市立札幌病院医科研修問題
【公判の情報】

歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆氏の報告より

ウェブ資料作成:四国がんセンター麻酔科 越智元郎 (関連資料


目次


第14回公判(3/4開催)の報告

歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆___

◎市立札幌病院問題 論告求刑公判

 市立札幌病院(中西昌美院長)問題の論告求刑公判が3月4日、札幌地裁(井口修裁判長)で開かれ、医師法違反(医師以外の医業の禁止)の罪に問われた同病院救命救急センター部長で医師の松原泉被告(52)に対し、検察側は罰金6万円を求刑した。

 検察側は「法廷での証拠調べなどで、松原被告が医師法違反にあたるのは明らかだ」と指摘。その理由として、「本件各行為の主体は 歯科医師であり、かつ、正当行為とみることはできない。松原被告も違法性を意識していたのは明らか。松原被告と各歯科医師との間に 共謀が認められる」とした。そして、「松原被告が歯科医師3人と共謀し、医師資格を有しない歯科医師らをして、公訴事実記載 の各行為を認定できる」と述べた。

 しかし、検察側は「その他、情状を考慮する」として、懲役刑での求刑を見送り、罰金刑が相当と主張した。

◎市立札幌病院問題 解説

 50人を超す市民や記者であふれた論告求刑公判。この問題に対する検察側の意見を述べる場に過ぎないが、検察官の強い口調に、関 係者が息をのむ場面もあった。
 検察官の意見は、1研修を受けていた歯科医師は医業の無資格者であり、気管内挿管などは歯科医師がやってはならない危険な行為 だった 2歯科医師が独自の判断で医行為をした 3歯科医師は医師の指導・監督が及ばない場所で医行為をした、ーーなどとの内容。 予想通りのものだった。
 関係者が息をのんだのは、「情状関係」だった。「免許制度を無視した悪質な確信犯的犯行で常習性が顕著」「反省の情がなく再犯の おそれも高い」「医師に対する信頼を大きく傷つけた被告人の責任は重大」などと検察官は辛辣な言葉を浴びせかけた。
 特に、「『医は仁術』との心がなく、医の現場を政治的プロパガンダの場としている」の部分では、「いくら検察官の発言といって も、ひどすぎる」(北海道歯科医師会幹部)との怒りの声が上がった。「松原先生は、現場の医師をかばい、歯科医師の教育を続けると 意欲を燃やしているのに・・・」と肩を落とした。

 しかし、関係者が驚いたのは、結論として述べた「求刑」だった。「その他、諸情状を考慮し、相当法条を適用の上、被告人を罰金6 万円に処するを相当と思料する」。
 閉廷後、「あれだけ言いたい放題言ったのに、求刑は罰金か・・・」「仮に違法としても罰金6万円程度。検察はメンツを保っている だけではないか」などとため息にも、怒りにも似た声が聞かれた。ここのところ、検察官の発言にはキレがなくなる一方、言葉だけが辛 辣になってきている。

 弁護団は、検察側の主張は根拠が薄く無罪を勝ち取れる、と自信を深めている。
1.公判で弁護側が主張してきたのは、なにも無罪にするための口実ではない
2.人手不足ではなかったし、マンパワーの問題ではない
3.医科と歯科は密接な関係にあり、重なり合う部分が大きくなっている
――などと再度、主張することにしている。
 次回17日には弁護側最終弁論が予定されている。
 そして、判決は28日。有罪率99%以上とされる日本の刑事裁判。検察官は何としても有罪にしたい意向だが、今回の問題では無罪 か、限り無く無罪に近い判決が出されることになりそうだ。(歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆)


第13回公判(2/25開催)の報告

歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆___

市立札幌病院 歯科研修 医師法違反事件 第13回公判 札幌地裁

◎市立札幌病院問題

 市立札幌病院(中西昌美院長)問題の第13回公判が2月25日、札幌地裁(井口修裁判長)で開かれ、医師法違反(医師以外の医業 の禁止)の罪に問われたセンター部長で医師の松原泉被告(52)に対する尋問が行われた。
 法廷で、松原被告は「歯科医師を研修医として受け入れることについては、レジデント研修委員会で承認を受けた」と明言。委員会議 事録に議論の内容が残ってない点について、「報告事項については『その他』と記載されているところで議論したのかもしれない。議論 したことは間違いない」と証言した。
 「センターで起きた事柄については、私に管理上の責任がある。部下に責任を押しつけるつもりはない」と話す一方で、「病院の1機 構であり、病院全体の問題だと思う」との認識を示した。
 「人手不足解消のために歯科医師の研修を独断で決めた」と検察側が主張する点について、松原被告は「救急が人手が欲しいことは確 かだが、1年目の研修医がいてもほとんど役には立たない」と答えた。
 そして、救急研修が初めての研修医では「まずは見学や雑用から救急の実際を学んでいく。気管内挿管を例に上げると、器具の準備 や、吸引チューブでの補助など。そして技量の向上とともに、少しずつステップアップしていく」と説明。
 「医師であっても、内科だけやってきたドクターと、麻酔科の経験のある人とでは全く違う」とし、「問題とされた歯科医師は、口腔 外科、麻酔で十分に経験している」などと述べた。
 また、厚生労働省や札幌市などから行政指導や事情聴取されたことは、「事件が地元紙で報道される以前はなかった」と話し、通例行 われる行政による指導・監督がないまま、いきなり起訴されたことを強調した。

◎3月28日に判決 正式に決定

 市立札幌病院問題で、全ての証拠調べが終わったことから、札幌地裁の井口修裁判長は次回3月4日の検察官の論告求刑、17日の弁 護側の弁論を経て、28日午後1時半に判決を出すことを正式に決めた。2月25日の第13回公判の最後で、検察側、弁護側に通知し た。

◎解説

 「裁判長の顔に笑顔が出てきたね」。毎回傍聴を続けている歯科関係者はそう漏らした。裁判長の心証が固まったのだろう。この日、 裁判長は、証人と検察側・弁護側のやり取りに口を挟むことをほとんどしなかった。
 一方、締めくくりとなる被告人本人の尋問に立った松原被告は、いつものように淡々と、そして熱っぽく、救急に対する思いを語っ た。
 「起訴されただけで、すでに歯科医師の救急研修が滞っている。(有罪になったら)研修はできなくなるかもしれない。急変した患者 さんを助けられなくなるかも・・・。厚生労働省の中島課長が言うように、それも『仕方ない』ですませるのは悲しいことだ・・・」。
 いつもは辛辣な質問を浴びせかける検察官も、この日は勢いがなかった。「起訴されたら休職する地方公務員もいるが、そういう打診 はなかったのか」「上級医は看護師より下なのか」など意味不明の尋問もあった。
 いよいよ次回は論告求刑。「違法性はない。仮にあるにしても、その程度は極めて軽微」とされるだけに、検察側がどのくらいの求刑 をしてくるのかに注目が集まる。
 しかし、「本当の被告は厚生労働省」との声が高いのが実態だ。この日の公判でも同省などの「不作為」があらためて浮き彫りになっ た。「医療と歯科医療をより密接に」とのニーズに、行政が主体となって真摯に取り組むべきだろう。(歯科医師・ジャーナリスト 杉 山正隆)


第12回公判(2/14開催)の報告

歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆___

市立札幌病院 歯科研修 医師法違反事件 第12回公判 札幌地裁

◎戸塚靖則・北大教授が証言

 市立札幌病院(中西昌美院長)問題の第12回公判が2月14日、札幌地裁(井口修裁判長)で開かれた。この問題で、歯科医師を同 病院救命救急センターに派遣した戸塚靖則・北海道大学歯学部口腔外科学第二講座教授(55)が証言。派遣の経緯を説明したほか、歯 科医療の高度化と、高齢化の急速な進展などから、医科での歯科医師の研修がこれからいっそう必要になってくることを強調した 。また、ただ一人、医師法違反(医師以外の医業の禁止)の罪に問われたセンター部長で医師の松原泉被告(52)に対する弁護側質問 も行われた。 戸塚教授は北大歯学部1期生。広大な北海道で口腔外科の学術・治療の態勢を築いてきた1人とされる。
 証言に立った戸塚教授は、歯科の中でも口腔外科は、医科と歯科の接点にあり、高度な技術・知識が必要なことや、教授自身が20時 間を超すような長時間の手術を年間数十例行っていることを証言。口腔外科の発展の歴史的経緯や、世界や日本の現状を説明し、「口腔 外科認定医の研修カリキュラム案で、外科、内科、ICU、救急などでの研修が必要、としている。口腔外科医であれば、救急研修など が必要なのは、口腔外科に携わる者として共通の認識だ。」と述べた。
 そして、同病院院長(当時)に会い、藤原敏勝助教授(同)を歯科医長として赴任させることで合意。その際に、戸塚教授が歯科医師 の麻酔科や救急での研修を申し入れ、「院長は『当然だ』という答えだった」ことを明らかにした。「全身管理や、万一の容体の急変の 際の対処法を身に付けるためには、歯科施設や歯学部では不可能。医科での研修がどうしても必要だ」とし、「医科の麻酔科研修 で全身管理の基本を身に付けたうえで、救急研修をしていたものだ。問題ないし、むしろ必要不可欠な研修だ」と訴えた。
 仮に有罪になった場合を尋ねられた戸塚教授は、「現時点ですら研修を手控えている施設が出ている。有罪になると研修を受け入れら れなくなる恐れが広がる。大きな汚点を医療に残す」と強調。
 「問題とされた歯科医師は、患者さんが安全な歯科医療を受けられるよう安全性を身に付け、口腔外科に戻った時に後輩たちに指導で きるように、真摯に研修を受けていた。なんら非難されることはしていない」と研修に問題がないことを証言した。

 前回に続き、松原被告が尋問に立ち、歯科医師を研修医として受け入れた経緯を証言。同病院のレジデント委員会で審議したうえで、 院長が最終的に了承したことを話した。
 松原被告は、同病院の歯科口腔外科部長からレジデント委員会に歯科医師の研修医受け入れの要請があり、了承されたことを話した。 そして、「歯科口腔外科が救急時の対応を身に付けたいとの考えがよく分かった。実際に研修を受けた歯科医師は基本手技ができてい た」と熱意や技術力を高く評価。一方で、人手不足解消のために歯科医師を受け入れた、とする検察側の主張に対しては「救急に関して は素人。受け入れのメリットはない」とした。
 次回の公判は、2月25日午前10時から札幌地裁で開かれる。松原被告に対する尋問が予定されている。

◎解説

 「安全な歯科医療を提供するため人口1万人の町に最低1人、口腔外科医を配置する必要があります。今のままでは高齢化社会の到 来、そして、歯科医療の高度化に対応できません。人材育成には10年以上は掛かる。『違法』とされてしまえば、とても間に合いませ ん」ーー。戸塚教授の証言は説得力にあふれていた。裁判長はじめ、検察官ですら、うなずきながら聞き入る場面が何度もあった。

 戸塚教授はほとんどの公判を傍聴。口腔外科医を救急研修に「送り出した者」としての責任感も強いのだろう。「研修が問題だったは ずはないし、これからも続けないと。我々には安全な歯科医療を患者さんに提供する義務がある」と常々口にしていた。
 今まで、傍聴席で首をひねる姿を度々目撃した。「何故、歯科のことを分かってくれないんだろう」「研修は見てるだけで十分?冗談 じゃない」。公判を通じ、歯科や口腔外科に対する「誤解」があふれている現状を思い知らされた。戸塚教授にとっても恐らくはじめて のことだろう。
 日本口腔外科学会の瀬戸理事長の証言の頃から、公判の雰囲気がガラリと変わった。北大歯学部地域支援医療部の小林副部長、そして この日の戸塚教授の証言。弁護団長の村松弘康弁護士も「歯科界の考え方を十分、裁判官にも訴えることができた。研修なくして優秀な 歯科医師の養成や、安全な歯科医療の提供ができないことが分かってもらえたのでは」と自信を深める。
 判決前の公判は残り3回の模様だ。「歯科医師は医業の無資格者だから、研修であるにしても違法」とする検察官の主張を弁護側がど こまで崩せるのか。法律論議は難解そのものだが、研修が必要なのはすでに明らかになっている。松原被告1人に責任を押しつけた今回 の起訴が適切だったのかどうかなど、次回の公判で争点が一気に浮かび上がることになりそうだ。(歯科医師・ジャーナリスト 杉山正 隆)


第11回公判(2/7開催)の報告

歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆___

市立札幌病院 歯科研修 医師法違反事件 第11回公判 札幌地裁

◎研修を受けていた医師と上級医が証言
◎松原被告 救急研修の必要性を力説

 札幌市の市立札幌病院(中西昌美院長)問題の第11回公判が2月7日、札幌地裁(井口修裁判長)で開かれた。問題とされた歯科医 師と同時期に救命救急センターで研修を受けていた医師と、直接指導に当たった上級医が研修の実態を証言。医師法違反(医師以外の医 業の禁止)の罪に問われたセンター部長で医師の松原泉被告(52)に対する弁護側質問も行われた。
 最初に証言に立った羽田健一医師(30)は「歯科医師の気管内挿管などの技量は問題ないレベルに達していた」と医師と遜色ない技 術・知識があったとの認識を示した。「(歯科医師、医師に限らず)研修医には上級医が必ず近くにいた。歯科医師は口腔外科で相当数 経験を積んできたが、謙虚な態度で真摯に研修を受けていた研修医が積極的にやり過ぎる方が危険だが、そのようなことは一切なかっ た」と証言した。
 また、上級医だった山崎圭医師(35)は、歯科医師がドクターカーに単独乗車した点について、3人の上級医の判断で、十分な技量 を有する歯科医師を交通事故の現場に派遣したものの、実際には患者はほぼ死亡の状態にあったと話した。「外傷性の心肺停止では、ほ ぼ100%助からないのが実態だ。しかし、上級医と緊密な連携を取り、上級医の指示に従って、歯科医師は国際的な定型的処置を適切 に行った」と証言。「歯科医師らは麻酔科でもすべての基本手技を身に付けたうえで救急研修を受けた。研修として素晴らしいシステム だ。患者の安全性も十分に確保していた」とした。
 引き続いて、第1回公判での意見陳述以降、初めて松原被告が尋問で、救急や医療全般に対する思いを話した。あるべき医療像を尋ね られた松原被告は「現在の医療は、あまりにも専門にとらわれ過ぎており、『人間』を診ていない。人間全体を診るべきだ。緊急事態 は、医療の現場では、いつ、どこで起こるか分からない」と強調。「歯科医療の現場では、ほとんどが歯科医師1人で対処しなければな らない」として、歯科医師の救急研修の必要性を力説した。
 松原被告は「研修は見学だけで良い、と(検察側は)言うが、上級医の指導・監督のもとでの参加型の研修でなければ、注射器すらま ともに扱えない医師になってしまう」と話し、最初は見学にとどまるものの、少しずつレベルを上げて、実地で研修する参加型研修が必 要なことを陳述した。
 次回の公判は、2月14日午前10時から札幌地裁で開かれる。16日午後2時からは、札幌市中央区の共催ホールで、この問題を考 えるシンポジウム「医療のあり方を考える市民フォーラム」(同実行委員会主催)が予定されている。

◎解説
◎緊急事態に適切な医療を

 「緊急事態はいつ、どこで起こるか分からない」……。歯科医師はじめ、医療関係者の救急研修が不可欠であることを強調した松原被 告。非常に分かりやすく説得力がある内容で、裁判長だけでなく、検察官までもが何度もうなずいたほどだ。
 この間、多くの関係者が証言に立った。病院や学会関係者らの陳述により、市立札幌病院の救急研修のレベルが全国平均よりかなり高 く、救命率がずば抜けて高いことも明らかになってきた。その核となる救命救急センターを作り上げた1人が松原被告だ。その松原被告 が、この日の公判で、ようやく陳述の機会を与えられた。
 裁判長は以前より、松原被告本人の陳述を準備するように、弁護側に求めていた。しかし、検察官は自説を曲げないのはともかく、裁 判官も、医療現場の実態を正しく理解していないことも浮き彫りになった。そのため、この日の公判からは、弁護側証人に対する尋問の 後、松原被告への弁護側尋問が行われることになったのだ。
 次回もこの形式が取られる見込みだ。検察官は「これ以上の弁護側証人は必要ない」と主張しているが、実態をできるだけ正しく判決 に反映させるためには、今少し歯科医療関係者が証言する必要があるように感じた。
 公判を通じ、わが国の危うい救急医療の現実が明らかになった。これはむろん、歯科だけの問題ではない。救急救命士や看護師・準看 護師やヘルパー、家族らの「医療行為」が問題視されることも少なくない。生命を救うため、現場でやむなく行った行為ですら「医師法 違反」として断罪されるのは問題だ。それでは国民の生命や健康が守れないからだ。  命に限りがあるかぎり、人間は必ず病や事故に倒れる。その時に適切な医療が受けられるような社会にすべきだ。公判も残りわずかに なった。大きな視点から、検察、弁護双方からの論戦を期待したい。(歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆)


第10回公判(1/28開催)の報告

歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆___

市立札幌病院 歯科研修 医師法違反事件 第10回公判 札幌地裁

◎センター副看護師長と北大歯学部副部長が証言
◎「救急研修は歯科医師にも必要」「救急は医科・歯科共通の手技」

 札幌市の市立札幌病院(中西昌美院長)の救命救急センターで、研修中の歯科医師(口腔外科医)に専門外の医療行為をさせていたと して、医師法違反(医師以外の医業の禁止)の罪に問われたセンター部長で医師の松原泉被告(52)=同市豊平区=に対する第10回 公判が1月28日、札幌地裁(井口修裁判長)で開かれた。センターのベテラン看護師と北海道大学歯学部副部長が、研修の実態や必要 性を証言した。
 最初に証言に立った石田美由紀・センター副看護師長(41)は、問題とされた腹部触診について、「私たち看護師も行っているのだ から、歯科医師の研修医がやるのは当然」と説明。歯科医師が独断で治療していたと検察側が主張する点について、「有り得ない」と断 言し、その理由として、「知識や経験が(上級医に比べ)少ない研修医が独断で判断して治療することはない」と述べた。
 上級医の、研修医に対する監視について、石田副看護師長は「上級医が真横で見ていることもあるが、少し離れていることもある。上 級医は、患者の生命に直結するような手技は研修医には行わせていない」と証言。心臓カテーテル検査、脳血管造影などは心臓外科や脳 外科の専門医が行っているとし、「研修を受けていた歯科医師は非常に熱心で、知識なども医師の研修医には劣ってるとは思わない」と 述べた。
 起訴された松原被告については、「センターの統括者であり、運営などの責任者であり、細かい投薬や処置などについて指示をするこ とはない」とした。そして、「歯科医師の救急研修は必要だと思うし、医療に携わるものみんなが身に付けるべき。それが社会の要請 だ」と強調した。

 続いて、小林一三・北大歯学部地域支援医療部副部長(47)が出廷。同部は、重症の全身疾患を持つ要介護高齢者らに安全で良質な 歯科治療を提供するチームという。小林副部長は、20年超の臨床経験を持つベテラン口腔外科医で、研修医らを送り出した側の責任者 の一人。
 小林副部長は「歯科医療においても、全身管理の必要性は、医科と全く変わらない」と証言。全身疾患などは患者に聞けば分かるので は、との質問には「問診である程度は分かるが、患者さんは自分の疾患を正確に把握していないことも多い。歯科治療には関係ないと考 えて伝えないことも少なくない」と述べた。
 麻酔科での研修は、既に診断がついて安定した状態にあることが多く、事前に全身状態を評価して適切な麻酔方法や対処法を選択でき ることを説明。それに対して、救急研修は、生命の危険と戦いながら、患者の生命を維持しつつ、瞬時に重傷度・緊急度を判断して治療 方針を決定する必要があるとし、「口腔外科では、そのいずれもが必要」と強調した。
 そして、「問題とされた行為は、研修の中で、安全性を十分確保したうえで、口腔外科医として必要な救急対応の知識や技能を学ぼう としたもので、違法とは考えていない。センターでの研修は理想に近いものだった」と証言。北海道大学付属病院には医師は常勤してい ないことなど現場の実態を説明し、「的確に判断する能力を養うためにも、救急での歯科医師の研修は重要だ。研修を終えた歯科医師に は、口腔外科などで若手歯科医師を指導する立場を期待している」と研修の必要性を訴えた。
 次回の公判は、2月7日午前10時から札幌地裁で開かれる。

◎解説
◎「救急は医科・歯科共通の手技」

 この日の公判は、傍聴できない地元記者が出たほどの「超満員」。一般席28、記者席8の小さな法廷で行われせいもあるが、この問 題への市民らの関心の高さを示したものといえる。
 石田副看護師長は、研修医が独断での判断や治療をしないことを証言。小林副部長は、救急に関しては、医科・歯科共通の手技である ことを断言した内容だった。検察側の「歯科医師は医療の無資格者であり、救急研修に歯科医師が参加することは医師法に違反する」と の主張を、またも明確に否定したものだ。
 検察官は、「歯科医師は医師ではない。救急研修で、医師と違うと感じたことは本当になかったのか」と質した。石田副看護師長は 「感じたことはない。アナフィラーショックを起こした歯科の患者をみたことがあり、歯科医師の救急研修は社会の要請だと思う」と答 えた。
 小林副部長に対して検察側は「救急研修が必要というのなら、何故もっと早く実施しなかったのか」と繰り返し尋ねたが、小林副部長 は「救急が脚光を浴びるようになったのは最近のことだ。時代が変化し、重い病気を持っていても生き延びられるようになってきたこと が大きい」などと説明した。
 弁護側立証に入り、検察側の鋭い質問がめっきり減った。反対に、質問をしてもかみ合わなかったり、つじつまが合わないことが増え てきた。今日の法廷では検察官の隣に座っていた司法修習生と目される女性が長時間、「居眠り」をしていたほどだった。
 検察側は起訴した以上、真剣に真実の解明に努力すべき。社会に与える影響をどう考えているのか。迫力ある公判を望みたい。(歯科 医師・ジャーナリスト 杉山正隆)


第9回公判(1/17開催)の報告

歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆___

市立札幌病院 歯科研修 医師法違反事件 第9回公判 札幌地裁

◎中堅医師 現場の声を代表
◎「研修医が指導医の指示を逸脱することは有り得ない」

 札幌市の市立札幌病院(中西昌美院長)の救命救急センターで、研修中の歯科医師(口腔外科医)に専門外の医療行為をさせていたと して、医師法違反(医師以外の医業の禁止)の罪に問われたセンター部長で医師の松原泉被告(52)=同市豊平区=に対する第9回公 判が1月17日、札幌地裁(井口修裁判長)で開かれた。現場の声を代表する形で、センターに勤務する佐藤朝之医師(33)が証人と して出廷。「歯科医師の研修医は技量的には優秀だった」と明言したうえ、「見学だけで外科医を要請することは不可能。参加型の研修 こそが必要であり、研修医が指導医の指示を逸脱して、何かすることは有り得ない」と述べ、検察側を厳しく批判した。
 佐藤医師は平成7年、北海道大学医学部卒業後、センターの研修医を経て、札幌市消防局救急救命士要請所の専任講師を務め、同12 年、センターの「一般職」に就任。センターでは担当医を立てて、これをバックアップする体制としてチーム制を採っており、佐藤医師 は9人の医師でつくる「Bチーム」のリーダーをしている。
 最初に、佐藤医師は「1人の人間では、ザルが水を容易に通すように絶対にミスをする。しかし、ザルを重ねることで水をこぼすこと が少なくできる」とチーム制の特徴を説明。「研修医が1人で判断して治療することはできないし、あり得ない」と現場の実情を話し た。
 そして、「問題とされた歯科医師らは『外科』で何年もトレーニングを重ねており、内科医とは違う。検察側が問題としている行為 は、口腔外科でも救急でも非常に日常的に行われている。技量的にも、安全性も、全く問題ない」と明言した。
 佐藤医師は「歯科医師の救急研修は非常に有意義だ」と強調。「歯科でも全身を診なければならない。万一の時、対処する必要があ る。そういう医療を整備すべきであり、見学型研修では対応する力を身につけることはできない。参加型研修が絶対に必要だ」と述べ た。
 センターでの歯科医師受け入れの際、医局会で、口腔外科の隣接領域である耳鼻科医師から「歯科医師が医療行為をするのはいいの か」との質問があったとされる点について、佐藤医師は「院長も、事務長も、『問題ない』と言明した」と証言。「研修医の受け入れ は、現場としては、手間が増えることが多い」とも述べ、人手不足解消のために歯科医師の受け入れを松原医師が独断で決めたとする検 察側主張をきっぱりと否定した。
 また、「松原医師から直接、薬の投薬などの細かい指示を受けることはない。リーダーなど上級医が判断して指示している」と話し た。

 佐藤医師に続き、センターの元研修医の鈴木豊典歯科医師が証言に立った。鈴木歯科医師は現在、北海道大学歯学部大学院で「免疫抑 制剤の骨への影響」を研究している。鈴木歯科医師は「救急対応は、医療の基本。数分での対応が生死を分け、医師・歯科医師やすべて の医療従事に必要だ」との考えを強調した。
 鈴木歯科医師は麻酔科でも研修。「麻酔科で外傷などあらゆる疾患を経験できると思った。全身麻酔300例、気管内挿管200例以 上を行った」。しかし、不十分だと感じた。口腔外科でも発生することが多い緊急事態に対応したいと思ったという。
 研修の実際について、「最初は手取り足取りだったが、それから上級医がすぐ後ろでの常時監視へ、さらには手の届く範囲へとステッ プアップしていった」と説明。救急研修で役に立った実例として「歯科疾患を持つ患者さんが突然意識を失い頭部を強打したが血圧、心 拍、呼吸数、動脈血採血、CTなどの検査をして適切に対応できた」。「歯科の現場では、患者さんが急変した際、我々歯科医師が初期 対応することが求められる。救急での研修が非常に役立った」と話した。

 最後に、今回の事件で起訴猶予処分となった内田知樹歯科医師(33)が証言に立った。脳挫傷などでセンターに救急搬送された少年 の家族に対し、手術の内容を説明し同意書に署名してもらう際に、「歯科医師」と名乗らなかったと検察側が主張する点について、「昨 日、母親に電話で確認したところ、『口腔外科。歯科医師ですと確かに聞いた』と確認してもらった」ことを証言。検察側の調書に、ま たも疑問を呈する証言が飛び出した。
 その後、この少年は回復し、今も内田歯科医師とは年賀状のやり取りをするなど交流が続いているという。検察官は「検察官が嘘をつ いているとでも言うのか」と言葉を荒げたが、内田歯科医師は「それは分からない」と話した。  また、喘息患者に対し、あまり用いられない「プロスタルモンF」の使用を看護師に指示したとされる点については、「上級医の指示 だった。あまり用いられないことは承知しているが、禁忌ではない。そういう例はよくある」と説明。医学的常識に反するのでは、との 検察側の主張を否定した。
 「次回の公判は、1月28日午後1時半から札幌地裁で開かれる。

◎解説・安全な歯科医療を担保するために
◎歯科界 取り組み強化を

 「研修医が指導医の指示を逸脱することは無理」……。研修医を経て、現在は研修医を指導する立場にある佐藤医師の証言は明快なも のだった。さらに、「松原医師から直接指示されることは絶対にない」と続き、検察官は反対尋問の中止に追い込まれた。
 午前10時。定刻に始まった弁護側主尋問は80分間に及んだが、発言も内容も明瞭なもの。11時20分に終え、検察側反対尋問が 始まるはずだったが、検察官は「結構です」の一言のみ。尋問でも、検察側主張が否定されると公判の維持が難しくなるとの判断が働い たものと考えられる。
 そして、公判を通じ争点だった松原被告の「共謀」について、「松原先生には、もっと大きなアイデアなどを期待している。点滴や挿 管など小さな指示など誰も期待していない」ときっぱり。40人ほどが詰め掛けた傍聴席からは、「なんだ。それなら、そもそも松原医 師が起訴されること自体が間違いだったんじゃないか」と失笑の声が聞こえたほどだ。
 裁判官らは、「研修でどこまで許されるのか」「松原医師の関与があったのか」の点で、「迷い」を見せている。裁判長は「被告人尋 問にはいる準備を」と弁護側に指示した。いよいよ公判は山場を迎えるが、「敗訴ともなれば今まで勝ち取ってきたものが失われる恐れ が大きい」(日歯幹部)。安全な歯科医療を担保するために、どう取り組みを強めていくのか。歯科界にとって、医療界にとって、これ からが正念場と言える。(歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆)


第8回公判(12/24開催)の報告

歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆___

市立札幌病院 歯科研修 医師法違反事件 第8回公判 札幌地裁

◎年度内判決へ

 市立札幌病院問題で、札幌地裁(井口修裁判長)が今年3月末までの年度内に、判決を下す方針であることが、日本歯科新聞社の調べ で分かった。2月末までに弁護側立証が終われば、松原被告の意見陳述や、検察側の論告求刑を経て、3月28日頃にも判決が出される 可能性が高い。今まで1カ月に1回程度だった公判を10日間程度の間隔に短縮する。井口裁判長が転勤の時期を迎えることや、検察側 に続き、弁護側の立証も順調なことから、年度内判決の意向を固めた模様だ。弁護団からは「研修の実態や必要性は裁判官や世間にア ピールできつつある」と自信の声が聞かれる。一方で、有罪判決が下れば、歯科医師の医科での研修に悪影響が出る恐れが高いことか ら、歯科関係者や救急医療関係者は危機感を強め、裁判所への嘆願書を1通でも多く提出するなど取り組みを強めている。

◎市立札幌病院問題
◎瀬戸・日本口腔外科学会理事長が証言
◎「本件各行為は違法ではない」
◎検察側に真っ向反論

 札幌市の市立札幌病院(中西昌美院長)の救命救急センターで、研修中の歯科医師(口腔外科医)に専門外の医療行為をさせていたと して、医師法違反(医師以外の医業の禁止)の罪に問われた同センター部長で医師の松原泉被告(52)=同市豊平区=に対する第八回 公判が12月24日、札幌地裁(井口修裁判長)で開かれた。瀬戸・日本口腔外科学会理事長(63)が証人として出廷し、「 本件各行為は研修の一貫。多くは口腔外科でも日常的に行っているうえ、研修医の行為は指導医の行為と同視でき、違法ではない」と明 言。「松原被告が有罪になれば医科と歯科のギャップが広がり、治療を受ける患者さんへの悪影響が大きい」と述べ、学会トップとし て、起訴した検察側を批判した。
 瀬戸理事長はまず、口腔外科の診療領域として、口唇、頬粘膜、上下歯槽、硬口蓋、舌前3分の2、口腔底、軟口蓋、顎骨(顎関節を 含む)、唾液腺であり、世界各国でもほとんどで歯科医師が担当していると説明。「これらの領域に原発する疾病の治療に、歯科医師は 責任を持っている」と実際の診療範囲がかなり広いことを強調した。大学教育も6年間で、歯科医師に死亡診断書発行権限があるなど、 世界で最も充実していることを説明した。
 そして、日本口腔外科学会が朝日新聞社と共同で行った「歯科医師の医科における救急研修と麻酔科研修について」のアンケート結果 を証言。214機関を対象に186機関から回答があり、「歯科医師の救急研修の必要性」については、95%以上が「必要」と回答。 実際に救急研修を行っているのは76機関にのぼったという。
 今回起訴の対象になった各行為は、気管内挿管、末梢静脈路確保、中心静脈路確保、筋鈎を使った手術の補助、カテーテルの抜去、腹 部の触診、手術の危険性を説明し同意を得る、など。これらについて、瀬戸理事長は「すべて口腔外科でも行われる行為である」と証言 した。
 弁護人から違法かどうか問われた瀬戸理事長は「私は法律家ではない」としたうえで、「違法には当たらない。こうした研修が医師法 17条に違反したとして、処罰され禁止されてしまえば、研修そのものが否定される」と危機感を表明。
「研修である以上、研修医の行為は実質的には指導医の医行為に当たる」との認識を示した。  また、瀬戸理事長は「市立札幌病院は(設備としては標準的だが)人的、組織的な面が非常に優れている。救命率が全国の5倍にもの ぼるのは素晴らしい」と松原被告の実績を賞賛した。

◎小堀善則・元研修医
◎研修の有用性を証言

 今回の事件で起訴猶予となった小堀善則・元研修医(33)が、瀬戸・日本口腔外科学会理事長に続き、証人尋問を受けた。小堀 元研修医は「研修で救急対応が落ち着いてできるようになり、口腔外科医としての技量も上がった」などと研修の有用性を証言した。
 小堀元研修医は、6年間の歯学部での教育の中で、3、4年次には医学部と同じ内容の一般基礎医学を、5、6年次でも内科、外科、 耳鼻咽喉科、精神医学、産婦人科などの臨床医学を、学んだことを紹介。卒業後、北海道大学口腔外科で2年間研修を受けてから、市立 札幌病院の麻酔科で3カ月間研修。問題とされた救命救急センターで7カ月間、研修を受けたという。
 研修では、当初は指導医について手取り足取り教えてもらう段階から、指導医が常時監督しながらも一応、1人で手技や診断をする段 階、さらに指導医が常時監督まではしないで良い段階へとステップアップしていったことを証言した。
 次回の公判は、1月17日午前10時から札幌地裁で開かれる。

◎解説
◎検察側 「安全な歯科医療の実現」にどうこたえる?

 瀬戸理事長は口腔外科の分野ではわが国の第一人者として知られる。鶴見大学歯学部教授でもあり、30年以上も教育の現場で、卒 前・卒後研修にも尽力してきた。それだけに、この日の公判での証言に注目が集まり、50人を超す傍聴人が法廷に詰め掛けた。
 瀬戸理事長が展開した「研修医の行為は実質的には指導医の医行為に当たる」とする、いわゆる「道具理論」は、研修や教育の現場で は広く通用している概念。そうでなければ研修が成り立たないとの実務からの要請が強い考えだ。
 しかし、検察官は納得しなかった。「違法ではない」と明言した瀬戸理事長に対し、検察官は「あなたは指導医が研修医の力量を評 価・判断すると言うが、国家試験のように客観的に判断すべきではないのか」と質問。瀬戸理事長は「力量は主観的にしか判断できな い。例え医師免許を持っていても、何もできないのが実際だ。研修はそういうものだ」と証言した。
 検察官は「医師だと思って安心していたのに、歯科医師だと知ると、嫌だと思う人もいるでしょう」と辛辣な質問を繰り返し浴びせか けたが、瀬戸理事長は「私たち歯科医師の努力不足。国民の皆さんに理解していただくしかない」と冷静に応じた。
 現場の実態や、研修の必要性・重要性が明確になった今回の瀬戸証言。それでも違法性の有無について、検察側と弁護側の主張が大き く対立したままだ。瀬戸証言には「安全な医療、とりわけ歯科医療の実現」との大きな理念を感じた。弁護側がどう主張し、検察側がそ れにどうこたえるのか。公判の行方が注目される。
(歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆:日刊歯科通信・歯科新聞掲載)


9/20開催 第6回公判の報告

歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆___

市立札幌病院 歯科研修 医師法違反事件 第六回公判 札幌地裁

 札幌市の市立札幌病院(中西昌美院長)の救命救急センターで、研修中の歯科医師(口腔外科医)に専門外の医療行為をさせていたとして、医師法違反(医師以外の医業の禁止)の罪に問われた同センター部長で医師の松原泉被告(52)=同市豊平区=に対する第六回公判が二十日、札幌地裁(井口修裁判長)で開かれた。
 厚生労働省の中島正治医事課長が証人として出廷。救急研修で、歯科医師らが気管内挿管などをしたことは「医師法違反に当たる」と述べ、厚生労働省の担当者として、違法だったとの認識を示した。しかし、問題とされた各行為について北海道や札幌市からの概略の報告を受けたものの、「(厚労省としての)調査はしなかった」と発言。行政の直接の担当者として具体的な調査をしないまま、札幌市などに「医師法違反に当たる」と回答し、告発させていた実態が明らかになった。

 中島課長は、気管内挿管や、腹部の触診、救急患者の家族に手術内容を説明・同意を得たことなどについて、「(問題とされた各行為は)高度な医学知識が必要な行為。歯科医師が(口腔外科領域関連以外で)行うことは危険だ。医師法違反に該当する」などと述べた。その一方で、問題とされた各行為について中島課長は「口腔外科の治療の一部であれば歯科医療行為でもある」と明言。行為自体は、医科でも歯科でも変わりがないことを認めた。

 しかし、「医師と歯科医師は目指すものが違う。歯科医師は全身的なもの(教育内容や知識)は非常に限られている」と医師は全身を診る一方、歯科医師は口の周辺を中心に診れば足るとの考えを示した。そして、歯科医師は歯科固有の教育を受けているが、医師に比べ医学的教育水準や全身的知識が必ずしも十分ではないとの認識を明らかにした。

 同様の研修が全国各地で幅広く実施されていることについて、中島課長は「想定していなかった。報告もなかった」と証言。歯科医師の救急での研修について、「歯科医師も(一般の市民と同じような)一般的な救急対応が求められることもある。習得していただくことは重要だ」としたが、歯科治療中の急変での気管内挿管などの救命処置については「緊急避難として許される。義務ではない」などと発言した。
 検察側が「どのような研修なら許されるか」と質したのに対し、中島課長は「見学的立場のものなら許される。見学でも有益(な研修)になる」などとした。そして、「最終的には司法の判断を仰ぎたい」と述べ、問題とされた行為が違法かどうかは裁判所の判決で確定したいとの意向を示した。

◎解説

 厚生労働省の中島正治医事課長の証言は検察側の主張に沿う内容。すべて違法とするもので予想通りのものだった。検察側の立証は中島課長の証人尋問で終了した。村松弘康弁護団長は「検察側の主張には疑問を呈さざるを得ないものが相当あった。今後、弁護側の立証が本格化する。無罪は十分勝ち取れる」と自信を強めている。

 この日の中島課長の証言は、検察側の尋問でははきはきと応え、非の打ち所がない印象を受けた。「歯科医師が(口腔外科に関係のない)医療行為を行ったのは問題」「(厚労省としては)すべて違法とみている」。行政の判断を明確に示して見せた。歯科医師が歯科治療中などの急変時に、気管内挿管を行うことができるかを尋ねられたのに対しても「緊急避難としては許される」とはっきり応えた。

 その証言の滑らかさが失われたのは裁判長の発言だった。「義務ではないのですか。緊急避難でいいのですか?」。裁判長は首をひねりながら尋ね、一瞬、法廷内がざわついた。中島課長は「義務とまでは言えない・・・」と答えたが、自信に満ちた表情は消えていた。
 傍聴席からは、「歯科医師が救命措置をしなくても済むのでは、安心して歯科医院に行けない」「『気管内挿管など救急処置ができます』と表示して欲しい」「だからこそ、救急の現場での研修が必要なのだ」などの声が聞かれた。

 弁護側の質問が始まると、中島課長の発言に矛盾がみられるようになった。村松弁護団長は「医行為とされているものでも、歯科医行為にも当たるものがあるのではないか」と追及。中島課長は「医行為の側面を持っている(ものもある)。重なり合っている」と認めた。そして、問題とされた静脈路確保やカテーテル抜去、腹部の触診、手術についての説明などについて、「歯科医行為でもあり得る」と答えた。
 さらに、「歯科医師の医科麻酔科研修のガイドライン」で研修医の経験・能力を勘案している点に関連しては、中島課長は「(今回の事件は)麻酔科での研修ではない」と回答。村松弁護団長は、麻酔科も救急も研修に差がないことを尋ねると、「質問の意味が分からない」と答えたり、無言で通した。そして、「現在調査検討中なので、今後検討していきたい」とだけ答えた。

 証言の後半、「担当ではない」「詳細は承知してない」「分からない」などと混乱。しかし、「ガイドラインの作成を急ぎたい」「(医師にしかできない絶対的医行為は)絶対不変なものではない」など重要な証言もあった。
 厚労省の担当者が歯科の現場を知らない実態が浮き彫りになった。が、救急での歯科医師の研修自体の重要性は認めざるを得なかった。次回、日本救急医学会の島崎修次理事長が鑑定人として期日外で出廷する。現場の実態は、研修の必要性・重要性はどうなのか。いよいよ議論が深まっていくことになる。


8/27開催 第5回公判の報告

歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆___

市立札幌病院 歯科研修 医師法違反事件 第五回公判 札幌地裁

◎第五回公判 札幌地裁

 札幌市の市立札幌病院(中西昌美院長)の救命救急センターで、研修中の歯科医師(口腔外科医)に専門外の医療行為をさせていたとして、医師法違反(医師以外の医業の禁止)の罪に問われた同センター部長で医師の松原泉被告(52)=同市豊平区=に対する第五回公判が八月二七日、札幌地裁(井口修裁判長)で開かれた。当時、研修を受けていた歯科医師(口腔外科医)(32)が証言に立ち、研修の重要性や必要性を訴えた。

◎歯科医師が証人に
◎救急研修の重要性を証言

 歯科医師は、北海道大学歯学部を卒業後、同大大学院でガンの免疫療法で博士号を取得。イギリスの医学雑誌に英語で論文を発表した経験もある。その後、自ら希望してセンターでの研修を受けたという。

 救急車に医師が同乗し救命救急処置などを行う「ドクターカー」に単独乗車した点について、歯科医師は「心肺停止状態の患者さんだった。国際規格があり、(細かく指示をする時間的余裕もなく)『行け』と(上級医から)言われた中に(そうした対処法が)含まれている」などと証言。また、「除細動」をこの歯科医師が救急隊に指示したとされる点について、歯科医師は「上級医師が指示した。『3つ全部してくれ』と(他の救急処置も)指示するはず」と否定した。

 歯科口腔外科の治療範囲について、「(一般的な歯や歯肉、顎の骨の治療に加え)ガンの治療や顔面外傷、蓄膿症、全身管理などがある。(歯科口腔外科に担ぎ込まれてくる患者は)交通事故や自殺、けんかなどで、ヒフが裂けたり、出血や、骨がバラバラになっていることもある」と述べた。「口の周囲や唾液腺、顎の処置の際、顔の下半分を切ることもある。下顎骨を丸ごと切って、再建するのに、腸骨、肩甲骨、肋骨を持って来ることも」「血圧が高かったり、糖尿病で血糖値が急激に下がるケースもある。降圧剤、昇圧剤などは内科医の助言・指示を受けながら、(歯科医師独自に)判断する」などと証言。通常考えられるより、かなり広範囲に及び、全身状態を管理しながら治療している実態を話した。  厚生労働省がこうした研修は見学で十分などとしている点について、歯科医師は「見るのと、実際に経験してみるのでは、すごく大きな差がある」と述べ、研修の重要性を強調。

 裁判長が「今回問題となった行為は、口腔外科とは関係ないのでは。研修だからいいと思ったのですか」と尋ねたのに対し、歯科医師は「はい。口腔外科でも常にやっている行為ですので」と応えた。

◎センター元医師
◎「2年目の医師より優秀だった」
◎ドクターカー単独乗車には疑問も

 前回(第四回)の公判に引き続き証言した同センターの医師(当時)は、同センターでの歯科医師の研修受け入れの経緯について「上級医の指導・監督の下に、歯科医師の研修に当たっても、医師と同程度のものにするよう、スタッフ会議で決めた」などと説明。

 「(その後、)副院長から『センターで歯科医師が医療行為を行うに当たって法律的な問題があるかもしれない』と助言があった。研修の中止を求められたのではなく、抽象的なものだった。目立つようにするな、という意向だと思った」などと証言。問題とされた歯科医師の技量については、「私が口を挟む必要がないほど。少なくとも新卒や2年目の医師よりは優れていた」とした。

 一方で、歯科医師をドクターカーに単独で乗車させたことに関しては「(上級医として歯科医師を)一人で出すことはしない。私の感覚では有り得ない」と述べた。

◎センター看護師
◎「歯科医師は知識的に劣るところもあった」

 また、センターの看護師は、歯科医師から喘息患者に対して投与するよう指示されたが、病状を悪化させる恐れから投与しなかった事例を挙げた。「(歯科医師は医師と比べて)知識的には劣るところもあったと思う」としたが、「(歯科医師の研修は)決定されたことなので松原被告らに疑問を呈することはしなかった」などと述べた。

 次回第六回公判は九月二〇日午前十時から。厚生労働省医事課の中島正治課長が証人尋問を受ける。

◎解説
◎研修の必要性は認識
◎次回公判に注目

 歯科医師の証言は1時間半。医師、看護師の証言より短時間だったが、言語明瞭・意味明瞭。左陪席の裁判官が「歯科の守備範囲は(思っていた以上に)広いように感じました」と漏らしたほどだ。

 左陪席は「(救急研修を受けない)他の人は、どうやって(救急時の対応や全身管理などは)身に付けるんですか」と続けたのに対し、この歯科医師は「口腔外科に残っていれば(多少の知識は得られるが)。だからこそ、こうした研修が必要なんです」。この日の証言で、歯科医師の救急の現場での研修の重要性や必要性は、三人の裁判官、そして傍聴人らに十分、認識されたと言える。

 研修を受けていた歯科医師の技量について、センターの医師(当時)は「少なくとも卒後二年目より優れていた」とした一方、看護師は「(医師より)劣っていた」とした。これについて、傍聴していた医師は「専門科や出身大学が違うと薬の使い方が違うことはよくある。相性もあるし、個人差もある。だからこそチーム医療の体制を取っている。そもそも大きな問題ではない」との印象を語った。

 次回の公判で証言に立つ厚労省の医事課長は、医師、歯科医師ら医療関係者に関する直接の行政担当者。しかし、医事課長とは言っても、歯科の実態はほとんど知らないのが実態だ。

 次回の公判では、この裁判の前半のヤマ場を迎えることになる。行政の担当者がどう証言するのか。今までどんな対応を取っていたのか。薬剤エイズ事件、雪印・日本ハムを巡る牛肉偽装・詐欺事件などでも行政の不作為責任が問われており、医事課長に対する証人尋問は厳しいものになりそうだ。


第3回公判の報告(7/19)

歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆___

市立札幌病院 歯科研修 医師法違反事件 第三回公判 札幌地裁

 札幌市の市立札幌病院(中西昌美院長)の救命救急センターで、研修中の歯科医師(口腔外科医)に専門外の医療行為をさせていたとして、医師法違反(医師以外の医業の禁止)の罪に問われた同センター部長で医師の松原泉被告(52)=同市豊平区=に対する第3回公判が7月19日、札幌地裁(井口修裁判長)で開かれた。同センター副部長が検察側の証人として出廷し、歯科医師の救急の現場での研修について、「全国の相当数の施設で行われている」などと証言。気管内挿管や静脈確保などは「歯科口腔外科でも当然に日常的に行っている」などと答えた。こうした行為について、検察側は、医師にしかできない「絶対的医行為」として歯科医師がすることはできないとしてきた。前回の公判に続き、検察側主張に疑問を呈す形になった。

 証人のセンター副部長は、部長である松原被告の直属の部下に当たる。検察側尋問に対し、副部長は「歯科医師を研修医として受け入れるに際し、医師にしかできない領域があるのではと漠然と感じた」と当初、違和感があったことを証言。また、2000年7月頃、死亡患者の遺族から歯科医師が担当だったことなどについて苦情があったため、松原被告などに対し「副院長からちょっと注意しなさいと言われた」としたが、「研修可能の範囲を示すよう求めたが明確な回答はなかった」と述べた。

 また、1999年ごろ、若手の医師ら30人が出席した「医局会」で、歯科口腔外科の隣接領域である耳鼻科の医師が「歯科医師の研修の範囲を制限すべきでは」と発言。病院上層部は「どこまで許されているのかはっきりしていない」などと説明するにとどまった。これ以外に、歯科医師の研修への批判等はなかったという。

 一方で、「歯科医師の研修は、研修医の採用などを協議するレジデント研修委員会が決定したものだが、院長が最終的に許可したものと認識している」と証言した。「医師免許を持っていても6カ月たってもダメな者もいるし、1カ月足らずで、一人である程度できるようになる者もいる」と明言。「歯科医師を受け入れてみると、実際には優秀でやる気もあった」「センターのスタッフで技量を十分確認して業務に当たらせていた」などと問題とされた歯科医師が技量の面で優れていたとの印象を語った。さらに、「医師免許を取得していない医学生が、手術の助手に付くこともある」などとした。

 歯科医師による救急センターなどでの研修について、「同様の研修は全国の相当数の施設で行われている。(今回問題とされた)気管内挿管や静脈確保、カテーテルの抜去、手術の補助などは歯科口腔外科でも当然に日常的に行っている」「歯科医師らは麻酔科などでも研修を受け、相当の症例をこなしている」などと話した。

 裁判長らは救急の際の医科と歯科での違いに興味を示し、「気管内挿管は、歯科治療などでショック状態に陥った際と、救命救急センターで行うのと、違いはあるのか」と質した。これに対し、副部長は「基本的に同じだ」と答えた。

 公判の数日前に、歯科医院で局所麻酔で女児がショック症状で死亡した問題に関連して、「歯科医師の多くは単独で診療している」と述べ、患者の容体が急変した際に適切に対処するため、歯科医師もドクターカー単独乗車を含めた救急の現場での研修が必要であるとの認識を示した。

 検察官がこの副部長を呼んで事情を聴取した「検察官面前調書」(検面調書)と、この日の証言が「随分違う」として、検察側は「松原被告側から圧力が掛かったのではないか」などと質した。副部長は「2度ほど弁護側と会ったが、私も証人尋問は初めてなので、どういうものか知りたかった」とし、「松原氏の前でもしっかりと証言できる。歯科の研修が公に認められるべきだと思っている」としっかりとした口調で話した。

 次回の公判は8月9日。検察側、弁護側証人として同センターの医師が証言することになっている。

◎解説

 この日の公判で、検察側証人のセンター副部長は弁護側主張に近い証言をしたとの印象を強くした。検察官は「事前に聴取した際と随分違うことを話してますね」「松原被告を前にして話しにくいのですか」「検察側証人から弁護側があれこれ聞き出すのは問題がある」などと発言。「今後こういうことのないように」と弁護側が検察側証人に面会することを制限するよう求めるなど、検察官の苛立ちが目立った証人尋問だった。

 これに対し、裁判長は「裁判所として介入するつもりはない」とつっぱねた。次回公判の証人も検察側証人の予定だったが、弁護側証人でもあることに急きょした。これは、証人が、検察側の描くシナリオどおりに証言していないことを表している。

 そもそも、公権力である検察官を前に、一般人が「事情聴取」されるのは、たいへんな精神的プレッシャーだ。弁護側からの面会要請を簡単に拒否できるのとは全く異なる。証人は法廷で、「良心に従って、真実を述べ、何事も隠さず、何事も付け加えないことを誓います」と宣誓。場合によっては偽証罪に問われることもある。「検察側証人」とは言え、検察官の思い通りに発言するわけではない。

 センターの実態を知り尽くした副部長の証言とあって、この日も80人を超す傍聴人が詰め掛けた。証人尋問は午前10時から午後4時過ぎまで6時間にも及んだ。争点の「本筋」に入る前の、実務的な問題に関する証言だったとも言えるが、検察側の主張がまた崩れたと感じた。

 検察側は第一回公判の冒頭陳述で、歯科医師を研修に受け入れた経緯について「被告は救命救急センターの慢性的な人手不足の解消になると考え、病院内の反対を押し切りはじめたものだ」と主張。しかし、前回の病院事務局係長(当時)の証言に続き、そうではなく、最終的に認めたのは同病院院長だったことがはっきりしてきた。

 救急患者の家族に対し、歯科医師が説明した「同意書」の記述について、「医学的にも不適切だった」と検察側は立証しようとしたが、副部長は「不適切とは言えない」と明言した。専門化の進む医療の問題であり、検察官、裁判官ら裁判の担当者は、救急の現場に足を運び、医療の現場の実態や苦悩を理解する努力が必要だろう。


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