AHA新ガイドライン

第6部 心肺蘇生法、技術と器具
(Part 6: CPR Techniques and Devices )

目次
はじめに(Introduction)
心肺蘇生の技法
心肺蘇生法の器具
要約
参考文献


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■はじめに

 この25年間、心停止時の呼吸と循環、更には究極的な生存率を改善させるために、標準的な用手心肺蘇生法にかわるいくつかの代替技法が考案されてきた。標準的な心肺蘇生法と比べてこれらの代替技法は、より多くの人員、訓練、機器を必要としたり、特別な場合での適応となる。これらの代替技法は心停止の早期に開始されてこそ有益性が出てくるので、しばしば病院内での適応に限られることになる。今日まで、病院外でのBLSにおいて一貫して用手心肺蘇生法に優る方法は開発されておらず、除細動器以外に院外心停止からの蘇生における長期予後を改善させた装置はない。ここでの報告は臨床研究に限定し、動物実験のデータは除外したことをお断りしておく。


■心肺蘇生の技法

高頻度胸骨圧迫法

 高頻度(1分間100回以上)用手的または器械的胸骨圧迫法が心停止からの蘇生を改善させるための技術として研究されてきた。データは乏しく結果は様々である。9名でのひとつの臨床試験では、高頻度(1分間120回)胸骨圧迫法は標準的心肺蘇生法に比べて循環を改善させた(レベル4)。心停止において、適切に訓練された救助者による高頻度胸骨圧迫法は考慮されうるが、これを推奨または推奨しないための証拠は不十分である(クラス未確定)。

開胸による心肺蘇生法

 蘇生における開胸による心肺蘇生法について、前向きランダム化研究はないが。関連したヒトでの4つの報告を検討する。2つは心臓手術後の院内心停止例での報告(レベル4とレベル5)であり、2つは院外心停止例での報告である(レベル4とレベル5)。開胸心マッサージは冠潅流圧を増加させ、自発的な循環を増加させるという利点が観察されている。

 開胸による心肺蘇生法は心臓胸部手術後早期の心停止や開胸または開腹が既になされている場合(例えば外傷手術)には考慮されるべきである(クラスIIa)。外傷例での蘇生についての更なる情報のためには、Part10.7「特殊な蘇生現場:外傷に関連した心停止」を参照されたい。

間歇的腹部圧迫法

 間歇的腹部圧迫法―心肺蘇生法(IAC-CPR)のためには、胸骨圧迫法での非圧迫期に腹部(剣状突起と臍部の中間)を用手圧迫する専任の救助者を必要とする。その目的は心肺蘇生法施行中の静脈潅流量を増加させることである。院内心停止例に対し間歇的腹部圧迫法を訓練された救助者が行った場合、標準的心肺蘇生法と比べて、自発的な循環の回復と短期の生存率が改善したというふたつのランダム化試験(レベル1)および退院率を向上させたという1つの研究があった。これらの研究でのデータは2つの肯定的なメタアナリシスに(レベル1)に結合されている。しかし、院外心停止に関するひとつのランダム化対照試験(レベル2)では、間歇的腹部圧迫―心肺蘇生法において生存に関するどんな利点も見い出せなかった。426名の報告では、この方法による合併症は無かったが、小児で合併症の症例報告が1つあった。

 間歇的腹部圧迫―心肺蘇生法は、院内蘇生で、その方法に習熟した十分な数の人たちがいるときには考慮されてよいかもしれない(Class IIb)。院外では間歇的腹部圧迫―心肺蘇生法は推奨するま たは推奨しない十分な証拠が無い(クラス未確定)。

“咳”心肺蘇生法

 “咳”心肺蘇生法は反応のない傷病者には有用ではないし、市民救助者に教えられるべきではない。ヒトでの“咳”心肺蘇生法は覚醒してモニタリングされている傷病者が心室細動か促迫した心室頻拍を生じた場合についてのみ報告がある。心臓カテーテル検査室でのいくつかの小数例での症例報告(レベル5)では、モニタリングされた意識下仰臥位で生じた心室細動促迫した心室頻拍の際に、1-3秒ごとに患者に咳を繰り返させることにより平均血圧を100mmHg以上に、意識を90秒間まで保つことができた。

 咳で生じる胸腔内圧の上昇が脳への血流を保ち意識を維持させることができる。前もって咳の方法を訓練された患者で意識下仰臥位でモニタリングされているという場合のみにおいて、心室細動または脈無し心室頻拍発生後90秒までは1-3秒ごとの咳の繰り返しは安全で効果のある方法である(クラスIIb)。続いての除細動が心室細動と脈無し心室頻拍の治療であることにはかわりがない。


■心肺蘇生法の器具

補助呼吸のための器具

自動式あるいは機械式、搬送用人工呼吸器

搬送用自動人工呼吸器(ATVs)

 ほとんどが都市部の院外心肺停止例である73名の挿 管患者での 1つの前向きコホート研究では、搬送用自動人工呼吸器で換気した群と バッグマスクで換気した群とで、動脈血ガス分析値に差は無かった(LOE 4)25 。 搬送用自動人工呼吸器の欠点は酸素供給源と電源が必要なことである。 それゆえ、プロバイダーは常にバックアップとして、バッグマスクを用意し ておくべき(should always have a bag-mask device available)である。 だから、プロバイダーは用手換気のためのバッグーマスクを用意するべきである。 搬送用自動人工呼吸器には、5歳以下の小児に は適さないものがある。

 自動搬送用人工呼吸器は、高度な気道管理器具(advanced airway) (例えば気管チューブ、食道・気管コンビチューブ(Combitube)、 ラリンジアルマスクエアウェイ(LMA))が留置さ れた院内外での脈のある成人患者で有用である(Class IIa)。 高度気道確保器具が挿入されていない成人心停止患者には、 一回換気量が呼気終末陽圧(PEEP)なしの流量コントロール、タイムサ イクル式で調節されるならば、ATV が有用かもしれない。 搬送用自動人工呼吸器に調節可能な出力バルブがついているならば、一回換 気量を胸部が上がる量(約6〜7ml/kgまたは500〜600mL)に、 吸気時間を約1秒に設定する。 高度な気道管理器具が留置されるまで は、もう 1人の救助者(an additional rescuer)は胃膨 張のリスクを減少させるために輪状軟骨圧迫を行う。 高度な気道管理器具が留置されたなら、 心肺蘇生中の換気回数は毎分8〜10回とする。

手動トリガー酸素駆動流量調節蘇生器
(Manually triggered, oxygen-powered, flow-limited resuscitators)

 104名の高度な気道管理器具の留置 されていない(すなわち無挿管で、マスク換気中の)心停 止でない麻酔下の患者において、消防士による手動トリガー酸素駆動流量調 節蘇生器での換気は、バッグ・マスク器具で換気された場合 よりも胃膨満が少ないという結果であった(LOE 5)26。 手動トリガー酸素駆動流量調節蘇生器は、心肺蘇生中に高度な気道管理器具 が留置されずにマスク換気が行われている患者に考慮されても よい。 胸骨圧迫中の心拍出を妨げる可能性のある持続的PEEPを付与するこ とになるため、救助者は酸素駆動流量調節蘇生器の自 動モードは使用すべきでない(Class III)。

補助循環器具

能動圧迫―減圧心肺蘇生法
(Active Compression-Decompression CPR)

 能動圧迫-減圧心肺蘇生法(以下、ACD-CPR)は胸骨圧迫 の非圧迫時に前胸部を能動的に持ち上げるための吸引カップのついた携帯 用器具を用いる。非圧迫時の胸腔内圧低下は心臓への静脈還流を促進すると 考えられる。 2005年現在、米国においてACD-CPR器 具の販売は食品・薬品管理庁(FDA)に認可されていない。

 ACD-CPR器具の使用における結果は様々である。 4つのランダム化試験(LOE 127,28; LOE 229,30)によると、 ACD-CPRはよく訓練されたプロバイダーが心停止患者に対して行った場合には、 院外27,28、院内29,30ともに長期生存率を改善させた。 しかし、他の5つのランダム化試験(LOE131-34;LOE235)では、 肯定的な結果も否定的なそれもともに得られていない。 4つの臨床試験(LOE 330,36-38)では、ACD-CPR は標準的心肺蘇生法に比べて循環をより改善させた が、1つの臨床試験(LOE 339)では改善させな かった。この方法の効果を上げるに は頻回の訓練が重要な要素であるようである28

 院外設定の、合計4162人の患者を含む10の研究に対するメタ 解析(LOE 140)と院内設定の 2つの研究(患者合計826人)に対する メタ解析40によると、ACD-CPRは標準的心肺蘇生法に比べて、早期ま たは長期の生存を改善させなかった。 院外設定でのメタ解析によると、ACD- CPRを行った群で神経学的予後を有意ではないにしても大きく悪化し、 また1つの小規模試験41ではACD-CPRにより胸骨骨折の頻度が上昇した。

 ACD-CPRは、プロバイダーがよく 訓練されていれば、院内では考慮されても良い(Class IIb)。 病院前救護ではACD-CPRを推奨または非推奨とするための(to recommend for or against the use of ACD-CPR)十分なエビデンスはない(Class 未確定)。

インピーダンス閾値弁装置(Impedance Threshold Device)

 インピーダンス閾値弁装置(ITD)は胸骨圧迫の間の胸郭が膨らむ(chest recoil) 時に空気が肺に流入するのを妨げる弁である。 それは胸腔内圧を低下させ心臓への静脈還流を増加させるように作られて (designed)いる。 初期の研究ではインピーダンス閾値弁装置は、ACD-CPRと バッグ・チューブ換気を行っている場合の カフ付き気管チューブに使用された(used with a cuffed endotracheal tube)42-44。 インピーダンス閾値弁装置 とACD-CPR装置は能動的に圧迫を解除(active decompression)する時に、 相乗的に静脈還流を増加させると考えられる。

 最近の報告では、インピーダンス閾値弁装置は気管チューブや フェイスマスクを用いた従来型心肺蘇生法で使用されている45,46。 報告43,45,46によると、救助者がきっちりと顔面にフェイスマ スクをシールすることができるならば、気管チューブにインピーダンス 閾値弁装置をつけた時と同等の胸腔内陰圧が生じるかもしれない。

 院外心停止610例での 2つのランダム化試験(LOE 144,47) の結果では、ACD-CPRとインピーダンス閾値弁装置を組み合わせると、 標準的心肺蘇生法だけ行った場合と比 較して心拍再開率と24時間生存率が改善した。 成人230名のランダム化試験では、院外心停止(PEAのみ)患者 において標準的心肺蘇生中にインピーダンス閾値弁装 置を使った場合、ICUへの入室率と24時間生存率が向上 したという(LOE 2)45。 1つの臨床試験(LOE 2)46では、インピーダンス閾値弁装置 を加えることで、標準的心肺蘇生法施行中の循環動態が改善した。

 長期生存率の向上は示されていないが、挿管され た成人心停止患者での心肺蘇生法において、訓練された救助者によってイ ンピーダンス閾値弁装置が使用される場合には、 循環パラメータと心拍再開率を 改善させる可能性がある(Class IIa)。

ピストン装置()

 ピストン装置(mechanical piston device)は背板の上に取り 付けた圧縮ガス駆動の装置(gas-powered plunger)によって胸骨 を圧迫する。 成人での 1つの前向きランダム化試験と 2つの前向きランダム化クロスオー バー試験(LOE 2)48-50では、 医師またはコメディカルスタッフ(medical and paramedical personnel) によってなされたピストン装置での心肺蘇生法は、院内、院外の両設定での心停止患者の呼気 終末二酸化炭素濃度と平均動脈圧を上昇させた

 ピストン装置は、用手的蘇生が困難な環境下で の心停止患者に考慮してもよい (Class IIb)。 この装置は、標準的心肺蘇生法を行うようにプログラム されるべきで、毎分100回の適度 な深さの圧迫、高度な気道管理器具が挿入されるまで圧迫と換気の比は30:2、圧迫時間は圧 迫―非圧迫周期の50%とする。 この装置は(非圧迫時には)胸郭 が元の位置に戻るように設定されるべきである。

負荷分布バンド心肺蘇生法またはベスト心肺蘇生法

 負荷分布バンド(Load-distributing band;以下、LDB)は、 胸を外側から取り囲んで圧迫する装置で、空気駆動か電気駆動で胸を締め 付けるバンドとバックボードからなる。 成人162名の症例対照研究(LOE 4)51では、院外心停止患者に 対して、よく訓練された救助者がLDB心肺蘇生法(以下LDB-CPR) を行った場合、生存して救急室へ到達する率が高くなったと報告している。 LDB-CPRは末期患者についての 1つ の院内研究 (LOE 3)52および 2つの動物実験 (LOE 6)53,54 で循環動態を改善させた。 LDB-CPRは院内外の心停止患者での心肺蘇生において、 適切に訓練された人が補助的に使用することは考慮されてよいかもしれない(Class IIb)。

携帯型装置を用いた、同期した胸腹部の圧迫・減圧心肺蘇生法

 同期した胸腹部の圧迫・減圧心肺蘇生法 (Phased thoracic-abdominal compression-decompression CPR;以下、PTACD-CPR)は、 間歇的腹部圧迫法―心肺蘇生法(IAC-CPR)と能動圧 迫―減圧心肺蘇生法(ACD-CPR)とを組み合わせた方法である。 (これは)携帯用の装置で、胸部圧迫・腹部減圧と胸部減圧・腹部圧迫を交互に行 う(alternate)。 成人心停止患者についての 1つの前向きランダム化臨床試験(LOE 2)55において、 院内、院外でACLS施行中の循環の補助としてPTACD-CPRを行った場 合に、生存率が改善しなかったというエビデンスがある。 よって、研究目的以外での使用(the use of PTACD- CPR outside the research setting)を支持する十分な証拠はない(クラス未確定)。

体外循環を用いる方法と侵襲的循環装置

 体外循環による心肺蘇生法(extracorporeal CPR;以下、ECPR)の有効性を示す論文のほとんど は心疾患患者についてのものである。 ECPRは他の疾患による心停止患者よりも開心術後の患者にお いて、より効果的である(LOE 5)56。 ECPRがこれらの患者に特に有効であるのは、(外科的に修復可能か、その原因が発生して短期間で あることなどから)心停止の原因が可逆的な場合が多く、また先行する多臓器不全がな いのが通常であるためと考えられる。

 心停止のまま救急室に到達し、標準的ACLSに反応しない 患者についての小規模研究(LOE 5)57 において、低体温の導入のために用いたECPRは生存率 を向上させた。

 循環のない、心停止時間が短くかつ心停止の原因が可逆 的である(たとえば低値温や薬物中毒)か心臓移植やCABGで修復可能な状態の院 内心停止の場合には、ECPRが考慮されるべきである(Class IIb)58,59


■要約

 いくつかの心肺蘇生のための方法と装置は、選択された患者群に対して、よく訓 練されたプロバイダーが用いれば、循環(hemodynamics) と短期的な転帰(short-term survival)を改善させる かもしれない。 (訳者註:しかし、)現在のところ、院外でのBLSにお ける標準的な心肺蘇生法よりも優っていることを一貫し て示す方法は存在しないし、 除細動器以外には院外心停止患者の長期 的な転帰( long-term survival)を改善させることを一貫して示す装置 は存在しない。


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