脳外科医 澤村豊のホームページ

様々な脳腫瘍や脳神経の病気について説明しています。さわむら脳神経クリニックで診療しています。Eメールによる相談や手術治療も受け付けています。

絨毛がん choriocarcinoma

大まかなこと
  • とてもめずらしい悪性腫瘍です
  • 頭痛や嘔吐,おしっこがたくさん出て水をたくさん飲む,小さい子供なのに性早熟するなどでみつかります
  • 血液の中のホルモン HCG エイチシージー human chorionic gonadotropin ヒト絨毛性ゴナドトロピンというのがとても高い値になります
  • HCGが1,000を超えたときには疑うべきでしょう
  • 純粋な絨毛がん choriocarcinomaは,頭蓋内胚細胞腫瘍の中で最も稀な腫瘍です
  • 混合性胚細胞腫瘍 mixed germ cell tumorの部分像として見られることの方が多いです
  • 未熟奇形腫でもHCGが1,000程度に上昇しますので,HCGが高くても絨毛がんと断定できません
  • 未熟奇形腫と絨毛がんでは治療も予後もかなり異なりますので注意!
  • 男児に多く発生します
  • 約4分の3が松果体原発腫瘍です
  • 腫瘍内出血で急激で高度の頭痛,あるいは突然の意識障害となることもあります
  • 治療は,放射線,制がん剤,開頭手術であらゆる可能な限りの手段をつくします
  • でも長期生存率はとても低くて10%以下です
症状
  • 松果体腫瘍は水頭症による頭痛と嘔吐,視床下部腫瘍は尿崩症で発症します
  • 腫瘍内出血で発症したり,あるいは治療中に出血で症状の悪化を見ることも多いのが特徴です
  • この場合には,脳卒中のような急激な症状の悪化を生じます
  • 視力視野障害や皮膚の色素沈着などみることもあります
  • 血清中HCGが高値となるために思春期早発症で発症した報告も散見されますが,みな男児です
診断
  • 検査所見で最も重要な点は,血清あるいは髄液中のHCGが極めて高値を示すことです
  • 血清中HCGは10,000 mIU/mlほどにもなります,髄液中では数百という値です
  • CTとMRIをします
  • 腫瘍の内部で出血を生じているのが最大の特徴です
  • 腫瘍周辺浮腫は強いです
  • 血管に富むですからMRA, CTAで腫瘍血管と腫瘍濃染像が見られます
  • 脳血管撮影 DSAを行わなくても結果は見えていますのでしません
  • 若年成人男性あるいは男児の松果体か視床下部に発生した腫瘍で,腫瘍内出血を伴いHCGが1,000 mIU/ml以上の高値を認める場合には絨毛がんを強く疑います
  • 一つの胚細胞腫瘍に,germinoma, teratoma, choriocarcinoma, embryonal carcinomaがすべて混在する例もありますので,腫瘍のごくわずかな部分しかとれない時の病理診断は慎重に考えます

視床下部に発生したchoriocarcinomaのMRI像

女児の視床下部に発生したchoriocarcinomaのMRI:T1強調像(左側)では腫瘍内出血が高信号域として捉えられ,T2強調像(中央)では視索から大脳基底核,中脳の腫瘍周辺浮腫が見られます。ガドリニウム増強像(右側)では,視床下部からトルコ鞍へ伸展する不均一な腫瘍部分増強を認めます。悪性度の高い胚細胞腫瘍の特徴的なMRI像といえます。血清HCG-betaは20,000 mIU/mlを超える値であり,検査値のみでchoriocarcinomaといえるような典型例でした。

注意
  • 純粋な絨毛がん,あるいは絨毛がんの要素が大部分を占める混合性胚細胞腫瘍(HCGのレベルが1,000を超える)は,難治性でほとんど助からないと考えます,ですから治療の副作用を考えないでなんでもします
  • しかし,未熟奇形腫や混合性胚細胞腫瘍の一部分だけ,絨毛がん組織がわずかに混じるものは治る確率が高い腫瘍と言えます,ですから高線量照射による認知機能低下(高次脳機能障害)が高度にならないように,放射線照射野と線量を可能な限り抑えて治療します
治療
  • 確立されたあるいは信頼に足る治療法は文献を探してもありません,手探りでします
  • 共同研究でnon-germinomatou germinomaとか,混合性胚細胞腫瘍とか,予後不良群廃細胞腫瘍とかのプロトコールがありますが,それはなにも超難治性とも言える絨毛がんを目的としたレジメンではないのであてにはなりません
  • 治療関連有害事象をあまり考えずに,生命予後を第一義に考慮して,完全緩解導入を目的とした密度の高い初期治療計画を立てるべきです
  • HCGが数千-10,000を超えるような時には病理診断の必要がないので,診断あるいは腫瘍減荷の目的での外科手術という手段は不要です
  • 化学療法も放射線治療もしないで,開頭手術で摘出に入ると,ものすごく出血して収拾がつかなくなります
  • また,完全摘出することは不可能で,外科手術で治癒するものではありません
  • ですから放射線化学療法の開始を急ぐためにも,初期治療で侵襲的な開頭術をする意味がありません
  • どのような化学療法を用いても,放射線治療は欠かせません
  • 脳脊髄照射と腫瘍局所照射をします
  • 腫瘍線量は膠芽腫相当の60Gyがほしいのですが,視床下部にはそのような大きな線量は使えません
  • 導入化学療法は,cisplatin, carboplatin, etoposide, ifosfamide, bleomycine, vinblastineなどが用いられます
  • 子宮に発生する絨毛癌には多剤併用化学療法が有効で長期生存割合も高いのですが,頭蓋内原発絨毛癌に同じ治療はできません
  • 対して,genitourinary tract (尿路性器癌)としてのrefractory germ cell tumor 高悪性度(化学療法抵抗性)胚細胞腫瘍への化学療法は伝統的に頭蓋内悪性胚細胞腫瘍へ応用されてきました
  • シスプラチンを基剤とする併用化学療法ですが,代表的なものに,BEP (bleomycin, etoposide, cisplatin) 4コースなどがあります
  • 1990年代から日本ではICE (ifosfamide, cisplatine, etoposide)化学療法 6コースが最も広く用いられてきました
  • 近年は,末梢血幹細胞救援を行う大量化学療法が行われることが多いです
  • それでも長期生存例の報告はほとんどありませんので,大量化学療法の真の有用性はいまだ不明と言えます
  • 尿路性器の絨毛がんと同様の考え方ですが,放射線化学療法の後で腫瘍が残存している場合には,開頭手術で摘出します (second-look surgery)
  • 寛解が得られず進行したときあるいは再発を認めたときに有効な治療手段はありません
  • 髄液播種が生じた場合も救命の手段はありません
予後
  • 純型の頭蓋内原発絨毛癌の予後は不良で,生存例は症例報告として稀に記載される程度です
  • 寛解導入できても短期間のうちに再発をみる可能性は極めて高いといえます
  • HCGの値とMRIで経過観察します
  • 悪性度の高い胚細胞腫瘍に対する強力な補助療法は,患児に大きな精神的・身体的負担を与えます,退院後の復学のための精神面でのケアが大切です
  • 放射線治療による遅発性認知機能低下,腫瘍あるいは治療合併症としての視床下部下垂体障害,化学療法に起因する原発性性腺機能低下症や2次癌(白血病の発症)など考慮しながら経過を見ます
病理
  • trophoblastに由来する悪性度の高い腫瘍であり,syncytiotrophoblastやcytotrophoblastが混合する異型細胞増殖からなります
  • synchtiotrophoblastは,抗HCG抗体を用いる染色で濃染します
  • 多くの核分裂像を含み,血管に富む易出血性の腫瘍であり,腫瘍内には新旧の出血巣が認められます

視床下部に発生したchoriocarcinomaの病理像

視床下部に発生したchoriocarcinomaの病理像(左からHE染色, HCG染色, PLAP染色):腫瘍の大部分にHCG陽性細胞が認められますが,一部ではPLAP陽性のgerminoma細胞様の腫瘍細胞も散見されます。

妊娠によって生じる胎盤由来の絨毛癌 gestational trophoblastic disease (GTD)

性腺原発(子宮胎盤)の絨毛がんが脳転移を来す頻度は,脳原発絨毛がんの発生頻度を遙かに上回るために,女性で頭蓋内絨毛がんの診断を得た場合には,脳原発腫瘍よりも転移性脳腫瘍を考えます。視床下部,松果体,大脳基底核以外の絨毛がんは転移性です。逆に稀ですが, 脳原発絨毛癌のうち約1/3が肺に転移します。ほとんどの絨毛がんは妊娠性ですが,化学療法で90%くらいに寛解が得られます。でも脳転移を生じると治療が成功することはほとんどありません。

choriocarcinoma syndrome

絨毛癌の転移巣からの重篤な出血のことを言います。同時に,HCG-betaの高度の上昇が生じます。脳に転移した絨毛癌はこのような病態で発症します。

 

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