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講演・薬物中毒

帝京大学救命救急センター 鈴木宏昌さん

(981007、poison 2142、neweml 4606)



Date: Wed, 7 Oct 98 11:54:19 +0900
Subject: [poison:02142] 薬物中毒の講演(CD-ROMによる中毒情報)

 昨日、東京北区医師会の小児科医の先生方に薬物中毒について講演する機会がありま したので、CD-ROMについての情報やこのpoison-MLの活動についてもご紹介申し上げ ました。

 講演では、対象が小児科医の先生方ということでしたので、前半は小児薬物中毒の 話題をお話しし、ご要望でもありましたので、後半災害や事件としての毒物中毒につ いて次のようなお話をしました。私自身は、多少サリン事件にかかわった以外、この ような事件に直接直面したわけではありませんので、間違った点などありましたらご 指導いただければ幸いです。

スライド:危機管理としての中毒

 救急疾患は、中毒であり外傷であれ、重症度というものは絶対に救命し得ない『致 死的』なものから、医療処置を必要としない『軽症』のものまであります。この間の 部分が医療の対象であるわけですが、いづれにしてもどこかに『治療限界』というも のがあります。無論、『治療限界』を高める努力を日々重ねているわけですが、現実 の医療の限界というものはこの『治療限界』よりも軽症側にあり、『治療限界』に近 づけるためには『治療システム』の工夫が必要なのであります。毒物災害の治療を考 えますと、次のようなシステムの工夫が大切なのではないかと思われます。

 ・情報伝達のシステム
   警察・救急隊・医療機関の連携

 ・治療情報のシステム
   毒性・治療法に関する情報の公開

 ・毒物分析のシステム
   分析センターの充実とネットワーク

 ・教育システム
   市民の教育・啓蒙と医師の卒前・卒後教育

 治療者側の立場からしますと、『救命』ということが第1の責務でありますから、 救命に必要とする情報を一刻も早く手に入れたい分けです。救命、死なせないための 治療ということを考えますと、その勝負は最初の数時間で決まります。したがいまし て、この数時間の間に、薬物の推定できる情報、重症度の推定、病態の予測などに役 立つ情報が必要なのです。

 ・現場の情報
   どのような状況で発生したか

 ・患者の発生状況
   患者数、重症度、患者の分布

 ・他医療機関に搬送された患者の情報
   医師のみた患者の症状、病態

 ・警察・救急隊の情報
   事件の概要、可能性なる薬物

 こうした情報が、システマティックに治療にあたっている現場に伝達されるシステ ムが必要かと思われます。また、毒物事件では通常医療機関が治療していない稀な薬 物によることが多く、薬物に関する毒性・代謝・治療法と言った情報を得ることが困 難であります。

 ・薬物の毒性に関する情報
   薬物の吸収・毒性・代謝

 ・治療法の情報
   拮抗薬・解毒薬、排泄方法

 ・症例の情報
   過去の症例、他院症例の治療経過

 ・行政としての情報
   治療のための支援情報

 救命ということを考えますと、医療現場としては数時間以内にこうした情報を探さ なければなりません。毒物事件に対処するには、医療機関が何時でもこのような情報 を検索し収集できるシステムが必要かと思われます。

 薬物中毒の治療では、最終的には薬物の科学的同定が必須であります。毒物分析 は、薬物によっては時間的に治療に直接寄与することが難しいものもありますが、事 件の解決や今後の治療において必須のシステムであります。

 ・分析センターの設置
   地域分析センター

 ・既存施設の整備
   大学・企業の研究室、科警研

 ・人材の養成
   分析技術と評価

 ・相互のネットワーク
   分析施設相互の連携

 このような事件がありますと、行政は特別予算を組んでその対策に当たるのが常で あります。各救命センターに分析機器を設置する話しも聞いております。しかし、最 も大切なのは機器ではなく、分析を行え結果を評価できる人材であります。えてし て、行政は『もの』にはお金を出すけれど、『ヒト』には金を出さない傾向があるこ とは大変遺憾であります。また、各分析施設の連携も大切であります。その試みとし て、広島大学法医学の屋敷先生が主催されておられるpoisonメーリングリストという ネットワークが活躍しておりますので後ほどご紹介したいと思います。

 急性中毒治療の最初にお話ししましたように、中毒の治療はまず『中毒を疑うこ と』無くして始まりません。現在の医学教育は臓器別に細分化される傾向にあり、卒 前卒後教育として救急医学、臨床中毒学、災害医学が一層必要なのではないかと思わ れます。

 ・医師の卒前・卒後教育
   救急医学、臨床中毒学、災害医学

 ・市民の啓蒙・教育
   毒物の知識、自己防衛

 ・危機管理のマニュアル
   行政区分を越えた情報の伝達

 ・模擬訓練
   シミュレーション

 この後、シアン中毒、ヒ素中毒、クレゾール中毒について毒性と治療についてお話 しし、

 災害時の中毒治療においても、一般的な急性中毒同様、治療にあったって重要なの は、

 ・急性中毒の可能性を常に念頭におく こと
 ・確定診断より救命処置が優先される こと
 ・薬物の毒性や治療法についての情報収集
 ・サンプルを確保すること
 ・全身管理

 であります。この中でも、薬物に関しての情報をいち早く入手することが重要であ ることがご理解いただけたと思います。そこで、薬物・毒物の情報を入手する方法を ご紹介しようと思います。

 ・薬物の毒性・治療に関する書籍
 ・電話・ファックスによる情報の入手
 ・インターネットによる情報の入手
 ・電子出版物CD-ROM

についてご紹介する中で、インターネットの利用として

 日本中毒情報センターホームページ
 UMINの中毒時の対応に関する情報
 既存化学物質安全性(ハザード)評価シート
 国際化学物質安全性カード(ICSC)

 また、西岡先生の中毒情報を探してのページ

 そして、このpoison mailing listの活動をご紹介した次第です。poison-MLについ ては、多くの薬物・中毒についての専門家、臨床家が参加していること、薬物分析の ネットワークとしても活躍していることなどをご紹介しました。

 最後に、手前味噌でありますが、今年の日本中毒学会総会でご紹介しました、イン トラネットの中毒データーベースをご紹介しました。お蔭様で、まだ情報量は少ない ものの、実際の中毒患者の治療に当たり当直のスタッフにもご利用いただき役立たせ てもらっております。

帝京大学救命救急センター
鈴木 宏昌


 このご講演の講演原稿ならびにスライドは、間もなく上記の鈴木さんのホームページに収載される予定です(web担当者)。
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