大脳基底核ジャーミノーマ,胚細胞腫瘍
- むずかしいジャーミノーマです
- 男児に多いです
- 症状がわかりにくいのが特長です
- ゆっくり(数ヶ月から2年くらい)片方の手足の動きが悪くなる(緩徐進行性片麻痺)
- ゆっくり性格変化が生じるため,特に多動症,自閉症,AD/HD,注意欠陥障害と診断を受ける子どもたちは多いです
- MRIで脳腫瘍らしく見えないと言われます
- 視床下部下垂体に隠れたジャーミノーマ occult germinoma を合併することがあります
- 視床下部下垂体に隠れたジャーミノーマがある場合には,低身長や尿崩症で発症してから,数年かかって麻痺や注意欠陥障害などで発症します
MRIの特徴は2つのタイプがあります
1. 大脳基底核に腫瘍としての塊を作って大きくなるもの
- はっきりした腫瘍があり,ガドリニウム増強されます
- 大きさの割にmass effectが少ないかもしれません
- 腫瘍周囲浮腫も見られます
- 悪性神経膠腫(退形成性乏突起膠腫や膠芽腫)のように見えます
2. 腫瘍が隠れてしまってほとんど見えないもの
オカルト・タイプ occult type
- お化けのような腫瘍で見えません
- 神経下垂体ジャーミノーマでもオカルト・タイプはありますので同じようなものです
- 1980年代では,原因不明の大脳半球萎縮はジャーミノーマであると言われていました
- 片側の大脳基底核を中心に脳萎縮だけがみえるというものです
- 現在はそこまで進行する例がなく,半球萎縮に至る前に発見されます
- MRIでよく見えない,はっきりしない,と言われるのが逆に特長とも言えます
- レンズ核,内包あたりに,T2/FLAIRでボッとした影がみえます
- ガドリニウム増強されません
10代の男児で,非常にゆっくり1年くらいかけて左片麻痺が進行しました,痙性片麻痺です。落ち着きのない性格でもありました。血清HCG-beta 0.1で陽性でした。この病変は内包後脚の小さなものですから,定位生検術でさえもリスクが高いので行いません。出血のリスクというわけではなく,組織採取で内包高脚のcompactな白質を損傷して症状を悪くするからです。ご両親とよく話し合って病理診断なしで治療を開始します。ICE化学療法4コースと全脳照射25.2Gy/14fr で治療しました。ICE化学療法開始後からは片麻痺の悪化傾向が停止して,症状が改善傾向に向かいました。やがて,走れるようにもなりました。
意外に危ない生検術
澤村自身の経験です,定位脳手術で大脳基底核ジャーミノーマを生検して,2例で脳出血を生じました,1例では左の大脳基底核出血で開頭手術を要し,失語と片麻痺を生じました(でも今は元気ですけど)。その後,学会などでいろいろな脳外科医に聞いて回ったのですが,大脳基底核ジャーミノーマの生検術で脳出血を経験した脳外科医は多数いました。この情報は,おそらく学会発表や論文に現れることはないと考えますので,参考にしてください。
PET検査
- MRIでみえないような大脳基底核ジャーミノーマが Met-PET メチオニンペットで取り込みがみられることがあります
- 病変の中心部だけがわずかにMet uptakeが上昇して,ぼーっと光ったような画像になります
- 重要な補助診断となります
Sudo A1, Shiga T, Okajima M, Takano K, Terae S, Sawamura Y, Ohnishi A, Nagashima K, Saitoh S: High uptake on 11C-methionine positron emission tomographic scan of basal ganglia germinoma with cerebral hemiatrophy. AJNR Am J Neuroradiol 24:1909-1911, 2003
病状の進行
大脳基底核ジャーミノーマは,性格変化(多動症,学習障害,自閉症)で発症するとかなり悪化するまで気づかれません。片麻痺で発症してもそうです。症状が進行しすぎると治療しても元に戻りません。精神症状も片麻痺も残ったままで,精神身体の障害児として生き残っていかなければなりません。ですから,病理確定診断ができない場合でも治療を開始しなければなりません。
治療の順序
- 治療の考え方は,一般的なジャーミノーマより治りにくいし再発例が多いということです
- 化学療法は,ICE (CDDP, VP-16, IFO)化学療法を4コースします
- 化学療法を終えてから全脳照射をします
大脳基底核ジャーミノーマの放射線治療
- ジャーミノーマは,標準的な全脳室照射 whole ventricle irradiation WVIではカバーし切れません
- 大脳基底核ジャーミノーマは初発時と反対側の脳に再発することがあります
- ですから下垂体を含めた全脳照射 whole brain irradiation WBIになります
- 線量は25.2グレイを14分割なら確実でしょう
- 7歳以下の小さい子には認知機能を守るために23.4グレイ13分割も選択肢です
悪性神経膠腫と間違えそうなジャーミノーマ
14歳で右の片麻痺と学力の低下で発症しました。ガドリニウム造影がまだらで最初は膠芽腫かな?と思いましたが,mass effectが軽いことが解ります。geminomaとしては珍しいのですがperifocal edemaがあります。
定位生検術で病理組織診断をして化学療法を加えた後の画像です。germinomaのお約束どおり,化学療法できれいに消失します。ちょっとした小さな増強される部分が残るのですがこれはstromal reaction (gliofibrosis)をみているので,残存腫瘍ではありません。余分な追加の放射線治療をしないように気をつけます。
局所照射で再発して再照射した例:左大脳基底核ジャーミノーマ
9歳で知的機能の低下と徐々に進行する右片麻痺,失語症で発症しました。MRIでは左大脳半球萎縮の所見だけで,11歳まで診断がつかずに来院しました。当時の方針で化学療法と左大脳基底核に局所放射線治療24グレイがなされましたが,4年後に左側頭葉に再発して化学療法と脳脊髄照射24グレイの再照射を行なった例です。
再発治療から17年後のMRIです。左大脳基底核の萎縮と高度の全脳萎縮が認められほぼ寝たきりの生活です。この例では,初発時に腫瘍塊形成がなく診断が遅れたこと,初回治療で腫瘍のある部位とその周辺だけの局所照射が用いられたことが誤りでした。
正確な早期診断と初回治療での全脳低線量照射をしていれば,良い状態で治癒したものでしょう。