地震予知に関する話題

(World NGO Network より)


目次
  1. 特集記事「地震列島 日本の現実」の紹介(水野義之、WNN:7264)     
  2. 地震予知について(島崎真波、WNN:7267)
  3. 地震予知について(Aiichiro Matsushima、WNN:7268)
  4. 論文「予知は本当にできないか」の要約(越智元郎、WNN:7271)
  5. 災害に強い社会にするには(水野義之、WNN:7274)
  6. 地震予知に優先するもの(島崎真波、WNN:7276)

特集記事「地震列島 日本の現実」の紹介

(水野義之、WNN:7264)


水野です.     雑誌の紹介です.

越智さんらの緊急医療関係のMLであるEML より,転載させていただきます.

ちなみに,読売新聞では,毎月17日の朝刊に中央付近に,
両面見開きで,震災特集記事が,毎月出ています。

他の新聞でも,時々でていますが,どのくらいの周期なのか,不定期なのか,
私は,よくわかりません.どなたかご存知でしょうか?

越智さん:
|From:	MX%"eml@m.ehime-u.ac.jp" 10-OCT-1996 00:31:49.41
|Subj:	[eml:01895] 
(中略)
| 読売新聞社 「This is 読売」10月特大号(600円)。私にとりましては
|非常に有益な情報がありました。医局あるいは消防署のお仲間と、1冊まわし読
|みしていただいては如何でしょう?
|
|○特集)地震列島 日本の現実
| ・都道府県制令市別 最新活断層ー危険度マップ
| ・総点検「どこに住めば救われるか」
| ・迫られる枠組みの大転換
| ・東海地震対策の再点検を
| ・活断層が語る過去と未来
| ・予知は本当にできないのか
| ・震災神戸 復興の経済学
|
|○O-157と「安全ボケ」
|○インタビュー)聖路加国際病院理事長「日本の病院は間違いだらけ」
|


地震予知について

(島崎真波、WNN:7267)

島崎です。 >越智さん: >| 読売新聞社 「This is 読売」10月特大号(600円)。私にとりましては >|○特集)地震列島 日本の現実 >| ・予知は本当にできないのか 最近のnews−week(96/10/9号)にも東大のRobert Geller助教授 (地球物理学)が「地震予知の研究など、時間と金の無駄使いだ」と 説いています。 「ふつう、研究過程で何かかがわかってくることはある。だが、地震 については予知の可能性から遠ざかっているようにさえ思える」 「後になって解説するのは簡単だが、予測するのは難しい」 S波、P波の時間差を利用して(ほんの数秒ではあるが)、原子力発電所 や新幹線を止めるなどの研究は有効であっても、地震の数日前に具体的な 「予報」を出すなどの「地震予知」は・・・永久機関を求めるようなもの? マスコミにも幻想を振りまくようなマネはして欲しくないものです。

地震予知について

(Aiichiro Matsushima、WNN:7268)

Manami Shimazakiさん,こんにちは。松島@おおけんです。 > 最近のnews−week(96/10/9号)にも東大のRobert Geller助教授 > (地球物理学)が「地震予知の研究など、時間と金の無駄使いだ」と > 説いています。  Robert Geller氏のMSGは,僕もすごく興味を持って読みました(たしか日 本経済新聞の記事だった思います)。  予知できることがベストであることは当たり前ですが,「予測」はあくま で「予測」であることから,やはり,何かが起こった後のことをいろいろな 場で検討していくべきだと思っております。日常生活においても今話題騒然 の政治でも,必ず「予測」をして誰もが行動しているわけですが,思ったよ うにならないほうが多いものですし。 > マスコミにも幻想を振りまくようなマネはして欲しくないものです。  ごめんなさい。僕のレベルでは,このお言葉の意味が理解できずにおりま す。説明いただければ幸いです。よろしくお願いします。

論文「予知は本当にできないか」の要約

(越智元郎、WNN:7271)

 愛媛大学救急医学の越智です。  島崎さんより >>|○特集)地震列島 日本の現実 > >>| ・予知は本当にできないのか >(中略) >S波、P波の時間差を利用して(ほんの数秒ではあるが)、原子力発電所 >や新幹線を止めるなどの研究は有効であっても、地震の数日前に具体的な >「予報」を出すなどの「地震予知」は・・・永久機関を求めるようなもの? >マスコミにも幻想を振りまくようなマネはして欲しくないものです。  私の目をひいたのも「予知は可能」という趣旨の上記論文でした。この記事は 読者に幻想を抱かせるものである、という島崎さんからのコメントは是非 emlの 皆様にも紹介する必要があると思います。なお上記の雑誌には、白か黒かの予知 は現実的でないとして、本年3月に地震防災対策強化地域判定会会長を辞任した 茂木清夫氏(地震予知連絡会会長)の「東海地震対策の再検討を」という論文も 掲載されています。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  以下、「予知は本当にできないのか」の内容を少し拾ってみたいと思います。 (私は素人でございまして、読み違いがありましたらご容赦下さい。) 筆者)深見輝明、科学ジャーナリスト サブタイトル)ギリシャでであったひとりの男が、地震予知の常識に挑戦状をた  たきつける。なぜ日本の予知科学はダメなのか。 序文)日本の地震予知研究が揺らいでいる。震源は東大 Robert Geller助教授で、  数年前から「地震予知は原理的に不可能」と説いている。 条文から消えた予知)上記の声は国の政策にも反映することになった。すなわち、  昨年6月に成立した地震防災対策特別措置法が成立したが、条文から「予知」  の2文字が消えた。しかしなぜ予知が不可能なのかは検討が必要ではないか。 見えない研究成果)1962年に「地震予知 現状とその推進計画」がはじまっ  て30年、結果は出なかった。これは「地震や地殻変動の観測は予知には向か  ない」ということを意味しているが、予知が不可能ということとは別かも知れ  ない。 結果なき研究に投資せず)中国では1975年 M 7.3の海城地震を予知した。そ  の方法は動物の異常行動、井戸水、気象、海潮の異常変化など(宏観現象)も  含めて総合的に判断するもの。日本ではこのような方法は "非科学的" とされ、  投資されなかった。その後、中国では日本のように高精度の観測機器を導入し  はじめ、それ以降、予知には成功していない。 ギリシャのVAN法)ギリシャではここ10年、国内の大地震を60%の確立で予知  している。ギリシャの予知法を確かめないのはおかしい。 生みの親のバロツオス教授)かれの方法は、地球内部のプレートや断層が動くと  ひずみが生じ、最終的には破壊が起こるが、その前に電流が流れる。その電流  をキャッチすることにより、地震を予知するというもの。 経験の蓄積が確率をアップ)日本の地電流の観測家は、VAN法では地磁気の乱れで  起こったノイズを拾っていると批判。しかしVAN法では経験則でノイズを除去で  できる。だから予知の経験を積めば積むほど確率が向上する。 M5で70%の的中率)的中の定義=震源地100キロ以内+マグニチュードの  誤差 0.7以下+発生時期が1カ月以内。過去十年間の規模別の的中率=M 4.0- 4.4 -> 105/732 (14.3%), M 4.5-4.9 -> 67/291 (23.0%), M 5.0-5.4 -> 29/ 66 (43.9%), M 5.5以上 -> 7/10 (70%) 日本でも注目の宏観観測)VAN法の欠点は時期の絞り込みが十分でないこと。しか  し中国の宏観観測を併用すればそれも可能ではないか。 新しい予知法に望み)わが国のこれまで地震予知の方法は微小地震・地殻変動の  観測で、成果を挙げ得なかった。今後はVAN法などの新しい方法に大胆に切り替  えてゆくべきではないか。

災害に強い社会にするには

(水野義之、WNN:7274)

越智さん,みなさん,水野です. 災害に強い社会にするにはどうするか,について. とりあえず,簡単ですがコメントさせてください. |>>| ・予知は本当にできないのか | これは,ご指摘のように,いろいろな問題を含んでいるとおもいます. 科学研究としての地震メカニズム理解の問題とか,確率とかリスクの考え方の 問題とか,あの規模の地震(特別に大きくはない)としてはむしろ社会的現象 であった先の阪神淡路大震災の教訓の問題だとか,(だから,予知といっても, 場所と規模と時刻を予知するだけでは意味は,ない)など,いろいろな問題が, 同時に,あって,議論は,冷静に,切り分けて考えることが,むしろ求められ ていると,私もおもいます.そして,それだけの議論に耐えられるか,という 問題もあるのではないか(時間がかかる議論には,この日本社会とかマスコミ は,耐えられないのではないか),と感じます。#ちょっと悲観的ですが. このあたりは,神戸大学工学部の塩崎さんの冷静な論文を読むと, いまさらながら暗然とします.これには行政への批判を含みます。 塩崎賢明「シリーズ 大震災以降第1回 阪神大震災から来たるべき大震災へ」 (岩波「科学」1996年9月号,Vol.66,No.9,p.594-597.) 以下には,とりあえず,私が知っている文献だけを,メモさせてください. 1)広瀬弘忠「災害の出会うとき」(朝日選書559,1996年8月25日) 「地震予知」の問題については,この本の第7章「災害を予知するという事」 に,最新の情報も含めて(例えば,茂木さんの辞任問題等),分かり易い 分析があります.政府レベルの官庁政治?の在り方も,いまさらながら よくわかって,勉強になるかもしれません.著者は現在,東京女子大学心理学教授 です.京都大学防災研客員教授も経験されたそうで,文献案内もきちんとして いるように見えます。 2)金森博雄「地震学の現状と防災への応用−南カルフォルニアCUBE計画の背景−」 岩波「科学」1996年9月号,p.605-616. おそらく,ご指摘の問題については,一番新しい話題かもしれません(もっと いろいろな論考が,他にもあるかもしれません). 3)岩波「科学」,1995年4月号,「特集:地震の予知可能性」 10編ぼどの関連論文がありますが,どれも,難しい論文であることが 気になります。でも,日本語をよむだけでも,大体の雰囲気は,わかるかも しれません.地球物理学の分野ですが,私でもある程度の解説は出来る かもしれないので,ご質問があれば,どうぞ. 4)あと,岩波「科学」1996年2月号にも,参考になる論文がいくつか あります. 例えば,防災の社会システムや法整備についても,社会学的な発展段階論を 考えることが出来る,という論文は,私としては参考になりました. この論文に出ているのですが,FEMAが,いまの様になるまでの, 苦労話(失敗談...)も興味深いです. 5)大阪大学理学部地球惑星科学科教授の池谷先生も,この分野(特に 地震前に観測される電磁気現象の数理的モデル化とその分析や数値計算) の研究をされています.これは,ちゃんとした学術論文も,日本物理学会 の学会誌での解説記事も出ております(1996年6月号だった筈)。

地震予知に優先するもの

(島崎真波、WNN:7276)

現状では「予測」の域にしかない地震研究は、「予知」と「予測」に 大きな隔たりがあるにも係わらず、目標である「予知」をあたかも 「しばらくの研究で到達できそうなもの」と喧伝しているように思います。 もちろん、水野さんの記事にあるVAN法や電離層のVHF波の反射率 の変化など、定量的な観測のできるものがこの最近になって新たに現われ、 観測データの集積も始まってはいます。 ことにVHF波の観測については、アマチュア天文家が流星のバースト 観測(流星が地球に降り注ぐ際に遠隔地のFM局の電波が反射される現象 を利用し、流星の発生量を測るもの)の際に、流星が無い場合のベース となる観測値が地震の前後で大きく変化することに着目したもので、 その原因も地震発生のもとになる地殻の変動に伴う地電流の変化に依る ・・・と聞いています。 これなど、日本全国のアマチュア無線家が仕様を統一した設備で観測する ことで、大量の有効な観測データが得られるのではないか・・・などとも 考えられます。 そうした科学的根拠のある「予測」方法も、観測データの集積が始まった ばかりであり、とても「今すぐ発生してもおかしくない関東/東海地区の 地震」に間に合うとも思われません。 今すぐ有効なのは、  a 「地震は日本全国どこでも発生し得る」  b 「大地震発生の際は3日間は自力で生き延びる準備をすべきこと」  c 「情報連絡については事前に縁者と打ち合わせておくこと」  d 「自動車/電話等の利用には、よくよく注意を払うべきこと」 など、今回の震災で改めて認識された「当たり前のこと」の徹底です。 仮に地震の予知ができたとして、さて皆さんはそれで避難をするでしょうか。 あわてて物資の買い出しに走るのが、適当な行動と言えるでしょうか。 老人、病人など事実上避難できない方が多くいるのではないでしょうか。 そもそも警報を出して東名高速などが1日止まることで数十億の経済損失が でると予想されるようなものを自治体の長が腹を括って決断することが できるのでしょうか。そうした判断をする材料を、研究者は提供できると 自信をもってそのとき言えるのでしょうか。 マスコミは「地震の予知ができれば、万事okなのだ」とするような報道を していなかったでしょうか。 わたしは、日本にいる限り運命的に付き合わざるを得ない地震に対して  1 「予知よりも、発生後にいかに早く復旧させるかという視点」  2 「そのための社会資本の補強・充実」  3 「復旧に係る緊急活動の円滑なる運用の準備」 が必要だと考えます。  1は、a−dに述べたようなことを市民自身が認識することも含まれます。  2は、アメリカのcubeとよばれる地震観測情報ネツトワークを摸した ものがすでに日本でも充実してきています。また、兵庫県で最近立ち上がった 「地震被災状況シミュレーションシステム」も相当すると言えましょう。  もちろん、道路や通信路、建物等の安全基準の見直しや既存物件の補強など も入ります。  3は、ボランティアと行政との円滑な連携も目指しているNVNADなどの 活動や、非常時を想定した実際的訓練などがあたります。  何にも増して、行政・市民がこうした視点(1−3)で一体となって地震に 対して臨むことで、万が一地震に遭っても  (あ)自分は備えがある  (い)となり近所同士助け合うことができる  (う)行政やボランティアが必要なケアをしてくれる といった安心につながります。 こうした「社会に対する安心感」が地震予知情報などよりも最も求められている もののように思えてなりません。 そして地震研究に関る方々の責任は(様々な意味で)誠に大なるものと言えると 思います。

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