実習1:C. elegans の基礎的取り扱い
担当:細野隆次、森郁恵、古賀誠人 (文責 古賀)
テキスト:前年(安達佳樹、石井直明、桂勲)を改変
A:C. elegans の観察
野生型(N2)の雌雄同体を培養しているプレート、および雌雄同体との掛け合わせ
によりN2の雄を維持しているプレートを配るので、以下のことを観察する。
1:口・咽頭・腸・肛門、生殖巣、前後・背腹の区
2:雌雄同体と雄、受精卵(胚)とその発育段階、未受精卵、L1〜L4幼虫、体の運動
(前進・後退・方向転換、大腸菌上につく痕跡と運動との関係)
3:頭の探索運動、咽頭のポンプ運動、産卵、脱糞、孵化、脱皮、脱皮前の昏睡、交尾
4:虫の種々の部分に触るとどうなるか、プレートをたたく(または2〜3mm上から落と
す)とどうなるか、雌雄同体と雄の運動の違い
5:大腸菌の層の上にいる虫とそうでない虫で、行動にどのような違いがあるか
6:虫が増殖して餌を食い尽くしたプレートの中にdauer幼虫を探し、行動を観察する
7:一匹の雌雄同体(L4/young adult)を毎日新しいプレートに移し、産卵数と孵化率を
測る
8: その他、どのようなことが観察できるか。
B:白金線による虫の移動
ピッカーの作り方
ピッカーA(桂研): ガラス管(パスツールピペットの先を折ったもの)に付けた白
金線(太さ0.1mm)の先を安全剃刀で斜めに切ってとがらせ、先端から2〜3mmのとこ
ろでを直角に曲げる。
ピッカーB(大島研): 2cmくらいの0.2mmの白金線(株 ニラコ)を目の細かい紙やすり
(CC800 Cw EAGLE BRAND WATERPROOF ABRATIVE PAPER, KOMATUBARA)で丁寧に十数分か
けて先を削って尖らせ、パスツールピペットの先に付ける(バーナーで加熱し、とけ
たガラスの中に白金線の端が1ー2mm埋まるようにする)。
ピッカーC(大島研): 0.2mmの白金線の先をスライドガラスの上に置き、コインの側
* でつぶして扁平にし、パスツールピペットの先に付ける。前出の紙やすりで角を落
とし虫が傷つかないようにする。
ピッカーを用いて虫をプレートからプレートに移す。白金線を虫の下に入れてうま
く虫をすくいあげ、新しいプレートの表* に置いて虫が寒天に這い出すのを待つ。は
じめは成虫で練習し、できるようになったらより小さな幼虫も移してみる。
白金線の先に古くなったプレートから粘りけのある大腸菌をつけると虫を乗せ易い
。この方法だと卵(胚)も移せる。
移すときに、(1) 手早く移す、(2) 寒天を傷つけないようにする(寒天に傷がつくと
そこから中に虫が潜る)、(3) 移そうと思った虫以外の虫や卵を一緒に移さないよう
にする、の3点に注意する。
C:male plateの作成
中央に小さく大腸菌を塗ったプレートにL4の雌雄同体3〜4匹、L4の雄7〜8匹を
白金線に載せて入れる。3、4日後に育った子を見て雄が多数いるか調べる。
L4雌雄同体の見分け方:陰門のところが白く見える。
L4雄の見分け方:尾の先がネギ坊主のように膨らんでいるが、横から見て鈎型には
なってはいない、すなわちまだfanが広がっていない。
D:変異体の観察
Dpy (Dumpy), Unc (Uncordinated), Lon (Long), Bli (Blistered
cuticle), Rol (Roller), Sma (Small), Egl (Egg laying-defective), Muv
(Multi-vulva), Daf (Dauer larva formation abnormal)などの表現形を示す突然変
異体の株を観察する。株の名前は伏せておくのでどれがどれか当てて下さい。
§参考
(参考書)C. elegans の取り扱い・培養・交雑に関して多くは以下の文献に出てい
る。
W.B.Wood(ed.) "The Nematode Caenorhabditis elegans", Cold Spring Harbor La
boratory,
(1988)のMethods (p587-)とAppendix 4 (p491-)
H.F.Epstein & D.C.Shakes (eds.): Methods in Cell Biology Vol.48, (1995) "C
Aenorhabditis elegans: Modern Biological Analysis of an Organism"
S.Brenner: Genetics, 77, 71-94 (1974) The genetics of Caenorhabditis elega
ns.
以下には、出ていないことや重要なポイントのみを述べる。
(プレートの作成)
シャーレの選択:最も多く使うのは直径6cmのプラスチック・シャーレだが、(1)
価格、(2) 中に入れた寒天培地が乾きにくい、(3) 少し乾いたときに寒天とシャーレ
側* の間に隙間ができない、(4) 積み重ね易い等を目安に選択するとよい。もちろん
、表* は
無処理のもので構わない。
大島研で使っているもの: 3.5cm Falcon 1008, 6cm Valmark Ultra-Dish 901(株イナ
・オプティカ 電話06-882-6006), 9cm Falcon 1029 または、BBL Stacker Dish 710
52A (日本ベクトンディッキンソン)
プレートの分注:
(大島研) 5リットルの下口ビンに長さ50cmくらいのシリコンチューブ、その先にピ
ンチコック(Samco 8-12mm 相互理化学硝子製作所 TOP-LABO-WARE Cat.No.2978-02)と
10cmくらいの硝子管を付けたもので4リットル分のNGMアガー(アガー濃度は2%、片山
化学の一級寒天末を使っている)をいちどきに分注している。9cmシャーレで120枚程
度、6cmで350枚程度、3.5cmで900枚程度になるようにしている。1日以上机の上に放
置した後、大腸菌を塗ってまた1日放置。その後プラスチックの衣装ケース(日用ディ
スカウント店でよく売っている50x36x高さ18cm程度の蓋のあるコンテナ)や、30x2
3x高さ10センチ程度のキッチン用の入れ物(ラストロウェアKEEPER seriesなど)に収
納している。しばらく使わない分は4℃に入れておく。
(桂研) 6cmシャーレに分注する際に、我々は2リットルのやかんを用いている。普
* 、1枚に約10mlの培地を入れるが、1週間以内に使い切る時などは、2リットルか
ら300枚作っても問題がない。長期間の保存の場合はチャック付きのビニール袋など
で乾燥を防ぎ、4℃に保存する。これは大腸菌を生やしてからでも可。
大腸菌OP50の培養と寒天培地への塗布:
餌のOP50の培養は、振とうやエアレーションの必要はない。250ml程度のWheatonビ
ンにLB培地を入れオートクレーブ、それにOP50のコロニーを入れ、37℃の孵卵器内に
一晩置くだけである。OP50をプレートに塗る時間も無視できない。10mlのメスピペッ
トにピペットポンプ(Bel-Art Products)をつけたもので8ml程度培養液をとり、少し
ずつ出しながら寒天培地に塗る(ジグザグに表* の3分の1程度)。これでだいたい6cm
プレート400枚を塗る。
(植え継ぎ)
ホモ接合体で遺伝的性質が安定なものは、starveしたプレートから寒天培地の小片
を切取り、新しいプレートに置くだけでよい。切り取る際は、火であぶって滅菌した
千枚どうし、滅菌した爪楊枝か、直径1mmの白金線の先端をつぶして扁平にし白金耳
の柄をつけたものを用いる。へテロ接合体や遺伝的性質が不安定なものは、2〜数枚
のプレートに1匹ずつ白金線を使って入れ、子孫の表現型を見て正しいものだけを残
す。
(雌雄同体から雄をとる方法)
spontaneousに出てくる雄は約千匹に1匹と少ないので、* 常は熱ショックで雄の
割合をふやす。6cmプレートに約10匹のL4雌雄同体を入れ、30℃6時間の熱ショック
をかけるとその子供の約百匹に1匹程度雄が出る。
(コンタミネーションと古いプレートの保存)
カビや細菌の中には虫を殺したり成長を阻害したりするものも多いので、コンタミ
ネーションには注意する。急に虫の成長が悪くなったら雑菌のコンタミを疑うとよい。
コンタミしたら、幼虫を半日〜一日プレートの上を這わせると、たいていはきれい
になる。プレートの端に大腸菌を塗って、他の端から這わせるとよい。脱皮するとき
れいになる効* が大きいように思われる。これでもだめな場合は、成虫をアルカリ次
亜塩素酸かホルムアルデヒドで処理(参考文献参照)して生き残った受精卵(胚)を使う
。
プレートで培養した虫は、プレートにパラフィルムを巻いて乾燥を防ぐと2〜3カ
月は保存できる。15℃に置くと良いが、4℃に置くのは良くない。
培養したプレートを長期間保存する場合や大* 培養に植えるための培養をする場合
は、カビのコンタミを防ぐために、プレートにあらかじめnystatin (10mg/ml)を入れ
ておく場合がある。同様に、雑菌のコンタミを防ぐに、OP50をストレプトマイシン耐
性にして、プレートにstreptomycin (200mg/ml)を入れておく人もいる。