参考資料2

厚生省防災業務計画


 ◎ 災害の姿,発生時期,対策に緊急に提供できる社会資源などはまちまちであり,また,情報通信の技術進 歩等の周辺状況の変化を考慮すれば,将来のどのような場合においてもある一つの災害対策マニュアルの文 字を墨寸して対策を講じていくことは適当ではなく,個別事情に応じた創意工夫・臨機応変の対応が望まれ る。

 ◎ 厚生省災害対策マニュアルは,平成7年1月17日の阪神・淡路大震災の経験も踏まえ作成したものであ り,災害対策マニュアルについての上記の限界は前提としつつ,災害の応急対策の全体状況や対応の方向を 考える上で,現在参考になると考えられる重要事項を極力明らかにするものである。

 ◎ 厚生省災害対策マニュアルの内容は,今後,大規模災害が人口密集地域で発生した場合において,発災当 初一週間程度の間における災害救助,医療や飲料水確保等について,厚生省及び地方公共団体が行うべき措 置・対応のポイントとなる事項である。

 したがって,事前の防災対策,当初より引き続く応急対策,復旧・復興対策等については,密接不可欠な ものを除いて,省略してある。

(注)関係審議会の提言等を踏まえ,今後逐次見直しを行うものとする。

平成7年9月1日

阪神・淡路大震災厚生省災害対策本部事務局

代表電話  03-3503-1711
ファックス 03-3501-4505


目次

第1章 総則

  1. 発災直後の対応
  2. 厚生省災害対策本部の設置等
  3. 被災地への職員の派遣及び厚生省現地対策本部の設置
  4. 厚生省の災害応急対策の流れ
  5. 災害救助法の適用

弟2章 医療・保健

  1. 被災地の状況把握
  2. 救護蔓班の派遣
  3. 被災地における医療の確保
  4. 保健婦等による健康管理
  5. 医薬品等
  6. 医療に関する外国からの支援
  7. 防疫対策
  8. 個別疾病対策

第3章 福祉

  1. 避難所
  2. 市町村民生部局の体制
  3. 在宅の要援護者対策
  4. 社会福祉施設の対策
  5. 障害者に係る対策
  6. 児童にこ係る対策
  7. ボランティア活動の支援

第4章 生活衛生

  1. 遺体の火葬
  2. 水道
  3. 廃棄物

第5章 社会保険

  1. 社会保険災害対策本部及び社会保険災害対策支部の設置
  2. 災害応急対策
  3. 災害復旧対策


第1章 総則

1. 発災直後の対応

〇厚生省の関係部局は、発災後直ちに、他からの指示等の有無を問わず、その所掌事務に ついて情報の収集及び必要な措置・対策を開始する。

○大規模災害時においては,被災都道府県・市町村も十分な情報を把握できない可能性が高い。したがって,厚生省の関係部局は,被災都道府県・市町村からの情報は当然として,ヘリコプターテレビ情報,マスコミ情報等,被災地又はその周辺の関係施設への直接電話照会,全国ネットワークをもつ企業への照会等可能なあらゆる手段により情報収集を行う。

2.厚生省災害対策本部の設置等

○ 大規模地震等の大規模災害が発生した場合,またはその発生が予知された場合には,厚生事務次官は厚生大臣の許可を得て,直ちに厚生省災害対策本部の構成員及び事務局員を召集し,厚生省災害対策本部(発生予知の場合は,厚生省地震災害警戒本部。以下同じ。)を設置する。

(注1) 大規模災害とは,災害対策関係省庁達絡会議設置要綱4の「別に定める基準」(東京・震度5以上,その他の地域・震度6以上等)を目安とする。

(注2) 本部設置について厚生大臣の許可を得ることが困難等の場合には,厚生事務次官の専決とし,それも困難な場合には,以下,官房長,官房総務課長とする。

(1) 連絡網の周知

○ 厚生省災害対策本部の構成員及ぴ事務局員への連絡綱等については,「厚生省災害対策本部構成員等必携」を用いる。なお,主要な構成員及び事務局員は常時ポケット・ベル又は携帯電話を携帯する等により常時連絡がとれるょうにしておくものとする。

(2) 自発的参集

○ 厚生省災害対策本部の構成員及び事務局員は,大規模災害が発生した場合及び発生予知を知った場合には,召集権者の召集を待たず,直ちに参集する。その際,交通手段が利用できない場合にあっても迅速に参集できるよう,平時より適切な代替手段の確保に努める。

(3) 厚生省災害対策本部の設置場所

○ 厚生省本省特別第一会議室又は適宣の会議室とする。厚生省本省が被災し,活動が困難であると認められる場合には,立川防災基地内にある国立病院東京災害医療センターに設置するとともに,その旨を直ちに厚生省災害対策本部の構成員及び事務局員に連絡する。

(4) 厚生省災害対策本部の業務

○ 厚生省災害対策本部は,次の業務を行う。

  • 省内関係部局からの被災状況等に関する情報の取りまとめ
  • 災害対策の総括・総合調整
  • 政府非常災害対策本部等や関係省庁からの情報収集及び達絡調整
  • 被災状況及び災害対策に関する広報資料の定期的作成等広報活動の総括
  • 厚生省幹部との連絡
  • 厚生省現地対策本部を設置した場合にあっては,同本部との調整
  • その他災害対策に関し必要な業務

3.被災地への職員の派遣及び厚生省現地対策本部の設置

(1) 職員の派遣

○ 大規模災害時においては,発災直後,特に次の職員を被災地に派遣し,情報収集,破災都道府県・市町村への助言等にあたらせる。

  • 国立病院東京災害医療センターの初期災害医療班及び国立病院等の医療班
  • 水道及び廃棄物の専門職員
  • 災害救助行政の専門職員等

(2) 厚生省現地対策本部の設置

○ 被災都道府県・市町村の機能が低下し,被害状況等の情報収集及び災害対策等の的確な遂行に支障が生ずる恐れがあるときは,厚生省は,政府全体の対策の動向にも留意しつつ,速やかに現地対策の拠点として厚生省現地対策本部を設置する。

○ 厚生省現地対策本部は,被災状況の把握,被災都道府県・市町村の事務執行の状況の把握,住民二一ズの把握,被災都道府県・市町村の活動に関する他の都道府県等からの支援体制の調整,厚生省災害対策本部等への情報伝達等を行う。

4. 厚生省の災害応急対策の流れ

○大規模災害時の災害応急対策については,被災状況等を踏まえた迅速かつ適切な対策が 継続的に講じられるべきものである。

○ 大規模災害における厚生省の災害応急対策の重点事項を時間の流れに即して整理すると次のとおり

5.災害救助法の適用

(1) 被災市町村の対応

○ 被災市町村は,発災時には,消防部局,警察当局等と緊密な連携を図り,速やかに管内の被害状況を把握の上,被災都道府県に報告する。

○ 地域防災計画上の被害状況については,棟単位で報告することとなっており,災害救助法の適用上の被害状況については,今後の応急救助の実施上の関係から世帯単位となっていることに留意する必要がある。

○ 世帯単位で被害状況を把握するに当たっては,世帯主等が記入された3千分のl程度の管轄区域の地図を常時用意しておき,被害範囲及び被害家屋等から推定するとともに速やかに現地調査等により把握する。

○ 被害が甚大であるいは夜問等のため被害が正確に把握できない場合には,概数又は棟単位等により緊急報告を行うことが肝要である。

○ 被災都道府県の機能等に甚大な被害が発生し,被害状況の報告が一時的に不可能な場合には,被災市町村は,直接,国に対して緊急報告を行う。

(2) 被災都道府県の対応

○ 発災時には,消防部局,警察当局等と緊密な連携を図り,速やかに管内の被害状況の把握を行う。

○ 被災都道府県は,被災市町村等からの報告等により把握した被害状況を,速やかに厚生省に報告する。

○ 災害救助法を適用して応急救助を実施する必要があると想定される災害については,速やかに厚生省に報告するとともに,災害救助法の適用手続きを速やかに進める。

○ この場合,被害状況は,世帯単位であることを十分留意するとともに,災害救助法の適用基準に達した段階で,速やかに適用手続きを進めるとともに,特に被害が甚大と想定される場合には,その後刻々と変わる被害状況を厚生省にその都度報告する。

(3) 厚生省の対応

○厚生省は,被災都道府県から災害発生状況,被害状況の報告を受けた場合には,災害救助法の適用手続きを速やかに行い,必要に応じ,関係省庁に甘して被災状況及び災害救助法の適用について連絡する。


第2章 医療・保健

1.被災地の状況把握

○ 大規模災害時に迅速かつ的確な医療を提供するためには,まず情報を迅速かつ正確に把握することが最も重要である。厚生省は,発災直後に,破災都道府県・市町村,国立病院,日本赤十字社,関係省庁,民間医療機関,医薬品卸売業者等から以下の事項について情報収集を行う。

  • 施設・設備の被害状況
  • 診療(施設)機能の稼働状況
  • 職員の被災状況,核働状況
  • 医薬品等医療用資器材の需給状況
  • 施設への交通状況等

〇国立病院東京災害医療センターは初期災害医療班を派遣し,初期情報の収集を行うとともに,収集した情報については,速やかに厚生省災害対策本部等に連絡する。

2.救護班の派遣

○ 初期災害医療においては,自律的な活動を行うことが必要であり,日本赤十字社,国立病院等は状況によっては自らの判断に基づき速やかに救護班を派遣する。
○ 国立病院等は救護班を派遣し,避難所等に開設する救護所等において救護活動を行う。
○ 被災都道府県は,その区域内又は他の都道府県等からの救護班の派遣にかかる調整を行うものとする。
○ 厚生省は,必要に応じ,又は被災都道府県からの要請に基づき,救護班の派遣に係る調整を行う。

3.被災地における医療の確保

(1) 医師,歯科医師,保健婦,看護婦等のマンバワーの必要数の把握

○ 被災都道府県は,救護班の編成等に必要な医師等医療従事者の不足数について把握する。
○被災都道府県は,不足するマンパワーについては派遣可能な他の都道府県等に直接依頼 をする。
○ 被災直後で被災都道府県の調整機能が失われている時は,厚生省が必要な支援を行う。

(2) ヘリコプターを利用した傷病者や医療活動従事者の搬送体制の確保

○ 厚生省は,災害医療の拠点となる病院への傷病者の搬送について,必要に応じ,ヘリコプターを所有している緊急輪送関係省庁[運輸省,海上保安庁,防衛庁,消防庁,警察庁]に要請する。

○ 厚生省は,救護班等医療活動従事者の緊急輪送について,必要に応じ,ヘリコプターを所有している緊急輪送関係省庁〔運輪省,海上保安庁,防衛庁,警察庁]に要請する。

(3) 医療機関への電気,水道,ガスの確保

○ 被災都道府県は,医療機関のライフラインの復旧について,優先的な対応が行われるように事業者へ要請する。

○ 被災都道府県は,復旧までの間,医療機関への優先的な水の供給の確保及び自家発電用の燃料の確保のための措置を講じる。

○ 被災した医療機関においては,必要に応じ,ライフライン事業者等に対し,応急復旧の要請を行う。

(4) 救護所(応急時の医療救護を行う場所)

○ 被災都道府県は,被災状況等を勘案し,適時適切な場所に救護所を設置する。

○厚生省は,必要に応じ,被災都道府県にょる救護所の設置について支援する。

(5) 避難所救護センター(長期間と見込まれる避難所に設置した医療救護を行う場所)

○ 被災都道府県は,避難所の設置が長期間と見込まれる場合には,避難所救護センターを設置する。

○ 避難所救護センターの設置・運営については,医療機関の稼働状況を勘案の上行う。

○ 避難所救護センターの医師については,内科系を中心とした編成に努め,その後,精神科医を含めた編成に切り替える。

○ 厚生省は,必要に応じ,災害救助法の適用を含め,被災都道府県による避難所救護センターの設置について支援する。

○被災都道府県は,避難所救護センターに歯科巡回診療車又は携帯用歯科診療機器を確 保,整備する。

4. 保健婦等による健康管理

○ 厚生省は,必要に応じ,破災都道府県からの保健婦派遣要請数を確認し,派遣計画について被災都道府県及び派遣都道府県と調整する。

○ 被災都道府県・市町村の保健婦等は,避難所等を巡回し被災者の健康管理と栄養指導を行う。

○ 厚生省は,被災都道府県・市町村が健康管埋のための実施計画の策定等により,健康管埋を計画的に進めるよう適切な指導を行う。

○ 都道府県は,被災者の精神不安定に対応するため,精神保健センター等においてメンタルケアを実施する。

5.医療品等

(1) 被災地の状況把握(参考の図1参照)

○ 厚生省は,災害の発生に際して,必要となる医療品等の供給に支障を来さないよう都道府県,医薬品卸売業者,医療機関等から以下の事項について情報収集を行う。

  • 卸売業者の在庫状況並びに倉庫,物流センターの被害状況及ぴ稼働状況
  • 被災地内の交通・通信手段
  • 医薬品等の需給状況
  • 医療機関の稼働状況
  • 避難所等の医療体制にあわせた医薬品等の供給を行うための情報 等

(2) 被災地外からの医薬品等の供給(参考の図2参照)

○被災都道府県は,必要な医薬品の供給体制の確保に努める。また,被災地内で医薬品等の不足を生じることが予想される場合には,被災都道府県は,速やかに厚生省に報告する。

○被災地の中で医薬晶等の供給に支障を来す場合には,厚生省が中心となり被災地外からの医薬品等の供給体制を確保する。

○発災直後における被災地外からの医薬品等の搬送は,救護班の派遣等により医療体制とともに医薬品等も提供されることが最も適切な対応と考えられる。

○ 大規模災害における被災地外からの医薬品等の供給の手順は以下の通りである。

  • 医療品等の供給依頼厚生省は,関係団体に対して医薬品等の提供を要請し,搬送ルートの確保が出来次第搬送するよう依頼する。また,梱包の際に,現地での仕分け作業を容易にするため,メーカー毎に風邪薬,胃薬等と分けるなどの工夫を行う。

  • A搬送方法,手段に関する情報収集厚生省は,業界を通じて供出された医薬品等を確実に搬送するため,現地の交通状況及び確実な搬送手段について警察庁,都道府県等から随時情報を収集し,業界団体及び関係行政機関に的確に伝える。

(3) 被災地内における救援医薬品等の管理と救護所等への供給

○ 被災都道府県は,医薬品業界,薬剤師会等と協力しつつ,被災地外から集積場所に到着した救援医薬晶等の有効利用のため,集積場所における医薬品等の種類ごとの仕分けや管理を迅速かつ適切に行う体制を確保するとともに,他の集積場所及び集積場所から救護所等への配送体制を確保する。

6.医療に関する外国からの支援

○ 厚生省は,医療に関する外国からの支援に関し,発災後可能な限り早期に次の考え方に基づく援助の要否に関する方針を明確にし,非常本部等を通じ,その受け入れの可否を関係国に連絡する。

(1) 医療スタッフの受入れ

○ 医療スタッフについては,国内の他の地域からの派遣により対応することを基本とするが,災害の規模が著しく大規模である場合,治療について外国にしかない特殊な知見を必要とする場合等には,できるだけ自己完結的に活動できる外国からの医療スタッフを受け入れることとする。

(2) 医薬品

○医薬品については,国内で確保できるものは国内で供給することを基本とするが,外国にしかない特殊な医薬品を使用する必要がある場合等には,被災地の必要性を踏まえ,国 内に受け入れることとする。

7.防疫対策

○ 被災都道府県・市町村は,「災害防疫実施要綱」により策定された防疫計画に基づき,以下の点に留意しつつ,災害防疫活動を実施する。

(1)被災都道府県は,災害発生時の生活環境の悪化,被災者の病原体に対する抵抗力の低下等の悪条件下に備え,管内市町村に対する迅速かつ強力な指導を徹底し,伝染病流行の末然防止に努める。

(2)特に夏場に災害が発生した場合や大雨や台風による河川の増水により洪水の発生が想定される場合等には,衛生状態の悪化や汚染地域の拡大により,防疫に必要な器具機材等が不足することも想定されるため,被災都道府県は,近隣都道府県に対する応援要請をする。

(3)避難所は,臨時に多数の避難者を収容するため,衛生状態が悪化し,伝染病発生の原因となる可能性がある。このため,簡易トイレ等の消毒は重点的に強化し,防疫員の指導のもとに防疫活動を実施する。また,施設の管理者を通じて衛生に関する自主的組織を編成するなど,その協力を得て防疫に努める。

8.個別疾病対策

(1) 人工透析(参考の図3参照)

○人工透析については,慢性的患者に対し,災害時においても継続して提供する必要があるほか,クラッシユ・シンドロームによる急性的患者に対して提供することが必要である。また,透析医療を確保するためには,水・医薬晶等が重要である。このため,次の方法により,人工透析の供給体制を確保する。

  1. 情報収集及び連絡

    ○ 発災時には,日本透析医会が,被災地及ぴ近隣における人工透析患者の受療状況及び透析医療機関の稼働状況を把握し,その情報を都道府県へ伝達する。この情報に基づき,被災都道府県・市町村は,広報誌,報道機関等を通じて透析患者や患者団体等へ的確な情報を提供し,受療の確保を図る。

  2. 水,医薬品等の確保

    ○ 日本透析医会は,透析医療機関における水・医薬品等の確保状況に関する情報を被災都道府県に提供し,必要な措置を講ずるょう要請する。

    ○厚生省は,必要に応じ,被災都道府県等に対する支援を行う。

(2) 難病等(参考の図4参照)

○ 難病患者等への医療を確保するためには,医薬品等(例;ALS等の在宅人工呼吸器用酸素,クローン病の成分栄養,膠原病のステロイド系薬品)の確保が必要である。被災都道府県は,把握した医療機関における医薬品等の確保状況に基づき,必要な医薬品等の確保を図る。


第3章 福祉

1.避難所

○ 被災市町村は,被災者を一時的に学校,公会堂,公民館,神社,寺院,旅館等の既存の建物又は野外に設置した仮設物に保護することを目的として避難所を設置する。

○避難所が設置された場合には,被災都道府県・市町村は,速やかに@食事A毛布B水C仮設トイレD医薬晶(家庭薬)Eテレビ等を調達する。

○避難所の管理者は,避難者の協力を得つつ,負傷者,災害による遺児,衰弱した老人,障害者等の要援護者の所在の把握に努めるとともに,障害者等への情報提供の確保にも留意する。

2.市町村民生部局の体制(参考の図5参照)

○大規模災害発生時には,被災市町村の民生部局は,災害救助関係の業務をはじめ膨大な業務を処理しなければならない。

○具体的には,発災直後の遺体の取扱い,避難所,救護所及ぴ避難所救護センターの設置管理,食事・物資の分配,応急仮設住宅,保健福祉サービスのコーディネート,生活福祉資金の貸付,り災証明の発行等,応急仮設往宅における保健福祉サービス等を適時適確に 実施する必要がある。

○こうした業務を通常の民生部局の職員のみで処理することは一般的には困難であり,

  1. 民生部局の職員以外への業務分担(遺体の取扱い,食事・物資の分配,り災証明書の発行等)
  2. 都道府県の応援要請
  3. 災害援助協定に基づく他の市町村の応援要請
  4. 厚生省を通じた全国的な応援要請

等により,適切な業務実施体制を確保する必要がある。

3.住宅の要援護者対策

○ 大規模災害時には,在宅の高齢者,障害者等については,平常時より在宅福祉サービス等の援護を受けているものに加え,災害により家族や近隣の援護を失って自宅に取り残されたり,あるいは生活に支障を生じるなどにより,新たな要援護者が発生する。これら要援護者の対策を,発災直後より,時間経週に沿って,各段階における二一ズに合わせ,的確に講じていくことが重要である。

○発災直後には,被災市町村(又は委託を受けたサービス供給公社等。市町村の民生部局は発災直後には多忙を極めるので,供給公社等が別個に働くことが望ましい。)は,直ちに@在宅サービス利用者,A一人暮らし老人,B障害者,C難病患者等の名簿を利用するなどして,居宅に取り残された要援護者の迅速な発見に努める。

○要援護者を発見した場合には,@避難所への移動,A施設緊急入所等の緊急入所,B居宅での生活が可能な場合には在宅福祉二一ズの把握等を実施する。

○避難所に移動した要援護者については,発災直後においては,被災市町村は,都道府県,厚生省を通じた応援職員等の協力を得つつ,遅くとも発災1週問後を目途に組織的・継続的な要援護者特有の保健福祉サービスの提供が開始できるように努める。そのため,災害発生後2−3日目より,全ての避難所を対象として要援護者の把握調査を開始する。

4.社会福祉施設の対策

(1) 社会福祉施設における被災者の受け入れ

○被災社会福祉施設においては,予め定めた避難誘導方法等に従い,速やかに入所者の安全を確保するとともに,市町村・都道府県等の協力を得つつ早急に施設機能の回復を図る。

○被災地に隣接する地域の社会福祉施設は,入所者の処遇の継続を確保した後,余裕スペースなどを活用して,マンパワー等を勘案しながら一定程度の被災者の受入れを行う。なお,余裕スペースの活用による被災者の受入れについては,要介護者等援護の必要性の高い者を優先する。

○氷,食料品等,当面不足が予測される物資及びマンパワーについて,どの程度不足が予想されるのか把握し,平常時より相互支援関係にある施設,近隣施設,都道府県・市町村等に支援を要請する。

(2) 厚生省及び被災都道府県・市町村の対応

○被災都道府県・市町村は,特に次の点に重点をおいて社会福祉施設の対応を支援する。

  1. ライフラインの復旧について,優先的な対応が行われるような事業者への要請。

  2. 復旧までの問,優先的な水の供給,食料及びおむつ等の必須の日常生活用品の補給支援のための措置。

  3. ボランティアヘの情報提供を含む,マンパワー支援の確保。

○ 厚生省は,物資及びマンパワーの広域的支援に関し,他の都道府県等からの応援体制の確保等の支援を行うほか,上記対策全般について,都道府県等を支援する。

5.障害者に係る対策

○ 被災都道府県・市町村は,避難所や在宅における一般の要援護者対策等に加え,障害者の係る対策として以下の点に留意する。

  1. 文字放送テレビ,ファクシミリ等障害者に対する情報提供体制の確保,手話通訳者の派遣

  2. 車椅子,障害者用携帯便器等障害の状態に対応した機器や物資等の供給

  3. ガイドヘルパー等障害者の二一ズに応じたマンパワーの派造等

○さらに,厚生省は,障害者関係団体との調整,他の都道府県等からの物資及びマンパワーの確保要請,関係業界への要請等の支援を行う。

○被災都道府県・市町村は,在宅の被災障害者に対する救援のため,安否確認及び福祉サービスの迅速な提供を行う。

6.児童に係る対策

(1) 被災による要保護児童の発見

○被災都道府県・市町村は,次の方法等により被災による孤児,遣児等の要保護児童の発見及び援護を行う。

  1. 避難所の管理者・リーダー等を通じ,避難所における乳幼児の実態を把握し,保護者の疾病等により発生する要保護児童について児童相談所に対し通報がなされるようにする。

  2. 保護を必要とする児童を発見した場合,親族による受入れの可能性を探るとともに,養護施設への受入れや里親への委託等の保護を行う。

(2) 育児用品の確保

○厚生省は,関係省庁等と連携をとり,哺乳びん,粉ミルク,ポット,ベビーベッド,紙おむつ,幼児用肌着等の育児用品に関し,メーカーや関係団体に協力を依頼し,搬送・供給体制を確保する。

(3)子どものメンタルヘルス

○被災都道府県は,子どもの災害時の精神不安定を解消するため,児童相談所においてメンタルケアを実施する。

7.ボランティア活動の支援

(1)発災直後の情報提供

○被災都道府県・市町村は,ボランティア活動が円滑に行われるよう近隣都道府県・市町村や報道機関の協力を得て,最優先で求められるボランティア活動の内容,必要人員,活動拠点等について情報提供を行う。

(2)被災地におけるボランティア支援体制の確立

○被災地の社会福祉協議会,全国社会福祉協議会等は,速やかに現地本部及び救援本部を設置し,行政機関との連携を密にしながら,ボランティア支援体制を確立する。

  1. 現地本部における対応被災地の社会福祉協議会は,ボランティア活動の第一線の拠点として現地本部を設置し,被災者二一ズの把握,具体的活動内容の指示,活動に必要な物資の提供等を行う。
  2. 救援本部における対応被災地周辺であって通信・交通アクセスが良い等適切な地域の社会福祉協議会等は,救援本部を設置し,ボランティアの登録,コーディネート,派遣や物資の調達等を行う。

○厚生省は,全国社会福祉協議会その他の関係機関と必要な調整を行う。


第4章 生活衛生

1.遣体の火葬(参考の図6参照)

(1) 広域火葬計画の実施

○被災都道府県は,大規模地震等により多数の犠牲者が発生した場合には,広域火葬計画に基づいて近隣都道府県に火葬の受入れを要請する。

(2) 遺体の保存

○被災都道府県は,民間事業者の協力を得て,十分な量のドライアイス,柩,骨壷等を確保する。

(3)遺体の搬送

○被災都道府県は,葬祭業者との連携により霊枢車等を確保するとともに,自衛隊等に協力を求め,ヘリコプターを活用する等により円滑な遣体の搬送体制を整える。

(4) 特例の火葬許可証

○厚生省は,被災市町村において,火葬許可証発行事務処理体制が整わないため,正規の手続きを経ていては,遺体の傷みが激しい等により公衆衛生上の問題が発生するおそれがあると認める場合には,申請を受けた市町村等が,正規の手続きを事後にとることとした上で,速やかに火葬許可証に変わる証明書を発行することを認め,市町村等関係機関・団体に連絡する。

(5) 被災市町村火葬相談窓口の設置

○被災市町村は,早急に火葬を要望する遣族のため,相談窓日を設置し,震災犠牲者の火葬の円滑化を組織的に支援する。

2.水道(参考の図7参照)

(1) 情報の収集及び連絡

○発災直後,厚生省は,都道府県を通じて,被災した水道事業等の断水状況を把握する。

○その後,応急復旧完了までの間,厚生省は,都道府県を通じて,被災した水道事業等の施設の被災状況,応急給水及ぴ応急復旧の進抄状況,復旧の見込み,人員・給水車等の資機材の充足状況,外部支援の状況等の現地情報を,継続的に収集・整理する。

○厚生省は,発災後速やかに被災地に職員を派遣して現地連絡拠点を設け,情報収集,連絡調整等にあたらせる。

(2)応急給水

○水道事業者及び水道用水供給事業者(以下「水道事業者等」という。)は,地域防災計画及びあらかじめ定めた行動指針に基づき,応急給水を実施する。応急給水の実施に必要な人員・資機材が不足する場合には,防災担当部局と調整を図りつつ,速やかに,相互応援協定等に基づく支援の要請や,都道府県を通じて他の水道事業者等に対する広域的な支援の要請を行う。

○被災都道府県は,水道事業者等による相互の支援の状況を踏まえつつ,都道府県内の水道事業者等及び関係団体に対して,広域的な支援の要請をするとともに,これらの者による支援活動に係る調整を行う。その際,簡易水道等の小規模水道事業者に対しては,人員・資機材の面で十分な支援が行われるよう留意する。

○被災地の水道事業者等は,外部からの支援者の円滑な活動を確保するため,給水拠点及び水道施設を記した道路図面の配布,携帯電話等の連絡手段の確保状況の確認などを行う。

○水道事業者等は,往民に対して給水の場所や時間等の応急給水情報,応急給水された水の水質保持の方法等を広報する。

○ 応急給水の実施にあたっては,被災者が求める給水量の経時的な増加や,被災者への医療を供給する医療機関等の継続して多量の給水を必要とする施設への給水の確保に配慮するとともに,自治会等を通じた住民相互の協力ボランティア活動との連携に配慮する。

(3) 応急復旧

○水道事業者等は,地域防災計画及びあらかじめ定めた行動指針に基づき,応急復旧を実施する。応急復旧の実施に必要な人員・資機材が不足する場合には,防災担当部局と調整を図りつつ,速やかに相互応援協定等に基づく支援の要請や,都道府県を通じて他の水道事業者等に対する広域的な支援の要請を行う。

○被災都道府県は,水道事業者等による相互の支援の状況を踏まえつつ,都道府県内の水道事業者等及び関係団体に対して,広域的な支援の要請をするとともに,これらの者による支援活動に係る調整を行う。その際,簡易水道等の小規模水道事業者に対しては,人員・資機材の面で十分な支援が行われるよう留意する。

○被災地の水道事業者等は,外部からの支援者の円滑な活動を確保するため,水道施設及び道路の図面の配布,携帯電話等の連絡手段の確保状況の確認などを行う。

○水道事業者等は,被害の状況に応じて,応急復旧の完了の目標,復旧の手順と方法を定め,施設復旧にあたる工事班編成(人員・資機材)を行う。外部からの支援者については,到着し次第,新たな工事班として組織し,作業内容を指示する。

○応急復旧にあたっては,浄水場や配水池の基幹施設,避難所等への配管経路の復旧を急ぐとともに,応急復旧の公平感を確保するため,復旧の順序や地区ごとの復旧完了予走時期について広報に努める。

(4) 全国的な支援の実施

○厚生省は,被災都道府県と緊密に連携をとりつつ,全国の水道事業者等に対して,全国的な支援の要請を行う可能性があることを周知するとともに,派遣が可能な人員・資機材のリストを作成して現地連絡拠点に送付する。また,関係団体に対して,厚生省の災害対策への協力体制の整備を要請する。

○厚生省の現地連絡拠点は,被災都道府県が他の都道府県に対して支援の要請を行おうとする場合には,その円滑な実施が図られるよう協力する。

○厚生省は,必要に応じ,施設の被災状況の詳細な把握や応急復旧の技術的な指導等を行うため,専門家チームを編成して被災地の水道事業者等及び被災都道府県へ派遣する。

○厚生省は,被災地の混乱が著しいと判断した場合は,支援を行う水道事業者等ならびに関係団体等の参画を求め,被災都道府県・市町村と協議しつつ,水道の応急対策を被災地において具体的に指揮又は支援する対策拠点を設ける。

○厚生省は,全国的な支援活動の状況を一元的に把握し,支援活動に係る調整を行う。

(5) その他

○飲料水は起因する疾病の発生予防を徹底するため,厚生省,都道府県及ぴ市町村は,通常は利用していない遊休井戸等を飲料水として利用する際には煮沸すること等によって衛生確保を図るべき旨を往民に対して周知する。

3.廃棄物(参考の図8参照)

(1) 情報の収集及び連絡

○厚生省は,災害後,速やかに,都道府県を通じて,仮設便所の必要数やし尿の収集・処理見込み,建物被害数,ごみ・がれきの量と処理見込み,廃棄物処理施設の被害状況と稼働見込み等を把握する。

○厚生省は,被災地の状況から判断して必要と認める場合には,速やかに被災地に職員を派遣して,被害状況等の情報収集や連絡調整等にあたらせる。

(2)災害による廃棄物の処理

○被災市町村は,地域防災計画に基づき,災害により生じた廃棄物の処理を行う。廃棄物の収集・処理に必要な人員・収集運搬車両が不足する場合には,防災担当部局と調整を図りつつ,被災都道府県に対して広域的な支援の要請を行う。

○ 被災都道府県は,市町村等による相互の支援の状況を踏まえつつ,都道府県内の市町村及ぴ関係団体に対して,広域的な支援の要請をするとともに,これらの者による支援活動に係る調整を行う。

○大規模災害により,被災市町村や県内の市町村のみで災害による廃棄物の処理を行うことが困難であると認められる場合には,被災都道府県は,広域的な処理体制を確保するため,他の都道府県に対して,支援を要請する。

◎仮設便所等のし尿処理

○被災市町村は,避難者の生活に支障が生じることがないよう,避難所への仮設便所の設置をできる限り早期に完了する。また,仮設便所の管理については,必要な消毒剤を確保し,十分な衛生上の配慮を行うとともに,し尿の収集・処理を適切に行う。

◎生活ごみ等の処理

○災害により一時的に大量に発生した生活ごみや粗大ごみについては,災害後の都市機能の麻埠卓状態などを勘案しても,遅くとも災害発生3−4日後には収集・処理を開始し,概ねl週間一l0日問で収集を完了することを目標とする。また,生活ごみ等の処理にあたっては,収集したゴミの一時的な保管場所や処理ルートの確保を図る。

◎がれきの処理

○損壊建物からのがれきについては,危険なもの,通行上の支障があるもの等を優先的に解体・撤去する。また,がれきの処理については,特に長期間を要することから,選別・保管・焼却ができる仮置場の十分な確保を図るとともに,大量のがれきの最終までのルートの確保を図る。

(3)全国的な支援の実施

○厚生省は,被災状況から判断して支援が必要と認める場合には,被災都道府県からの要請を待たずに,直ちに他の都道府県・市町村及び関係団体から支援可能な内容を把握の上,派遣人員等の支援可能なリストを被災都道府県に提供する。また,関係団体に対し て,厚生省の災害対策への協力体制の整備を要請する。

○厚生省は,被災都道府県が他の都道府県に対して支援を行おうとする場合には,広域的な処理体制が円滑かつ的確に確保できるよう,必要な支援・調整を行う。


第5章 社会保険

1.社会保険災害対策本部及び社会保険災害対策支部の設置

○ 社会保険庁は,被災状況に応じて,必要と認められる場合には,可及的速やかに社会保険庁に社会保険災害対策本部を設置する。また,被災都道府県(保険主管課及び国民年金主管課)は,都道府県が定める防災計画等に沿った対応を行うとともに,これと十分な連携を図り,社会保険災害対策支部を設置する。社会保険災害対策本部及び支部は,相互に緊密な連携を図りながら,社会保険業務の機能回復のための災害応急対策及び災害復旧対策を実施する。

2.災害応急対策

○ 社会保険災害対策本部は,社会保険業務を円滑に実施するため,具体的な情報を収集するとともに継続的に情報収集に努める。

○社会保険災害対策支部は,速やかな社会保険業務復旧のため,庁舎及び職員の確保を図る等の緊急業務体制を整備する。

○社会保険災害対策本部及び支部は,関係機関との充分な連携を図り,被保険者証を紛失した場合の保険医療機関への受診,支払通知書等を紛失した場合の年金受給方法等円滑な社会保険業務の実施に努める。

3.災害復旧対策

(1) 医療保険関係

○社会保険災害対策本部及び支部は,医療保険における健康保険被保険者証再交付業務などを迅速に処理するほか,健康保険被保険者証提示の手続きの簡素化,一部負担金の支払いに係る特例措置等が行われる場合には,関係団体への速やかな協力要請を行うなど迅速に対応する。

(2) 年金関係

○社会保険災害対策本部及び支部は,郵政省及ぴ金融機関等と調整を行い,被災地の年金受給者が確実に年金を受給できるように努める。

(3) 船員保険関係

○社会保険災害対策本部及び支部は,船舶所有者の事業所等の被災により,休業し,報酬を受けることができない被保険者について,失業保険金の支給の特例等の立法措置が行われる場合には,必要な運用方針を定める。

(4) 保険料関係

○社会保険災害対策本部及び支部は,保険料に係る納期限の延長や,免除について必要に応じて,措置を講ずる。

(5)その他

○社会保険災害対策本部及び支部は,各種届書の添付書類の簡素化を図るなど弾力的な運用に努める。

○社会保険災害対策本部及び支部は,社会保険事務所が被災により機能が麻痺した場合にも,被保険者への迅速な対応が図れるよう,必要な職員の派遣,社会保険事務所の機能を代行する等の対応に努める。

○社会保険災害対策本部及び支部は,災害による特例措置の実施について,チラシ,ポスターの作成,政府広報の活用,フリーダイヤルを設置するなどにより,被災地の被保険者及び年金受給者に対し,的確な情報を提供する等サービスの向上を図る。


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