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医療関係者が病院外で傷病者に遭遇した場合

(麻酔メーリングリストより投稿者の許可を得て転載させていただきました。)


目次

事例1(masui 71, eml 1423, 8/16/96)
事例2(masui 72, eml 1427, 8/16/96)
事例3(masui 73, eml 1425, 8/16/96)
事例4(masui 74, eml 1433, 8/16/96)
事例5(masui 75, eml 1426, 8/16/96)


事例1(masui 71, eml 1423, 8/16/96)

この話題はどちらかといえば救急ネタなのですが、、、

昨週の土曜日私が近所の本屋へ自転車で出かけた帰り、遠方に横転した原付バイクと
たくさんの人影が見えました。事故かな思って近づいてみると(どちらにしても通り
道だった)、頭から血をながした人が倒れているではありませんか。近くには約10名
ほどの人がいたのですがだれも遠巻きに見守るだけ。しかたなく自転車を道ばたにお
いて、患者のそばに入ってみると意識はないものの自発呼吸、脈拍ともしっかりして
おり、とりあえず大丈夫そう。救急車は呼んだとのことで、この場所なら5分も待て
ば来るだろうと思って患者の脈を診ながら待っていると、突然30くらいの男の人から、
「こういう人は絶対動かしてはいけない。絶対いけない」ときつい調子で、声をかけ
られました。私自身患者を動かそうとしていたわけでもないし、おこられるのは心外
だったので、こちらもきつい調子で、
「私は医者ですから」といって無視することにしました(私自身Tシャツに短パン姿
でそこらの学生?に見えたのかもしれないが)。

結局、かけつけた救急車で、私の勤務する病院まで同行し、救急室で気管内挿管。C
Tにて両側の硬膜下血腫があり緊急手術となった。

このような状況でだれも患者に近づこうとしなかったことも嘆かわしいことであるが
、せっかく患者を診ている人に向かって間違った医学知識を押しつけられてはたまっ
たものではない。もちろん頚椎損傷等を考えればやたらと動かさない方がいいのだろ
うが、それでは交通事故の現場ではだれも手を出さない方がいいということになって
しまうし。どうも、今回の事故の現場では、動かさない方がいいという意見に同調す
ることで、自分が傍観者であることをなっとくさせていたような雰囲気があったので
す。一般の人への救急教育を考えさせられる一件でした。

追記
すべての救急車に、輸液、気管内挿管道具一式が装備されるといざというとき便利な
ような気がしました。

(M)

事例2(masui 72, eml 1427, 8/16/96)

皆さんこんにちわ。
実は、M先生と同じ様な経験をしたことがあります。

> いて、患者のそばに入ってみると意識はないものの自発呼吸、脈拍ともしっかりして
> おり、とりあえず大丈夫そう。救急車は呼んだとのことで、この場所なら5分も待て
> ば来るだろうと思って患者の脈を診ながら待っていると、突然30くらいの男の人から
、
> 「こういう人は絶対動かしてはいけない。絶対いけない」ときつい調子で、声をかけ
> られました。私自身患者を動かそうとしていたわけでもないし、おこられるのは心外
> だったので、こちらもきつい調子で、
> 「私は医者ですから」といって無視することにしました(私自身Tシャツに短パン姿
> でそこらの学生?に見えたのかもしれないが)。

数年前大阪駅前の地下街で人だかりがするので、行ってみると20歳代の男性が意識な
く倒れておりました。呼吸は浅く速く、心拍しっかりありましたが、呼びかけには応じ
ない状態でした。まわりの人に同伴者はいないか、見ていた人から状況を尋ね、突然歩
いていたひとが倒れたという状況が解りました。とりあえずうつ伏せからSimmsの体位
にしたのですが、その時M先生と同様、「こういう人は絶対動かしてはいけない。絶対
いけない」ときつい調子で、声をかけられました。自分は医者であることを説明しまし
たがそのひとは納得できなかったようです。そのうち、警察官も到着し、救急隊の到着
を待ち状況を説明し引き継ぎました。

> このような状況でだれも患者に近づこうとしなかったことも嘆かわしいことであるが
> 、せっかく患者を診ている人に向かって間違った医学知識を押しつけられてはたまっ
> たものではない。もちろん頚椎損傷等を考えればやたらと動かさない方がいいのだろ
> うが、それでは交通事故の現場ではだれも手を出さない方がいいということになって
> しまうし。どうも、今回の事故の現場では、動かさない方がいいという意見に同調す
> ることで、自分が傍観者であることをなっとくさせていたような雰囲気があったので
> す。一般の人への救急教育を考えさせられる一件でした。

救急に慣れていない自分はこんな状況でどぎまぎしてしまうのですが、自分の視界の
範囲で起きたことには自分の勉強と思って積極的に動くことにしています。呼吸循環が
おかしい状況では、もちろん麻酔医の守備範囲に入ってくると思います。

こちら(米国)の大学構内で私の目の前10mで人と車が接触したことがありました。車
の前に倒れている人を引きずりだしたり、簡単な問診をしてEMS に状況を説明したこと
があります。遠くから見ている人、その中から積極的に役割を見つけてするひと、EMS, 
Policeを呼んでくれたひと、交通整理をしたひと、近くのレストランで氷をもらってきた
人がいました。

今でも「こういう人は絶対動かしてはいけない。」と言われたことは非常に強く印象に
残っています。当時は自分も相当あたまに来たように思います。
そう言ったひともその人のもっているベストの知識で協力をしようを
試みたのだと気がついたのはずいぶんたってからのことでした。

(S)

事例3(masui 73, eml 1425, 8/16/96)

M先生、S先生、

 貴重な体験を拝見させて頂きました。私にも同様な体験があります。

 4年半前(1992年3月)に雨の高速道路でスピンして車を大破した手記はエーテルネッ
トに発信したので、覚えていらっしゃる方もおられると思います。それから半年程経
ってからのことです。

 出張時に国道を走っていたら、突然「バン!」という音がして、バイクと人間が放
物線を描いて私の左上方を追い越して飛んで行きました。信じられない光景だったの
で、それが交通事故だったことを認識するまで数秒を要しました。救助が必要と判断
して、すぐに車を停めました。バイクは歩道の石をジャンプ台にしたような格好で約
30メートル飛んだことがわかりました。幸いにもライダーはバイクより遠く飛んでい
ました。

 ヘルメットをかぶったライダーは予想通り若い男性。よびかけには応答しない。脈
拍は徐脈で、血圧は高くなさそうだった。神経原性ショック?と思った。喉の奥でう
なるような呼吸で、唇もチアノーゼ様に見えた。ヘルメットを外すと、クリティカル
な頚髄損傷があったらヤバイと思ったけれど、気道確保の方が重要と判断してヘルメ
ットを外した。昔、バイクに乗っていた頃のことが役に立った。
 ヘルメットを外して、下顎を挙上したら腹式呼吸になってきた。同時に脈拍も頻脈
に転じてきた。ちょうど麻酔の覚醒を待つようなタイミングでライダーの意識が回復
してきた。混迷状態ではあるが、応答が出るまでに7〜8分だったと思う。市内から離
れたところであり、救急車の到着まで約30分を要した。

 もちろん、この間に色々なことがあった。事故の原因となったのは、若い女性の運
転する車が急激に左折しようとしたためのようだ。この女性は、私にしきりに事故の
「言い訳」をしようとした。私自身が医師であり、事故の善し悪しより救急車と後続
の事故防止の方が先決なことを言い、救急車と警察を呼ぶように「指示」した。後続
の事故防止は半年前の自分の経験で、骨身に滲みていた。
 通りがかりの人々が徐々に人溜まりの野次馬になってきた。ライダーを抱き抱える
ようにしていた私は、あたかも「加害者」のように見えたらしい。「おたくさんがや
ったのかい?(私には「殺ったのかい?」と感じた)、大変だね。」と声をかけた老婆
がいた。「通りがかりの医者です!」と答えたら「立派だね。今日は良いことあるよ
!」と自転車で走り去ってしまった。この時点で、多くの人から私の姿は「加害者」
に見えるであろう事を理解した。しかし、同時に私の立場を理解してくれて、手助け
を申し出てくれた人もいた。

 ライダーは全身の痛みを訴えたが、明らかな骨折や神経所見はなかった。(後に鎖
骨骨折が判明した。)救急車が来るまでの時間が長く、二度ほど催促をした。これに
は周囲の「見物人」の中でもきちんとした行動をとってくれた人がいて非常に助かっ
た。救急車が到着したとき、ライダーは、比較的清明で痛みに耐えている様子だった。
警察も同時に到着したが、事故の現場は目撃していない旨を説明し、現場を離れた。

 前回の交通事故に加えて、この事故では「野次馬の心理」が教訓として残った。必
要な状況下では、「自分の立場を周囲にわかりやすいようにして、現場を仕切る」必
要があると思った。しかし、これは事故と自分の関係が明らかに別であれば良いが、
いつもそうであるとは限りません。安全運転を心がけることがすべてであることを再
確認した出来事でした。

(I)

事例4(masui 74, eml 1433, 8/16/96)

M、S&I 三先生方の貴重なお話しを拝読させて頂きました。

 私には交通事故に直面した経験(第三者として)はないのですが、スキー場で起き
た2件の事故報告をしたいと思います。

 学生時代の冬、春休みが長かったのでスキー場でパトロールのアルバイトを住み込
みでやっていました。一件目は一年目の冬でした。朝の始業点検が終わり小屋に引き
上げたところ、リフトの原動から通報があり、コース途中の患者が倒れているところ
へ急行した。その時の患者の容体は意識レベル10〜20程度。チアノーゼ著しく、
起こすと胸の痛みと排尿希望を訴える。脈診をしようとすると先輩パトロールにどな
られ、スノーボートを持ってこいと言われ、それ以上の現症を得ること出来ず。無線
で駐車場に救急車要請するよう本部に連絡すると同時にボート搬送開始。山麓につい
て看護婦さんと血圧を測定するも測定出来ない程だった。救急車が到着するまで、CP
R をするも搬送先の病院で死亡してしまった。

 搬送中、ボートは雪を巻き込まないようにフードで巻いてしまうので容体はまるっ
きり見ることが不可であり、その間に呼吸、心停止が起こったものと考えられます。
到着所要時間20分プラス搬送時間は約15分であったのは長すぎた。現場で怒鳴ら
れた事も勺であったが、搬送時間の長さと搬送中なにもしてあげられない無力さを思
い知らされた。山麓にも酸素、点滴等もなく本当に無力だった。

 入院した病院での事情聴取では、スキーに行く為に一週間徹夜で仕事をしてきて、
仕事の終わったところで直ぐに出発し4〜5時にスキー場到着。4時間程度の仮眠後
滑りだした直後に急性心筋梗塞を生じたとのこと。32〜5歳の働き盛りで、新婚だ
った。奥さんの錯乱状態を鎮める事が大変だった。

 二件目は3年目で、妙高の立木に激突した症例でした。パトロール中の同僚から連
絡があり、山頂よりボートを持って急行。意識レベル30程度。呼吸は浅いもののあ
った。脈もタキッて弱いが触知可、瞳孔に左右差ありだったので直ぐ、首下にタオル
を入れて気道確保を行ってボートに載せて搬送開始。搬送しつつ無線連絡。車で救急
病院へ搬送。硬膜下血腫を診断されオペに、彼は助かりました。

 立木に激突したところを目撃されなければ、春先腐敗して発見されたことでしょう
。スキーの怖さを再認識しました。

 ボートのフードが透明でない事やスキー場という足場の悪さ。搬送中になにも出来
ない事に加えて一般の人は元より、医者でもスキーに自信がないとヘルプしてくれな
いという特殊な条件であることを知りました。未だにアルバイトと社員が少しで回し
ているスキー場は危険極まりないと思います。こういうレジャー場での救急体制を勧
告することは出来ないのでしょうか?

 7シーズンやっていて、意識レベル10〜20程度の症例は数知れず。随分救助し
てまいりましたが、スキー場での事故は少なくない事が分かります。

(A)

事例5(masui 75, eml 1426, 8/16/96)

こういう話題の時には自身の経験を列記してゆく形式が最も適切のように思える
ので麻酔科に入局した頃のことを記します.

自転車で当時の勤務先である大学病院に向かう朝,目の前で車が老女に接触し,
老女は車道に転倒して動かなくなってしまいました.自転車を降りて駆け寄って
みると頭部からの出血が目に入ったものの自発呼吸があるのを認めて(当たり
前ですが心臓が動いていると思って)ひと安心しました.既に周囲には人垣が
出来始めていたのですがふと気付くと患者の手を取って腕時計を見ながら脈を
触れている若い女性が老女をはさんで私の正面に座っていました.聞けば看護
学校の学生だそうで,要するに医療従事者若しくはその卵以外の一般市民は
このような状況下で直接に患者に手を差し伸べることは先ずないということ
です.この状況には10年後の現在も全く変化はないのでしょうか.救急医学会
や蘇生学会の啓蒙活動も草の根に根付くに至らずということになります.たま
たま通りかかったのが医者かどうかで予後が大きく左右されることもあるでし
ょう.ちなみにその時も私が救急車に同乗し,大学のICUにつれてゆきました.

しかしこの看護学生は優秀でした.医療従事者の卵でもあてにならないのもいま
す.更に遡ること5年,医学部の専門課程に入る直前に自分自身が人垣の中心点
に位置したという経験があります.春分の日の朝,自動車専用道路をぶっ飛ばし
ていると山陰に残っていた雪でスリップした車が反対車線の道路標識を薙ぎ倒し
た後に山の斜面を駆け上がり,速度が0になった後数回横転して路上に戻ってき
ました.私自身は衝撃でフロントガラスを突き破って道路の真ん中へグシャッと
落ちたようです(目撃者談.その人は「ワーッ,死んだ!」と思ったそうです.
シートベルトはしていませんでした).気が付けば3月の朝の真っ青な空を背景
に幾つかの頭の輪郭が黒い輪を成しているのが目に入ってきました(この景色を
認識し得たということが死ななかったということなのです).誰かが呼んでくれ
た救急車はしかし当分やって来ず,一群の人の中から「俺の車で病院までつれて
ゆこうか?」という声が聞こえました.頭部を相当打っていることを自覚してい
た私は森本先生の遭遇された善意の一言居士と同じことを口走ったのでした.

「頭を強打しているので動かさないで欲しい.」

当日は他の事故もあり,私を救出するために出動した救急車が他の人を乗せて
行ってしまうという椿事もあって約1時間凍えながら道路に仰向けに寝かされて
いたのでした.このときさっさと病院に運ばれていれば今頃はもう少しましな
麻酔科医になっていたのかもしれないけれど,要するに「頭頚部を強打した人は
むやみに動かしてはいけない」という民間信仰は相当に根深いものがあると言う
他ありません.

>このような状況でだれも患者に近づこうとしなかったことも嘆かわしいことである
>が、せっかく患者を診ている人に向かって間違った医学知識を押しつけられてはた
>まったものではない。もちろん頚椎損傷等を考えればやたらと動かさない方がいい
>のだろうが、それでは交通事故の現場ではだれも手を出さない方がいいということ
>になってしまうし。どうも、今回の事故の現場では、動かさない方がいいという意
>見に同調することで、自分が傍観者であることをなっとくさせていたような雰囲気
>があったのです。一般の人への救急教育を考えさせられる一件でした。

M先生の問題提起はなかなか難しいものを含んでいます.適切で迅速な救命処置と
いうものが社会の中でごく自然に行われるには相当高度な教育が必要です.皆さんは
ご自身が頭部打撲の憂き目にあったとき,善意の傍観者と未熟な救助者のどちらを選
ばれますか?

(N)

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