心電図伝送についての要望書

(日本救急医学会中国四国地方会資料、2002年7月)


目次

■ 心電図伝送についての要望書・・・・
■ 引用文献(要望の根拠)
■ 関連資料


心電図伝送についての要望書

平成14年7月1日

○○消防本部/局長様

第18回日本救急医学会中国四国地方会長―――――
石原 晋―――――――


要望書

 さる5月31日の第3回中国四国救友会ならびに6月1日の第18回日本救急医学会 中国四国地方会開催に際しましては貴台より多大のご支援を賜りましたこと、厚く御 礼申し上げます。おかげさまで参加者数が500名を超える大盛況のうちに無事終了 することができました。

 さて、この第3回中国四国救友会のシンポジウムに向けた調査の過程で、いまだ中国 四国地方の少なからぬ地域において、救急救命士が実施する除細動に際し、心電図の 伝送が義務付けられていることが判明いたしました。

 つきましては、貴本部/局が本事案に該当いたします場合、早急に改善をご検討くだ さいますようお願い申しあげます。

 なお、本要望書の提出につきましては日本救急医学会中国四国地方会の理事会ならび に評議員会での決議を経て総会の承認を得ているものであることを申し添えます。


要望の根拠

1)救急救命士が除細動を実施するに際しての心電図伝送は法的に義務付けられてい るものではない。

2)除細動の実施が1分遅れるごとに社会復帰率が7〜10%低下する。

3)すでに大半の地域において、心電図伝送なしの除細動が実施されている。

(本要望書は、中国四国9県の県医師会長様および消防(局)長様あてに送付してい ます)


引用文献(解説と全文)

詳解救急救命士法
(厚生省健康政策局指導課編、第一法規)

●第2編第6章第3節「特定行為の制限」の二「特定行為の内容」 (p.141)に除細動を実施する際の具体的説明があるが、伝送については記載されていない。

第三節 特定行為の制限

(一)特定行為の前提条件

 救急救命士は、救急救命士法第44条第1項により、医師の具体的 な指示を受けなければ、重度傷病者のうち心肺機能停止状態の患者に 対する 1)半自動式除細動器による除細動、2)厚生大臣の指定する薬 剤(乳酸加リンゲル液)を用いた静脈路確保のための輸液、3)厚生大 臣の指定する器具(食道閉鎖式エアウエイ及びラリンゲアルマスク) による気道確保を行ってはならないと規定されている。

 医師が具体的な指示を救急救命士に与えるには、指示に必要な情報 が医師に伝えられていることとともに、医師と救急救命士が常に連携 を保っていることが必要である。

 医師が現場にいない場合は、救急救命士は医師が具体的指示を与え るに際して、各種の判断を下すために必要な情報を医師に伝える必要 がある。伝送が必要な医療情報として、全身状態(血圧、体温を含む)、 心電図、聴診器による呼吸の状況などが考えられる。

 心肺機能停止状態の判定は、原則として医師が心臓機能停止又は呼 吸機能停止の状態を踏まえて行わなければならない。

 心臓機能停止の状態は、心電図において、心室細動、心静止、電導 収縮解離の場合、又は、臨床上、意識がなく、頸動脈、大腿動脈(乳 児の場合は上腕動脈)の拍動が触れない場合とすることが適切である。

 呼吸機能停止の状態は、観察、聴診器等により、自発呼吸をしてい ないことが確認された場合とすることが適切である。

(二)特定行為の内容

 (1)半自動式除細動器による除細動は、心室細動を半自動式除細動 器により電気的に除去することである。この場合、医師の具体的指示 には、除細動の適否、除細動のエネルギー量、除細動が不成功の場合 の対応方法などが考えられるが、緊急を要する状況であるので、必要 な事項を的確に指示することが適切である。

 (2)薬剤を用いた静脈路確保のための輸液は、留置針を使用して、 上肢においては1)手背静脈、2)橈側皮静脈、3)尺側皮静脈、4)肘正中 皮静脈、下肢においては1)大伏在静脈、2)足背静脈を穿刺し、乳酸加 リンゲル液を用いて、静脈路を確保するために輸液を行うことが適切 である。この場合の医師の具体的指示としては、静脈路確保の適否、 静脈路確保の方法、輸液速度などが考えられる。

 (3)気道確保は、食道閉鎖式エアウエイ又はラリンゲアルマスクを 使用して行うことが適切である。この場合、医師の具体的指示としては、 気道確保の方法の選定、酸素投与を含む、呼吸管理の方法などが考えら れる。


●第3編「質疑応答」の章に「問7:どのような方法で医師の指示 をうければよいのか」の答えとして 1)消防本部に常駐する医師から通信機器を利用して、2)医療機関の医師から専用自動車電話を利用して・・・とあるのみ。

【問7】どのような方法で医師の指示を受ければよいのか。

【答】

1 医師が救急自動車等に同乗している場合には、救急救命士は直接当該医師の指示を受けることになる。

2 一方、医師が同乗しない場合には、いろいろな形態がありえるが、例えば、

1)消防署の救急車に乗る救急救命士については、消防本部に常駐する医師から、通信機器を利用して、

2)救命救急センター等の医療機関の救急用自動車に乗る救急救命士については、当該医療機関の医師から、専用自動車電話を利用して、指示を受けることなど考えられる。


六訂版 例解 救急救助業務
(自治省消防庁救急救助課監修 東京法令出版)


・P49:心電図伝送装置は地域の実情に応じて備えるもの。
・P49:「なお、心電図伝送装置を装備する場合には次の点に特に留意して・・」と の記載に続き「1)特定行為要請のために心電図を伝送することは義務付けられてはい ないこと。」と明記されている。

【問7】 救急隊員の行う応急処置等の範囲の拡大に伴い、新たに備えることとされた救急資機材を導入する上で、留意すべき点は何か。

【解答】

 平成3年8月に[救急隊員の行う応急処置等の基準](昭和53 年消防庁告示第2号)が一部改正され、救急隊員の行う応急処置等 の範囲の拡大が図られたが、これに伴い必要となる救急資機材につ いては、「救急業務実施基準」(昭和39年自消甲教発第6号)が 一部改正され、消防長にその配備を図るよう努力義務が課されたと ころである。以下、同基準により新たに備えるよう努力義務が課さ れた資機材を列挙する。

 なお、上記の救急資機材中、自動式心マッサージ器及び心電図伝 送装置は、地域の実情に応じて備えるものとされている。すなわち、 自動式心マッサージ器については、1)大型であり、一般の救急車に 積載することは困難であること、2)短時間で傷病者を搬送できる場 合には必要がないものであること等の理由により、心電図伝送装置 については、1)受入医療機関の受信体制が整備されていることが前 提であること、2)自動車電話のサービス未実施地域が存在すること 等の理由により、これらの資機材については、各地域の実情に応じ て備えるよう努めるものとされたものである。

 新たな資機材を導入するに当たっては、複数の機種間において、 規格及び機能等を比較考量し、拡大された救急処置等を的確に実施 できるものを選定することが肝要である。

 なお、心電図伝送装置を装備する場合には、次の点に特に留意し て医療機関と事前に十分な調整を行う必要がある。

1)特定行為要請のために心電図を伝送することは義務づけられていないこと。

2)心疾患の搬送先決定のために、医療機関に伝送することなどが考えられること。

3)診察室や、ナースステーション等に受信装置をおくなど、伝送さ れた心電図をすぐに医師が見えることができる医療機関の体制を整備すること。


関連資料

  1. 救急救命士の心電図伝送は必須ですか
    (厚生省健康政策局指導課課長補佐の御回答、1999年2月)

  2. 第3回中国四国救友会・事前アンケート結果1(2002年6月)

  3. 救急救命士に心電図伝送を不要とした除細動を
    (井戸俊夫:岡山県医師会報 第1096号、p.16-18、 2002)

  4. 救急救命士が救急救命処置を実施する際に行われている心電図伝送の取扱について
    (静岡県健康福祉部長、2002年7月)


救急救命士が救急救命処置を実施する際に行われている心電図伝送の取扱について
(静岡県健康福祉部長、2002年7月)

健 医 第 号
平成14年7月 日

各 病 院 開 設 者 様

静岡県健康福祉部長――――――

救急救命士が救急救命処置を実施する際に行われている心電図伝送の取扱について


 日ごろから本県の救急医療の推進に御尽力いただき厚くお礼申し上げます。

 救急医療につきましては、受け入れ側の医療機関の体制整備とともに、病院又は診療所に 搬送されるまでの間に行われる救急救護の充実が重要な課題でしたが、平成3年8月に救急救 命士制度が発足し、搬送途上の救急救命処置の確保が図られてきたところであります。

 救急救命処置の具体的内容については「救急救命処置の範囲等について」(平成4年3月13 日付け指17号厚生省健康政策局指導課長通知)等により定められており、心肺機能停止状態 の患者に対して救急救命処置を実施する際には、医師の具体的指示を受けなければならない こととなっております。

 また、心肺機能停止状態の判定は、原則として、医師が心臓機能停止及び呼吸機能停止の状 態を踏まえて行わなければならないこととされており、例示として救急用自動車等から医療 機関に心肺停止状態の患者の心電図を伝送することが上記厚生省の通知に記載されておりま す。

 この心電図伝送については、従来から厚生労働省の見解として、「救急救命士法(平成3 年法律第36号)に義務づけられているものではなく、救急救命士制度創設時に推奨的に実施 を促がしたものであること。心肺停止状態の患者を後遺症無く退院させるためには、可及的 速やかな救急救命処置の実施が不可欠であること。」とあることこから、貴病院において心 肺停止状態の患者の心電図伝送を義務づけておられる場合には、速やかに解除されるようお 願いします。

担当 医療室 地域医療係



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