参考資料3

大規模災害時の医薬品等供給システム検討会報告書

〜阪神・淡路大震災の体験を踏まえて〜平成8年1月16日(火)


目次

[I] 検討会の趣旨及び報告書の性格

[II] 災害に備えた事前対策

1、災害時における関係者の役割分担の明確化について

【基本的考え方】

【医薬品等の供給に関する関係者の役割分担】

ア、都道府県薬務担当課
イ、厚生省薬務局
ウ、医薬品卸売業者
エ、薬剤師会
オ、医療機関
カ、 医薬品製造業者

2、災害時に対応した関係者間のネットワークの構築について

【基本的考え方】

【ネットワークの連絡窓口及び関係者の準備】

ア、都道府県
イ、医薬品卸売業者
ウ、医薬品製造業者
エ、薬剤師会
オ、厚生省

【連絡事項の明確化、簡略化】

ア、各医療機関→名医薬品卸売業者
イ、各医薬品卸売業者→医薬品卸協同組合
ウ、医薬品卸協同組合→都道府県薬務担当課
エ、都道府県薬務担当課→医薬品卸協同組合
オ、都道府県薬務担当課→厚生省薬務局
カ、各薬局、薬店→都道府県薬剤師会
キ、都道府県薬務担当課→都道府県薬剤師会
ク、厚生省薬務局→日本薬剤師会
ケ、 厚生省薬務局→日本製薬団体連合会

【通信手段の確保】

3、事前の情報提供と防災訓練について

【事前の情報提供の必要性】

ア、災害時の連絡先等の周知
イ、 災害用医薬品等集積所等の周知

【防災訓練の実施】

4、医薬品等の安定供給のための計画立案について

【基本的考え方】

【計画に盛り込むべき事項】

ア、関係者の役割分担と情報連絡体制について
イ、医薬品の確保について
ウ、医薬品等の保管・管理体制について
エ、マンパワー及び交通手段の確保方策
オ、 近隣自治体との連絡体制

【業界団体等関係者において対応計画を検討しておくことが望ましい事項】

ア、医薬品卸協同組合等
イ、薬剤師会
ウ、 日本製薬団体連合会

[III] 大規模災害発生後の対応

1、医薬品等の安定供給の確保のための関係者の初動対応について

【基本的考え方】

ア、都道府県薬務担当課
イ、厚生省薬務局
ウ、医薬品卸売業者
エ、 都道府県薬剤師会

2、被災地内における供給の確保について

【基本的考え方】

【具体的な供給方法】

ア、医療用医薬品
イ、 一般用医薬品

3、被災地外からの供給について

【基本的考え方】

【具体的な供給方法】

ア、特別な医薬品等
イ、 その他の医薬品等

4、医薬品等の仕分け・管理及び医薬品集積所について

【仕分け・管理について】

【医薬品集積所について】

5、費用負担(災害救助法による支弁)について

【基本的考え方】

【災害救助法の費用の範囲】

【費用の支弁請求手続きについて】

[別紙] 大規模災害時に需要が見込まれる医薬品等

[参考] 広域災害・救急医療情報システム
(厚生省健康政策局より資料提供)


[I]検討会の趣旨及び報告書の性格

 平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災においては,災害発生直後より医薬品等の供給について関係者による懸命の努力が行われたところである。しかしながら,想像を絶する被害のもとで情報通信の途絶,交通の混乱等により,一時は医療現場への医薬品等の供給に手間取る場面もあった。

 こうしたことから,本検討会は災害対策の中心を担う都道府県の業務が円滑に実施されるよう,行政担当者,医師,薬剤師,有識者及び関係業界等医薬品等供給関係者により,今回の経験を踏まえ,災害時における医療救護に不可欠な医薬品等を如何に迅速に供給し,適切に患者に提供できるかという観点から医薬品等供給システムについて検討を重ねてきた。

 本報告書は,阪神・淡路大震災クラスの大規模災害が発生した場合において対応すべき点を「災害に備えた事前の対策」と「災害発生後の対応」に分けてまとめたものであり,災害時の医療を支える関係各者に対して災害対策の提言を行うとともに,今回の経験を踏まえた具体的マニュアルの側面も有している。現実に大規模災害が発生した場合には必ずしもマニュアル通りに対策を講じ得るとは限らず,現場における弾力的な対応が望まれる所であるが,一方,災害が発生してから対応策を考えるのでは時すでに遅しということにもなりかねない。特に災害発生直後は相当の混乱が予想されるため,平時からネットワークを構築し,連携の取れる体制を確保しておくなどの対応が必要である。各都道府県におかれては地域の実情に即した医薬品等供給システムの構築に当たり,この報告書を参考にして業務計画の作成等に役立てていただきたい。また医療機関,薬剤師会,医薬品卸売業者,医薬品製造業者等関係者におかれてもこうした対策に関して積極的な支援をお願いしたい。


[II]災害に備えた事前対策

1、災害時における関係者の役割分担の明確化について

【基本的考え方】

 大規模災害時には,情報,通信及び交通の混乱が予想される。こうした混乱時において迅速な対応を行うには,平常時から行政,医療機関,医薬品卸売業者,関係団体等関係者の役割分担を明らかにしておくことが重要である。

【医薬品等の供給に関する関係者の役割分担】

ア、都道府県薬務担当課

 関係者間の連絡調整の中核的役割を果たすとともに,必要な医薬品等の確保及び供給に努めるものとする。

(具体的役割)

(1) 被災地内の状況把握及び厚生省への連絡

(2) 災害発生時における医薬品等の調達,斡旋並びに医療現場への供給及びそのルートの確保

(3) 災害に備えた医薬品等の事前の確保対策

(4) 市町村,医療機関,医薬品卸売業者,薬剤師会等県内関係者間の調整

(5) 広域的対応が必要な場合,厚生省を通じた被災地外への支援要請

イ、厚生省薬務局

 広域的見地から関係者間の連絡調整,情報収集等を行い,被災都道府県の支援を行うとともに,必要に応じて被災地外からの医薬品等の供給を行う。

(具体的役割)

(1) 医薬品等の需給状況,被災状況等につき全体的な情報収集

(2) 必要に応じ,被災地外からの医薬品等の供給及びそのルートの確保

(3) 広域的な対応のための関係者間の調整

(4) 現地状況に応じ都道府県の役割を補完一必要あれば現地対策本部設置

ウ、医薬品卸売業者

 医療機関を中心とした医薬品等の二一ズに応え,可能な限り医薬品等の安定的かつ迅速な供給に努める。特に救護所等が設置された場合には都道府県と連携して,こうした医療現場への医薬品等の供給への協力を行う。

(具体的役割)

(l) 医療機関等への医薬品等の供給

(2) 救護所等への医薬品等の供給への協力

(3) 都道府県が行う災害時用の医薬品等の備蓄等の準備に対する協力

(4) 被災地内医療機関の稼働状況,需要の把握及びそれらについて都道府県への情報提供

エ、薬剤師会

 医薬品等の適正な使用を図るとともに,保管・管理及び医薬品等の確保に努める。

(具体的役割)

(1) 救護所,避難所等における服薬指導

(2) 救護班,医療チームによる医療活動への参加,薬剤使用に関する助言

(3) 医薬品等集積所,避難所,救護所における医薬品等の仕分け,管理

(4) 薬剤師会の運営する医薬分業推進支援センター等がある場合はこれを活用した医薬品等の確保

オ、医療機関

 医薬品等の需要状況の迅速な情報提供及ぴ被災に備えた医薬品等の確保に努める。

カ、医薬品製造業者

被災地の需要に即した医薬品等の迅速な供給その他必要な協力に努める。

2、災害時に対応した関係者間のネットワークの構築について

【基本的考え方】

 災害時において関係者間で直ちに連絡がとれるように平時よりネットワークを築いておくとともに,ネットワークを通じ連絡調整すべき事項を明確化しておくことにより,迅速な対応を可能とすることが重要である。また,今回の震災において見られたように,大規模災害においては通信回線の機能不全も予想されるので,こうした場合に備えた情報伝達手段の確保も必要である。現在厚生省においても災害時における医療関係の情報を伝達するための「広域災害・救急医療情報システム」を開発中であり,医療機関における医薬品等の需給状況を把握するためにこのシステムを医薬品等供給のネットワークにおいて活用することも有効な手段である。

 こうしたネットワークを例として図示すると図1のようになる。

 なお,このネットワークはあくまで一例であり,近隣都道府県との協力関係などもネットワーク構築の上で考慮されてよい。

 都道府県においては,こうしたネットワークを構築するため関係者による協議の場を設けるなど普段から関係者間の連携・協力が図られるよう努めるものとする。

 また,こうしたネットワークが災害時に上手く機能するためには,ネットワークを構成する関係者は対策チームを組織するなど各々の体制を整えるとともに,連絡窓口及び連絡先を明確化し,あわせて連絡すべき事項を定めておくことが望まし い。

【ネットワークの連絡窓口及び関係者の準備】

ア、都道府県

 医薬品等の安定供給に関する連絡窓口は都道府県薬務担当課とする。

 各都道府県においては,地域の実情に応じた災害時の情報収集体制,連絡体制を確立し,緊急時に迅速な対応がとれるように努める。このために,各都道府県においては,医療機関,医薬品卸売業者等の連絡先リストを作成するとともに,医薬品等の在庫状況,需給状況等の情報収集体制を整え,緊急時における医薬品供給体制の確立に努める。

 また,医務担当部局との連携体制についても整えておく必要がある。

イ、医薬品卸売業者

 卸売業者の連絡窓口は各都道府県医薬品卸協同組合とする。また,広域的対応に関しては,日本医薬品卸業連合会を連絡窓口とする。

 卸売業者においては,各社内の緊急連絡体制を整備するとともに,医薬品卸協同組合が中心となって緊急時に備えた医薬品卸売業者間の協力体制を定め,医療機関と連携をとって被災時の医療機関の稼働状況,医薬品の需給状況を把握し,必要な医薬品等を迅速に供給する体制を整えておく必要がある。

ウ、医薬品製造業者

 医薬品製造業者に関する連絡窓口は日本製薬団体連合会とする。

 各製造業者は被災地内の卸売業者からの連絡,要請に迅速に対応するよう最大限の努力を払うものとする。

エ、薬剤師会

 薬剤師活動に関する連絡窓口は各都道府県薬剤師会とする。また,広域的対応に関しては,日本薬剤師会を連絡窓口とする。

オ、厚生省

 厚生省における連絡窓口は薬務局経済課とする。

厚生省においては,広域的見地から被災地の外からの協力体制がとれるよう都道府県,日本医薬品卸業連合会,日本製薬団体連合会,日本薬剤師会,関係省庁及び省内関係部局との連絡体制を定めておく必要がある。

【連絡事項の明確化,簡略化】

 ネットワークを構成する関係者間において災害発生時に連絡,情報提供すべき事項は主として以下のようなものである。

 なお,矢印は情報の流れを示しており,状況によっては受け手側が積極的に連絡を取る必要がある。

ア、各医療機関→各医薬品卸売業者

(1) 医薬品等の注文
(2) 医療機関の医薬品等の在庫状況
(3) 患者の動向に合わせた医薬品等の需給状況

イ、各医薬品卸売業者→医薬品卸協同組合

(1) 倉庫,物流センター等の被害状況
(2) 在庫状況
(3) 稼働可能性
(4) 医療機関の稼働状況及び医薬品等の需給状況に関する情報提供

ウ、医薬品卸協同組合→都道府県薬務担当課

(1) 各社の倉車,物流センター等の被害状況及び稼働可能性
(2) 医薬品等の在庫状況
(3) 医療機関の稼働状況に関する情報提供

エ、都道府県薬務担当課→医薬品卸協同組合

(1) 医薬品等の安定供給に関する協力要請
(2) 被災地内の医療体制に関する情報提供
(3)救護所,避難所の設置状況,医薬品等の供給先

オ、都道府県薬務担当課→厚生省薬務局

(l) 被災者の疾病,負傷状況及び医薬品等の需給状況
(2) 医薬品卸売業者の稼働状況,在庫状況,倉庫,物流センターの被害状況
(3) 医薬品,マンパワー等につき被災地外からの援助等の必要性の有無,受け入れ態勢
(4) 被災地内の交通・通信手段の状況

カ、各薬局・薬店→都道府県薬剤師会

(1) 薬局・薬店の被害状況及び医薬品等の在車状況
(2) 患者の動向に合わせた医薬品等の需給状況

キ、都道府県薬務担当課→都道府県薬剤師会

(l) 医療チームヘの薬剤師の参加への協力要請
(2) 医薬品等の保管・管理に関する協力要請
(3) 医薬分業推進支援センター等がある場合はこれを活用した医薬品等の供給等への協力要請

ク、厚生省薬務局→日本薬剤師会

(l) マンパワーについての協力要請

ケ、厚生省薬務局→日本製薬団体連合会

(1) 医薬品等の供給要請
(2) 医薬品等の需給状況

【通信手段の確保】

 緊急時の連絡手段として非常用回線の確保,携帯電話,パソコン通信,無線の活用なども有効な手段として考えられる。

また,現在厚生省においては,災害時における医療関係の情報を伝達するための「広域災害・救急医療情報システム」を開発中であり,患者動向,医療機関の被害状況等の情報とあわせ,医薬品供給に関しても本システムを活用することにより,情報伝達の効率化を図ることも検討される必要がある。

3、事前の情報提供と防災訓練について

【事前の情報提供の必要性】

医療関係者等に対し,災害時における医薬品等の供給体制を周知することにより,災害発生後の情報の混乱を避け,スムーズな供給を確保できるよう努めることが重要である。

ア、災害時の連絡先等の周知

 医療関係者に対し,災害時の医薬品卸売業者の連携体制及び医薬品卸協同組合の連絡先の周知を図る。

イ、災害用医薬品等集積所等の周知

 卸売業者,薬剤師会等に対し,医薬品等の集積所,救護所,避難所等の予定される場合の周知を図る。

【防災訓練の実施】

 災害時に対応した訓練の実施により,災害時に迅速な対応が可能となる。

 このため,関係者間のネットワークを通じた訓練並びに業界団体における情報伝達等の平時からの訓練を行うことが望ましい。

4、医薬品等の安定供給のための計画立案について

【基本的考え方】

 各都道府県薬務担当課においては,大規模災害を想定した医療機関等への医薬品等の供給,保管・管理等に関する計画立案を行う必要がある。この際,各都道府県の防災対策主管部局と密接な連携をとることが不可欠であり,また,各都道府県で制定される地域防災計画の中に医薬品等の安定供給及ぴ薬務担当課の役割について位置づけておく必要がある。

【計画に盛り込むべき事項】

ア、 関係者の役割分担と情報連絡体制について
(l,2参照)

イ、医薬品の確保について

(1)基本的考え方

 災害時に必要となる医薬品等については,阪神・淡路大震災の経験によれば,災害発生直後〜3日目位までとそれ以降では需要が異なってくることが予想される。従って3日目までとそれ以降,さらに避難所生活が長期化する場合に分けてその確保の方法を考えておく必要がある。特に被災地の外からの医薬品等の供給支援が本格化するまでの間は,被災地内で必要な医薬品等の確保がなされることが,より迅速な対応につながるものと考えられる。

 災害時に必要になると考えられる医薬品等の品目は時系列に沿って概ね別紙のとおりであるが,更に季節的な要因,地域的な要因等も考慮する必要がある。また,被災に直接伴うものではないが,人工透析液や,糖尿病患者に対するインシュリンのような特定の医薬品等の確保についても配慮が必要である。更に,阪神・淡路大震災の経験に照らすと,避難所生活が長期化することに伴う被災者の不眠,不安定な精神状態等への配慮から,これに対応する医薬品の確保も必要である。

(2) 被災地内での医薬品等の事前の確保方策

 被災地内での医薬品等の事前の確保は主として災害から3日程度の間に必要となるものが中心と考えられる。その確保の方法としては以下のようなものが考えられるが,どの方法を選択するかについては地域の実情に応じた対応をとることが望ましい。

  1. 都道府県が自ら行う備蓄。

  2. 都道府県と医薬品卸売業者(医薬品卸協同組合)の間の災害用医薬品等の備蓄,供給に関する協定等により,医薬品卸売業者がランニングストックとして確保し,災害時に供出することとする。また,災害用の備蓄以外の医薬品等についても都道府県との協定等に基づき供給の協力を行う。

  3. 薬剤師会の運営する医薬分業推進支援センター等がある場合には,卸売業者の場合と同様に,医薬品等の備蓄,供給に関する協定等を結び,これを活用することも検討する。C 地域において中心的に災害医療を行う病院等を中心とした医療機関における医薬品等の確保。

ウ、医薬品等の保管・管理体制について

(1) 医薬品等の集積所等保管場所の確保
(2) 集積所,救護所,避難所それぞれにおける保管・管理体制及び薬剤師等の協力

エ、マンパワー及び交通手段の確保方策

(1) 医薬品卸売業者及び薬剤師会への協力要請

 集積所,救護所,避難所における医薬等の集積,仕分け,保管,在庫・出入管理,品質管理や救護所等からの受注,発注,配送,また,救護所,避難所における服薬指導等の業務のために,医薬品等の専門的な知識を有する者の支援が必要である。こうした集積所等において必要なマンパワーを確保するためには,医薬品卸売業者及び薬剤師会の協会を得ることが必要である。こうしたことから以下の点について定めておくことが有効と考えられる。

  1. 医薬品卸協同組合及び都道府県薬剤師会との協定等

  2. 薬剤師の役割

    ・医療チームヘの参加
    ・避難所等における服薬指導,薬に関する相談,一般用医薬品の供給
    ・医薬品集積所等における仕分け,管理体制の維持

 このため,薬剤師の教育研修の場等を活用して災害時の対応等について認識を深めてもらうことも有効である。

(2) 医薬品等の搬送手段の確保

 災害時には交通が混乱することが予想されるので,搬送手段の確保方策を定めるとともに,警察等の協力を得て医療現場への迅速な供給が図れるよう平時から連携に努める必要がある。また,医薬品搬送の重要性に鑑み,緊急車両としての通行許可について配慮がなされる必要がある。阪神・淡路大震災の際には,自衛隊の協力も得たところである。特に留意すべきは以下の点である。

  1. 医薬品等搬送車両の緊急車両扱い
  2. 交通が混乱している場合の搬送手段としてはバイク,自転車等の活用が有効であり,こうした手段の確保も考慮する。
  3. 特に緊急を要する医薬品等の搬送について,緊急自動車による先導等も必要に応じて活用する。
  4. 地域の実情に応じ,ヘリコプター等の活用も含めた対応も検討する。

(3) 搬送等におけるマンパワーの確保

 医薬品等の搬送を行うため,ボランティアを含めたマンパワーの確保方策を検討するとともに,こうしたマンパワーが迅速に対応するための具体的な対応を記した文書等を準備しておくことも有効である。

オ、 近隣自治体との連絡体制

(1) 都道府県相互の協力に関する協定の締結等

【業界団体等関係者において対応計画を検討しておくことが望ましい事項】

ア、医薬品卸協同組合

 医薬品卸協同組合における地域の医薬品卸売業者同土の協力体制及び特定の医薬品卸売業者が稼働できない場合の補完体制等並びに目本医薬品卸業連合会としての広域的協力体制

イ、薬剤師会

 都道府県薬剤師会及ぴ日本薬剤師会における薬剤師の派遣計画の作成,協力活動のマニュアル化

ウ、日本製薬団体連合会

 日本製薬団体連合会において,緊急時の医薬品提供を行う場合の医薬品製造業者毎の医薬品の分担登録,供給方法,団体内の連絡体制

その他医薬品卸売業者,医薬品製造業者各社においてもそれぞれ内部の連絡体制,連絡窓口の選定等を平時から準備し,迅速な対応が可能なように努めることが望ましい。


[III]大規模災害発生後の対応

1  医薬品等の安定供給の確保のための関係者の初動対応について

【基本的考え方】

 大規模災害が発生した場合には,都道府県は被災状況に応じた方針を定め対応をとる必要がある。しかしながら今回の阪神・淡路大震災に見られたように,被災規模が大きいため情報が混乱し,かつ迅速な対応が必要な際は,方針を定めている時間的余裕が無いことも予想される。こうした医療体制に即した医薬品等供給の初動対応がいち早く行われるために,既述の役割分担に沿って関係者が次のような対応をとることとする。

ア、都道府県薬務担当課

(1) 医薬品卸協同組合を通じ医薬品等の在庫,需給状況の把握を行うとともに,医薬品卸売業者への協力要請を行う。

(2) 薬務担当課と医務担当課,保健所で連携をとり,医療現場の状況把握に努めるとともに,これに即した医薬品等の供給体制の確保に努める。

(3) 都道府県薬剤師会に対し,医薬品等の供給業務への協力要請を行う。

(4) 被災の程度が大きく,被災地内で医薬品の不足を生じることが予想される場合には,厚生省に対しその旨を速やかに報告する。

(5) バイク,自転車を含めた交通手段を確保する。

イ、厚生省薬務局

(l) 被災地の情報収集に努める。都道府県からの情報に加え関係業界団体を通じた情報を収集する。また,医療体制に即した医薬品等の供給を迅速に行うため,健康政策局との連携を図る必要がある。

(2) 被災の程度が大きく,被災地内で医薬品の不足を生じることが予想される場合には,都道府県からの要請を待たずとも医薬品の提供が行えるよう,日本製薬団体連合会の協力を得て準備を進める。

(3) 交通の混乱が予想される場合,後述の空輸を含めた被災地内への搬送ルートの確保に努める。

ウ、医薬品卸売業者

(1) 各社においては,倉庫,物流センター等の被害状況及び在庫状況を把握の上,速やかに医薬品卸協同組合に報告する。

(2) 医薬品卸協同組合は各社の状況,稼働状況を都道府県薬務担当課に報告する。

(3) 医薬品卸協同組合は,被災の状況から判断して通常の通信及ぴ搬送の方法では医療需要に対応しきれないと判断した場合には,各医薬品卸売業者の連携のもとに,可能な限り医療機関を巡回するなど,必要な医薬品等の需要把握及ぴ供給に努めるよう医薬品卸売業者に指示する。なお,災害時の医療機関の医薬品等の備蓄,需給状況の把握のために現在開発中の「広域災害・救急医療情報システム」の活用も有効な手段である。

(4) 都道府県との協定によって在庫医薬品等の提供を行うこととしている医薬品卸売業者等は都道府県薬務課の要請に従って医薬品等の供給に努める。

エ、都道府県薬剤師会

(l) 都道府県薬務担当課に対し被災地内薬局等の在庫状況,被害状況等を把握した上で報告する。

(2) 避難所,救護所等の設置が予想される場合には,都道府県が定めた医薬品集積所,避難所等における医薬品等の保管管理体制を支援するため,都道府県薬務担当課の要請に従ってマンパワー確保に協力を行う。

2、被災地内における供給の確保について

【基本的考え方】

 医薬品等の供給については,被災地の状況により,特に初動期においては臨機応変に対応することとする。災害時においても地域の医療機関による医療の提供が中心となるものと考えられることから,まずは医療機関に対する医薬品等の供給の確保が重要である。このため,災害発生直後で医薬品卸売業者自らの在庫では供給に困難を来す場合には,都道府県等の備蓄医薬品等から供給するなど臨機応変な対応が必要である。

 さらに,救護所等が設置された場合における医薬品等の需要に対しては災害用の備蓄医薬品等,都道府県又は市町村が購入する医薬品等及び被災地外からの救援医薬品等を中心として,医薬品卸売業者等の協力も得つつ救護所等に対して供給することとする。

 なお,今回の阪神・淡路大震災の際には被災地外からの救援医薬品等は都道府県薬務担当課の指示によりいったん医薬品集積所に集め,仕分け及び保管・管理の後,救護所,避難所等へ搬送したところである。こうした仕分け,保管・管理については,専門的知識を有する薬剤師あるいは医薬品卸売業者の協力を得ることが望ましい。

 被災地内において想定される医薬品供給ルートを時系列に沿って図示すると図2及び図3のようになる。

【具体的な供給方法】

 被災地の状況によって,臨機応変な対応が求められるが,阪神・淡路大震災の時を例に取ると以下のような対応を行うことが想定される。

ア、医療用医薬品

(1) 医療機関の需要への対応

  1. 機動力及び品揃えの観点から,出来る限り医薬品卸売業者が医療機関の需要に対応することが適当であるが,状況に応じて都道府県の備蓄医薬品等や外からの救援医薬品等を供給することも必要である。この際,医療機関の医薬品等の在庫及び需要の把握のため,現在厚生省で開発中の「広域災害・救急医療情報システム」の活用も有効な手段として考慮すベきである。

     また,備蓄医薬品等や救援医薬品等を医療機関に搬送するための手段の確保について事前に十分検討しておく必要がある。

  2. 通信事情等により医療機関と連絡の取れない場合は,医薬品卸売業者が連携のもとに可能な限り積極的に巡回するなど,医療機関に対して,医薬品等の需要の把握及び供給に努める。通信事情等により医療機関と連絡の取れない場合は,医薬品卸売業者が連携のもとに可能な限り積極的に巡回するなど,医療機関の需要把握及ぴ供給に努める。

  3. 医薬品卸売業者の倉庫,物流センター等で都道府県との協定により確保していた医薬品等がある場合には,都道府県の要請により医療機関に供給する。

(2) 救護所等で使用する医薬品等について

  1. 被災地の外から来る医療チーム等が使用する医薬品等は原則として医療チーム自らが持参することとする。

  2. また,医療チームが持参した医薬品等では不足を生じる場合や救護所が設置された場合に使用する医薬品等については,災害用の備蓄医薬品,都道府県又は市町村の購入する医薬品等,被災地外からの救援医薬品等を活用することとする。こうした医薬品等の供給に当たっては,医薬品集積所を設け,救護所からそこまで医薬品等を取りにくるか,あるいは集積所から需要に応じて搬送することとする。こうした集積所を設置する場合には,その場所について平時から定めておくとともに,災害発生後は広報等を通じ医療チーム等に周知を図る必要がある。

     なお,医療チーム等が交替するに当たっては余剰医薬品等について後任の医療チームに説明の上引き継ぐか,あるいは持ち帰ることとし,医薬品等が放置されることのないよう留意する必要がある。

  3. 集積所については,医薬品等の保管管理上の観点からは,第l次的な大規模集積所と,より現場に近い第2次的な集積所を設けることも方法の一つである。阪神・淡路大震災の際には第2次的な集積所として保健所が活用されたところである。

  4. こうした医薬品等の搬送については医薬品卸売業者,薬剤師等を含むボランティアの協力も得つつ都道府県薬務担当課が行うこととする。

  5. なお,特定銘柄の医薬品等の確保は困難が予想されるため,薬剤師の助言を得て同種同効薬の活用に努めることが必要である。

イ、一般用医薬品

(1) 薬局,薬店への供給

薬局,薬店の需要に対しては医薬品卸売業者が対応する。

(2) 避難所等への供給

  1. 薬局,薬店等の被害が甚大で,避難所等における被災者の需要への対応が困難な場合においては,医療用医薬品同様に,災害用の備蓄医薬品等,都道府県又は市町村の購入する医薬品等,被災地外からの救援医薬品等を活用することとする。

  2. 一般用医薬品についても医療用医薬品と同様の手順により避難所等への配送を行うこととする。

  3. なお,避難所等における一般用医薬品等の提供は,薬剤師等による患者への服薬指導を経て行われることが望ましい。

  4. また,避難所等においては被災者に対して一般用医薬品等の提供場所,必要な場合の連絡先を明示して安心感を与えることも必要である。

3、被災地外からの供給について

【基本的考え方】

 災害発生直後3日目位までの間は被災地内で医薬品等が確保されていることがもっとも迅速な対応につながるものと考えられるが,人命に関わる特別な医薬品等について被災地内で確保が難しい場合等については,緊急に被災地の外から搬送す る必要がある。また,阪神・淡路大震災のような大規模災害において,被災地内の医薬品等の不足が予想される場合については,通常の供給体制が整うまでの間,被災地の外からの搬送によって医薬品等の供給を補完する必要もある。

【具体的方法】

ア、特別な医薬品等

 人命に関わる特別な医薬品等で,被災地内で確保が難しく,かつ交通の混乱で被災地内への搬送に時間がかかる場合においては,緊急自動車による先導,あるいはヘリコプターによる空輸等の手段で医薬品等を搬送することとする。この場合医薬品卸売業者あるいは都道府県等から連絡を受けた厚生省薬務局において,警察,消防等の協力を得て搬送の手続きをとることとする。特に輸血用血液製剤の供給については日本赤十字社の協力を得ることとする。

イ、その他の医薬品等

被災地内の災害用備蓄医薬品等に不足が予想される場合には,厚生省薬務局において日本製薬団体連合会を経由して医薬品製造業者等の協力を得て被災地への医薬品等の搬送を行う。

(1) 内容

被災地外からの搬送の対象は,都道府県から要請のあった品目を中心としつつ状況によっては適宜追加する。

(2) 手順

  1. 都道府県より厚生省に援助の要請とともに,受け入れ場所等を連絡。

  2. 厚生省薬務局より日本製薬団体連合会に対し,医薬品等供給に関しての協力を要請。

  3. 搬送ルートの確保厚生省薬務局は,警察庁等と連絡をとり,交通ルートの状況把握及び医薬品等の搬送ルートの確保に努める。陸上輪送が困難な場合においては,空路及び海路の確保に努め,警察庁,防衛庁,消防庁等関係省庁の協力を得てヘリコプターや船舶による搬送を行う。

  4. 厚生省薬務局により関係者に対し,搬送の指示とともに,都道府県薬務担当課に搬送する医薬品等の内容,量,搬送時 刻等の連絡。現地でのマンパワー等の有効活用のため,出来るだけ正確な情報を伝えるよう努める。

(3) 注意事項

 搬送に当たっては,集積所において仕分けしやすい方法を工夫することが重要である。具体的には,1つの箱には1種類の医薬品等のみを詰めるようにし,内容を外から見てはっきり分かるように明示するなどの工夫があると便利である。

 供給する医薬品等は,被災地の状況に合わせ,出来るだけ使いやすいものとすることが望ましい。例えばディスポタイプの活用等利用者の利便を考えた供給が必要である。

 また,今回の震災に照らした具体的な注意事項として以下のようなことにも配慮する必要がある。

  • うがい薬等水がない状態では使えない医薬品がある。

  • 大包装のもの,シロップ,粉薬は薬袋,投薬ビン,天秤はかり等がなければ使えない。

  • 添付文書,有効期間(使用期限)の表示のないものは使えない。

  • 気管支喘息やアレルギー性鼻炎用の外用薬は吸入用アダプターがないと使えない。 等

4、医薬品等の仕分け・管理及び医薬品集積所について

【仕分け・管理について】

 医薬品等の特殊性に鑑み,集積所,救護所,避難所等には薬剤師等専門知識を持って医薬品等の分類,保管・管理を行えるマンパワーが必要である。さらに,各集積所において運搬等を行う人員の確保が必要である。

 また,集積所においては,医薬晶等の出入につき記録を取り,在庫管理を行う体制を確保する必要がある。

 なお,阪神・淡路大震災の際には,集積所の医薬品等の品目が多種多様にわたったため,コンピューターを活用した在庫管理を行ったところである。

【医薬品集積所について】

 救護所,避難所等への医薬品供給に当たっては,被災地外からの救援物資等をいったん集める集積所を設置することが効率的である。医薬品集積所を設置する場合には,地域の実情に応じて場所,設置筒所等を定めることとする。大都市においては中心的かつ大規模な第1次集積所と現場に近い第2次集積所の2段階で集積所を設置することも一つの方法である。備蓄センター等を有している都道府県においてはこうした備蓄センターを集積所とすることも考えられる。また,特に第2次集積所は救護所,避難所等への搬送に便利な場所を選ぶことが望ましい。

 医薬品集積所には,仕分け,配送のための一定のスペースが必要である。また,そのスペースは屋内であることが望ましいが,どうしても一時的に屋外に保管しなければならないような事態も予想されるので,ビニールシート等雨よけの手段確保も必要である。

 医薬品の管埋においては冷暗所保存及び向精神薬等の管埋に注意する必要があり,このため冷蔵庫及び施錠可能なスペースの確保も必要である。集積所等においては,都道府県薬務担当課は,積みおろし作業等のためのマンパワーを確保する必要がある。また,キャスター,パレット等の積み降ろしのための道具を用意すると便利である。

5、 費用負担(災害救助法による支弁)について

【基本的考え方】

災害時において都道府県が購入し,救護所等において使用した医薬品については,当該災害について基本的に災害救助法が適用された場合,国がその費用の一部を負担することとなる。

 阪神・淡路大震災においては,業界団体による無償援助により多大な医薬品等の提供がなされたところである。今後の災害に際しては,こうした善意に期待するばかりでなく,災害救助法の適用がなされた時点で速やかにその活用が図れるよう手続等を明確にしておく必要がある。

【災害救助法の費用の範囲】

 救護所等臨時に設置された施設において災害救助に用いられる医薬品等は災害救助法の費用の支弁対象として取り扱うことができる。

 また,避難所において必要な者に提供された一般用医薬品等についても災害救助法の費用の支弁対象として取り扱うことができる。

 ただし,いずれの場合も費消されたものについてのみが災害救助法の費用の支弁の対象となることに留意する必要がある。

【費用の支弁請求手続について】

 災害救助法の費用に関しては医薬品等に限らず,都道府県の災害救助法担当部局を通じて厚生省に対して支弁請求の手続がなされる。このため,各都道府県薬務担当課においては,災害救助法担当部局と十分連絡をとり,災害救助法の費用の支弁対象範囲,申請方法等についての指示を受けることが肝要である。

 また,こうした手続を迅速に進めるために,医薬品等の発注,受け取りの記録を定型化しておくなどの工夫がなされることが望ましい。


参考資料4

震災時における医療対策に関する緊急提言

阪神・淡路大震災を契機とした災害医療体制のあり方に関する研究会

(平成7年5月29日)


1 はじめに

 災害時における救急医療のあり方を研究するため,厚生科学研究費補助金(健康政策調査研究事業)による研究として,「集団災害時における救急医療・救急搬送体制のあり方に関する研究班」が平成6年1月から設置されていたところである。

 本研究会は,阪神・淡路大地震の教訓を生かすため,上述の研究班の構成員に加え,新たに被災地の医療機関,医師会等の関係団体,建築,機器設備,情報通信,医薬品の専門家の参加を得て,班の名称を「阪神・淡路大震災を契機とした災害医療体制のあり方に関する研究会」としたものである。

2 阪神・淡路大震災の教訓と今後の研究内容

 阪神・淡路大震災の主な教訓としては,1)第一義的な調整・指令を行うべき県庁,市役所が被害を受け,通信の混乱が加わり,医療施設の被害状況,活動状況といった情報収集が困難な状況となったこと,2) 医療搬送ニーズに加え,消防・救援救助ニーズも同時にあり,合わせて道路の被害や被災者の避難等で大変な混雑となったために,円滑な患者搬送,医療物資の供給が困難となったこと,3) 医療施設の施設自体は損壊を免れても,ライフライン(水道,電気,ガス等)が破壊されたか,設備もしくは設備配管が損壊したため,診療機能が低下した医療機関が多くみられたこと,4) 一部の医療機関では,トリアージの末実施のため,医療資源が十分に活用されなかったこと,5)阪神地域では大地震は起きないものと信じ,防災訓練や備蓄等の事前の対策が不十分であったこと,6) 続々と現地に向かった救護班の配置調整,避難所への巡回健康相談等が保健所で実施された場合が評価されたことなどが挙げられ る。

 本研究会では,今後この阪神・淡路大震災の教訓を生かし,被災地となった場合の観点と被災地への支援という観点から,下記の項目について検討していくこととしている。

  1. 災害時における情報ネットワークの構築と活用

  2. 災害医療拠点病院の整備等の災害時の医療確保のあり方

  3. 災害時のライフラインの確保対策

  4. 災害発生時における国,県,保健所,市町村の情報収集

  5. 指揮命令権限のあり方

  6. 被災地に対する応援派遣の出動基準,救護活動体制の協定のあり方

  7. 情報途絶時の行政等の対応指針

  8. 災害時における広域搬送及び後方支援システムの構築

  9. 災害時の医薬品等の供給システムの確立

  10. 災害時に必要な医薬品・医療用材料の具体的なリストアップ及ぴ備蓄方法

  11. 病院レベルの災害時対応マニュアル策定のためのガイドラインの作成

  12. 災害時における被災住民の健康管理のあり方

  13. メンタルヘルス等の災害後に長期化する健康問題に対する方策

  14. 災害時における地域医療の確保方策,避難所救護所のあり方

  15. 医療関係者に対する災害医療に関する研修のあり方

  16. 医療ボランティアの活用方策

  17. 外国からの支援申し出に対する基本方針

  18. 災害時の遣体の検案のあり方 等

 また,災害には,大規模地震,火山噴火,風水害等の自然災害,航空機事故,列車事故,高速道路での大量玉突事故やトンネル内での追突火災事故,テロリズム活動等の人的災害があり,本研究会においては災害の種類別の対策も研究していく予定であるが,今般,本研究会は,主として震災対策として緊急に体制整備を図るべき事項を選ぴ出し,意見を取 りまとめたので,報告を行うものである。

3、緊急に整備する必要性のある事項

  1. 災害医療情報システムの確立

     災害時に迅速かつ的確に救援・救助を行うためには,まず情報を迅速かつ正確に把握することが最も重要である。そのためには,市町村一都道府県一厚生省,災害医療拠点となる国立病院一地方医務局厚生省,各省庁間,非政府機関による情報収集体制の確保に加え,概ね二次医療圏単位の情報収集システムの整備が重要であり,医療機関,医師会,災害医療拠点病院,保健所,消防本部,市町村等間の二次医療圏単位の情報ネットワークの確立を中心とし,都道府県間の広域情報ネットワークの確立が重要である。また,その際,被災者・住民への医療情報の提供方法の検討が必要である。

     さらに,災害時における公衆回線の上述のネットワークでの優先使用,また,携帯電話,パソコン通信,防災無線,衛星通信等複数のフェイル・セイフ機構を持った情報伝達手段の確保が必要であるcなお,人工透析患者等一部の慢性疾患のような特定な医療が必要な疾患・患者に係る情報の問題についても今後検討していく必要がある。

  2. 災害医療拠点病院の整備

     被災した地域への支援活動を行うためには,医療救護チームの派遣を迅速に行い,救急医療用資器材,仮設テント等を装備するとともに,後方病院としての患者受入れ等のためのへりポートや簡易ベッド等を装備した地域の災害医療拠点病院として二次医療圏ごとに1か所以上整備する必要がある。

     また,地域の災害医療拠点病院の機能に加え,各都道府県に1か所ずつ,要員の訓練・研修機能を有し,緊急用の医療品等の備蓄を強化した基幹災害医療拠点病院の整備が必要である。

     なお,これらの病院では,病院自身が被災した時においても医療を提供できるように,貯水 槽,白家発電装置等の整備,医薬品・医療用材料の備蓄,耐地震性能の強化等を図ることが必要である。

     災害医療拠点病院の選定にあたっては,救命救急センターなどの救急医療を担っている医療機関の中から,選定するのが望ましい。

     さらに,これらの都道府県レベルの災害医療拠点病院に加え,災害医療に関するより高度な知識と経験を有し,災害医療に関する高度な研修・研究機能,広域災害発生時に初期救急医療と情報収集を担う医療救護チームの派遣,重症患者受入れを行う,国立の災害医療センターが東日本及び西日本に必要である。

  3. 地域レベルでの災害対策の強化

     保健医療行政の第一線機関である保健所等が,地域の医療機関,医師会,歯科医師会,薬剤師会,看護協会,消防本部,市町村等の関係機関の連携の推進,災害時における各関係機関からの情報収集,医療ボランティアの受人れ等の調整を果たすために,拠点としての保健所等の耐地震性能の強化とともに,職員の確保等の災害時の対応マニュアル,情報通信設備の整備等が必要である。

     また,被災住民の健康管理のために,災害に備えた体制づくり,被災地の住民の生活・健康状態の把握,健康管理の具体的手法等を内容とする対応マニュアルの作成が必要である。

  4. 病院レベルでの災害対策の強化

     災害発生直後の迅速かつ適切な情報収集・発信,救護活動,応援医療スタッフ(医師,歯科医師,薬剤師,看護婦等)の受入れ,後方病院への患者搬送,医薬品・医療用材料の確保等を実施するため,病院レベルの災害時対応マニュアル策定,自主点検およぴ訓練のためのガイドラインの作成が必要である。

     また,昭和56年に改正された建築基準法の新耐震基準以前に建設された病院施設に全壊または半壊したものがみられたことから,昭和56年以前の基準によって建設された病院の耐地震性能の診断を進めることが必要である。

  5. 医薬品等の供給システムの整備

     大規模災害時の医療体制に合わせた医薬品等の供給を円滑に行うためには,国,地方公共団体,医療関係者,卸売業者等の連携が不可欠である。このため,各者問の連絡体制を整えておく必要があるほか,地域における医療品等の備蓄や緊急時の医療品等の供給体制及び管理保管体制を含めた医薬品等の供給システムを整備する必要がある。

  6. 災害時搬送システム及び広域搬送システムの確立

     陸路輪送については,消防署の救急車,病院所有の救急車の使用法,自家用車の活用等について明らかにしておく必要がある。

     次に,道路の被害や被災者の避難等で陸路が大混乱した場合には,空路,海路等の活用が期待され,特にへリコプターによる広域搬送は非常に有用と考えられる。

     へリコプターは,現在いくつかの行政機関によって運用されているが,被災息者の搬送を一義的な任務としているものはなく,災害発生時には他の優先する任務を行うため,どのくらいのヘリコプターを,どのような手続で被災患者の搬送に使用できるかが予め予測できない現状にある。従って,災害時に救急医療用として優先的に使用出来るヘリコプターの整備と指揮系統の明確化,手続の簡素化,民間へリコプターの活用等へリコプター搬送システムの構築が必要である。

     また,ヘリコプターによる広域搬送が災害時において活用されるためには,全国的規模において平時からのへリポートの確保に加え,例えば災害の拠点の近隣の公園やグランド等を災害 時における緊急へリポートとして選定しておく等により緊急ヘリポートの確保が必要である。

  7. 災害に関する総合的研究の推進

     災害時に対応した適切な医療の確保のためには,災害時に発生する傷病に関する医学的研究はもとより,災害によるストレスに対する心理学的研究や,医療に必要な水や電気等のライフライン,情報の確保に必要なシステムに関する研究,耐地震性能等に優れた災害時に確実に使用可能な医療機器の開発研究等,災害を想定した総合的な研究を推進する必要がある。

  8. 医療関係者に対する災害医療に関する研修・訓練の実施及び医療ボランティアの活用

     災害時において,限られた医療資源が十分に活用されるためには,災害医療の専門家の知識と経験が必要である。

     そのため,災害時の医療関係者の役割,トリアージ技術,災害時に多発する傷病の治療枝術等に関して,訓練・研修を実施し,災害医療の専門家の養成を図る必要があるとともに,医療関係職種の養成カリキュラムに災害医療・医学が盛り込まれることが望まれる。また,医療ボランティアの活用のため,災害時における窓口の確保等の検討が必要である。

  9. 国民に対する災害時初期医療ケア対応の普及啓発

     救急蘇生法,災害時トリアージの意義,災害時の救急搬送のシステム等に関して,国民に対する普及啓発活動を行い,災害時においても国民1人l人が適切に対処できるようにする必要がある。


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