救急医療における守秘義務の問題

救急医療メーリングリスト(eml)より


 このペ−ジは救急医療における守秘義務に関する、救急医療メーリングリスト(eml)での論議の一部をご紹介します。この論議をもとに、emlメンバー有志が日本救急医学会雑誌レターとして投稿した論考が別ペ−ジに収載されていますので、併せて御参照下さい。
 皆様のご意見を web担当者(越智元郎)までお寄せ下さい。

目 次

救急医療メーリングリスト(eml)より

(ご発言者の敬称は省略させていただきます)



From: Genro Ochi

Date: Sun, 06 Dec 1998 02:01:24 +0900

Subject: [neweml: 05566] 救急医療における守秘義務の問題(意見欄)



 おち@愛媛です。emlの活動の本年のまとめに入っています。



(中略)



 上記のCPR指導法の統一に引き続いて、私にとって印象深

い論議となったのは守秘義務の問題でした。この話題について

も皆様から色々なご意見をうかがいました結果、日本救急医学

会・監修の「標準救急医学」の記載を変えた方がよいのではな

いかという、自分なりの結論に達しました。このテキストは現

在、改訂作業中とのことで、すでに適切な記載で改訂されつつ

あるかも知れませんが、ひょっとしてこれまでの故・若杉教授

(大阪大学法医学)の記載が引き継がれるかも知れませんので、

私なりの考えを「日本救急医学会雑誌」の Letter to the editor

の欄に投稿してみようと考えています。



 現時点での原稿は以下のペ−ジに収載しております。

 「救急医療における守秘義務の問題」

  http://apollo.m.ehime-u.ac.jp/GHDNet/98/ibshuhi.html

その趣旨、文面などについて、皆様のご意見をお伺いできれば

幸いと存じます。また、私の投稿の共著者になって下さる方が

ありましたら、私宛の個人メールでお教えいただけましたら幸

いと存じます(11日金曜日くらいまでに)。



 皆様ぜひ上記ペ−ジにお立ち寄り下さい。



 それでは皆様、また。




Date: Sun, 06 Dec 1998 16:23:54 +0900 From: "Anes. M.Takata" Subject: [neweml: 05578] Re: 救急医療における守秘義務の問題 高田@能登%今日はちょっと暇、です。 ★-★   引用に際して、一部省略と改行位置変更があります   ★-★ ★ Genro Ochi さんの mail < [neweml: 05566] >から: |  現時点での原稿は以下のペ−ジに収載しております。 |  「救急医療における守秘義務の問題」 |   http://ghd.uic.net/98/ibshuhi.html 読ませていただきました。 越智さんの書かれた主旨に、賛成いたしますが、追加で、少々。 ★上記ページより引用 >| 患者の秘密を漏らすことが是認される場合は、 >| 1)法律に明文化されている届け出 >| (伝染病・結核・性病・癩病者・麻薬中毒者、異状死体などの届け出)、 >| 2)裁判所における証人としての供述、 >| 3)患者やその家族の承諾のもとに行う意見書の交付や照会に対する回答、 >| 4)犯罪捜査に対する協力としての、警察署への自発的な届け出などである。 1)と3)は問題ないと思いますが、2)のケースは「可」でしょうか? 法律には詳しくありませんが、テレビドラマで「守秘義務から証言を拒 否します」というシーンが出てきます。これは、どこまで拒否できるも のでしょうか? 多分、患者の秘密と思われることは拒否できるのでは? 4)のケースが、今回、問題にされています。令状のない「自発的協力」 に関しては、善良な市民としては情報提供したいところですが、医療者 としての守秘義務が優先する、と云うことだと思います。 法的には、「守秘義務違反で民事訴訟を起こされる」可能性があります。 越智さんの云われる「本人の同意のない試料」ですが、この場合は「自 発的協力者」が問題にされても、協力試料は証拠として有効であると判 断される可能性が高いと思います。警察側が不正を働いたわけではない ので....。その分、協力者の責任追及は大きくなるかも知れません。 社会的には、軽々しく「自発的協力」をする医療機関は、患者さんのプ ライバシーをあまり尊重しない施設と思われる事でしょう。逆に「自発 的協力」をしない病院は、患者さんのプライバシーを尊重する医師(医 療施設)であることの証明でもあるはずです。(そう思って欲しい...) この社会的(むしろ基本的?)な問題は指摘されていませんが、僕はこ ちらの方を重要視して頂きたかったと考えました。如何でしょうか? ただし、警察からは「正論かも知れないが社会的正義に消極的」で「警 察の捜査に協力しない問題施設」とみなされ、地域の病院などでは他の 関係でもギクシャクする可能性も出てきます。この問題は医療機関側の 認識が大事です。しかし、それ(「医療機関の自発的協力」)を要求し たり当てにする警察があるとすれば、違法行為を勧める警察の認識も問 題と思います。 感想を述べてみました。では、また。 *:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:* Anes.: M.Takata

Date: 6 Dec 98 17:53:10 +0900 Subject: [neweml: 05581] Re: 救急医療における守秘義務の問題 From: "K.Nakagawa@JIJIPress"  高田@能登さん、皆さん、こんにちは。中川@時事通信兵庫県警担当@です Sun, Dec 06, 1998 16:23, wrote Anes. M.Takata >社会的には、軽々しく「自発的協力」をする医療機関は、患者さんのプ >ライバシーをあまり尊重しない施設と思われる事でしょう。逆に「自発 >的協力」をしない病院は、患者さんのプライバシーを尊重する医師(医 >療施設)であることの証明でもあるはずです。(そう思って欲しい...)  警察だけでなく、さまざまな外部に対してプライバシーの保護を徹底している都心 の主に私大系の病院には、企業トップや政治家などが多く入院しますよね。まず国立 ・公立の病院には入らない(^_^;)。 >ただし、警察からは「正論かも知れないが社会的正義に消極的」で「警 >察の捜査に協力しない問題施設」とみなされ、地域の病院などでは他の >関係でもギクシャクする可能性も出てきます。この問題は医療機関側の >認識が大事です。しかし、それ(「医療機関の自発的協力」)を要求し >たり当てにする警察があるとすれば、違法行為を勧める警察の認識も問 >題と思います。  救急の施設とは、先に・・さんが紹介された毒劇物対策 会議の報告書に以下のようなことが盛り込まれていました。 >(3)地域レベルでの体制整備 >  ○地域における緊急時の連絡体制を確立することを目的として、関係部局間の >  連絡・協力体制の確保、保健所、警察、消防、医療機関、研究機関等との連携 >  、都道府県、政令市等及び市町村の間の連携等について指導・支援する。 (web担当者より:上記の記事は「
毒劇物対策会議報告書(981127)」に公開されています。該当部分のURL は http://apollo.m.ehime-u.ac.jp/GHDNet/98/icdoku.html#043 です。)  科捜研とスムーズにやりとりできるようになれば、毒劇物などの際に治療面でもう まく手が打てるようになりますよね。  日常的に連携ができるようなお付き合いをして、互いの立場が分かるようにしてお けば、プライバシーの問題に関しても警察も理不尽なことは言わないでしょうし、き ちんと必要な際には令状主義などにのっとった捜査を尽くすと思います。妙に警戒を して臨むこともないと思います。きちんと署や県警の捜査幹部との意見交換などをし ていて、もし手を抜こうとする捜査員がいたら、「そんなやり方をしていたら、連絡 協議会で実名を出しちゃうぞ」とか言ったりしたらいいんじゃないの(^_^;)。  警察も、実務的に救急医療がどう動いているか十分分かっていないので、自分の都 合を通そうとするのでしょう。ただ、被疑者捜査ではなく、身元確認などで急ぐケー スは少なくなく、プライバシーの保護を優先すると実はその当該人に不利益が及ぶこ ともありえますので、あまり原則論だけではどうかとは思います。刑法と違って民法 の世界は、まずは常識が大原則でしょうから。常識的な話が出来合えるようなお付き 合いを、警察ともしていただければと思っています。  カルテの本人開示の問題は、いずれそう動くでしょうから、患者さんも今よりもっ と自分の病気に関する情報はプライバシーだという意識が高まるでしょうが。  私はさっそくホームページ上から落として印字して、県警の刑事部長や科捜研の所 長に回覧しておきました。読んだリアクションはまだ聞いてませんが。 ** 中川 和之 / 時事通信社・神戸総局 ** http://member.nifty.ne.jp/n-kaz/index.html
Date: Sun, 06 Dec 1998 19:53:30 +0900 From: "Fujita, Y." Subject: [neweml: 05584] Re: 救急医療における守秘義務の問題  弁護士の藤田です。  こんばんは。 Anes. M.Takataさん wrote: > 高田@能登%今日はちょっと暇、です。 >   > 社会的には、軽々しく「自発的協力」をする医療機関は、患者さんのプ > ライバシーをあまり尊重しない施設と思われる事でしょう。逆に「自発 > 的協力」をしない病院は、患者さんのプライバシーを尊重する医師(医 > 療施設)であることの証明でもあるはずです。(そう思って欲しい...) > > この社会的(むしろ基本的?)な問題は指摘されていませんが、僕はこ > ちらの方を重要視して頂きたかったと考えました。如何でしょうか? >    私はこの観点が重要だと思います。 そして、令状なくして情報や資料を提供する病院 は、そのポリシーを明示するべきだろうと思いまし、明示することをお勧めします。 (私自身は、当然ながら、そのようなポリシーの病院にかかろうとは思いませんが。)  そのようなポリシーが明示されている病院を選択した患者は、令状なくして情報や資料 を提供されてもクレームをつける可能性は非常に少ないし、そのクレームが裁判所で正当 と判断される可能性は少ないでしょう。  人は、自分が覚悟したことについては他人に文句を言わない(言えない)ものです。  インフォームド・コンセント、インフォームド・ディシジョンにも同じような機能があ ります。   -- 藤田康幸 Fujita, Yasuyuki

From: Genro Ochi Date: Mon, 07 Dec 1998 13:06:42 +0900 Subject: [neweml: 05595] Re: 救急医療における守秘義務の問題  おち@愛媛です。「救急医療における守秘義務の問題(neweml 5566)」 につきまして、高田さん、中川さん、藤田さんなどからご意見をいただ き有難うございました。いただいたご意見をもとに、以下のペ−ジを書 き換えつつあります。 http://ghd.uic.net/98/ibshuhi.html ○ 高田さんより(neweml 5578) >>| 患者の秘密を漏らすことが是認される場合は、 >>| 1)法律に明文化されている届け出 >>| (伝染病・結核・性病・癩病者・麻薬中毒者、異状死体などの届け出)、 >>| 2)裁判所における証人としての供述、 >>| 3)患者やその家族の承諾のもとに行う意見書の交付や照会に対する回答、 >>| 4)犯罪捜査に対する協力としての、警察署への自発的な届け出などである。 > >1)と3)は問題ないと思いますが、2)のケースは「可」でしょうか? → 原稿に以下のような記載を入れてみました。  | また上記「7.守秘義務」の項で、医師などが業務上知りえた患者|  |情報を、患者の承諾なしに「2)裁判所における証人としての供述」が|  |可能かどうかについても、検討の余地があるのではないだろうか。 | ○高田さんより >越智さんの云われる「本人の同意のない試料」ですが、この場合は「自 >発的協力者」が問題にされても、協力試料は証拠として有効であると判 >断される可能性が高いと思います。警察側が不正を働いたわけではない >ので....。その分、協力者の責任追及は大きくなるかも知れません。 → 以下の記載は除くことにいたしました。  |また患者の同意なく提出された試料については、その証拠能力自体に|  |問題を生じる恐れがある。                   | ○高田さんより >社会的には、軽々しく「自発的協力」をする医療機関は、患者さんのプ >ライバシーをあまり尊重しない施設と思われる事でしょう。逆に「自発 >的協力」をしない病院は、患者さんのプライバシーを尊重する医師(医 >療施設)であることの証明でもあるはずです。 → 以下の記載をいれてみました。  | 一方で、医療機関が患者試料を警察へ任意提出したというような報|  |道がなされた場合には、軽々しく「自発的協力」をする医療機関であ|  |り、患者情報の保護に配慮を欠く施設と市民に受け取られる恐れもあ|  |る。このように、故・若杉教授(大阪大学法医学)による「標準救急|  |医学」の記載は、初版以来7年以上を経て、最近の救急医療の観点か|  |らは一部変更が必要な部分もあると考えられる。関係者各位による御|  |検討を御願いしたい。                     |  高田さんをはじめ、皆様のご意見をお聞かせ下さい。それでは皆様、また。 **  愛媛大学医学部救急医学 越智元郎(gochi@m.ehime-u.ac.jp)

Date: Mon, 07 Dec 1998 19:20:52 +0900 From: "M. Takata" Subject: [neweml: 05602] Re: 救急医療における守秘義務の問題 越智さん、emlの皆さん、こん○○は。 高田@能登です。 ★_★ 引用に当たっては、一部省略・改行位置変更があります ★_★ ★ Genro Ochi さんのメール< [neweml: 05595] >から: |  | また上記「7.守秘義務」の項で、医師などが業務上知りえた患者| |  |情報を、患者の承諾なしに「2)裁判所における証人としての供述」が| |  |可能かどうかについても、検討の余地があるのではないだろうか。 | この部分は、法律家の方に聞けば、もっとはっきり書けるようになるの ではないでしょうか?。 > 藤田さーーん ************************************** Muneaki Takata (taka@xyz.club.or.jp) **************************************

Date: Mon, 07 Dec 1998 20:47:13 +0900 From: "Fujita,Y." Subject: [neweml: 05603] Re: 救急医療における守秘義務の問題  弁護士の藤田です。  こんばんは。 M. Takataさん wrote: >  |  | また上記「7.守秘義務」の項で、医師などが業務上知りえた患者 >  |  |情報を、患者の承諾なしに「2)裁判所における証人としての供述」が| >  |  |可能かどうかについても、検討の余地があるのではないだろうか。 > > この部分は、法律家の方に聞けば、もっとはっきり書けるようになるの > ではないでしょうか?。 > 藤田さーーん   はーーい。なんちゃって。(^_^) 刑事訴訟法  第149条  医師、歯科医師、助産婦、看護婦、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理 士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けた ため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、証言を拒むことができる。  但し、本人が承諾した場合、証言の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と 認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で定める 事由がある場合は、この限りでない。    このように、「本人が承諾した場合」は問題は起きないですが、それ以外の 場合は問題が起きる余地があるでしょうね。  なお、医師が証言を拒絶して制裁を科された例を私は知りません。  手元の判例データベースで検索してみましたが、そのような例は見つかりま せんでした。  したがって、  また上記「7.守秘義務」の項の記述については、医師などが業務上知りえ た患者情報を、患者の承諾なしに「2)裁判所における証人としての供述」が可 能な場合は通常は考えにくいと思われる。 としてもよいかも知れませんね。   -- 藤田康幸 Fujita, Yasuyuki

Date: 10 Dec 98 01:44:18 +0900 Subject: [neweml: 05633] Re: 救急医療における守秘義務の問題 From: "K.Nakagawa@JIJIPress"  越智さん、皆さん、こんにちは。中川@時事通信です  救急医療における守秘義務の問題で、書いたつもりで書いていなかったようなの で、参考までにお伝えしておきます。  例の任意提出の報道後、県警の捜査関係者と話になり、「任意はまずいなあ」とい う趣旨のことを言っていました。ましてや注目されている事件であり、模範的な手続 きをとるべきだろうとも話し合いました。  伝え忘れは上記ですが、以下、またコメントです。  私は、警察と互いの立場を尊重し会えるぐらい、日頃から交流しておき、令状を示 せなどと言って気まずくなるような事態は避けて欲しいと思うのです。警察も令状主 義が望ましいことは分かっているはずで、「そういう資料はあるが任意提出はできな いが準備しておくので令状を用意してきてくれ」というような実務的やりとりをして もいいんじゃないかとは思います。そのあたりのニュアンスは、越智さんのメッセー ジには感じないところがちょっと気になります。「ちゃんと手続きは踏んでね。でも 協力はするよ」というスタンスで患者の信頼を失うことはないと思うけれど。 ** 中川 和之 / 時事通信社・神戸総局

From: Genro Ochi Date: Thu, 10 Dec 1998 05:30:49 +0900 Subject: [neweml: 05635] Re: 救急医療における守秘義務の問題  時事通信 中川さん、皆様、おち@愛媛です。 中川さんより(neweml: 05633) (中略させていただきます。web担当者) > 私は、警察と互いの立場を尊重し会えるぐらい、日頃から交流しておき、令状を示 >せなどと言って気まずくなるような事態は避けて欲しいと思うのです。 → 私は令状を取って下されば試料の提出等、当然のこととして協力し   ます。現在の私の理解では、患者情報や試料を、患者さんの了解な   しに、提供するには令状が必要なのだと思います。医療従事者が   「令状を見せて下さい」と言った時に、その会話が気まずくなると   すれば、それは警察官の方に落ち度があるのではないでしょうか。   私が職務上警察官と接触するのは、外因死で検視をして貰う時や交   通事故の患者治療の時です。彼らは「あなたは誰か?」ということ   でしばしば私の氏名、住所、生年月日を控えて帰られます。字の説   明が面倒なので、名刺を診察机の奥に置いております。逆に「私は   こう言う者です。連絡先はこちらです。」と言って、自分の氏名を   明かにされる警察官はいませんね。私が持つ印象では、警察の方々   はご自分たちの位置を(捜査の協力者である)医療従事者よりもか   なり高いところに置いておられる感じです。   病院の救急部門は病院の外部に対する窓の一つです。警察と救急部   門とが密接な連絡を取り合うのは結構なことです。警察官による現   場での救急処置のことや、災害時の病院対応と道路規制のことなど、   色々とお聞きしたいことがあります。定期的な会合でもあればよい   のでしょうが。報道関係者と警察はもっと親密な、個人の顔を思い   出せるくらいの付き合いをしているのでしょうね。現時点でそれを   求められても、すぐにはそこまで行きませんですけど。。 >「ちゃんと手続きは踏んでね。でも >協力はするよ」というスタンスで患者の信頼を失うことはないと思うけれど。 → 心の中では確かにそう思っています。今回は「ちゃんと手続きは踏   んでね。」の部分で、論議をさせていただいています。  それでは中川さん、皆様、また。

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