監修にあたって

平成8年10月

厚生省健康政策局指導課長
上田 茂


 人口密集地における直下型地震として想像を絶する大惨事をもたらした阪神・淡路大震災が起こってから早くも2年近くが経過しようとしております。

 被災地の医療機関、医療関係団体の関係者及び救急医療、建築、機器設備、情報通信の専門家の参加による「阪神・淡路大震災を契機とした災害救急医療体制のあり方に関する研究会」(委員長:山本保博・日本医科大教授)が、阪神・淡路大震災の教訓を生かすため、災害医療体制の新たな構築に向けての検討を行っていたところでありますが、平成8年4月、研究報告書が取りまとめられました。

 同報告書では、災害時における医療確保のあり方の基本的な考え方として、被災地内の医療機関は自らも被災者となるものの、被災現場において最も早く医療救護を実施できることからその役割は重要なものであるとしており、地域の医療機関を支援するための災害拠点病院の整備、災害時に迅速かつ的確に救護・救助を行うための広域災害・救急医療情報システムの整備、災害医療に係る保健所機能の強化、搬送機関との連携等が必要であるとしています。

 厚生省では、同報告書を受け、平成8年5月10日付で健康政策局長通知「災害時における初期救急医療体制の充実強化について」を発出いたしました。その内容は1)地方防災会議等への医療関係者の参加の促進、2)災害時における応援協定の締結、3)広域災害・救急医療情報システムの整備、4)災害拠点病院の整備、5)災害医療に係る保健所機能の強化、6)災害医療に関する普及啓発、研修、訓練の実施、7)病院防災マニュアル作成ガイドラインの活用、8)災害時における消防機関との連携、9)災害時における死体検案書検案体制の整備であり、そのポイントは、地域単位における災害時の初期救急医療の提供体制の強化であります。

 本書は、医療機関、医療従事者、災害医療担当の行政職員等に役立つように、前述の研究報告に加え、災害医療に関する法規、国庫補助制度についての資料とともに、災害医療に関する医学的資料等に至るまで網羅されたものです。

 災害医療対策の新たなシステムに『魂』を入れるのは、現場を支える医療機関、医療従事者、災害医療担当の行政職員の皆様であります。地域単位を核とした災害医療体制の新たな構築に向け、医療従事者、救急従事者、一般住民の積極的なご支援、ご協力が望まれるとともに、本書が積極的に活用されることを願ってやみません。


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