不幸な事態だと思います。警察も犯罪捜査の為に存在し > ているわけでなく、犯罪の未然防止も仕事であり、そのための実務レベルでの相互協 > 力は十分なされうると思います。それが、結果としてその時にやりとりした試料が捜 > 査上の証拠になり、患者である被疑者の不利になったとしても、やむを得ないことが > ありうると思います。  私は、「相互に信頼関係を持てるような日ごろからの情報交換の場」の意味を否定しま せんが、基本的に、警察の立場と(試料の任意提出を求められた)医師の立場は異なる (同じではない)わけです。  それは信頼関係とか不信感の問題ではありません。  警察官が試料の任意提出を求めた行為は、(捜査の必要性等がないことが明らかである ような極めてまれなケースが別でしょうが)、患者との関係で違法とされることはまずあ りえないでしょう。通常は適法な職務遂行と判断されるでしょう。あくまでも任意の提出 を求めたら医師が任意に提出してくれたと言うだけのことでしょう。  しかし、提出する法的義務を負っていない医師が任意に提出する行為は、患者のプライ バシーとの関係では違法と判断される危険があります。その危険を(当然のことですが) 警察は引き受けてはくれないわけです。何しろ医師の任意の提出ですし。  また、患者のプライバシーを尊重しない医師・医療機関であることが世間に知れたら、 受診する患者が減るという危険もあります。その危険も警察は面倒を見てくれません(も ちろん、面倒をみるべきではないですが。)。  「(なお、当然のことながら、警察はすべての情報を開示するわけではありません。 )」に関しては、いくら一定の信頼関係があっても、捜査機関の外部に開示すべきでない (開示できない)情報があるわけで、これも信頼関係とか不信感の問題ではありません。  (警察が一部の情報を隠すことや情報の評価を誤ることなどもありますが、それらはこ こでは問題外としています。) > > なお、令状の発行は非常に簡単に行われています(ゆるやかすぎるという批判が > >あります。)。そして、少なくとも都市部では、令状をとる時間的余裕がないというほ > >どの緊急事態は私には想定しにくいのですが。 > >  時間単位で発行されるとは思いますが、やはり別の新たな生命の危険を防止するた > めにその1時間でも無駄にできないことはあるのではないかと私は思います。医師は > 人の生命や健康を守るために存在しているわけで、法律を守るために存在しているの > ではないですから。  「別の新たな生命の危険を防止するためにその1時間でも無駄にできないこと」が具体 的・現実的にどのくらいあるのかわからないのですが、あるとしても、ものすごくまれで 極めて例外的なケースではないですか。  (どんな原則にも例外はありうるでしょうが、極めてまれな例外的事態を想定した記述 は通常はしないと思います。)  なお、法律は普通の場合は一定の正当な利益を守るために存在しています。憲法や刑事 訴訟法の令状主義の規定もそうです。  医師はいろいろな法律上の義務を負っていますが、一番基本的な義務は患者の生命・健 康に対する義務だと思います。そして、その義務の履行は患者との信頼関係によって成り 立ちます。  なお、令状主義についてemlで以前に書いたことを念のため貼り付けさせていただきま すね。 <引用始まり>---------------------------------------------------------  私は、この著者が例えばどのような経歴でどのような立場の人なのかなどを全く知りま せん。  しかし、捜査機関の行為に対する強烈な信頼感(捜査機関が悪いことや権限濫用をする ことはありえないという思想)に基づく記述のように思います。  憲法や刑事訴訟法がなぜ令状主義を採用しているのかを正当に理解されているのかどう かが非常に疑問です。  捜査機関にとっていちいち令状をとることが面倒くさいことはあまりにも明らかなこと です。そのことをわかった上で、権力が不当に行使されるおそれがあるから、それを防ぐ ために、面倒な手間をかけさせ、しかも裁判官がチェックする必要がある、というのが令 状主義の考え方です。 (現状では裁判官のチェックが甘すぎるという批判がある運用状況ですが。)  とにかく、憲法や刑事訴訟法が令状主義を採用していること自体が不当だとして批判し するならまだしも1つの考え方として理解しますが(もちろん、私はそのような考え方に 賛成しませんが)、そうでない限り、令状主義を採用すべきでないという合理的根拠を叙 述することなく、上記のような叙述をすることは問題だと思っています。 ----------------------------------------------------<引用終わり>   以上、ストレートな書き方をしたかも知れませんが、お許しを。 -- 藤田康幸 Fujita, Yasuyuki Homepage  http://www.ne.jp/asahi/law/y.fujita/index.html


Date: 29 Dec 98 23:30:12 +0900 Subject: [neweml: 05935] Re: 守秘義務の問題・学会誌のレターへ投稿 From: "K.Nakagawa@JIJIPress"  藤田さん、みなさん、中川@時事通信です。 Tue, Dec 29, 1998 18:35, wrote Fujita, Y.: > 「別の新たな生命の危険を防止するためにその1時間でも無駄にできないこと」が具 >体的・現実的にどのくらいあるのかわからないのですが、あるとしても、ものすごくま >れで極めて例外的なケースではないですか。 > (どんな原則にも例外はありうるでしょうが、極めてまれな例外的事態を想定した記 >述は通常はしないと思います。)  この教科書は、一般医療のことを言っているのではありません。そうならば私もあ れこれ言いません。どういう事態があるか分からない現場にいる救急医の教科書だか らこそなのです。その時に令状うんぬんといっていて、法律的な建前を申し述べて新 たな被害拡大につながる判断を救急医がして欲しくないと言うだけです。ややもする と事なかれがあたりまえの世間ですから、救急の現場にいる人間が事なかれの対処を して欲しくないと思うのです。あくまで「令状主義」の原則は了解した上でのことで すが。 > 医師はいろいろな法律上の義務を負っていますが、一番基本的な義務は患者の生命・ >健康に対する義務だと思います。そして、その義務の履行は患者との信頼関係によって >成り立ちます。  大災害や大事故への対処が求められる救急医にとって、「患者」という言葉には賛 成できません。「市民」のという言葉なら納得できます。目の前の特定者だけでな く、被害に遭っているかもしれない、負傷しているかもしれない、今後の被害に遭う かもしれない人間まで視野に置いて活動するのが救急医ではないでしょうか。  そうでなければ、ある意味で見捨てる行為であるトリアージなんて任せられませ ん。患者の生命・健康に対する義務を果たすためには、トリアージタックが黒の場合 にだって、想定される患者を放置して、目の前の患者に対して最善を尽くさないと訴 えられると言うことでしょうか。(概念的には否定できないとは思いますが)  一般の特定の患者を相手にする医師と、救急医とは心構えが異なって当然だと思い ます。藤田さんが想定されるのが一般の医師なら分かるのですが、私は救急医に関し ては例外的なケースを相手にすることが多いと思いますので、法律的な原理原則にし ばられすぎるのを恐れます。  阪神大震災を法律は想定していなかったですし、地下鉄サリン事件も想定していま せんでした。でもそれに立ち向かったのが救急医たちだったと思います。事件と被疑 者だけの関係で警察との関係が出てくるとは思いません。災害時には警察、消防、保 健所などとの連携が必須のはずです。それと、今回の議論との間には距離を感じてし まうのですが。おかしいでしょうか。越智さんのown riskという発言に感じるある種 の決意と、藤田さんの原則論の差ということなのかもしれませんが。門外漢から申し 訳ありません。 ** 中川 和之 / 時事通信社・神戸総局 ** http://member.nifty.ne.jp/n-kaz/index.html
Date: Wed, 30 Dec 1998 00:34:51 +0900 From: "Fujita, Y." Subject: [neweml: 05936] Re: 守秘義務の問題・学会誌のレターへ投稿  弁護士の藤田です。  こんばんは。 "K.Nakagawa@JIJIPress"さん wrote: >  藤田さん、みなさん、中川@時事通信です。 > > Tue, Dec 29, 1998 18:35, wrote Fujita, Y. : > > 「別の新たな生命の危険を防止するためにその1時間でも無駄にできないこと」が具 > >体的・現実的にどのくらいあるのかわからないのですが、あるとしても、ものすごくま > >れで極めて例外的なケースではないですか。 > > (どんな原則にも例外はありうるでしょうが、極めてまれな例外的事態を想定した記 > >述は通常はしないと思います。) > >  この教科書は、一般医療のことを言っているのではありません。そうならば私もあ > れこれ言いません。どういう事態があるか分からない現場にいる救急医の教科書だか > らこそなのです。その時に令状うんぬんといっていて、法律的な建前を申し述べて新 > たな被害拡大につながる判断を救急医がして欲しくないと言うだけです。ややもする > と事なかれがあたりまえの世間ですから、救急の現場にいる人間が事なかれの対処を > して欲しくないと思うのです。あくまで「令状主義」の原則は了解した上でのことで > すが。  ちょっと誤解があると思うのですが。  私は一般医療について言ってはおりません。  もともとが、救急医学のテキストの記載についての話ですし。  救急医にとっても、阪神大震災のような大災害やサリン事件のような事件は、非日常的 だで、まれな体験だと思います。  また、上記テキストもそのようなケースについて触れておらず、非日常的ではない救急 医療に関する記載だと認識しております。 (なお、阪神大震災のような大災害やサリン事件のような事件の場合も、憲法や刑事訴訟 法を無視してよいほどの緊急事態が救急医療の現場にありえたのかどうかを私は知りませ んが。) >  そうでなければ、ある意味で見捨てる行為であるトリアージなんて任せられませ > ん。患者の生命・健康に対する義務を果たすためには、トリアージタックが黒の場合 > にだって、想定される患者を放置して、目の前の患者に対して最善を尽くさないと訴 > えられると言うことでしょうか。(概念的には否定できないとは思いますが)  今論じているのは、試料の警察への提出についての問題なんですが。 >  一般の特定の患者を相手にする医師と、救急医とは心構えが異なって当然だと思い > ます。藤田さんが想定されるのが一般の医師なら分かるのですが、私は救急医に関し > ては例外的なケースを相手にすることが多いと思いますので、法律的な原理原則にし > ばられすぎるのを恐れます。  私の認識は、救急医の医療も、例えば100のうち少なくとも99ぐらいは、憲法や刑 事訴訟法を無視してよいほどの緊急事態はないだろうということです。 > >  阪神大震災を法律は想定していなかったですし、地下鉄サリン事件も想定していま > せんでした。でもそれに立ち向かったのが救急医たちだったと思います。事件と被疑 > 者だけの関係で警察との関係が出てくるとは思いません。災害時には警察、消防、保 > 健所などとの連携が必須のはずです。それと、今回の議論との間には距離を感じてし > まうのですが。おかしいでしょうか。越智さんのown riskという発言に感じるある種 > の決意と、藤田さんの原則論の差ということなのかもしれませんが。門外漢から申し > 訳ありません。  私としても、医師がリスクを引き受けることを強制されるべきでないし、もしリスクを 引き受けざるをえないとすれば非常に気の毒だという考え方なのですけど。  なかなか真意が伝わらないのは私の表現力等が不足しているからなんでしょうね。  ではまた。 -- 藤田康幸 Fujita, Yasuyuki Homepage http://www.ne.jp/asahi/law/y.fujita/index.html

Date: Wed, 30 Dec 1998 01:26:57 +0900 From: TK Subject: [neweml: 05937] Re: 守秘義務の問題・学会誌のレターへ投稿  TK@精神科医です。  令状主義のことについてのお話しがありますが、それとちょっと関連した精神科救 急上の問題について、以前に同僚と話題になったことがあります。捜査機関が「血液 /尿を採取、提出してくれないか」ということを医療機関に要求してきた場合には、 こちらとしてはやはり「令状をとってきてね」と言うのが正解でありましょう。でも、 捜査機関の要求がない場合はどうなのでしょうか?  精神科救急の現場には(数としては非常に少ないのですが)覚醒剤等の精神活性物 質による精神症状を呈した患者が来ます。一見すると精神分裂病と見分けがつかない 症状であることも少なくないので、そのまま治療を始めてしまいます。薬剤の摂取経 路は経静脈的なものであれば注射痕などから推定はできますが、最近は吸入などの経 路によるものも多く、左腕を見ただけでは「ヤク中」かどうかは分かりません。最近 はTriageによってあるていど分かるようになって便利にはなりましたが、その結果を こちらから先に、つまり、警察からの要求がなくとも警察に届け出てよいものなので しょうか?  というのも、まだ、Triageという便利なものがない数年前、ある民間精神病院に幻 覚妄想状態で夜間に緊急入院した患者さんがいました。翌日以降の詳細な病歴の聴取 や治療の経過から判断して、どうやら覚醒剤を使用していた可能性が極めて高いとい うことになりましたが、本人に聞いても「やってない」といい、血液・尿検査は断固 拒否していました。そうしている間に、精神症状が改善してゆきましたが、1ヵ月ほ どして病棟に慣れてきたら、長期入院の慢性患者さんを脅して金品を巻き上げたりす るなど、病棟での逸脱行為が目立ってきました。結局退院させましたが、入院費は踏 み倒されました。こんなケースは精神科救急の現場では毎日あるとは言いませんが (そんなにしょっちゅうあったら、やってられませ〜ん)、藤田さんの言われるよう な「極めてまれな例外的事態」というほどまれではありません。それに、こういう病 棟で悪さをするような「ヤク中」さんと毎日対峙せざるを得ない看護婦や主治医のス トレスをご想像いただけるでしょうか?証拠がなければ警察は決して動いてくれませ ん。精神病院としてはおとなしくお帰りいただけるまで何もせずに(災難が通りすぎ るのを)待たなければならないのでしょうか?「ヤク中」さんは「ヤ」関係の方も多 く、こちらから警察に知らせたことをもって「守秘義務違反だ!」とねじ込んでくる ことが十分予想されたので、このときは動けませんでした。トラブルになることは極 力避けたいのです。  ところで、Triageで、スクリーニングできるようになってから、搬入時に「やって るな」と分かるようになってしまいました。この結果をもって警察に訴え出て良いも のでしょうか?もちろんTriageの結果は公判を維持できるような証拠にはなりはしな いでしょうから、令状をとってあらためて尿検査をしてもらうことになるでしょう。 そのようにしておいてくれたら、精神症状が落ち着き次第さっさと逮捕してくれるで しょうから、他の患者さんを脅したりされなくてもすむので、病院側としては安心な のです。だいたい、警察が後ろについているのといないのでは、「ヤ」関係の人を相 手にする場合の構えが違ってきますね。「ヤ」はやっぱり一民間人の医師にとっては (いくら患者さんであっても)相手にしたくないです。  この話題は同僚の中でも意見が分かれました。我々の身を守ってこそであるという 意見、過度に防衛的になって人権侵害をしてはならないという意見、問題が起きたら 警察に訴え出ればいいという意見、様々でした。3年ほど前の精神保健指定医講習会 でも、話題になっていました。そのときには首都圏の精神科救急施設の先生が「覚醒 剤が疑われる場合には、令状をとって尿検査。その結果を教えてもらって、陽性なら ば精神症状が落ち着いたらすぐに退院させて、病院玄関で逮捕」と明快に言っていま したが、その施設ではそのようなケースはほとんど警察官が(警職法に基づく)保護 をして、連れてきて診察になるので、スムーズにことが進むのでしょうが、前述のケー スは警察が連れてきたのではなかったため、こうはスムーズには行きません。それに 病院が疑っていただけで、事実は本当に覚醒剤は使っていなかったのかもしれません。 本当にシロなのに警察に通報したりして身体捜索令状などがとられたりしたら、これ はやっぱり人権蹂躙ですね。こんな事を考えると何もできなくなってしまいます。 「ヤク中」が疑われる患者が来たら、決して入院させず、それどころか処置さえせず、 さっさと追い返すような精神病院もあると聞きます。これもひどい人権侵害です。で も、こんな問題が起きるのも、行政の責任を一民間人である医療機関に背負いかぶせ て知らんぷりしている状態が続いているからなのでしょう。  越智さんの問題提起は高次救急施設におけるものでしょうから、ちょっと精神科救 急とセッティングが違いますね。でも、守秘義務の問題に関して精神科救急の中では こんな問題があるということを少しだけ発言させていただきました。

Date: Wed, 30 Dec 1998 23:19:16 +0900 From: "Fujita, Y." Subject: [neweml: 05941] Re: 守秘義務の問題・学会誌のレターへ投稿  弁護士の藤田です。  TKさん、皆さん、こんばんは。 TKさん wrote: > >  TK@精神科医です。 >  令状主義のことについてのお話しがありますが、それとちょっと関連した精神科救 > 急上の問題について、以前に同僚と話題になったことがあります。捜査機関が「血液 > /尿を採取、提出してくれないか」ということを医療機関に要求してきた場合には、 > こちらとしてはやはり「令状をとってきてね」と言うのが正解でありましょう。でも、 > 捜査機関の要求がない場合はどうなのでしょうか? >  精神科救急の現場には(数としては非常に少ないのですが)覚醒剤等の精神活性物 > 質による精神症状を呈した患者が来ます。一見すると精神分裂病と見分けがつかない > 症状であることも少なくないので、そのまま治療を始めてしまいます。薬剤の摂取経 > 路は経静脈的なものであれば注射痕などから推定はできますが、最近は吸入などの経 > 路によるものも多く、左腕を見ただけでは「ヤク中」かどうかは分かりません。最近 > はTriageによってあるていど分かるようになって便利にはなりましたが、その結果を > こちらから先に、つまり、警察からの要求がなくとも警察に届け出てよいものなので > しょうか?  もし私がTKさんの立場だったらどうするか、という限度でコメントをさせていただき ます。  もし私だったら(私が想定する事態においては)届け出ないと思います。  このように書くとびっくりする人もいるかも知れませんね。  いろいろなことに配慮しながら書くと長くなるし時間もかかるので、短い記述になるこ とをお許しくださいね。以下は、私が現在思っていることです。  憲法や刑事訴訟法は、いろいろと面倒くさい手続を定めていますが、それ(適正手続主 義)には「10人の犯人を逃がすとも1人の無辜(むこ)を苦しめず」という考え方が基 礎にあります。  すべての犯人を逃がさないようにするという考え方(必罰主義・実体的真実主義)では 弊害が大きいからです。  令状主義(捜索。差押え等は裁判官の令状を必要とする)、証拠裁判主義(証拠がなけ れな罰せられない)、補強証拠法則(自白だけでは有罪にできない)、無罪の推定などな ど、適正手続主義の反映です。  覚醒剤事犯については、先日も鑑定の誤りについての報道がありましたね。  覚醒剤中毒から立ち直ろうと努力している人に対して、売り先が減るのを恐れた売人 が、その人に摂取させるということだって考えられます。   そのほかの犯罪についても、一般に犯罪が成立するためにはいろいろな要件(例えば、 正当防衛や緊急避難などの違法性阻却事由がないことなど)があります。  私としては、結果だけを見て犯罪の成立を確信できる場合はあまり多くないように思い ます。  私としては「1人の犯人も逃がさない」という精神に基づく行動は「多くの無辜(む こ)を苦しめる」結果になるおそれがあると思っています。  なお、被害者は告訴できます(刑事訴訟法230条)。  また、誰でも告発できます(刑事訴訟法239条)。  ただ、告訴や告発は、普通は犯罪事実を特定した上で証拠を添えて行います(一応口頭 でもできることになっていますが、通常は告訴状や告発状を作成して提出します。)  なお、虚偽の告訴・告発をしたら罰せられます(刑法172条)。未必の故意でも成立 するとされています。  したがって、私としては、よほど確信がないと告訴や告発はしません。  >  というのも、まだ、Triageという便利なものがない数年前、ある民間精神病院に幻 > 覚妄想状態で夜間に緊急入院した患者さんがいました。翌日以降の詳細な病歴の聴取 > や治療の経過から判断して、どうやら覚醒剤を使用していた可能性が極めて高いとい > うことになりましたが、本人に聞いても「やってない」といい、血液・尿検査は断固 > 拒否していました。そうしている間に、精神症状が改善してゆきましたが、1ヵ月ほ > どして病棟に慣れてきたら、長期入院の慢性患者さんを脅して金品を巻き上げたりす > るなど、病棟での逸脱行為が目立ってきました。  病院内で恐喝が行われたことが明白なら、被害者に告訴するよう勧めることもあるかな と思います。  (例えば、被害者が、被害額が小さくて、また、調書等をとられる煩わしさを避けたい などと思うこともあるでしょうから、第1次的には被害者の意思を尊重すべきように思い ます。) <中略> >  ところで、Triageで、スクリーニングできるようになってから、搬入時に「やって > るな」と分かるようになってしまいました。この結果をもって警察に訴え出て良いも > のでしょうか?もちろんTriageの結果は公判を維持できるような証拠にはなりはしな > いでしょうから、令状をとってあらためて尿検査をしてもらうことになるでしょう。  この場合の「Triageの結果」というのは、具体的にはどのようなことを意味しているの でしょうか?  (現場を知らないものですから。)  精神科の場合は、いろいろと特に難しい場面があるのだろうと推測はしていますが。 -- 藤田康幸 Fujita, Yasuyuki  E-mail y.fujita@f.email.ne.jp Homepage http://www.ne.jp/asahi/law/y.fujita/index.html

Date: 31 Dec 98 00:54:43 +0900 Subject: [neweml: 05946] Re: 守秘義務の問題・学会誌のレターへ投稿 From: "K.Nakagawa@JIJIPress"  藤田さん、みなさん。中川@時事通信です Wed, Dec 30, 1998 23:19, wrote Fujita, Y. : > 私としては「1人の犯人も逃がさない」という精神に基づく行動は「多くの無辜(む >こ)を苦しめる」結果になるおそれがあると思っています。  これは、私も異議がありません。警察の現場だって、今は検挙率を無理矢理上げ て、一人の犯人も逃がしていないという姿勢をとることはしなくなりつつありますか ら。(これは、検挙できそうでない犯罪を受理しない・事件認定しないことで、ある 程度操作が可能です(^_^;)。そんなに、目に見えて上がるものではないようですが。 性犯罪などは最終的に告訴に至らないことも少なくないので、以前は事件扱いをめん どうがる風潮があったとききます)。  また、話を元に戻すようですが、この一連の話題で私がこだわっているのは、救急 の現場と警察の現場で、場合によっては何らかの試料(被疑者にかかわるものだけで なく、被害者からの試料なども含めて)を、目の前の患者や今後の患者(にならない 人)のために相互にやりとりするルートを、刑事訴訟法とかの問題でなく、人命救助 的な視点で盛り込んでおいて欲しいのです。人命などを考えて、より安全サイドにバ ッファーを置いていきたいということなのです。  当然、結果として被疑者を特定するなどのための試料になったとしても、立件のた めの試料と言うより、目前に想定される新たな被害を防ぐために不可欠な試料という のがあり得るのではないかと思うのです。その試料を誰からか特定されないように提 供して、実際としての役にはたたせるというような姑息な手法でもいいのかも知れま せんが。  実態としては、日常は令状主義で行われていていいんですが、せめて救急の教科書 にはきちんと緊急事態ではあえていえば「無視」していいんだよと書いていて欲し い。救急の世界にはそうあって欲しいという願望です。大事故、大災害にぶち当たる ことを平常時から想定していなければならないのが救急の世界だと思っています。そ ういう意味では、「まれ」を日常的に意識していなければならないと思います。救急 が、通常の救急業務しか想定しないでいいという教科書でいいとは思わないのです。 それだけです。 ** 中川 和之 / 時事通信社・神戸総局 ** http://member.nifty.ne.jp/n-kaz/index.html

From: Genro Ochi Date: Thu, 31 Dec 1998 01:08:59 +0900 Subject: [neweml: 05947] 守秘義務の問題:警察、保健所との連携?  時事通信 中川さん、皆様、おち@愛媛です。  守秘義務の話題です。中川さんからお送りいただいたコメン ト(neweml: 05935)にレスを書きかけたのですが、私が書こう としていることはすでに何度も書かせていただいたことがある と思っております。また中川さんと私との意見の一致点も少な くないです。 1)今回のW県の事件で、病院関係者が容疑者の体液を本人の 了解なく、また捜査令状もなしに、「任意提出」したのは適切 ではなかった。 2)患者試料の警察への提出は原則として本人の承諾か、令状 にもとづくべきであり、故若杉教授の教科書のご記載は変更し た方がよい。 3)事実解明のための証拠物質などが失われる恐れがあったり、 中毒災害により他の犠牲者を生む恐れがある場合などに、救急 医療関係者の「良心」にもとづいて、患者の承諾や令状なしに、 試料や情報を警察に提供することもあり得る。しかし、これは 平常時には患者の権利を侵害する恐れのある行為であり、その ことに対し責任を負う覚悟が必要である。 (上記はあくまでも緊急避難としての例外的な対応であり、藤  田さんが言われるように、10回に1回もそのような事例はお  こり難いものと思います) *  私が中川さんのお考えの中で最も難しいと思いますのは、以下 の部分です。 |災害時には警察、消防、保 |健所などとの連携が必須のはずです。  警察、消防、保健所とも自治体の組織であり、医療機関の側 ではなく、県や市(県庁所在地があるような規模の)、場合に よっては国が主導権を取って、救急医療機関との連絡調整にあ たっていただきたいと思います。 ・警察 → サリン事件の例をみるように、患者を収容した医療  機関へ直接情報を提供していただけるとは考え難い。公判維  持のために、全部の情報は出さない。情報を出すときは記者  会見のかたち。 ・消防 → 「多数の患者が発生したので準備をしておいて欲し  い」、「患者約○名の収容を御願いしたい」、というような  病院への連絡や、刻一刻の追加情報が必要だが、これまでの  災害では円滑には行っていない。東京消防疔のように医師  (心肺停止患者の特定行為のための指示医師が)がつねに消  防庁に詰めていても、ongoingの災害への指示権限もないし、  たぶん災害情報の経路からもはずれている。消防から自治省  消防疔、内閣へ向かう消防情報が厚生省の広域災害情報シス  テムに流れ込まない。 ・保健所 → 阪神・淡路大震災で災害管理の上で機能した保健  所があったのは事実。しかし厚生省が災害情報や災害管理の  要(かなめ)となるべしと規定している保健所スタッフに、  そのような自覚や準備はほとんどないのでは。。 医師会と  は結構連絡を取り合っているのかも知れないが(感染症情報  など)、救命救急センターや消防本部との連絡経路は細く、  顔つなぎもしていないのではないか。インターネットや防災  無線などの、非常時の通信手段の整備が極端に遅れている。 そんなわけで、中川さんの言われる中毒災害などの「災害時の 警察、消防、保健所の連携」の必要性は痛いほどわかりますが、 現状では「画餅」でしかないのではないでしょうか。  以上、少し横道にそれたかも知れませんが。。 中川さんを はじめ皆様のお考えをお聞かせ下さい。それでは皆様、また。
Date: Thu, 31 Dec 1998 02:18:05 +0900 From: KD Subject: [neweml: 05948] Re:守秘義務の問題・学会誌のレター( へ投稿長文Re) 皆さん今晩は。KD@臨床検査技師 です。 TKさん [05937] > 捜査機関が「血液/尿を採取、提出してくれないか」ということを医療機関に要求 > してきた場合には、こちらとしてはやはり「令状をとってきてね」と言うのが正解 > でありましょう。でも捜査機関の要求がない場合はどうなのでしょうか? (中略) 届出義務か令状がある場合以外は、倫理的(患者のプライバシー)にも、政治的 (告訴される可能性)にも、警察への提供はすべきではないと思います。 > 精神科救急の現場には(数としては非常に少ないのですが)覚醒剤等の精神活性物 > 質による精神症状を呈した患者が来ます。 > Triageによってあるていど分かるようになって便利にはなりましたが、その結果を > こちらから先に、つまり、警察からの要求がなくとも警察に届け出てよいものなので > しょうか? ToxiLab(ペーパークロマトグラフ)の頃は1時間ぐらいかかって、しかも余り信頼性が 有りませんでしたが、Triageを使うようになって誰でも簡単に出来る様になりました。 以前、・・・で痙攣して倒れた、てんかん疑いの外国籍の方が搬送されて来ましたが、 Triageで検査してコカイン陽性でした。(てんかんではなく、急性コカイン中毒だった) 何故か一緒に来ていた刑事に、医師からその旨を伝え、点滴後連行されました。 警察で証拠とするための尿(導尿バッグ内)は、この刑事が本人の了承を得て、当方から 受け取りましたが、了承を得るその口調はまるでカツ上げするかの様でした。 こちらが警察に伝えた事は問題有りだったかもしれません。 藤田さん[05941] >  憲法や刑事訴訟法は、いろいろと面倒くさい手続を定めていますが、それ(適正 > 手続主義)には「10人の犯人を逃がすとも1人の無辜(むこ)を苦しめず」とい > う考え方が基礎にあります。 >  令状主義(捜索。差押え等は裁判官の令状を必要とする)、証拠裁判主義(証拠 > がなけれな罰せられない)、補強証拠法則(自白だけでは有罪にできない)、無罪 > の推定などなど、適正手続主義の反映です。 戦前・戦中の、公権力による人権侵害への反省からこの様な考えの法律になったの でしょうね。進歩である反面、被害者からすれば手ぬるいと感じられる場合もある はず。難しいですね。 TKさん [05937] >  ところで、Triageで、スクリーニングできるようになってから、搬入時に「やって > るな」と分かるようになってしまいました。この結果をもって警察に訴え出て良いも > のでしょうか? 同意なしにと言うのであれば、通報すべきではないでしょう。但し、薬物の種類に よっては通報義務があったはずですが、何の薬物の時でしたっけ。> 藤田さん (中略) 藤田さん[05941] >  この場合の「Triageの結果」というのは、具体的にはどのようなことを意味して > いるのでしょうか? Triage(トライエージ)は乱用薬物定性の簡易検査キットで、国際試薬が輸入して います。尿検体(0.17ml)を使い、約10分で同定出来ます。抗原抗体反応によるため、 鋭敏ですが、疑陽性・疑陰性の可能性もあります。(メーカーが多くの薬物に関して 実験済) 検出できる薬物は下記の8種類で、1キット当たり約2500円です。 PCP Phencyclidine 幻覚剤。ケタミンに近い。 BZO Benzodiazepines ベンゾジアゼピン系 COC Cocaine コカイン AMP Amphetamines 覚醒剤 THC Tetrahydrocannabinol 大麻、マリファナ OPI Opiates 阿片 BAR Barbiturates バルビタール系 TCA 綴を忘れました(^^; 三環系抗うつ薬 試薬中に上記薬物相当の抗原と、そのモノクローナル抗体が入れてあり、競合 免疫反応で市販の妊娠判定キットの様に陽性薬物はマークが浮き出ます。 今は自宅なので詳しい資料が有りませんが、必要でしたらお送りします。
Date: 31 Dec 98 06:42:37 +0900 Subject: [neweml: 05949] Re:守秘義務の問題:警察、保健所との連携? From: "K.Nakagawa@JIJIPress"  越智さん、皆さん、中川@時事通信です。年賀状でこの時間(^_^;)  越智さんのまとめられた(1)〜(3)は、ほぼ異議ありません。論文を含めてニュアン スの問題と言ってもいい部分にこだわっていて申し訳ありません。  で、本論ではないのかもしれませんが、連携の件です。元メールの順をひっくり返 して申し訳ないですが。 Thu, Dec 31, 1998 1:08, wrote Genro Ochi : >そんなわけで、中川さんの言われる中毒災害などの「災害時の >警察、消防、保健所の連携」の必要性は痛いほどわかりますが、 >現状では「画餅」でしかないのではないでしょうか。  現状ではたしかにうまく行っているところなんて例外でしょうが、徐々にでも作っ ていかないといけないのではないでしょうか。私も今存在しているなんて思っていま せん。画餅にしないために、年1名刺交換するような場ではなく、相互に現場レベル の人が協議できる場を設けたり、どこかで行われているように懇親の場まで持てるよ うになって、本音の言い合いもできるようになっていければ、そこから画餅ではない 具体的なやり方が探れるのではないかと願っております。このemlという場もそうい うことを目指している場でもありますよね。「あれれっ、越智さん(^_^;)。そんな否 定的に言わないでよ」って思ってしまいました(^_^;)。  立川の広域防災基地では、国立災害医療センター、自衛隊、日赤などが、本省レベ ルでの議論はさておき、ご近所さん同士でどんどん連携を行っていると三年前に聞き ました。互いの壁を過剰に意識すると何もできなくなると思います。emlも含めてい ろんな場を通じて、壁が低くなり、互いの理解が進むといいと思いますが、その際に 自分勝手を押しつけると良くないですよね。「だから令状を持ってきてね」というこ とでありますが(^_^;)。相互理解が進めば、自然とそういうのが常識として対応され るようにならないとおかしいと思います。今、そうなっていないのは「相互」理解が 進んでいないからだと思います。 >・警察 → サリン事件の例をみるように、患者を収容した医療 > 機関へ直接情報を提供していただけるとは考え難い。公判維 > 持のために、全部の情報は出さない。情報を出すときは記者 > 会見のかたち。  全部の情報を出さないのは確かですが、情報を出すときに必ず記者会見の形とは限 らないと思います。直接、警察から医療機関に電話を入れたりもするはずです。大事 故、大災害になると、連絡を取っている時間が惜しいとして、常時会見をやっている ような状況があれば、記者会見という場を使うことが専門家にもより早く情報を伝え られると思うケースもあるでしょう。実際に届くかどうかは別にして。このあたり は、こういう伝え方なら伝わるというやりとりを日常からしておければいいのです。 別に公判維持のために情報を出す出さないということだけを考えているとは思いませ ん。常識的には医療機関が必要とする情報は得られると思います。問題は、チャンネ ルの開き方を決めていないことでしょう。少なくとも、サリン事件やカレー事件に関 しては反省材料としていると思いますが。  大したことのない毒物事件が兵庫でもあった際、幹部からは医療機関にも情報を流 しておけという指示はしていると聞きましたが、現場ではうまく伝わっていなかった ようですが。今後、どうやっていけばいいのか、双方から知恵を出し合えばいいはず です。少なくとも「そんなん知らん。一切いえん」というリアクションが警察からあ って、治療上で問題が出たら、それこそ世間の笑いものですし、警察内部でも叱責さ れるんじゃないでしょうか。  消防と医療現場の距離は、警察との距離より近くて、問題点がもっと具体的に分か っているんですよね。だからこそ、解決するための道も見えやすいと思います。もち ろん、放っておいたら変わらないのでしょうが。このままでいいと思っている関係者 は少ないのでしょうから、良くなる道は見えていると思っています。  保健所に関しては、阪神大震災で活動した都内の保健婦がまとめた報告書をさあっ と読んだことがありますが、保健所の機能を見直した保健婦が多かったようで、山本 委員会の報告書ともども期待をしていたのですが、その後の現場はどうなっているの でしょうか。せっかく現場の保健婦に動機付けがされたと思うのに、厚生省の保健所 担当セクションは反応が鈍かったなあ、当時は。うまく保健所も巻き込んでいる地域 があれば、そういう手法を広げていって欲しいと思うのですが。 ** 中川 和之 / 時事通信社・神戸総局 ** http://member.nifty.ne.jp/n-kaz/index.html

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